VOL.58

救急から整形外科へ――。
医学部入学前からの計画を
キャリアチェンジで実現する

角谷整形外科病院
整形外科 原田 誠氏(34歳)

愛知県出身

2005年
愛知医科大学医学部卒業
同大学病院 初期研修
2007年
同大学病院 救命救急科
2012年
松原徳洲会病院 整形外科
2015年
角谷整形外科病院 整形外科

将来のビジョンが明確な医師は、キャリアチェンジに悩まない。角谷整形外科病院の原田誠氏もその一人だ。理想とする医師像は「ジェネラリストかつスペシャリスト」で、一般疾患も診られるスポーツ整形外科医を目指す。一見、遠回りのようでも先に救急を経験し、次に一般的な整形外科、そして肩関節やスポーツ整形の専門医へとステップアップしている。

リクルートドクターズキャリア2月号掲載

BEFORE 転職前

幅広い疾患を診る能力に加え、
肩関節とスポーツ整形を
専門領域にしたい

多様な経験を積むため救急の医局に入局した

角谷整形外科病院(和歌山県)整形外科の原田誠氏は、医学部に入る前から整形外科医になることを決意していた。「長く陸上競技に打ち込んでいたため、何かスポーツに関わる仕事をしたいと考えていました。いくつか選択肢のある中から、スポーツによる障害や外傷を治すスポーツ整形の道を目指しました」

それでも、2005年に愛知医科大学を卒業し、最初に入局したのは同大学救命救急科だった。「例えば、飛行機の中などで急病人が出た時、パッと対応できるようになりたかったのです。整形外科だけでなく、幅広い診療スキルを身につけるために、まずは救命救急科を選びました」

内科から外科、集中治療、ドクターヘリに至るまで、多様な経験を積んだ。その後、12年に医局を離れ、最初のキャリアチェンジ。松原徳洲会病院(大阪府)整形外科へ転職した。「ちょうど整形外科を立ち上げるタイミングで、知人の医師から声をかけていただきました。骨折などの外傷を多く担当しました」

通常、転科をしたあとは新たな知識・技術を一から吸収しなくてはならない。だが、原田氏にはアドバンテージがあった。「救急の頃から外傷はよく診ていたので、その経験が役立ちました。また、整形外科の立ち上げから関わったことで、他の医師やスタッフとのコミュニケーションもスムーズでした」

在職中、日本プライマリ・ケア連合学会の指導医を取得した。内科や小児科、整形外科など全科の知識が問われる資格である。大学病院では多忙で取得できなかったが、同院で達成した。整形外科医として活躍するには必須の資格ではないものの、原田氏のキャリアビジョンにおいては重要だった。「理想の医師像は、ジェネラリストかつスペシャリスト。専門性を持ちながらも、それに偏らず、他の疾患も診られる整形外科医です」

丸3年をかけ、整形外科の一般診療を学んだ。一定の経験を積んだところで、次なるキャリアチェンジへと挑戦する。いよいよ、当初の目標であるスポーツ整形を学ぶ時が来たのだ。15年4月、現在勤務する角谷整形外科病院に、常勤医として入職した。

内視鏡や関節鏡を用いた低侵襲手術で有名な病院

同院は、内視鏡や関節鏡を用いた低侵襲手術、スポーツ整形の充実で知られる。脊椎内視鏡下手術は全国に先駆けて導入した実績があり、さらには人工関節置換術にも注力している。年間の症例数は、脊椎内視鏡下手術606例、関節鏡視下肩関節手術149例、関節鏡視下膝関節手術124例、人工関節置換術113例、形成手術・その他199例にのぼる(14年実績)。スキルアップを図るには絶好の病院である。

原田氏は、以前から2ヵ月に1回のペースで手術を学びに来ていた。「指導していただいた中根康博先生は、上肢(肩・肘)のスポーツ障害・外傷の専門医で、学会でも活躍されています。私も肩を中心とした関節疾患と、スポーツ整形を専門に学ぶことにしました。また、地域に根ざした病院なので、外傷など一般的な整形外科の手術も経験できます」

