VOL.111

外来、入院、在宅、看取りまで
腎臓病の患者をトータルに診て
その人らしい生き方を支援する

調布東山病院
腎臓内科 村岡 和彦氏(39歳)

埼玉県出身

2005年
山形大学医学部卒業
東京大学医学部附属病院 初期研修医
2006年
東京厚生年金病院
(現 JCHO東京新宿メディカルセンター) 
内科 研修医
2007年
公立昭和病院 腎臓内科 後期研修医
2008年
東京大学医学部附属病院 腎臓内科 後期研修医
2009年
東京大学大学院医学系研究科入学
2013年
東京大学大学院医学系研究科修了
調布東山病院 腎臓内科 入職

腎臓内科の医局に入局後、一貫して専門性を追求してきた村岡和彦氏。しかし転職後は内科での診療にも加わり、患者を総合的に診る視点が養えたと話す。「腎臓病の治療には患者さんの生活背景の理解が必要で、合併症も増えるため、全人的な診療は欠かせません」。多様な専門分野をカバーし、腎臓内科医として活躍の場を広げる村岡氏の軌跡を追った。

リクルートドクターズキャリア7月号掲載

BEFORE 転職前

進行が緩慢な腎臓病の患者を
長く診ていきたくて腎臓内科に
全身疾患との関係にも興味

目の前で困っている人を
救いたくて医師を目指した

調布東山病院(東京都)で腎臓内科を専門とする村岡和彦氏は、地域の幅広い医療ニーズに応えるという同院の方針を体現するように、入職後は総合内科、訪問診療などに活躍の場を広げてきた。

医師を目指したのは、テレビで国境なき医師団の活動を見るなどして、困っている人を救う医師の姿に憧れたからだと村岡氏。外来、入院、在宅、看取りと患者を最期まで診る同院での診療は、その期待に応えてくれると笑顔になる。

村岡氏は大学卒業後、東京大学医学部附属病院で初期研修を受け、2年目は都内の総合病院に移って内科の診療を経験。修了後は同大学の腎臓内科に入局した。

「腎臓内科を選んだのは、腎臓病が慢性疾患で経過も緩慢な場合が多く、腎不全の段階で亡くなるようなケースもほとんどなく、患者さんと長くおつき合いができる点にひかれたからです。また、腎臓は心臓病や膠原病などとの関係も指摘されており、全身疾患に関係するのも興味深い点でした」

初期研修時の腎臓内科の指導医は面倒見がよく、その人柄に共感したことも入局を後押しした。

患者の生活背景の理解が
治療に欠かせないと実感

2007年の入局と同時に、村岡氏は公立病院での後期研修をスタートさせ、腎臓内科の専門知識・技能もその中で蓄積していった。人工透析も含めほとんどが初めての経験で、現場で腎臓内科のイロハから教わりながら進める状況だったと村岡氏は振り返る。

「紹介患者が大半を占める大学病院とは違い、東京郊外の公立病院では近隣の多様な患者さんを診ることになります。なかには全身状態が良くない方もいて、腎臓病の治療に一人ひとりの生活背景を詳しく知る大切さを理解しました。患者の言葉に耳を傾ける姿勢は、このとき養われたと思います」

2008年には後期研修の一環として、腎移植を数多く手がける大学病院で学び、さらに医局では腹膜透析を習得した。それまで人工透析を必要としていた患者が、移植後は自分で排尿できるようになった姿に感動し、条件が整えば腎移植も非常に有用な治療の選択肢だと実感したと言う。

その後、村岡氏は多発性嚢胞腎の診断・治療で有名な病院の腎センターに移り、同院で6カ月診療を継続した。

「一方で医学部時代から一度は研究に従事したいとの考えがあり、しばらくして大学院に進学しました。東京大学の医局を選んだのも『研究は最高レベルのところで』と思っていたからです」

研究内容は腎臓病の病態モデルを作ったマウスに薬の候補物質を投与して効果を調べるなど、治療薬の開発に結びつくものだった。

診療科同士の垣根が低く
働きやすい病院に転職

「大学院では学会での発表も多く経験し、論理的な思考も磨かれました。とはいえ、いずれ臨床に戻るのが当初からの考えで、修了後は医局を退局し、どこか市中病院に就職するつもりでした」

