VOL.41

ジェネラリストになるために
東大を離れ、一般病院へ。
診療の幅の広がりを実感する。

医療法人社団東山会 調布東山病院 糖尿病・内分泌内科 
熊谷 真義
氏(36歳)

神奈川県出身

2003年
東京大学医学部卒業。同大医学部附属病院入職
2004年
NTT東日本関東病院糖尿病・内分泌内科入職
2006年
東京大学大学院入学。同大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科入職
2010年
東京大学大学院修了
2011年
医療法人社団東山会調布東山病院 糖尿病・内分泌内科入職

満足のいく転職の秘訣は、将来の目標を明確に持つことと、“縁”を見逃さないことかもしれない。ジェネラリストを目指していた熊谷真義氏は、大学を離れ、非常勤で勤務していた調布東山病院に転職した。非常勤時代から同院のポリシーに共感し、働きやすさを感じていたからだ。専門性を保ちながら、質の高い総合医療を提供する同院で、医師としての腕が上がっていくことを実感している。

リクルートドクターズキャリア9月号掲載

BEFORE 転職前

明日の治療薬を研究するより、
患者のそばで医療を提供したい。
臨床医としてのキャリアを築く転職。

非常勤時代に働きやすさを感じ、正職員として就職

「自分の得意分野を、地元の人のために生かすのが夢なんです」

「もともと非常勤医として勤務していました。その時から働きやすく理想的な病院だと感じていたのです」

調布東山病院(東京都調布市)糖尿病・内分泌内科の熊谷真義氏は、にこやかな表情で語る。

熊谷氏は、東京大学卒業後、医局人事でNTT東日本関東病院糖尿病・内分泌内科に勤務。同科の部長が調布東山病院の前院長だった縁で、2006年から同院で非常勤医を務めることになった。

「同じ年に東大に戻り、大学院に進学しました。大学病院で臨床と研究をしながら、調布東山病院で週2回の外来と月1回の当直を受け持っていました」

そこで感じたのは、大学病院と地域の一般病院との違いである。研究に重きを置く大学病院に比べ、調布東山病院は臨床がスムーズだ。

「看護師や事務スタッフが声の届く距離にいるため、コミュニケーションが円滑です。検査をするにも、大学病院では1ヵ月先まで埋まっていることが珍しくありませんが、ここではその日のうちにオーダーが入れられます。いずれも病院が持つ機能による違いですが、臨床を重視したい私にとって、調布東山病院は非常に働きやすい環境です」

2010年に大学院を修了してからは、1年間、東大病院糖尿病・代謝内科で臨床と研究を並行し、その後、大学を離れて転職した。

「当初から大学に残る気はあまりありませんでした。患者の全身を診られるジェネラリストを目指していたからです。大学病院の臨床は糖尿病の患者しか診られず、むしろ明日の治療薬を探す研究に重点が置かれています。もちろん、大学によっては臨床研究に力を入れているところもありますが、東大は基礎研究が中心です。東大に残るならば、研究をしないと意味がないと感じていました」

そもそも熊谷氏が糖尿病内科を選んだのは、よりジェネラルに近い科目だからだ。

「患者と向き合ってあちこち痛いと言われた時、自分で受け止めたいと思ったのです。大学病院の糖尿病内科では、糖尿病以外の症状があればほかの専門外来に回すため、医師として臨床に携わっている実感を得にくく感じていました。もっと患者の全身を診られる病院に身を置くために、転職を検討し始めました」

専門外来も一般外来も両方受け持つことができる

熊谷氏がジェネラルな臨床にこだわる理由は、医師を志した原点とつながっている。

「私の父は牧師で、よく病気を患った人の相談に乗っていました。じっくり話を聞くことで、心の面には手をさしのべられます。しかし、体を治すことはできません。父はよく『医師ほど立派な仕事はない』と話していました。直接、医師になりなさいと言われたことはありませんが、私自身、いつしか病気で困っている人の体を治したいと思うようになりました」

