VOL.34

”リハビリを学ぶ場”として
最適の環境でスキルアップ。
自分らしい医療を実現した。

医療法人社団永生会 永生病院 リハビリテーション科 
野本 達哉
氏(44歳)

東京都出身

1999年3月
帝京大学医学部卒業
1999年4月
順天堂大学脳神経外科学講座入局
2009年9月
永生病院リハビリテーション科入職
2012年
NST(栄養サポートチーム)チェアマン就任

転職後のビジョンが明確なほど、キャリアチェンジは成功する。そのセオリーを体現しているのが、永生病院リハビリテーション科の野本達哉氏である。脳神経外科医時代から、患者の栄養管理に関心を持ち、現在はNST(栄養サポートチーム)チェアマンとして、院内はもとより、地域全体で嚥下食の調整などを始めている。転職のきっかけは家族の体調不良だったが、今は回復し、存分に仕事へ打ち込むことができている。リハビリのやりがいをよどみなく語る様子から伝わるのは、日々の診療の充実ぶりだ。野本氏が成功した背景を、本人、そして受け入れ側の医師2名にたっぷり語っていただいた。

リクルートドクターズキャリア1月号掲載

BEFORE 転職前

全職員が一丸となって患者の社会復帰を目指す
“リハビリ・マインド”に共感。

卒後10年目に脳神経外科からリハビリテーションの道へ

転職して4年。医療法人社団永生会永生病院の野本達哉氏は「ここの病院に来て、正解でした。自分らしい医療ができて、地域にも貢献できます」と笑みをこぼす。

野本氏は、1999年に帝京大学医学部を卒業後、順天堂大学脳神経外科学講座に入局。同大学医学部附属順天堂医院や、関連病院でキャリアを重ねてきた。長時間の手術や夜間対応が多く、帰宅できないこともあるハードな超急性期領域だ。漠然と、そのまま大学に残るのだろうと思っていた。しかし、卒後10年目に転機が訪れる。

「母が入院し、同時期に妻も体調を崩して自宅での療養となりました。当時は子どももまだ幼く、仕事と家庭を両立させるには、勤務時間の長い脳神経外科は難しかったのです」

ちょうど期を前後して、急性期以外への関心も高まっていた。

「脳神経外科は、手術を終えた患者のその後をほとんど知り得ません。回復期病棟に移ったり、在宅療養になったりしたあと、どのような経過をたどるのか気になっていました」

とりわけ、患者の栄養管理には強い関心があった。

「手術がうまくいっても、栄養状態が悪いと回復が遅く、寝たきりになりやすい。リハビリをしても、ただやせてしまうケースもあることは知っていました。リハビリテーション(以下、リハビリ)の病院であれば、今までの経験を生かしながら、患者を長く診ることができると思い、転職を決意しました」

専門的なリハビリを学べる病院は予想以上に少なかった

新たな就職先は、医師転職会社を通して探した。条件は、都内の自宅から通いやすい立地と、日本リハビリテーション医学会認定専門医が在籍し、自分もそれを取得できることだ。候補にあがった5つの病院を全て見て回った。

「まず、リハビリを専門に学べる病院は予想以上に少なかったですね。リハビリはチームで行いますから、常に医師がいなくても何とかなります。そのため、ほとんどリハビリスタッフだけで回している病院もありました。勤務形態がゆったりしている病院では、医療の内容も緩やかで、私にとって学べる環境とは言い難いケースもありました」

そうした中、際立っていたのが永生病院である。名誉院長の千野直一氏は、日本のリハビリのパイオニアとして知られる。また、リハビリテーション部部長の都丸哲也氏をはじめ、リハビリ専門医として長いキャリアを持つ医師が複数名、在籍していた。症例数も豊富で、いつでも専門医資格を取得できる。