村岡氏の希望は地域に密着した医療を行う病院で、当直がないなど家族との時間も大切にしながら働けることも条件。大学のときから非常勤を務めていた調布東山病院も候補の一つとなった。

「院内は診療科同士の垣根が低く、何か気になったら気軽に尋ねられる雰囲気。居心地もよく、当時の院長から『将来はうちに来たら?』と冗談交じりに声をかけられていたので親しみもありました」

また、その頃の同院は腎臓内科の医師が少なく、自分の力が役立ちそうだと感じたこと、同年代の医師が先に数名入職しており、働きやすそうに思えたことなども選ぶ要因になったと村岡氏。

「ただ、面談で『当院の内科は、各科の医師が専門を生かして診療する総合内科で、入職後は腎臓病の患者以外も入院担当として診てもらうが大丈夫か』と聞かれたときは、少し迷いました。それでも目の前で困っている人を救いたいとの思いで医師になったのですから、総合内科にもチャレンジしてみようと入職を決めました」

村岡氏は2013年3月に東京大学大学院を修了し、同年4月から調布東山病院に転職した。

AFTER 転職後

自分が求める医師像に近い
患者を最期まで診られる環境
総合的な診療もやりがいに

総合内科の知識を広げ
認定医も新たに取得

同院の腎臓内科での診療、透析室の管理などは、これまでの経験が生かせ、非常勤も務めていたのでさほど戸惑いはなかった。また、腎臓の機能低下を防ぐために食事療法や生活指導などを行う保存期指導の新規導入にあたり、看護師との連携は以前よりさらに重要になったと言う村岡氏。

「塩分やタンパク質を控え、必要なエネルギーはちゃんと摂取してもらうなど、患者さんに具体的にアドバイスをするのは看護師さんに担当してもらいました。私が立てた治療方針を踏まえ、話す内容を事前に相談して決めていくのは、伝えるポイントの洗い出しや話し方の工夫など、私自身にも非常に勉強になりました」

腎臓病以外の患者の主治医となって治療方針を決定するのも初めてだったが、独学で徐々に知識を広げたことに加え、判断が難しいときは、糖尿病・内分泌内科や呼吸器内科、血液内科といった各診療科の医師に気軽に相談できる環境にも大いに助けられたと話す。

「当院で日本プライマリ・ケア連合学会認定プライマリ・ケア認定医を取得し、新たな知識を得て、自分の活躍範囲が広がる手応えを感じています」

高齢患者への腹膜透析で
在宅療養を可能にする

現在の村岡氏は腎臓内科の外来を週2コマ行うほか、透析室を週2回担当し、病棟担当、関連クリニックでの透析管理、訪問診療と幅広く活躍している。

「ただ、外来透析に通われていた患者さんも高齢になると通院が難しくなり、長期療養型の病院に入院されるケースがほとんど。私はそうした患者さんがご自宅での療養も選べるよう、適応がある方には腹膜透析もお勧めしています。バッグ交換などを患者さん自身が作業するのが難しければ、ご家族にやっていただくのですが、在宅療養が可能ならと前向きに検討される方が多いようです」

さらに同院は訪問看護や訪問診療も行っており、在宅療養を選んだ腹膜透析の患者もトータルにカバーできるので勧めやすいと話す。村岡氏自身も、腎臓病に限らず同院入院時に担当した患者が在宅療養に移行した際、訪問診療で主治医として診療を続けている。

「外来で診た患者さんが入院し、必要な治療を終えたら在宅療養、場合によっては看取りまでと、最初から最期まで自分が関われるのは魅力。私が考えていた医師の姿にとても近いと思っています」

