VOL.49

目指すは、どんな症例でも診られる
”外科版のジェネラリスト”。
豊富な症例で臨床スキルを磨く。

横浜旭中央総合病院 消化器外科 
筋師 健
氏(34歳)

埼玉県出身

2005年
東京大学農学部獣医学科卒業
2009年
新潟大学医学部卒業
公立昭和病院 初期研修
2011年
横浜市立大学附属市民総合医療センター 後期研修
2012年
神奈川県立足柄上病院 外科
2014年
医療法人社団明芳会 横浜旭中央総合病院 消化器外科

横浜旭中央総合病院消化器外科の筋師健氏は、2度のキャリアチェンジを経験している。最初は、獣医師から医師への転身。その後、大学医局を離れ、民間病院に転職した。自身の直感を信じ、「悩んだら進んでみる」をモットーとしている。その決断力と行動力によって、今、消化器外科医としてやりがいに満ちた日々を送っている。

リクルートドクターズキャリア5月号掲載

BEFORE 転職前

数年のローテーションではなく
一ヵ所に腰を据えてじっくり臨床を学びたかった

医師と獣医師のダブルライセンスホルダー

横浜旭中央総合病院消化器外科の筋師健氏は、医師と獣医師という、珍しいダブルライセンスホルダーだ。2005年に東京大学農学部獣医学科を卒業後、新潟大学医学部に編入した。「動物学を学んでいた頃は、研究職に関心がありました。しかし、動物病院等での臨床実習で飼い主と接する機会が増えると、人と関わることが好きだと気づきました。また、動物学は医学をコピーした部分が多い学問です。大本である医学を勉強したいとも思い、医師を目指しました」

新潟大学を卒業してからは、救急医療が充実していることで知られる公立昭和病院(東京都小平市)で初期研修を受けた。「どんな疾患でも満遍なく診る救急医療のスタンスが好きなんです。医師になって初期のうちに、ジェネラルな知識を身につけたいと思いました」

その後、外科に進むことを決め、横浜市立大学での後期研修を選んだ。心臓血管外科をはじめ、消化器外科、呼吸器外科とローテートするプログラムで、最終的には消化器外科を専門とした。「消化器外科は、“外科版のジェネラリスト”のような面があるのではないでしょうか。ほかの外科よりもカバー範囲が広く、医師によっては血管外科の簡単な手術もできます。一般的な症例であれば、なんでも診られる外科医になりたくて、消化器を専門にしました」

後期研修の後半は、同大学の関連施設である神奈川県立足柄上病院で2年間の研修を受けた。転職を考えたのは、研修が終わりそうな頃。このまま医局に残るか、外の病院に就職するかの選択だ。「医局にいれば、基本的には1~2年のローテーションで派遣されます。もちろん、よい面もあるのですが、仕事に慣れた頃に終わってしまうように感じました。また、大学医局に残る以上、研究と論文執筆が必要になりますが、自分はまず臨床を固めたい。同じ病院に腰を据えて、後期研修で学んだことをさらに深めるために、民間病院で働くことにしました」

転職先は、医師紹介会社を利用して探した。希望した条件は、関東圏の病院で、臨床の経験を積みやすいこと。なおかつ、オンとオフのメリハリがある職場環境だ。「足柄上病院に勤務していた時は、毎日のように緊急手術でした。それが楽しくもありましたが、ある程度、自分の時間も持てたほうが、仕事に集中できるのではと考えました」

消化器外科医の人数が多く多様な角度から技術を学べる

転職先候補にあがった病院は3つ。すべて面接を受けた。そのうち、筋師氏の望むワークスタイルにもっとも合致したのが、横浜旭中央総合病院だった。「症例数が多く、スキルアップしたい自分にとって非常に恵まれた環境でした。救急車を断らないことをコンセプトとしており、手術に限らず、救急医療でさまざまな疾患に関わることができます。外科医ですが、ある程度、内科学を理解した上で、一つの選択肢として、手術という治療手段を持ちたいのです」

