VOL.61

がん専門病院や大学病院で
身につけた診療技術を
地域医療に役立てる

共立蒲原総合病院
内科医長 横山 ともみ氏(36歳)

宮崎県出身

2004年
宮崎大学医学部卒業、同大学医学部附属病院卒後臨床研修センター初期研修
2006年
宮崎大学医学部附属病院第一内科
2011年
宮崎大学大学院医学研究科(博士課程)修了
2012年
静岡県立静岡がんセンター消化器内科
2014年
宮崎大学医学部附属病院第一内科
2015年
共立蒲原総合病院内科

故郷の宮崎県を離れ、静岡県にある共立蒲原総合病院に勤務する横山ともみ氏。消化器がんが専門で、静岡がんセンターで研鑽を積んだことが、キャリアチェンジにつながった。これまで学んだ専門的な診療技術を、現在は地域医療に生かしている。患者にとって、より身近な病院で抗がん剤治療や緩和医療を受けられる環境作りを目指し、奮闘している。

リクルートドクターズキャリア5月号掲載

BEFORE 転職前

静岡がんセンターの
レジデントとして2年にわたり
消化器内科の専門技術を学ぶ

治らない消化器がん患者のQOLを高めたい

共立蒲原総合病院(静岡県)内科医長の横山ともみ氏は、2004年に宮崎大学医学部を卒業した、新臨床研修制度の第1世代だ。同大学附属病院の卒後臨床研修センターで2年間の初期研修を受け、引き続き同大学の第一内科で1年間の後期研修。その後、同大学病院や関連病院で経験を積んだ。

第一内科は消化器から循環器、腎臓と幅広い領域を扱う。初めのうちは、救急や循環器など急患の多い科をローテーションした。そうした中で強い関心を持ったのは、消化器がんの治療だった。

「初期研修の頃から関心がありました。がん治療を中心に担当されている先輩医師が非常に魅力的に見え、自分が専門としたいのはがんの治療だと考えました。消化器がんは治らないケースが多く、それでも生存期間を1週間から2週間にできたら。あるいは、自宅に帰って家族と話をしたり、ご飯を食べたりできる日が1日でも多くなるなど、何とか役に立てたら、と思ったのです」

横山氏にとって、今も印象に残る患者がいる。初期研修1年目に受け持ったがん患者だ。

「80歳近い女性で、胸水がたまるという訴えで循環器科に入院していました。しかし、検査をしても異常が見つからず、念のために寄生虫による感染かどうかを調べるために、内視鏡検査をしたのです。すると、スキルス胃がんが見つかりました」

すでに手術は難しい状態で、横山氏が抗がん剤治療を担当した。残念ながら約1年後に患者は他界したが、診断から最期までを診た経験は、消化器がんの治療にかける思いをより強くした。

2012年からは、先輩医師の紹介で静岡県立静岡がんセンター(以下、静岡がんセンター)消化器内科に赴任した。レジデントとして2年にわたりがんを学ぶコースだ。日々、多忙に追われつつも、大きなやりがいがあった。

「患者の診療だけでなく、臨床試験や研究、学会発表、論文執筆など17時以降に行う業務もあります。先輩たちの治療を見せていただいて勉強する時間も必要ですから、いつも日付が変わるぐらいの時間に帰宅していました。一緒に学んでいたレジデントは約100人。北海道から沖縄まで全国から集まった熱い仲間達と、切磋琢磨しながら夢中で勉強しました」

住民に評判がよく、院内の雰囲気の温かい病院

濃密な2年間を過ごし、14年に予定通り宮崎大学に戻った。静岡がんセンターで身につけた診療技術を、医局に還元するためだ。

「例えば、いかに抗がん剤の副作用を防ぐかなど、細かなポイントがいくつもあります。前もって予防薬を始めておくとか、副作用に早く気付くための適切なタイミングで血液検査を行うなど、患者一人ひとりに合わせて見極めることを詳しく伝えました。静岡がんセンターにいた頃も、随時、メールで報告はしていましたが、帰ってからは後輩たちに直接指導していました」

その翌年、横山氏は再び静岡に戻る。結婚を機に、医師としての拠点を静岡県に移すためだ。静岡がんセンターで学んだことを1年かけて宮崎大学に伝え切り、医局の理解も得た。