加えて、看護師やリハビリスタッフの表情は一様にいきいきとしており、熱意を持って仕事をしている様子が伝わる。

「千野先生や都丸先生が丁寧に教育をしていることは、すぐにわかりました」

面接時に自分が目指すビジョンを具体的に説明

面接時、野本氏が栄養管理に携わりたい旨を話すと、千野氏は大いに歓迎した。そして、同院のポリシーである“リハビリ・マインド”についてお互いに共感した。

「私はかねてからチーム医療を重視していました。全職員がチームとなってリハビリを提供し、患者の社会復帰を目指す“リハビリ・マインド”は、まさに自分が求めている方向と同じでうれしかったですね。病院の理念や方針というと、どこも似た内容が多いものですが、千野先生の言葉は本物だと直感しました」

脳神経外科から、リハビリ科へは大きなキャリアチェンジだ。一般的に、超急性期医療を離れる時には未練が生じやすいと言われるが、野本氏は「永生病院には、気持ちを切り替えるに十分な魅力がありました」と意に介さない。未練どころか、脳神経外科医としての10年を新たな領域で生かすチャレンジに、期待が高まる転職だったのである。

AFTER 転職後

地域が一体となって急性期や在宅・高齢者施設に
“栄養管理の橋渡し”をする。

NSTチェアマンに就任し、院内外で勉強会を開催

「入院してきた時点で栄養状態がよくなく、回復が思わしくなかった患者も、NST(栄養サポートチーム)が介入することによってリハビリの成果が上がります」

野本氏は声を弾ませる。転職後は療養病棟、急性期病棟、回復期病棟を受け持ち、栄養管理や嚥下治療、褥瘡治療のすべてを学んだ。定期的に院内学習会を開き、スタッフに対して栄養とリハビリの基本をレクチャーしてきた。現在はNSTチェアマンとして、看護師や薬剤師、管理栄養士、言語聴覚士、臨床検査技師らとともに回診し、患者の栄養状態を適切に管理している。

「嚥下内視鏡検査を行って嚥下機能をチェックし、栄養バランスと飲み込みやすさの両方を計算した食事を提供しています」

これまで、日本静脈経腸栄養学会や、全日本病院学会、日本慢性期医療学会で、栄養に関する発表をした。現在は、八王子地区が一体となった「シームレスな栄養管理」を目指している。

「当院に入院する前の急性期病院や、退院後の在宅、老人保健施設(老健)などでも適切な栄養管理をする “橋渡し”をしたいのです。学会の信頼のあつい千野先生のもとだからこそ、実現したプロジェクトです」

同じ永生会が持つ老健とは、月1回、ディスカッションする機会を設けている。さらに3ヵ月に一度のペースで地域の急性期病院のリハビリスタッフと顔を合わせ、お互いの意見の交換をしている。

「転職前の私もそうでしたが、急性期病院は慢性期で何が起きているかわかりません。こちらからフィードバックすることで、慢性期で何が必要かがわかり、看護サマリーの改善などにつながります。今後は在宅医療を担う医療機関ともディスカッションしたいと考えています」

誤嚥性肺炎による再入院を防ぐ新プロジェクトとは?

右から千野氏(名誉院長)、野本氏、都丸氏(リハビリテーション部部長)。
右から千野氏(名誉院長)、野本氏、都丸氏(リハビリテーション部部長)。

目下、力を注いでいるのは、嚥下食の変換表の作成だ。

「同じ地域内でも、医療機関や介護施設などによって使用している嚥下食が異なります。そのため、退院後、うまく食べられなくて誤嚥性肺炎を起こし、再び入院してくる患者もいます。入院中に食べていた嚥下食と同等のものを退院後も食べられるように、各食品をどう置き換えたらいいのか、一目でわかる表を作っているのです」

こうした取り組みは、急性期病院の主導で行われているケースがあるが、「真ん中に立つ回復期病院が中心となった方がスムーズ」と野本氏。変換表は、来春からの実用化が予定されている。キャリアチェンジによってリハビリ医となった野本氏は、この4年間で地域医療やリハビリ医療を盛り上げる存在となった。

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
医療法人社団永生会 永生病院 名誉院長 千野直一氏

野本氏の熱意が周囲に伝わり院内がより明るくなった

永生病院は東京都の「地域リハビリテーション支援センター」に指定され、人口約140万人の南多摩保険医療圏のリハビリ体制を支えている。日本リハビリテーション医学会の研修施設の認定も受けており、理学療法士や作業療法士などスタッフは、グループ全体で200人を超える。