消化器外科医は、筋師氏を含めて11人になる。マンパワーがあり、メリハリの利いた勤務が可能だ。「週1日が研究日で、土曜日は午前中の外来のみ。日曜日は完全なオフです。オンコールは当番制になりました。当直は月4回。ほかに日当直が月1回です」

医師数が多いことは、学びやすさにもつながる。「上の先生がそれぞれ得意分野を持っているため、多様な意見を聞くことができます。一つの手術でも、多様な角度から相談でき、幅広い知識と技術が身につくと思いました。また、年の近い医師同士で刺激し合える環境でもあります」

加えて、面接を担当した石田康男消化器病センター長と、松本匡史消化器外科部長の第一印象が、筋師氏の気持ちを後押しした。「気さくで、こちらが聞いたことを率直に話してくださいました。ここなら一緒に働きやすい、と感じました」

元来、あまり悩まない性格だという筋師氏。2014年4月、あちこち比較するまでもなく、「勢いと直感」でキャリアチェンジに挑戦した。

AFTER 転職後

「悩んだら、進んでみる」の決断力と行動力が、
キャリアチェンジの実を結ぶ

経験のある手術はイニシアチブを取れる

平日の夕方、カンファレンス中の外科の様子は、活発な雰囲気に満ちている。10人を超える医師が積極的に意見を交わす中に、筋師氏の姿もあった。日頃から円滑なチームワークが取れていることがうかがえる。

転職して約1年。この間、予想していた通りの豊富な症例と、周囲の医師からの刺激によって、着実に経験を積んできた。「ほかの医師がどのように手術をするか、見て学び、大きな財産になっています。今まであまり経験したことのなかった手術を回してもらえた時には、その学びが生かされます。また、ヘルニアなど、私が数多く経験してきた分野の手術は、イニシアチブを取って執刀させてもらっており、やりがいを感じますね」

筋師氏の典型的な1日の流れを聞いた。

午前7時前には病院に来て、まだ静かな医局でデスクワークにかかる。メール返信などはためないように、早めに対応するのだ。

7時半から8時頃までの間に、自分の患者を回診し、看護師へ指示を出し終える。8時半から9時はカンファレンスに参加し、その後、手術がある日は手術室に入る。「これまでの1年間は、70~80件の手術を担当しました。平均すると週2~3件位です」

手術がない平日の午前は、病棟の回診を行うことが多い。土曜日は外来の担当だ。また、午後の時間帯は、デスクワークや検査、病棟の患者の処置などを行う。夕方17時過ぎに病棟全体のカンファレンスに参加し、18時半頃には一段落する。「それ以降の時間はフリーで、自分の仕事に打ち込みます。病院を出るのは、夜20時くらいですね」

仕事において留意しているのは、スタッフとのコミュニケーションだ。看護師や薬剤師、リハビリスタッフ等、一緒に仕事をするメンバーが、伸び伸びと働ける環境作りを意識している。

病棟の「舵取り役」として仕事をしやすい環境を目指す

「医師には、病棟の舵取りをする役目があります。常に平常心を保ち、職員が落ち着いて仕事に取り組めるように心がけています」

患者と接する際には、前職である獣医師の経験が役立つ場面もある。「一番は患者や、その家族へのムンテラです。動物病院でペットの治療をする際は、血液検査一つをするにも必ず飼い主の承諾を得ます。人間の医療とは違い、すべて自費診療だからです。理解しやすく丁寧な説明をすることは、当時から苦ではありませんでした」

目下の目標は、専門医の取得だ。試験に必要な症例をどんどん経験し、力を付けている最中である。ほかに、腹腔鏡手術のスキルアップも、筋師氏にとっての課題だ。「現在も少しずつ執刀させてもらっています。これから、もっと腕を磨いていきたいですね」

同院の消化器外科は人員に恵まれているが、口コミで広がるのか、勤務を希望する医師からの問い合わせが少なくない。今後、後進の教育も大きなテーマになりそうだ。「基本的には、上の医師から教わって感じてきたことを、そのまま伝えられればいいと思っているので、苦手意識はありません。ただ、若い医師が成長し、自分を追い越しそうになる時は必ず来ます。それも包めるぐらいの知識を身につけるために、診療の幅を広げておきたいですね」

