VOL.112

与えられた条件や環境の中で
実現可能な治療を選択し
在宅患者に適切な医療を提供

東大和病院附属セントラルクリニック
循環器内科 桑田 雅雄氏(59歳)

岡山県出身

1987年
北海道大学医学部卒業
東京慈恵会医科大学 心臓外科学教室 入局
1996年
名戸ヶ谷病院 循環器科 部長
2001年
東京慈恵会医科大学 循環器内科学教室 入局
2003年
国立(現 独立行政法人)
西埼玉中央病院 循環器内科
2006年
蓮田病院 循環器科 医長
2008年
東大和病院 心臓血管センター 入職 
副センター長就任
2014年
東大和病院附属セントラルクリニック 院長
2018年
社会医療法人財団 大和会 臨床顧問 就任
同法人 在宅サポートセンター
東大和ホームケアクリニックにて訪問診療を兼任

大学病院を中心に心臓外科と循環器内科で専門的な診療を行い、一時は慢性期の患者を主な対象としていた桑田雅雄氏は、40代半ばで改めて急性期医療に従事。さらに50代では地域住民の健康を守る外来診療と訪問診療に携わっている。紆余曲折を経たように見える桑田氏のキャリアは、「自分がやりたいこと、やるべきことを実践する」というポリシーに貫かれていた。

リクルートドクターズキャリア8月号掲載

BEFORE 転職前

自分が進みたい道に正直に
心臓外科から循環器内科へ
慢性期医療を経て急性期医療に

父親の病気が契機となり
循環器分野を目指す

大学病院の心臓外科にいた桑田雅雄氏は、市中病院での診療経験から循環器内科を体系的に学ぶ必要性を感じ、医局を循環器内科に変更。いくつかの病院を経て、現在は東大和病院附属セントラルクリニック(東京都)で循環器科の外来と、東大和ホームケアクリニック(東京都)での訪問診療を担当している。

桑田氏が医学部に進学したきっかけは、保健師だった母親に社会で役立つ資格を取るよう勧められたためで、当初は専門分野も特に意識していなかったと話す。

「しかし、私が大学5年生のときに父が心筋梗塞になり、病態の急変時に自分が何もできなかったという体験から、循環器分野に興味を持つようになりました」

大学卒業後は東京慈恵会医科大学の心臓外科に入局。循環器分野の手技を教わるために外科を選択したと桑田氏は言う。

当時、同大学の心臓外科は成人チーム、小児チーム、カテーテルで検査・治療を行うチームに分かれており、入局後はそれらをローテーションするのが通例だった。

「ところがそれぞれを実際に経験すると、自分は外科より内科向きだと思い直しました。病名が分からないところから検査をし、診断をつけ、患者さんに適した治療法を決めて、長期のスパンで診ていくことに魅力を感じたからです。私は心臓外科学教室でカテーテルチームにいた期間が最も長くなりました」

循環器内科を体系的に
学ぶため医局を変更

最初の転機は、非常勤を務めていた市中病院から常勤の依頼を引き受けたときだ。

同院の循環器科はカテーテルによる検査や治療が主で、自分が重視したい方向にも合っていたと桑田氏は言う。

「このときは心臓外科の医局からの派遣として入ったものの、診ているのは循環器内科の患者さんがほとんど。外科は手術適用と診断されてからが仕事ですが、手探りで診断をつける段階から始めるのが内科の仕事です。以前から自分は内科向きだと思っていましたし、改めて内科を学び直したい気持ちが強くなりました」

心臓外科を専門に選んだ際、内科は独学で習得していた桑田氏だが、指導医のもとで臨床を経験しながら体系的に学ぶ必要性を痛感して方針を転換。大学の医局も循環器内科に変更した。

その後は大学病院、国立病院で内科救急の診療に従事、経験を積んだ後、医局を辞して市中病院に転職した。

「転職先は、人づてに頼むと次のステップのために動くのが難しくなりそうでした。そこで人材紹介会社に探してもらったのです」

候補の中から選んだのはケアミックス型の病院で、桑田氏は主に慢性期の患者を対象にカテーテル検査・治療を中心とした循環器内科の診療を数年間続けた。

「ただ、父の心筋梗塞をきっかけに循環器分野を目指したこともあり、当時40代半ばだった私は『50代を迎える前に、最初の思いに立ち返って急性期医療に戻ってみよう』という気持ちが強くなり、再度転職することにしました」

