VOL.117

QOLの低下を防ぐ整形外科
人工関節置換術や関節鏡手術で
地域の健康と幸せをサポート

浅草病院
整形外科 望月 義人氏(40歳)

東京都出身

2005年
慶應義塾大学医学部卒業
国保旭中央病院 初期臨床研修医
2007年
国保旭中央病院 整形外科
2008年
東京歯科大学市川総合病院 整形外科
2010年
武蔵野赤十字病院 整形外科
2012年
産業医科大学若松病院 専修医
同院 助教
2013年
武蔵野赤十字病院 整形外科
2020年
浅草病院 整形外科 入職
人工関節センター長に就任

整形外科の中でも人工関節置換術、関節鏡視下手術を得意とする望月義人氏は、自分がやりたい治療を実現するため2020年4月に浅草病院に転職。現在は同院の人工関節センター長も務め、「スタッフのモチベーションが高く、非常に働きやすい環境です」と現状を評価する。しかし地元の患者は人工関節を誤解していることも多く、「今後は適切な情報提供により人工関節を地域に普及させたい」と意気込む望月氏に話を聞いた。

リクルートドクターズキャリア1月号掲載

BEFORE 転職前

痛みや生活を大きく改善する
整形外科に興味を持ち、
多様な領域を幅広く経験

一つの視点に縛られないよう
数年おきに病院を移る

初期臨床研修の際に整形外科に興味を持ち、外傷、脊椎・脊髄、腫瘍、人工関節など多様な領域を経験するため、キャリアを重ねてきたと話す望月義人氏。治療によって患者の痛みや生活が劇的に改善される点が魅力だったと言う。

2020年4月に入職した浅草病院(東京都)では人工関節センター長も務め、地域の患者に対する人工関節の普及にも力を注ぐ。

望月氏は大学卒業後、地域に根ざした総合病院での初期臨床研修を経て、同院の整形外科で外傷を中心とした診療に従事。その後、脊椎・脊髄疾患、股関節・膝関節疾患、骨・軟部腫瘍などもカバーする大学病院に移り、それまでとは違う領域にチャレンジした。

「同じ病院に長くいると、良くも悪くもそこの考え方・やり方にとらわれ、診る疾患も限られる傾向にあります。私は若いうちはもっと視野を広げたいと考えて、20代から30代半ばまでは数年おきに病院を移るよう心がけました」

そうした中で、股関節・膝関節の人工関節置換術は、特に術後の痛みや生活の改善がめざましく、手術を行う医師の習熟度が結果に大きく影響する点にもやりがいを感じたと言う望月氏。人工関節を中心に診療を行うようになる。

キャリアの停滞期を迎え
新たな領域にチャレンジ

30代を迎えた望月氏は人工関節に加え、脊椎・脊髄領域の診療を再度経験したいと、両領域を得意とする地域中核病院に移った。

「ただ、それからの2年間は私のキャリアのなかでも非常に難しい時期だったと感じます。医師としては中堅クラスで、初歩的な治療は後輩の医師に任せることになる一方、より高度な人工関節の手術を自ら行うにはやや力不足。これは多くの医師が経験することなのかも知れませんが、中途半端な感じがしばらく続きました」

これまで自らの意志で働く場を選んできた望月氏は、思うようにならない状況に悩んだ末、新たな手技を学ぶため、しばらく別の病院に移ることを決意する。

「当時、関節鏡による手術を最も多く行っていたのが、北九州市の産業医科大学若松病院におられた内田宗志先生でした。私は内田先生が東京に手術に来られた際、その手術を見学し、これまでほとんど経験のなかった関節鏡視下手術を学びたいと思ったのです」

内田氏に直接相談し、産業医科大学若松病院で関節鏡を1年間学ぶことになった望月氏。診療面で新たな武器を手に入れただけでなく、医師にとって大切な考え方や姿勢も養われたと振り返る。

「内田先生は、患者さん一人ひとりのバックグラウンドを踏まえ、『どんな点でお困りなのか、どうしたらその人が納得する結果が得られるのか』を考慮し、治療されていました。さらに、より多くの方に適した治療を受けてもらえるよう、地域への医療情報の提供にも尽力されていましたね。この1年が私を大きく変えました」