新たな勤務先に共立蒲原総合病院を選んだ理由をこう振り返る。

「同院のある富士市に引っ越したということもありますが、それ以前に、静岡がんセンターに在職中、県内の病院紹介を受ける機会がありました。共立蒲原総合病院は消化器内科の診療ができ、地域に密着した病院であることなどに惹かれました。夫の家族など地元の人たちに聞いてみると評判がよかったことも、プラスに働きました」

実際に入職する前、同院で面接を受けた。その時の第一印象が決め手となった。

「病院全体の雰囲気がすごく温かかったことを覚えています。何名かの医師とごあいさつをした時も、明るく、優しく院内のことを詳しく教えてもらえました。この病院なら、気持ちよく働けそうだなと感じたのです。また、勤務時間は8時~17時で、家族と過ごす時間を確保できる点も魅力的でした」

卒後11年目。これまで身につけた専門知識を、地域医療に生かすキャリアチェンジを決意した。

AFTER 転職後

抗がん剤がん治療や緩和医療の
実績を増やしながら、
全身を診られる医師を目指す

周囲の医師のアドバイスを受けて着実にスキルアップ

横山氏がキャリアチェンジをしてから、約1年がたつ。業務内容は曜日によって異なり、午前は外来か内視鏡検査、午後は内視鏡検査か、血管造影など他の検査にあたることが多い。それ以外の時間は、病棟管理や救急車の対応をしている。

転職前後の目に見える違いとしては、まず患者層が挙げられる。静岡がんセンターは、すでにがんの診断がついた患者がほとんど。宮崎大学病院は、地域の病院から紹介された比較的重度の患者が多い。それに対し、共立蒲原総合病院は頭痛や腹痛などを訴え、まだ診断のついていない患者、もしくは肺炎や認知症を患う高齢者が中心だ。抗がん剤治療を受ける患者は年間約300人と、決して多くはなかった。しかし、横山氏が入職して以降、少しずつ変化してきている。

「外来での検査によって、進行がんが見つかる患者もいます。手術ができないほど進行している場合、これまでは他院に紹介するか、患者がどうしてもと言った時のみ当院で抗がん剤治療をしていたと聞きます。それが、今は私が抗がん剤治療をするようになり、がん患者の受け入れは増えてきました」

がん患者の数が増えるにつれて看護師の経験値も高まり、働きやすさはいっそう増す。

「副作用をいかに早く見つけるかという点でも、一緒に注意を払ってもらえます。がん治療に関するマネジメントは、一歩、進んだように感じています」

現在も静岡がんセンターや宮崎大学病院の医師とのつながりが強いため、必要な時にはメールや電話でアドバイスを受けることもある。静岡がんセンターに関しては、地域医療連携も機能している。手術が可能な患者を紹介したり、逆にがんセンターで一通りの治療を終えた患者を紹介されたりしている。これまでのキャリアは、大いに役立っている。

市内の医療提供体制を理解しより充実した医療を提供

もちろん、消化器内科以外の患者を診ることも日常である。

「同じ内科のほかの医師に相談しながら、幅広い症例を診ています。当院にはベテラン医師が多く、急性期・慢性期を問わず『こういう所見を見たらいい』『これを疑ったほうがいい』などと教えてくださいます。メモをとることはしょっちゅうです。『病気ではなく全身を診る』という観点から学ぶことができ、非常にやりがいを感じています」

新たな環境にもだいぶ慣れてきた横山氏。診療だけでなく、富士市内の医療提供体制にも目を向けるようになってきた。

「これまでは、患者から『○○クリニックに通院していました』と言われても、当院との位置関係はどうなのか、何を専門とする医師がいるのかなどが、すぐにはわかりませんでした。もっと患者の背景をくみ取り、地域医療連携を強めていくため、地域のことを詳しく知りたいと考えています」

診療面については、がん治療の症例を増やすことに加え、緩和医療を充実させることも目標としている。静岡がんセンターの緩和医療科での研修や、緩和ケアチームと一緒に治療した経験を、富士市の医療に生かしたいのだ。