40代で改めて急性期医療を
経験するため転職

2008年に桑田氏が入職した東大和病院は、東京都北西部の東大和市で唯一の急性期病院。母体の社会医療法人財団 大和会は、同院を含め2つの病院と、在宅医療を担う医療施設、介護老人保健施設などを開設している。

循環器内科ではCCU/ICUを含む一般病床の入院患者を対象に高度医療を行っており、40代のうちに急性期医療に力を入れたいという期待に応える環境だった。

「入職前は病床数や医療機器など概要的なことしか分かりませんでしたが、入職してみると患者さんに良質な医療を提供することに積極的で、私も納得のできる治療ができ、働きやすい環境でした」

ただ、同院に入職して2年ほどは循環器内科の常勤医は自分しかおらず、多くの患者を診るのは大変だったと桑田氏は振り返る。

「それから数年の間に常勤医が5人に増え、ようやく落ち着いて診療ができるようになりました」

AFTER 転職後

患者の気持ちや生活背景にも
配慮した外来診療を実践
その経験を訪問診療に生かす

事実を伝えることより
治療に役立つことを大切に

同院で急性期医療を主としてきた桑田氏が、その考えを変えたのは50代になった頃だと言う。

「循環器内科にも若手医師が入職したので、若手医師に急性期を経験し成長してもらうことが、5年後、10年後の病院と患者さんのためになると思ったのです。それに本人がやりたい仕事をやる方が、能力を発揮できるはずですから」

そして、循環器の医師に期待される業務のうち「自分がやりたいこと」だけでなく、「自分がやる方がいいこと」にも目を配るようになり、外来診療の回数も増やしていったと桑田氏。

「例えば糖尿病の患者さんの血糖値コントロールがうまくいかないとき、外来で毎回『今日も良くないですね』と事実を繰り返しても、本人は決して楽しくないはず。それよりどうしたら病気が良くなるかを考えて対応する方が重要です。さまざまな経験を積んできたおかげで、診療を受ける人の気持ちが分かるようになり、患者さんの気持ちや生活背景まで考えられるようになってきました」

外来診療を専門とする
クリニックに法人内異動

2014年には同院の外来機能を分化した東大和病院附属セントラルクリニックが開設。地域の患者に対し、各分野の専門医による外来を提供する体制となった。

「このときは週8コマほど外来を担当し、病院でも診療していましたが、2018年からは母体の法人内で行う訪問診療も兼務することになり、訪問診療が週4日、外来は週2日になりました」

地域医療の要となる在宅医療に以前から興味を持っていたが、兼務の契機となったのは同法人の在宅サポートセンターのセンター長、森清氏からの依頼だった。

「森先生は北大の同級生で旧知の仲。あるとき、在宅医療を担う医師が不足したと聞き、私は診療科長と相談して訪問診療に時間を多く割くようにしました」

それまでの外来診療で、患者の気持ちや生活背景にも配慮するようになった桑田氏だが、訪問診療では、そうした観点はもちろん、介護保険をはじめ社会制度の知識も欠かせないと感じたと言う。

「1日2回服用する薬が適していても、家族が日中不在なら1日1回の投薬で済む薬を選ばなくてはなりませんし、筋力維持を目的とした訪問リハビリテーションも、介護保険の制約の中で回数を指示することになります。訪問診療で患者さんに医療を提供するには、与えられた条件や環境の中で実現可能な治療の選択が前提となるのです」

訪問診療を経験して、外来診療だけでは分からない医療の側面に気づいたと桑田氏は話す。

チャレンジすることが
次の成長にもつながる

現在は森氏を中心に行っている同法人の在宅医療だが、今後は在宅医療に参加する医師の増加と同時に、専門分野の広がりにも期待したいと桑田氏は言う。

「訪問診療は内科や整形外科が中心と思われがちですが、泌尿器科、耳鼻咽喉科、眼科をはじめとした専門分野を持つ医師が加わると、患者さんのQOLの向上、寿命の延伸につながるでしょう」

