VOL.76

回復期、療養、緩和ケアなど
それぞれに応じたリハビリで
患者の在宅復帰を可能に

鶴巻温泉病院
内科 蓮江健一郎氏(46歳)

東京都出身

1997年
東京医科大学医学部 卒業
同大学 消化器外科・小児外科 入局
東京医科大学病院 消化器外科・小児外科
1998年
厚生中央病院 外科
1999年
花輪病院 外科
2000年
東京都立大塚病院 外科
2001年
東京医科大学病院 消化器外科・小児外科
2003年
愛里病院 外科
2005年
東京医科大学病院 消化器外科・小児外科
2007年
ロイヤル病院 内科
2017年
鶴巻温泉病院 内科

消化器外科を10年、慢性期の内科を10年経験した蓮江健一郎氏。次に選んだのは、回復期リハビリ病棟を中心に患者の社会復帰・在宅復帰を支援する病院だった。591床と全国有数の規模を誇る多機能型慢性期病院で、回復期、療養、緩和ケアなど幅広く経験し、患者の希望をかなえる診療をしたいと語る蓮江氏。21年目の医師人生を追った。

リクルートドクターズキャリア8月号掲載

BEFORE 転職前

最先端を極めるより地域密着
さまざまな現場を経験して
医療に対する考えは変化した

自身が抱く医師のイメージに
近かったのは消化器外科

巨大ターミナルの新宿駅を起点に、神奈川県西部へと向かう小田急線の車内。「夢があるから、がんばれる。」の言葉とイラストを使ったステッカー広告で、リハビリによる患者の社会復帰・在宅復帰をメッセージし続けているのが鶴巻温泉病院(神奈川県)だ。

蓮江健一郎氏が同院に入職したのは2017年4月。それまでは消化器外科10年、内科10年の経歴を持つ。その医師人生の始まりは幼い頃の記憶にあった。

蓮江氏が医師を志したのは父や祖父に加え、親戚にも医師が何名もいて、医療の仕事が身近な環境で育ったからだという。

「まだ小さいときに父が勤める病院を見学し、ふだんから仕事の様子などを聞くうちに、自然とこの道を目指すようになりましたね」

万一を考えて理工学部も併願したが、父の出身校でもある東京医科大学に合格。卒業後は大学の消化器外科の医局を選んだ。

「研修中、自分が昔から抱いてきた医師のイメージは外科だと確信でき、ちょうど母がポリープを取ったこともあって消化器外科に入りました。ただ内視鏡よりは、外科らしく開腹手術をやりたいという思いは強かったですね」

大学病院から離島医療まで
幅広く経験した10年

大学医局に入局後は大学病院、関連病院、大学病院と1年ごとに職場が変わる落ち着かない生活。その合間に3ヵ月だけ別の病院に入ったり、外洋に出る練習船に船医として乗り込んだりと、さまざまな医療現場を回った。

「いずれも短期間でしたが、外の世界に触れたのはいい経験でした。特に印象深かったのは離島での医療。人口300名ほどの島に診療所は1つだけと、まさにマンガかドラマのような世界でしたから」

これは1週間ほどのピンチヒッターだったが、島民に頼られる手応えと喜び、それだけに重い責任は十分に感じたという。

そうした日々の中、今のように研究や教育に時間を割くより臨床をもっと続けたい、最先端の医療でなく地域密着の医療に力を注ぎたい、と新たな進路が見えてきたと蓮江氏は当時を思い出す。

「大学病院では一般外科のほか、下部消化管や肝胆膵、乳腺などの手術も担当しましたが、内視鏡下の手術が増えると次第に興味を持てなくなってきたのです」

さらに人事のことで印象の良くない出来事も続き、いよいよ別の職場を探そうと決心した。

医療療養型病院の内科へ
新たなキャリアの始まり

まず落ち着かない生活をリセットして自分の時間を作り、将来のことは転職後に改めて決めよう、蓮江氏はそう考えていた。そこで当時の自宅に近いこと、定時に終わることなどを条件に転職会社に紹介を頼んだという。

「選んだのは、自宅から自転車で通える医療療養型の病院。消化器外科の手術にさほど未練はなく、ケアミックス病院での勤務経験もありましたから、配属が一般内科でも気になりませんでしたね」

このときは開業も視野に入れていたため、これまで以上に幅広い経験ができるのは大歓迎だったと蓮江氏。またプライベートも充実し、東京マラソンに何度も参加するようになったという。

最初は数年くらいと考えていた勤務が10年と予想外に延びたのは、院内で新たな試みにチャレンジする機会が続いたからだ。

「医療療養型の病院は長期入院の患者さんが多いため、経管栄養や高カロリー輸液もよく使われます。しかし中には異なるやり方も選べたのでは?と思えるケースもあり、食事も含めた栄養摂取を適切に行いたいと考え、管理栄養士と一緒にNSTを立ち上げました」

そのほか院内感染対策チームに参加し、ICD(インフェクションコントロールドクター)を取得。医療安全委員、褥瘡管理の責任者なども任されたという。

「ただ、こうした動きが病院全体の改善に波及しない場合もあって、自分の考えとのズレを感じることも多くなってきました」

慢性期の患者に対しても成果が実感できる診療はできないだろうか。蓮江氏は自分が納得いく医療ができる職場を探そうと決めた。

AFTER 転職後

慢性期リハビリを中心に
患者の自立、在宅の支援など
地域が求める医療を提供する

患者のQOL向上を目指す
慢性期医療の方針に共鳴

2度目の転職は時間をかけて探すつもりだったと蓮江氏。検討を重ねて10ヵ所ほど見学に出かけ、その中で最も好感触だった鶴巻温泉病院を選んだのだという。

「病床の1/3が回復期リハビリテーション病棟と、病院全体で回復期に力を入れている点に興味を持ちましたね。また初めて訪ねたときに鈴木院長と直接面談して、温かな人柄にひかれました。とても話しやすかったんですよ(笑)」