日々のやりがいに満ちている筋師氏。今、転職を検討している医師に向けたアドバイスを求めると、力強い言葉が返ってきた。「悩んだら、進んでみたらどうですか」

この決断力と行動力が、キャリアチェンジの実を結んだ。

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
若手医師にもどんどんチャンスを与える

コミュニケーション力の高さと向上心の強さを重視する

1981年の開院以来、地域の中核病院として住民に頼られている横浜旭中央総合病院。消化器病センター長の石田康男氏によると、もともとは救急医療中心の病院だったが、ここ10年ほどで変わりつつあると言う。「ほかの医療機関からの紹介や、口コミやホームページで当院を知った患者が増え、外科で言えば予定手術が多くなりました。手術の件数だけでなく、内容も充実してきています。外科医の人数も増加し、じっくりと医療に取り組めるようになりました」

医師の面接にあたっては、なによりも人間性を重視する。外科のチーム医療はもちろん、他科の医師や他の職種とも上手にコミュニケーションを取ることを大切にしているのだ。そして、向上心があることも重要だ。前出の筋師氏の第一印象は、そうした判断基準にぴったりと合致していた。「彼はアグレッシブな性格でありながら、謙虚さも持ち、自分の気持ちをコントロールできます。民間病院でスキルを積みたいという情熱も伝わりました。通常はあまりありませんが、一も二もなく当院に来て欲しいと即答しました」

外科チームでは、基本的に、最初に患者を診た医師が主治医を務める。ベテランだけでなく、若手医師にもどんどん手術のチャンスを与えている。「若手でも強い向上心があり、上の医師が大丈夫だと思えばオペレーターを任せます。大学病院等では何年もかかって到達する手術が、当院ではもっと早く執刀できるのです。ベテラン層の医師がそれぞれ専門臓器を持つスペシャリスト集団でもあるので、高度な技術を学ぶことができます」

スキルアップを目指す医師にとって、理想的な環境である。「若いうちにイニシアチブを取って手術をした医師は、その後も成長します。『自分でやれた』という充実感が、そうさせるのでしょう」

今後も医師数を増やし、手術室の環境や、医師の働きやすさを改善していきたいと言う。

石田 康男氏

石田 康男
医療法人社団明芳会 横浜旭中央総合病院 消化器病センター長
1980年昭和大学医学部卒業。同大学藤が丘病院外科勤務。91年横浜旭中央総合病院外科入職。同院副院長を経て2015年より同院消化器病センター長。

横浜旭中央総合病院

大規模医療法人「IMSグループ」の一員である横浜旭中央総合病院。救急医療や高度な急性期医療が充実し、地域の中核病院として大きな役割を果たしている。また、回復期リハビリテーション病棟、療養病棟も持ち、慢性期医療にも力を入れている。地域医療を重視した「病院完結型」の医療提供体制は、地域の住民たちから厚い信頼を集めている。

医療法人社団明芳会 横浜旭中央総合病院

正式名称 医療法人社団明芳会 横浜旭中央総合病院
所在地 神奈川県横浜市旭区若葉台4-20-1
設立年月日 1981年
診療科目 内科、呼吸器内科、消化器内科、循環器内科、
神経内科、腎臓内科、外科、呼吸器外科、
消化器外科、乳腺外科、肛門外科、整形外科、
形成外科、脳神経外科、心臓血管外科、小児科、
婦人科、皮膚科、泌尿器科、眼科、
耳鼻咽喉科、アレルギー科、リハビリテーション科、放射線科、
麻酔科、血液浄化療法、人間ドック、特定健診
病床数 515床(一般397床、回復期リハビリテーション58床、療養60床)
常勤医師数 72名
非常勤医師数 91名
外来患者数 920人(1日平均)
入院患者数 400人(1日平均)