同院は13年に建物を改築し、完全クリーンルームの手術室を4部屋備えた。無影灯(LED照明装置)や、モニターシステム、手術用ベッドも最新式を取り入れるなど、十分な設備を用意し、医師が働きやすい環境を整えている。

また、整形外科専門病院だけに、スタッフの専門性が高い点も強みだ。手術室専属看護師は、一般外科などと兼務ではなく、整形外科の手術だけに携わっている。放射線技師も同様に整形外科に専念し、専門知識を有する。リハビリテーションの面では、スポーツ整形に強い理学療法士(PT)が多数在籍している。さらに、アスリートの健康管理や傷害予防、スポーツ外傷の救急処置などを行う専門職「アスレチックトレーナー」も在籍し、スムーズな競技復帰へと導いている。

「今は何を学んでいても楽しい」と一点の曇りもない表情で語る原田氏。転職後の日々がいかに輝いているかを紹介する。

AFTER 転職後

転科は勇気のいることだが、
これまでと違う世界を
知ることで成長につながる

スポーツ障害・変性疾患は「診断学」の能力が問われる

救急から整形外科へ。そして一般診療の上に、専門性を積み上げようと転職した原田氏。新たな環境に移って8ヵ月が過ぎた今、診療技術の習得にいそしんでいる。

一般的に、スキルアップを図るうえで、整形外科の医師は手術を中心に考えることが多い。転職後は一変、原田氏は「診断学」の重要性を強く感じ、外来にも積極的にかかわるようにしている。「骨折などの外傷は、日常生活に影響が出るため、必然的に手術をしなければならないことがあります。それに対し、変性疾患やスポーツ障害では考え方が異なります。肩、股、股関節の変性疾患では、痛みがあっても何とか日常生活を過ごせています。患者の年齢や生活背景などを考慮しながら、QOLに沿った治療計画が必要となります。

スポーツ障害も同様です。極力、手術を避け、競技のパフォーマンスが落ちないように考慮し、治療を行うことが前提です。もちろん保存的な治療ではなく、手術を選択した方が、早期スポーツ復帰を望める場合もあります。手術適用であるか見極める判断が重要です。患者層が豊富である当院で積極的に外来に携わり、指導の先生の外来診察を見学することで、診断能力を高めたいと思っています」

外来だけではなく、手術を学べる環境も整っている。整形外科に特化している同院は、一般の整形外科疾患の患者のみならず、アスリートを含むスポーツ整形の患者が多く集まる。「症例疾患も多く、医師以外の専門スタッフも充実しているのも特長です。整形外科医も他に7名も在籍しており、丁寧な指導をしてもらえます。週に2・5日ある手術日には、一般外傷手術はもちろん、人工関節手術や関節鏡下手術など、多くの手術を経験でき、日々、やりがいを感じています」

同院は、経験を積むには申し分のない環境といえる。

同じ手術でも、病院や医局、地域によって手技が異なる

原田氏の目下の目標は、関節鏡下肩関節手術を極めることだ。「腱板を大きく切開する手術より、肩関節に関節鏡を入れることで、より細やかな手術ができます。低侵襲手術であり、傷痕が目立ちにくいのも大きなメリットです。しかしながら、画面を見ながら操作する関節鏡下での肩関節手術は、通常の手術より難易度が高くなります。1年である程度までできるようになっても、自分で納得するまで2~3年はかかると考えています」

しっかりとビジョンを持ち、新たな技術を吸収している様子が伝わる。現在、転科や転職を検討している医師に対し、熱いアドバイスを送る。「転科は勇気のいることで、その一歩を踏み出せない人も多いと思います。長く1ヵ所の病院にいると、新しいスキルが付きにくくなると思います。そこから脱するには、多少のストレスを感じても病院を変え、新たな気持ちで挑戦することが必要ではないでしょうか」

特に外科系は、病院や医局、地域によって手技や対応方法が異なる。原田氏は愛知、大阪、和歌山と病院を変える中で大いに刺激を受けたそうだ。「転職によって、今までとは違う手術を経験できることは、非常に勉強になります。現状に物足りなさや、もっと勉強したい思いがある医師は、病院を変わることで多くのメリットを得られます。どんどん変われとは言いません。専門病院なら1年単位でも学びになります。これまでとは違う世界を見る経験は成長につながります」

