VOL.56

外科の臨床に携わりつつ、
副院長として病院経営にあたる。
絶妙なバランスでキャリアを築く

佐々総合病院
副院長兼外科部長 鈴木 隆文氏(54歳)

東京都出身

1985年
昭和大学医学部卒業
東京女子医科大学消化器病センター 外科入局
1999年
多摩南部地域病院 外科医長
2009年
明理会中央総合病院 外科部長
2010年
高木病院 外科部長
2012年
東戸塚記念病院 院長
2014年
佐々総合病院 副院長兼外科部長

臨床の第一線で活躍しながら、病院の経営にも携わりたい――。佐々総合病院の鈴木隆文氏は、その両立を実現した医師である。消化器外科医として経験を積んだのち、院長職を経て、現在は副院長と外科部長を兼務している。常に“患者目線”であることを大切にし、患者にとってどんな医療が望ましいかを追求する。その姿勢が、病院の経営改善にもつながっている。

リクルートドクターズキャリア12月号掲載

BEFORE 転職前

いち早く腹腔鏡下手術を導入。
技術認定医を取得し、
必要なことを一つひとつ実践

「患者のため」ではなく、「患者目線」であることが重要

佐々総合病院(東京都西東京市)副院長兼外科部長の鈴木隆文氏は、1985年に昭和大学医学部を卒業。その後は、臨床・手術実績・教育システムが充実していると言われていた東京女子医科大学消化器病センターで、外科医としてのトレーニングを受けた。「学生時代からスポーツに親しんでいたものの、長時間の手術に耐える体力、精神力があるか、自分でも疑問でした。それなら、超一流の病院に挑戦しよう。もしだめでも、諦めがつくだろうと考えたのです」

東京女子医大での年月は、まさに修業だった。激務のため、帰宅は1週間に数日だけだった。「『センスがあるね』などと評価してくださる先生もいましたが、別のある先生から厳しく指導されました。外科医を続けるか悩みましたが、元来、負けん気が強い性格です。その先生に師事したいと希望し、肝臓グループに入れていただきました。自分をたたき直すには非常にありがたい教育でした」

大学病院とその関連病院での経験は、27年間の長きにわたった。99年に入職した多摩南部地域病院では医局長を任され、その後の院長職に通じる経験をした。「病院全体として電子カルテを導入し、消化器外科では腹腔鏡下手術を始めました。当時、腹腔鏡下手術は、がん専門病院などでスタートしたばかりの頃です。乗り遅れてはいけないと思い、見学に行ったり学会で情報を得たりして、知識と技術を身につけました」

やがて腹腔鏡下手術の技術認定医を取得すると、他院から「導入を指導してほしい」と声がかかるようになった。2010年、先輩医師が勤務する高木病院に転職。腹腔鏡の専門技術を発揮しながら、外科医として充実した日々を過ごしていた。

そんなある日、ターニングポイントとなる出来事が起きる。「東戸塚記念病院から、『手術のできる院長職を探している』と誘いを受けたのです。医局長時代に少しマネジメントに関わっており、病院経営に関心はありました」

12年、医局を離れ、東戸塚記念病院の院長に就任した。院長職は初めての経験だったが、すぐに才能を開花させる。「『全ての皆様から選ばれる病院』を目標に設定し、職員全員で共有しました。“皆様”の中には、患者だけでなく職員も含みます。自分たちが働く病院を大切に思えるようなかたちを目指しました」

病院改革にあたって、鈴木氏がいつも職員に伝えていたことがある。「“患者のため”ではなく、“患者目線”で医療をすることです。この二つはまったく異なります。あくまでも、自分の立場を患者に置き換えて『何をしてほしいか』を考えることが大事なのです。そうすると、すべきことが見えてきます」

他にも、地元FMラジオに番組を持つなどして、病院のイメージアップに務めた。わずか2年で病院の信頼性が高まり、患者数は増加。経営状況は大幅に改善した。

院長として大きな成果をあげた鈴木氏。一見すると、順風満帆である。しかし、内心はジレンマを感じていた。「東戸塚記念病院は自宅から1時間以上もかかり、患者に何かあっても即対応できません。院長職はやりがいがありますが、もう一度、外科の現場に戻りたい。そんな気持ちが強くなっていきました」