臨床をするなら、NTT東日本関東病院に戻る手もあったが、あえてそうはしなかった。

「規模の大きな病院は、専門外来になっていますから、大学病院と同様に糖尿病以外はあまり診られません。調布東山病院は、専門外来と一般内科外来の両方を受け持つことができます。幅広い疾患の患者を診られることに、魅力を感じました」

また、調布東山病院のある地域は、大病院やクリニックは多いものの、中小規模の総合病院は手薄だ。調布東山病院は、地域住民にとって駆け込み寺のような存在となっている。

「患者層が幅広く、ジェネラリストとしての役割が求められている場だと感じました」

医局を離れるにあたって、無理な引き留めはまったくなかった。

「実は、東大の糖尿病内科の教授も、調布東山病院に非常勤で入っていたことがあるのです。医局を離れた今も、懇意にしています」

ジェネラリストとして自らを成長させるために、一切の迷いなく転職を決めた。

AFTER 転職後

各科の専門医がそろい、
互いに相談しながら質の高い医療を提供している。

病院としていち早く在宅医療に参入

風を切って自転車を走らせること20分。熊谷氏の朝の始まりだ。転職を機に、調布東山病院の近くへ自宅を移した。「しばらくはここで経験を積み、ジェネラリストとしての能力を身に着けたい」という意識の表れとも言えよう。

転職前の予想通り、調布東山病院の患者層は糖尿病だけでなく、心不全や脳梗塞、肺炎、消化器疾患など多岐にわたる。日々、ジェネラリストとしての腕が上がっていくことを実感できている。

「胸腔ドレーンは研修医時代に触った程度でしたが、当院に入職してから現場で学び、自分が担当する手技になりました。消化器疾患は、専門的な症例であれば専門医チームが担当しますが、専門的な処置を必要としないところまでは自分で診ます」

外来と病棟に加え、現在は訪問診療も行っている。

「当院は、病院としていち早く訪問診療を始めました。定期的に往診し、退院した患者に緩和医療を行ったり、がんを見つけたり、時には最期を看取ります。医師を志していた時に思い描いていた医療が、今、実践できています」

これまでの専門分野と違う患者も診ることに、戸惑いがないわけではなかった。だが、チームの力で乗り越えている。

「当院には専門医がそろっており、困った時はすぐに相談できます。また、毎日、患者の申し送りがありますから、疑問点などはその場で解決できます。実際の臨床で行き詰まることはあまりありません。主治医制をとっていますが、ほかの専門医と2人で患者を診ることもあります」

高齢者の中にも希少な症例が隠れている

転職前に比べて残業が減り、勤務時間は短くなった。自宅も病院に近いため、家族との時間を取れるようになったという。
転職前に比べて残業が減り、勤務時間は短くなった。自宅も病院に近いため、家族との時間を取れるようになったという。

調布東山病院には高齢者の患者が多いが、時折、珍しい症例に遭遇する。

「私よりずっとキャリアのある医師でも、診たことがないという症例もあります。診断の力を養うことができます」

そうした場合は、より専門的な治療ができる病院へ紹介するわけだが、患者の初期診療を担えることは、医師としてやりがいを感じる場面だ。

「大学病院で診る患者は、すでに何かしらの医療的介入があるケースがほとんどです。本当の初期診療を担うことはできません。現在は、診断から治療まで、すべて自分で担当できます」

多様な患者を診察する日々は、熊谷氏が思い描いている将来像にリンクする。

「ゆくゆくは、いわゆる過疎地で医療を提供したいと考えています。そのためには、外科も学ばなければなりません。まずは、ここでしっかり地域密着型医療を学び、全身を診られる力を付けることが目標です」

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
医療法人社団東山会 調布東山病院 理事長、院長 小川聡子氏

患者の個別事情に合わせたオーダーメイド医療を提供

1982年に開院して以来、地域の信頼を培ってきた調布東山病院。2011年の敷地内移転を機に、内視鏡センター、ドック・健診センターを新設し、急性期リハビリ室を充実させた。内視鏡センターは、年間6500件を超える症例があり、地域でも評判が高い。同時に、地域医療(高齢者医療)にも力を入れているのが同院の特長だ。