そうした中で目覚ましいスキルアップを遂げた野本氏を、名誉院長の千野氏はこう見ている。

「トップダウンの脳神経外科に長くいたにもかかわらず、最初から“リハビリ・マインド”を持っていました。リハビリに対する熱意は周囲にも伝わり、スタッフのモチベーションが向上して、院内の雰囲気がより明るくなりました。嚥下食の調整など、新たなことにはどんどんチャレンジしてもらいたいです」

リハビリ部部長の都丸氏は、野本氏が導入したNSTによって、日々の臨床が大きく前進したことに期待を寄せる。

「管理栄養士がカロリーの提案をしてくれるようになったのは、有り難いですね。医師はどうしても嚥下に注目しがちですから。栄養管理は患者の早期回復につながっています」

このようにチーム医療が円滑に回る背景には、民間病院ならではの風通しの良さも関係している。

「当院は学閥がなく、さまざまな出身大の医師が在籍します。また、地域内には公立病院がないため、民間が主導となって医療を支えています。野本先生のように転科して入職する医師もおり、おのおのが元の専門性を生かしながら活躍しています。自分が求める医療を実現しやすい環境と言えるでしょう」(千野氏)

急性期から回復期、療養まですべてを学ぶ土壌がある

永生病院の母体である永生会は、急性期病院からクリニック、老健(2施設)、訪問看護ステーション(4事業所)なども有する。学ぶ意欲があれば、急性期から回復期、その後の療養にいたるすべての知識を身につけられる環境だ。

今後は、急速に進む超高齢化社会や、脳卒中の治療成績の向上などによるリハビリのニーズ向上に備え、3年後までに新しい病院を建てる計画が進んでいる。

「永生病院から2kmほど先の土地を確保しています。どの病棟を移すかなどは検討している最中ですが、NSTは重要な柱の1つとして据えたいですね」(千野氏)

加えて、在宅の患者向けに、訪問リハビリを充実させる見通しだ。

「すでに2人の専任医師がいますから、在宅に興味ある医師が活躍できる土壌も整っています」(都丸氏)

リハビリへの参入は、時代の要請にこたえることでもある。新たなチャレンジへ第一歩を踏み出す医師にとって、永生病院は二つとない学びの場だ。

千野 直一氏

千野 直一
医療法人社団永生会 永生病院 名誉院長
山梨県出身。1966年慶應義塾大学医学部卒業。72年米国ミネソタ大学大学院医学研究科リハビリテーション医学修了。米国ミシガン大学医学部リハビリ医学科講師、慶應義塾大学医学部リハビリ医学教室教授、日本リハビリ医学会理事長、国際リハビリ医学会事務総長などを歴任し現職。慶應義塾大学名誉教授、NPO法人東京多摩リハビリ・ネット理事長も務める。

医療法人社団永生会 永生病院

リハビリ・マインドを理念として掲げる永生病院は、一般、療養、精神科の各病棟でリハビリを実施している。中でも、回復期リハビリ病棟に多くの資源を投入し、リハビリ専門医4名のほか、理学療法士、作業療法士、言語療法士42人を配置。他診療科と連携しながら、クリニカルパスとチーム医療にもとづいた医療に取り組んでいる。南多摩保険医療圏(人口約140万人)の地域リハビリテーション支援センターでもあり、地域の医療従事者への研修会、一般市民への講習会を開催。地域医療に貢献している。

医療法人社団永生会 永生病院

正式名称 医療法人社団永生会 永生病院
所在地 東京都八王子市椚田町583-15
設立年月日 1961年4月1日
診療科目 内科(内視鏡センター)・整形外科・精神科・神経内科・
リハビリテーション科・歯科口腔外科
病床数 28床
(うち一般病床164床、医療保険適用療養病床150床、
精神科病床70床、回復期リハビリテーション病床82床、介護保険適用療養病床162床)
常勤医師数 24名
非常勤医師数 36名
看護師数 46名(介護職員他含む)
外来患者数 1日平均400人
入院患者数 1日平均600人(2013年10月末日現在)