明治41年開設。西東京市で長い歴史のある佐々総合病院

ここで、二度目の転機が訪れる。

近くの横浜柏堤会戸塚共立第1病院理事長で戸田中央医科グループ副会長の横川秀男氏から、同じグループの佐々総合病院に来ないかと、打診された。副院長として経営に携わりながら、外科医としての実力を発揮してほしいという。同院は183床の急性期病院で、明治41年創業の歴史がある。なによりも、鈴木氏の自宅や実家に近く、以前からなじみのある病院だった。「佐々総合病院には、家族が入院していたこともありました。外科医として、副院長として地元の病院に貢献したいと思いました」

14年、外科医と副院長を兼務することを決意した。この絶妙なバランスが、鈴木氏のさらなるキャリアアップにつながっていく。

AFTER 転職後

地域住民に信頼され、
職員が働きやすい病院へと、
着々と進化している

専門領域をブラッシュアップし若手の成長にも協力したい

佐々総合病院に転職した鈴木氏は、土日を除く週5日が勤務日だ。月・金は午前から午後2時頃まで病院の外来。火・木は終日手術。水曜は戸田中央医科グループ横浜柏堤会の本部に赴き、副院長として経営にまつわる業務にあたる。

病院勤務の日は、分刻みでスケジュールが動く。いつも朝7時には出勤し、病棟を回診する。8時から幹部会に入り、8時15分にはカンファレンスを行う。8時30分からは事務連絡会議。9時15分から9時半の間に外来や手術を開始する。帰宅は20〜21時頃になることが多い。「もともと自分が専門としてきた肝胆膵手術をさらにブラッシュアップしながら、若い医師のステップアップに協力したいですね」と臨床医としての意欲を語る。

大学病院や系列病院が長かった鈴木氏にとって、民間病院はまた違ったやりがいがあるようだ。「大学病院で手術を執刀する時は、メインの手術を終えたあとを研修医に任せることが少なくありませんでした。それに対して民間病院は1から10まで自分で診ます。より臨床に食い込んで医療を行うことに大変さはありますが、医師としておもしろくもあります」

一方、副院長としての目標は、グループ全体のスローガンである「トータル・ヘルスケア」の確立にほかならない。予防医療から一般診療、リハビリテーション、そして介護までを一貫して提供できる地域完結型医療を目指している。「今まで佐々総合病院が培ってきた財産を大事にしながら、さらに地域連携を強化していきたいと考えています。グループ内だけでなく、近隣の病院や診療所とも協力しながら西東京市のトータル・ヘルスケアを構築したいのです。私は土着の人間ですから、余計にその思いがあるのだと思います」

鈴木氏が入職して以降、専門である腹腔鏡下手術の設備をさっそく取り入れた。他に、血管造影のDSA装置も導入し、循環器科や脳外科の設備を充実させた。

また、ハードだけでなく、ソフトの改善にも余念がない。目下、力を入れているのは、医師と他の職員との協力体制作りである。「患者を中心としたチーム医療を充実させるために、医師と看護師との連携を促進しています。新たに医師事務作業補助者を採用したり、病棟薬剤師や医療ソーシャルワーカーの介入を強化したりすることも予定しています」

対外的にも、医師会や消防との連携を進め、急性期医療を充実させる計画だ。地域連携室の職員とともに検討している。地域住民に信頼され、職員が働きやすい病院へと、着々と進化している。

内科のスペシャリストが専門領域に専念できる環境

もちろん、医師の増員にも積極的だ。とりわけ、内科医の招聘に力を入れている。「当院には、専門医が自分の領域に専念できる環境があります。たとえば、糖尿病内科や消化器内科などは、自分の思うように診療科を作っていただくことができるのです。一方で、すでに総合診療科がありますから、一緒に総合診療に携わりたい医師も歓迎します。スペシャリスト、ジェネラリストがそれぞれ活躍できる病院です」