「複数疾患を持っている高齢者は、一人ひとりオーダーメイドの医療が必要で、医師として非常に学びになります」

と、理事長兼院長の小川聡子氏は語る。一般に、高齢者医療というと、それほど高度な医療的知識やスキルを問われないと思われがちだ。だが、小川氏は「より質の高い専門医として、医師の能力を問われる現場」と言う。患者の個別事情に合わせた“微妙なさじ加減”が難しいからだ。

「例えばがんの患者を診る場合、退院後の疼痛コントロールをどうするかは、その方の全身状態や家庭状況、自己管理能力などによってさまざまです。普段のライフスタイルを見極め、それに見合う治療法を考えなくてはなりません。力のある医師だからこそ、できる医療です」

前出の熊谷氏は、まさにその診療スタイルを実践している。

「糖尿病の患者が症状を自己コントロールできない場合、必ずしも完璧な治療を目指しません。その患者の状況をよく聞き、本人にとって可能な範囲で、症状をもっともよい状態に調整しています」

患者が病と向き合い、生をまっとうできるための医療

疾患だけではなく、患者が抱えている事情をまるごと把握する医療である。その最たるものが、1988年から取り組む在宅医療だ。小川氏は、初めて在宅の患者を担当した時のことを今も鮮明に覚えている。

「末期がんの患者で、当初、在宅は難しいように思えました。それでも、家族総出で温かい看病をし、2~3週間ほどの療養を経て亡くなりました。その時の患者の表情は穏やかで、家族もどこか満足感がありました。私は、人が病と向き合って人生をまっとうする素晴らしさを痛感しました。患者が最期まで生活者としてあり続けることを支えるのが、当院の役目です」

それをなしえるには、質の高い専門性+ジェネラルも診られる視点が必要なようだ。

「当院には、ほとんどの科の専門医がそろっており、一人ひとりがジェネラリストとしての気概を持っています。お互いにフォローしながら診療し、自分の専門以外のことを仲間から学ぶことができます」

これまでの経験をいかしつつも、医療の幅を広げられる。調布東山病院は、医師としてもう一段の成長をさせてくれる病院である。

小川 聡子氏

小川 聡子
医療法人社団東山会 調布東山病院 理事長、院長
東京都出身。1993年東京慈恵会医科大学卒業。同大学附属病院内科研修。95年同院循環器内科入職。97年神奈川県立厚木病院(現厚木市立病院)循環器内科入職。99年東京慈恵会医科大学附属病院循環器内科に戻る。2003年医療法人社団東山会入職。09年理事長就任。13年から現職。

医療法人社団東山会 調布東山病院

京王線調布駅徒歩3分の地域密着型急性期病院。開院以来、「思いやりと人情味のある地域医療」を目標にしてきた。開設から30年の2011年12月、新病院を建設し全面移転。内視鏡センター・ドック健診センター・リハビリ室の新設など、 予防医療や診療体制も充実させた。質の高いジェネラル(総合診療)と予防医学、消化器センター、在宅医療を4つの柱とし、院内外でのチーム医療も推進している。中期ビジョンに「『その人らしく』笑顔で生きる地域にする」を掲げ、患者様・家族に寄り添うかかりつけ病院を目指している。

医療法人社団東山会 調布東山病院

正式名称 医療法人社団東山会 調布東山病院
所在地 東京都調布市小島町2-32-17
設立年月日 1982年10月1日
診療科目 内科、消化器内科、糖尿病・内分泌内科、
血液内科、循環器内科、呼吸器内科、神経内科、
腎臓内科(人工透析)、外科、消化器外科、大腸・肛門外科、
整形外科、リハビリテーション科、リウマチ科、皮膚科、
泌尿器科、麻酔科、放射線科
病床数 一般83床
常勤医師数 20名
非常勤医師数 86名
看護師数 125名
外来患者数 1日平均約400人
入院患者数 1日平均約70人(2014年3月現在)