医師は優れた技術者であると同時に、相手の気持ちを思いやる接客業の側面もあることに、改めて気づかされたと望月氏は言う。

自分が理想とする治療を
実現するため転職を決意

約束の期間が過ぎ、望月氏は以前勤めていた病院の整形外科に復帰。それまで年40件ほどだった膝の関節鏡視下手術は、数年後には130件を超えるまでになった。また医師の入れ替わりで、人工関節置換術も以前より積極的に取り組める体制となり、股関節は年約20件から200件超へ、膝関節は年約40件から200件超へと手術件数を増やすことができた。

「整形外科全体の治療も、痛み止めをうまく使ったり、リハビリに力を入れてADL向上に努めたりと、患者さんの満足度を高める医療を重視するようになりました」

やがて自分が理想とする治療をさらに推し進めたいと考えるようになり、転職を決意する。

「初期研修医時代にお世話になった先輩に、私が転職を考えていると相談したところ、『自分が転職を考えている病院の話を一緒に聞かないか?』と誘われました。そこは私が考える条件と合いませんでしたが、同じグループの浅草病院と縁があって転職を決めました」

AFTER 転職後

やりたい治療ができる環境で
高度な人工関節置換術を通じ
高齢者のQOLを維持・改善

スタッフのモチベーションが高く
働きやすい環境

望月氏が転職先に求めたのは、病院の規模が大きすぎず、患者目線で細やかな対応ができること、多くの手術を行うために手術室の利用にゆとりがあること、人工関節置換術を積極的に行っている医療機関が近くにないことなど。

「要は自分がやりたい治療ができるような環境を重要視しました。とはいえ、すべてを100%満たす病院はないでしょうから、この条件は譲れない、ここは少し違っても大丈夫と、病院側と意見を調整しながら納得のいく転職先を選ぶことができたと思っています」

逆にスタッフのモチベーションの高さ、フットワークの軽さは入職後に気づいたと望月氏。自分が現状の改善案を提案すると、「こうやれば実現できる」とポジティブに受け止め、すぐに実践するだけでなく、「これならもっと良くなる」と新たな提案を返してくれることもしばしばだと言う。

「患者さんに満足してもらえる最善の医療を提供したい。そんな思いが一致しているので、非常に仕事がしやすいですね」

適切な情報提供で
人工関節の普及に努める

望月氏は同院の整形外科で週2回、木曜日午前と金曜日午後は一般の患者も含む外来診療を担当し、それ以外は人工関節置換術や関節鏡による手術を行っている。

「以前に勤めていた病院は完全紹介制で、手術が決まったケースを中心に診ていました。一方で当院の一般診療は、腰痛や足の痛みをはじめ患者さんの訴えはさまざま。以前に整形外科全般を幅広く診た経験が生かせています」

人工関節置換術を希望して望月氏の診療を受ける患者は、同院のホームページなどで調べて来院しているケースがほとんど。しかし地域の高齢者は手術より保存療法を望む声が多いと望月氏は言う。

「中には人工関節の適応があり、このままでは歩きづらくQOLは下がる一方という患者さんでも、『知人が聞いた話では手術後も痛いそうなので、自分は手術を望まない』など、誤解をもとに判断していることもあり、手術を希望する方との温度差は大きいですね」

このため望月氏は院内のスタッフ向けに人工関節に関する勉強会を何度も開き、手術室担当の看護師には具体的な手順もレクチャー。また地域住民に病院の広報誌などを通じて人工関節の正しい情報提供に努め、さらに望月氏自身も人工関節に関するQ&Aをまとめたホームページを開設している。

「まだ当院が人工関節置換術に力を入れていることを知らない方も多いので、今後も積極的に情報発信を続けたいと思います」

楽しい思い出を抱えて
病院を退院してほしい

仕事の充実が転職の目的だったが、生活にもゆとりが出てきた。

「それまでは朝早くから深夜まで病院にいるのが当然で、土日も出ることがありましたが、今は定時で帰ることが増え、睡眠時間もしっかりとれていますね(笑)」

仕事面でも現状に満足しているが、病棟で毎日診ている入院患者が幸せそうかどうかはいつも気になっていると言う望月氏。

「早く退院してご自宅に戻りたい気持ちが強いのだと思いますが、入院中もそれなりに楽しんでいただけるような気遣いもさらに必要なのだと感じています」

例えばリハビリテーションが終わるとスタンプを押して達成感を演出したり、スタッフと患者が一緒に楽器を演奏したり。楽しい旅行に行ったような雰囲気を演出して、いい思い出を持って退院してほしいと望月氏は考えている。