実際に自ら新しい環境に飛び込み、チャレンジしている原田氏。その発言には説得力があふれている。

関節鏡視下手術を行う原田氏(写真左)。他に脊椎内視鏡などの設備も整っている。

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
低侵襲手術とスポーツ整形は相性がいい

スポーツ整形のニーズは
いっそう高まっている

関節整形外科部長でスポーツ整形外科副部長の中根康博氏は、原田氏の印象をこう語る。「経験を積むために和歌山まで来たことから、非常に志が高い医師だと思います。勉強熱心で、教え甲斐があります」

同院は地域密着型の病院でありながら、低侵襲手術とスポーツ整形の二つに力を入れている。両者は非常に相性がいいと言う。「関節鏡などを使って、極力、正常な組織を傷つけずに手術をすることで、アスリートが早期に、スポーツ復帰できるようにしています。整形外科全体の中でもスポーツ整形に興味のある医師は多いのですが、環境が整っている病院はそれほどありません。そういった中、当院には、関西を中心とした国内各地、時には海外からの見学があります」

中根氏によると、スポーツ整形は三つのアプローチから構成されるそうだ。「一つは、予防。スポーツでけがをしないためのアドバイスです。次が、パフォーマンスアップ。筋力強化を支援することです。三つ目がけがへの対応で、私たちが行っている手術や、その後のリハビリテーションなどです」

昨今、中高年の間でスポーツが流行し、国としても介護予防のために適度な運動を推奨している。スポーツ整形のニーズは以前にも増して高まっていると言えそうだ。整形外科の専門医を取得したあとに、さらなるステップアップを目指す医師。もしくは基礎から習いたい後期研修医には、特に適した病院である。

なお、角谷整形外科病院では、院外活動も盛んだ。和歌山県体育協会と協力し、大学や高校のトレーナー、国体選手の帯同ドクターなどを担っている。

医師や他の職員はスポーツ経験者が多く、定期的に集まり、筋力トレーニングやマラソン、ソフトボールなどを楽しんでいる。「和歌山は自然が豊かで、気候も穏やかです。スポーツが好きな医師は、仕事とプライベートの両方が充実しています」

中根 康博氏

中根 康博
角谷整形外科病院
関節整形外科部長
スポーツ整形外科副部長
和歌山県出身。1996年佐賀大学医学部卒業。97年和歌山県立医科大学附属病院整形外科入局。その後、和歌山県内の複数病院で研修・勤務。2006年船橋整形外科病院スポーツ医学センター勤務。07年和歌山県立医科大学紀北分院整形外科助手。10年から角谷整形外科病院勤務。

角谷整形外科病院

JR和歌山駅から徒歩8分。関西国際空港からも高速バスで30分の好立地にある角谷整形外科病院。低侵襲手術の実績が高く、脊椎内視鏡下手術は全国でもトップクラスの症例数を誇る。関節鏡視下手術は肩、膝をはじめ多くの症例に対応している。その他、肩関節や股関節、膝関節に対する人工関節置換術、外傷・骨折に対する人工骨頭置換術、観血的骨接合術、さらに形成外科手術なども実施している。
また、スポーツ整形にも注力している。スポーツドクターおよびPT、OT、アスレチックトレーナーが連携し、院内外でトレーニングと指導を行っている。さらにリハビリも充実している。若手・中堅への指導体制、後期研修医の受け入れ体制も整備されており、安心して働くことができる。

医療法人スミヤ 角谷整形外科病院

正式名称 医療法人スミヤ 角谷整形外科病院
所在地 和歌山県和歌山市吉田337
設立年 1971年
診療科目 整形外科、リハビリテーション科、形成外科、麻酔科、循環器内科、内科、リウマチ科、放射線科
病床数 70床
常勤医師数 11人
非常勤医師数 14人
外来患者数 350人/1日
入院患者数 55人/1日
(2015年12月時点)