こうして、外科医としての臨床と、副院長の経営業務を両立している鈴木氏。かなり忙しいのではないかと尋ねると、笑顔で返答した。「片方の業務を終えたあとに、もう片方の業務にあたる。そうやって、思考をシフトさせることで、頭を休めさせられるんですよ。私には向いていると思います」

穏やかな物腰の背景に、強い情熱を感じさせる。臨床医でありながら、患者目線の病院経営を行う姿には、得も言われぬ求心力がある。佐々総合病院は、ますます地域での存在感を高めていくはずだ。

腹腔鏡手術にあたる鈴木氏。

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
共にトータル・ヘルスケアを実現しよう

各自のスキルを発揮する他
チームを思いやる気持ちが大切

佐々総合病院は戸田中央医科グループの系列病院である。同グループ副会長の横川秀男氏は、前出の鈴木氏をこう評価している。「手術のスキルが優秀であることはもちろん、知識取得の意欲が高い医師です。毎週、本部で情報交換をしていますが、新しい情報にも非常に詳しい。また、何事も妥協せず、常に患者目線であることを徹底しています」

同グループでは「トータル・ヘルスケア」の確立を目標にしている。高齢化社会が進む今、地域住民が安心できるよう、切れ目のない医療を提供する構えだ。「グループ内の病院ごとに、救急車の受け入れ台数等、各分野で数値目標を決め、さらなる向上を目指しています。予防医療や健康増進の取り組みにも力を入れ、いわゆる『未病』の段階を健康に近づける支援も大切にしています」

共に目標を実現する仲間として求める医師像は、“チームを思いやる気持ち”がポイントだ。「専門医として腕を磨き、力を発揮してもらうことに加え、仲間を大事にする医師を望んでいます。病院は20以上の職種の集まりです。みんなが力を合わせてよい医療を行うには、各自がスキルを高めるだけでなく、他の仲間のよさや大変さも理解して、患者中心のチーム力を高めることが大切です」

よりチーム医療を充実させるために、職員同士がコミュニケーションをとる機会を設けている。「症例検討会や顔合わせ会の他、グループ職員約半数の5000人が参加するスポーツ大会や学会を開催しています。また、意見や提案は私に直接メールしてもらい、職員の声を吸い上げています」

学生時代からラグビーの経験の長い横川氏は、チーム医療をラグビーに例えてこう話す。「先日、ラグビーのワールドカップで日本チームが健闘しました。彼らは、一人ひとりの実力では劣る強豪相手にも、チームが一体となったことで大きな力を発揮しました。医療も同じで、『ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン』の精神が大切だと思います」

横川 秀男氏

横川 秀男
戸田中央医科グループ 副会長
1981年昭和大学医学部卒業。同大学外科学教室入局。86年同大学大学院修了。94年医療法人柏堤会戸塚共立病院(現:戸塚共立第1病院)院長。98年同会理事長。06年戸田中央医科グループ副会長。

佐々総合病院

明治41年(1908年)開設。長い歴史を持つ佐々総合病院は、もともと佐々医院に始まり、その後、総合病院へと発展した。北多摩地区の中核病院として、地元に貢献している。2009年からは25病院を運営する戸田中央医科グループの傘下に入り、より積極的な医療を展開している。診療科は内科からリハビリテーション科までの15科目がそろい、救急指定病院として地域の救急医療の一翼を担っている。東京都の災害拠点病院でもある。付属施設として「佐々訪問看護ステーション」を開設し、在宅医療にも力を注いでいる。西武新宿線田無駅から徒歩3分と通いやすい立地にあることも特長の一つだ。

医療法人社団 時正会 佐々総合病院

正式名称 医療法人社団 時正会 佐々総合病院
所在地 東京都西東京市田無町4-24-15
設立年 1908年
診療科目 内科、消化器内科、循環器内科、総合診療科、外科・消化器外科、脳神経外科、
整形外科、泌尿器科、皮膚科、小児科、産科、婦人科、麻酔科、リハビリテーション科
病床数 183床
常勤医師数 24人
非常勤医師数 64人※外来診療
外来患者数 440人/1日(2014年度)
入院患者数 155人/1日(2014年度)
(2015年10月時点)