「こうしたアイデアもスタッフに話すと実現に動いてくれそうで、頼もしく思っています」

膝の人工関節置換術を行う望月氏(写真中央) 画像

膝の人工関節置換術を行う望月氏(写真中央)

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
二次救急や回復期リハで地域に貢献

高齢患者の多様な疾患を
トータルにサポートする

世界的にも著名な観光地である浅草を有する東京都台東区を中心に、同院は長く地域医療に貢献してきた。周囲には親子代々住み続けてきた土地に愛着を持つ住民も多く、院長の井原厚氏は「病院に入院しても、治ったら自分の家に帰りたいと希望される患者さんが非常に多いですね」と話す。

「このため、当院は地域に不足する二次救急に力を入れ、救急科の専門医を中心に救急医療を24時間365日提供します。また多様な診療科で患者さんの幅広いニーズに対応する一方、46床の回復期リハビリテーション病棟では豊富なリハビリスタッフが在宅療養への移行を支援しています」

同院のリハビリテーション科は骨折や人工関節の治療後といった整形外科の患者のほか、脳神経外科の医師が加わって脳出血・脳梗塞などの患者の回復に努め、また外来および訪問リハビリテーションも積極的に行っている。

「急性期でも当院で対応できない場合もありますが、まずは『困ったら浅草病院に』と頼られる存在になりたいと考えています」

2016年に病院を新築移転した際にHCUを8床設け、さらにMRIの設置、救急医療に適した院内環境の整備なども行った。併せて高齢者も多い同区の現状から、整形外科も充実させてきた。

「以前は脊椎領域が中心でしたが、現在はさまざまな疾患に対応できるようになり、2021年には常勤医を3人から6人体制に増強する予定です。望月先生には整形外科全般の診療に加え、人工関節センター長として多くの患者さんを担当していただいています」

ただ、高齢の患者は整形外科以外の疾患も抱えるケースがほとんどで、「受診した診療科以外にも、治療すべき症状は当院でしっかりケアしていきたい」と井原氏。

「循環器や糖尿病が専門の先生方も当院に次々と入職され、患者さんをトータルに診る体制も整いつつあります。当院の職員が家族を安心して預けられるレベルの病院を目標に、今後も医療の質と心づかいの向上を図ります」

井原 厚氏

井原 厚
浅草病院 院長
1984年北里大学医学部卒業。1993年同大学大学院医学研究科(現 医療系研究科)修了。北里大学病院消化器外科で長く研鑽を積んだ後、2010年から現職。日本外科学会外科専門医・指導医、日本消化器外科学会消化器外科専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化器病学会消化器病専門医・指導医ほか。

浅草病院

同院は産科の病院として開設後、1980年に一般病院になると同時に浅草病院へと改称。現在は上尾中央医科グループ(AMG)の一員となり、二次救急医療と多様な診療科、近隣の医療機関との密接な連携により、地域医療に広く貢献している。2016年の新築移転では床面積を約2倍に拡充。手術室、内視鏡室、MRIなど院内の施設や医療機器を充実させた。さらに耳鼻咽喉科、婦人科、皮膚科、健診センターを開設し、今後は病気の早期発見と予防にも力を注ぐ。隅田川近くにある院内は明るく、開放感のある造りで、周囲に高い建物がないため景観も良好。患者にも病院の職員にも快適な環境が整っている。

浅草病院

正式名称 医療法人社団哺育会 浅草病院
所在地 東京都台東区今戸2-26-15
開設年 1980年
診療科目 内科、外科、整形外科、循環器内科、消化器外科、
内視鏡外科、泌尿器科、眼科、リハビリテーション科、
呼吸器内科、神経内科、内分泌内科、麻酔科、消化器内科、
皮膚科、耳鼻咽喉科、婦人科、脳神経外科
病床数 136床(一般82床、回復期リハビリテーション46床、HCU8床)
常勤医師数 20人
非常勤医師数 71人
外来患者数 289人/日
入院患者数 123人/日
(2020年11月時点)