「積極的な治療ができない段階になったとしたら、なるべく自宅の近くの病院に入りたいという患者は多いと言われます。当院には、療養病棟もありますから、緩和医療で地域の皆さんの役に立てることも多いと思います」

がん治療の専門性を発揮しながら、新たにジェネラルな知識やスキルも身につけている横山氏。転職によって医師としての幅が広がり、充実感が増したことは誰の目にも明らかだ。

外来で診察にあたる横山氏。

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
予防から介護まで幅広い医療を展開

非常勤医が「また来たい」と言うほど働きやすい病院

共立蒲原総合病院は、静岡県富士市、静岡市、富士宮市の3市により運営されている公立病院だ。稼働病床は全235床で、一般病棟106床、地域包括ケア病棟37床、療養病棟92床からなる。

医療設備が充実し、二次救急医療にも対応した病院だ。MRI(1・5T)、CT(64列)、血管撮影装置、マンモグラフィー、ガンマカメラ、骨密度測定装置、FPDX線撮影装置、外科用イメージなどの放射線設備や、経鼻内視鏡を導入した内視鏡センターなども有する。

他に、人間ドック、訪問看護ステーションや老人保健施設も運営している。今年4月からは富士市の訪問看護ステーションが併合するほど、地域で頼られている病院だ。

院長の西ヶ谷和之氏は、同院の役割についてこう語る。

「予防から急性期、慢性期、そして介護まで、一貫した流れで地域医療に取り組んでいます。ケアミックス型病院として、地域医療構想に貢献したいと考えています」

患者層は地域の高齢者が多い。合併症やさまざまな既往歴があるため、ベテラン医師は大いに経験を生かすことができ、若手は幅広く学ぶことができる。2011年から、「病院の独りよがりにならないように地域のニーズを見極め、改善点を見つけよう」と患者満足度調査を実施。14年には、患者からの感謝や励ましの声が増えていた。

「当院はスタッフ全体がまとまっており、非常に居心地のいい病院だと自負しています。看護師は勤勉で、認定看護師を取得している者も少なくありません。医師の指示に対して迅速にはたらき、地域の状況もよく把握しています。スポットで入る非常勤医から『仕事がスムーズに回るので、また来たい病院』と言われることもよくあります」

西ヶ谷氏は、同院で求める医師像についてこう考えている。

「幅広い症例を、皆で診ていこうという気持ちのある医師を歓迎します。産休、育休の整備にも力を入れておりますから、子育て中の女性医師にも来ていただきたいですね。非常勤でも結構ですので、一度、当院を経験してほしいと思います」

西ヶ谷 和之氏

西ヶ谷 和之
共立蒲原総合病院
院長
1982年群馬大学医学部卒業、同大学脳神経外科入局。85年山梨医科大学第一病理学教室助手。87年同大学脳神経外科に入局し、助手、講師を経て、99年共立蒲原総合病院に脳神経外科科長として赴任。2004年から副院長となり、15年より現職。

共立蒲原総合病院

新幹線が停車するJR新富士駅からタクシーで10分。共立蒲原総合病院は、緑に囲まれた小高い丘の上に建つ。眼下には伊豆の連山をうかべ、紺碧に澄みきった駿河湾、振り返れば四季折々の雄姿を映し出す富士山が間近にそびえる。設立以来、近隣の医療機関と連携して地域医療を担っている。多様化する医療ニーズに応え、健診センター、人工透析センター、診療棟の増設など医療機能の充実と拡充を進めてきた。地域の高齢化に対応すべく訪問看護ステーション、老人保健施設「芙蓉の丘」も運営する。予防、急性期、慢性期、介護と幅広く展開している。

共立蒲原総合病院

正式名称 共立蒲原総合病院
所在地 静岡県富士市中之郷2500-1
設立年 1955年
診療科目 内科、神経内科、呼吸器内科、消化器内科、循環器内科、小児科、外科、
整形外科、脳神経外科、呼吸器外科、皮膚科、泌尿器科、婦人科、眼科、
耳鼻いんこう科、放射線科、麻酔科、リハビリテーション科
病床数 235床
常勤医師数 15人
非常勤医師数 60人
外来患者数 333.6人/1日
入院患者数 199人/1日
(2016年3月時点)