複合疾患の訪問診療など
難しい症例の受け皿に

転職してよかったという思いは年々強くなると語る村岡氏。

「最初は総合内科の勉強に苦労しましたが、腎臓以外の患者さんを受け持つようになり、訪問診療も含めて患者さんをトータルに診られるのでやりがいがあります」

同院は一般病床83床と小規模で、地域のクリニックの患者で入院が必要になった場合は、その患者を受け入れて診療し、重症の場合は適切な医療機関を紹介するなど、地域のクリニックと高度医療を行う病院の間をつなぐ役割を果たす。その中で村岡氏は同院での経験をもとに、例えば腎臓・循環器・呼吸器に疾患を持つ患者で、今までは大学病院で複数の診療科にかかっていたが、高齢のため通院が困難になってしまったなど、地域のクリニックでは対応が難しい症例の受け皿にもなっている。

「今後はより多くの方に最期まで自宅で過ごしていただけるよう、腹膜透析の普及を図りたいと考えています。また、当院には高齢で併存疾患のある患者さんも多いため、体力なども考慮し、一人ひとりのQOLの維持を重視した治療に取り組みたいですね」

村岡氏の内科診察風景 画像

村岡氏の内科診察風景

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
急性期から在宅まで地域医療に貢献

救急を含む急性期医療に加え、
透析治療も充実

同院は24時間365日対応の二次救急を含む急性期医療を提供。院長の須永眞司氏は、退院後の患者を寝たきりにしないで元の生活に戻す努力が重要だと話し、入退院支援にも力を入れている。

「そのために当院は、急性期リハビリで患者さんの早期機能回復に取り組んでいます。また在宅療養を希望されるなら、入院中に担当した医師が訪問診療の主治医を務めることも可能です。同じ医師が在宅まで一貫して診る診療体制は、ご本人にもご家族にも安心していただけると思っています」

加えて内科・外科に多数の診療科を開設し、地域のニーズに応える。特に内科はそうした診療科の各医師が、専門性を生かしながら総合内科として機能する。ドック・健診センターで早期に発見されたがんなどにも対処していく。

また、同院の母体となる医療法人は2つのクリニックで外来透析も行っている。外来透析は透析専門の医師が担当するが、透析患者が入院した際は必ずしも腎臓内科医が主治医となるわけではない。

「当院の内科は複数診療科の医師で構成され、入院透析の患者さんもいろいろな診療科の医師が担当します。自分の専門領域以外も診ることで、診療科ごとの忙しさの偏りを減らし、内科医としての素養を高めます。村岡先生は腎臓内科が専門ですが、総合内科医としての経験を積まれているので、さまざまな疾患を持つ入院透析の患者さんも安心して任せられます」

同院は小規模なだけに医師同士のコミュニケーションは活発で、スタッフとの連携も非常に良好だと須永氏。そうした環境を強みとして、地域で同院独自の急性期医療を行っていると話す。

「急性期だけを診て、後は別の医療機関に引き継ぐのではなく、訪問診療・訪問看護も手がけることで、患者さんやご家族の退院後の生活まで支えるのが当院の方針。医師が一人の患者さんを最期まで診られるよう、病院として環境を整えるのはもちろん、今後は世代を超え、こうした方針と環境を伝えるための準備も進めています」

須永 眞司氏

須永 眞司
調布東山病院 院長
東京大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院をはじめ関連病院で診療。1997年東京大学医学部附属病院助手。2016年から現職。

調布東山病院

同院は母体である医療法人社団 東山会の「思いやりのあるサービス・人情味のあるサービスを提供する」という理念のもと、地域医療を担う「かかりつけ急性期医療機関」として進化してきた。2011年には新病院に全面移転し、内視鏡センター、ドック・健診センター、リハビリ室などを設けて診療体制を充実させた。このほか外来透析を行う2つの関連クリニック、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所も併設し、地域が求める医療と介護支援を提供している。

調布東山病院

正式名称 医療法人社団 東山会
調布東山病院
所在地 東京都調布市小島町2-32-17
開設年 1982年
診療科目 内科、消化器内科、糖尿病・内分泌内科、循環器内科、
呼吸器内科、神経内科、腎臓内科(人工透析)、外科、
消化器外科、大腸・肛門外科、整形外科、リハビリテーション科、
リウマチ科、皮膚科、泌尿器科、麻酔科、放射線科
病床数 83床(一般83床)
常勤医師数 27人
非常勤医師数 112人
外来患者数 295人/日
入院患者数 78.2人/日
(2020年4月時点)