法人内には急性期から回復期まで多くの医師がいるため、在宅医療に興味のある人は積極的にチャレンジしてほしいと桑田氏。

「私は心臓外科、循環器内科、訪問診療と活動範囲を広げ、研修中は指導医の厳しい教えを受け、懸命に学ぶことで自分の世界が広がりました。挑戦しないで終わるより、ためらわず一歩踏み出し、一生懸命努力することで、次の自分の成長にもつながると感じています」

桑田氏とスタッフとの打ち合わせ 画像

桑田氏とスタッフとの打ち合わせ

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
法人内連携で地域に必要な医療を提供

地域の医療資源を活用し
2040年問題に対応

社会医療法人財団 大和会は、多様な診療科で外来診療を展開する東大和病院附属セントラルクリニック、地域の急性期医療を行う東大和病院、回復期リハビリテーション病棟も備えたケアミックス型の武蔵村山病院を擁する。

さらに森清氏がセンター長を務める在宅サポートセンターは、併設する在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションを通じて、東大和市、武蔵村山市および周辺市町村で在宅医療を提供している。

「通常は医師と看護師が一緒に1日5、6件を回るペースですが、日中・夜間を問わず緊急対応が多くなれば忙しく感じます」

さらに同センターは容体急変時の受け入れ先となる病院をはじめ地域連携にも力を入れている。

「当センターはこれまでも多職種の連携だけでなく、近隣の医療機関や自治体との連携を強化し、病院でも在宅でも患者さんが同じように過ごせることを目標に、地域医療の充実を図ってきました」

そう語る森氏は、日本の高齢者人口がピークに達する一方、それを支える現役世代は大幅に減少してしまう2040年問題への対策を地域と協力して急ぎたいとし、東大和市を中心に医療・介護ニーズを的確に把握した上で、ボランティアをはじめ、それらを担う地域資源の発掘・養成を進めている。

数年前、同センターの訪問診療を快く引き受けてくれた桑田氏には感謝していると森氏は話す。

「桑田先生は循環器のスペシャリストで、私が大会長を務めた第1回日本在宅医療連合学会大会のシンポジウムでは、パネリストとして循環器領域のポリファーマシーに関する発表も行いました。誰に対しても誠実に対応されており、訪問先の患者さんやご家族はもちろん、一緒に働くスタッフにとっても頼れる存在です」

森氏は桑田氏を高く評価し、こうした専門性を持つ医師に在宅医療に加わってほしいと話す。

「患者さんの気持ちや生活背景への目配りが欠かせない在宅医療の経験は、その後のキャリア形成に大きく寄与すると考えています」

森 清氏

森 清
社会医療法人財団 大和会 在宅サポートセンター センター長 東大和ホームケアクリニック 院長
1987年北海道大学医学部卒業後、沖縄県立中部病院での臨床研修時に家庭医療を学ぶ。北海道大学大学院医学研究科(現 医学院)後期課程修了(医学博士)。ハーバード大学医学部ダナ・ファーバー癌研究所フェロー、旭川厚生病院、順天堂大学医学部血液内科、日本在宅医学会雑誌編集長などを経て現職。2007年大和会入職。日本在宅医療連合学会在宅医療専門医、日本血液学会血液専門医、日本在宅医療連合学会理事。

東大和病院附属 セントラルクリニック

東京都北西部に位置する東大和市で約70年の歴史を持ち、「地域に信頼される保健・医療・福祉を目指す」を掲げる社会医療法人財団 大和会が設立母体。セントラルクリニックの循環器内科および心臓血管外科は東大和病院の心臓血管センターと連携し、紹介状を持った患者は東大和病院で、それ以外はセントラルクリニックで診るなど外来機能を効率的に運用する。設備には3.0TのMRIや320列のCT、エコー検査機、上部消化管内視鏡などもあり、高度な画像診断が可能。セントラルクリニックの健診センターは健康診断や人間ドックを通じて、病気の早期発見、早期治療にも貢献している。

東大和病院附属 セントラルクリニック

正式名称 社会医療法人財団 大和会
東大和病院附属セントラルクリニック
所在地 東京都東大和市南街2-3-1
開設年 2014年
診療科目 循環器内科、消化器内科、乳腺外科、呼吸器内科、
糖尿病・内分泌内科、脳神経内科、心臓血管外科、
脳神経外科、婦人科、放射線科
常勤医師数 3人
非常勤医師数 38人
外来患者数 246人/日 (2019年度実績)
(2020年5月時点)