決して入職を無理強せず、自然体で接してくれたからだろうと蓮江氏は当時を振り返る。

同院には回復期リハビリ病棟のほか、医療療養病棟、在宅復帰を目的とした療養病棟、障がい者・難病リハビリ病棟、緩和ケア病棟があり、それぞれの患者に合った形で社会復帰・在宅復帰を支援するのが特色。また「患者のQOL向上を目指す慢性期医療」の方針から、例えば緩和ケアでもリハビリを行い、自宅で過ごしたいという患者の希望をかなえている。

蓮江氏も祖母が101歳で老衰死し、本人が望む場所で生涯を終える大切さを実感したため、同院の方針にも大いに共鳴。候補に挙げた中で場所は最も遠かったが、自分が納得できる医療のためならと迷わず転職した。

熱心なコメディカルとの
チーム医療がリハビリのカギ

このようにリハビリを重視する同院では、コメディカルスタッフが重要な役割を担っている。

「当院のスタッフが非常に頑張っているという話は入職前からよく聞いていましたし、最初の病院見学でもその熱意は伝わりました」

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、レクリエーショントレーナーとリハビリテーション部のスタッフは200名を超え、しかも勉強熱心で医療の質の向上に貢献していると蓮江氏は高く評価。

「互いの基礎的な知識がある程度共通しているためチームとして連携が取りやすく、こういう基礎疾患の患者さんはリハビリも無理をしないなど、こちらの意図がスムーズに理解されるのです。また丁寧なリハビリのおかげで、寝たきりでも拘縮のある患者さんが少ないことにも驚きましたね」

スタッフも退職や新規採用などで入れ替わりはあるが、常に一定レベルを保てるのは教育が充実しているからだろう。蓮江氏もスタッフからよく質問を受け、可能な限り答えているという。

2度目の転職で自分の
やりたい医療に近づいた

取材時、入職してまだ数ヵ月だった蓮江氏は療養病棟を診ており、外来や当直などは担当していなかった。しかし今後は外来を受け持ち、さらにレスパイト入院など地域医療の中で在宅と病院との橋渡し役も務める予定だ。

「それ以外に急に容体が悪くなって入院される方、急性期病院から紹介された方など、いろいろな患者さんを診ていきたいですね。消化器外科ではがん診療の経験もありますから、いずれは緩和ケアも担当したいと考えています」

また、療養病棟の患者への点滴をうまく血管に刺せないとき、すぐ中心静脈カテーテルや経管栄養を行う前に、皮下点滴など別の方法も考えたいと蓮江氏。

「誰のため、何が目的の医療かを考え、患者の希望に沿った看取りなども検討したいですね」

しかも同院は療養以外に多機能の病棟を持つため、自分もさまざまな患者を診る経験を積めるのではと蓮江氏は期待を寄せる。

「今回が2度目の転職ですが、自分がやりたい診療に着実に近づいています。診療方針はもちろん収入や働く場所なども含め、医師が自分の希望に合った病院を選ぶ時代になっているのでしょう」

診療の合間、スタッフからの質問に答えるため資料をまとめる蓮江氏。 画像

診療の合間、スタッフからの質問に答えるため資料をまとめる蓮江氏。

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
地域の中で暮らせるようリハビリを提供

在宅療養の支援を強化し
「時々入院、ほぼ在宅」を実践

鶴巻温泉病院の院長で、2015年から母体の医療法人の理事長も務める鈴木龍太氏は、「変化を進化に、進化を笑顔に」をモットーに病院を運営してきたという。

「特にここ数年は、訪問リハビリや訪問栄養管理、訪問歯科のほか、神経難病の方のレスパイト入院、がんや長期療養の方の短期入院など、高齢の患者さんの在宅療養を支える機能を強化してきました」

10年ほど前は東京など遠方からの入院患者が3割強だった同院も、現在は湘南地区を中心とした近隣の患者が全体の9割を占める。こうした患者層の変化を、地域包括ケアシステムがうたう「時々入院、ほぼ在宅」を先取りするような進化へとつなげたのだ。

同院はこれまでも老人専門病院から療養型に移行し、2000年には回復期リハビリテーション病棟を設置するなど患者の自立支援にも力を入れてきた。その後も地域ニーズに合わせて病棟を再編。これらは同院がCSを重視し、「患者に選ばれる病院」を目指しているからだと鈴木氏はいう。

「加えてもう一つの柱とするのがES(employee satisfaction)で、職員が誇れる病院であること。そして職員が幸せでなければ患者さんを幸せにできないと、長年の課題だった残業削減にも本腰を入れました。職員全員が本気で取り組んだおかげで、現在は残業時間の大幅な短縮を実現しています」

また同院は医師、看護師、PT・OT、栄養士、MSWといった多職種が積極的に連携し、患者のリハビリや在宅復帰を支えるチーム医療にも特徴がある。

「蓮江先生もコメディカルと自然にコミュニケーションできる方で、チーム医療で存分に力を発揮してもらえると感じた点も、入職していただくポイントでしたね」

今後は蓮江氏のがん診療の経験を緩和ケアなどにも役立ててほしいと鈴木氏は期待する。また病院としては地域包括ケアを重視し、地域が求める医療を提供したいと語り、さらにはAIやロボットを活用した病棟構想までと鈴木氏の医療にかける想いは果てしない。

鈴木龍太氏

鈴木龍太
医療法人社団 三喜会 理事長
鶴巻温泉病院 院長
1977年東京医科歯科大学医学部卒業。米国National Institutes of Health(NIH) NINCDS Visiting fellow、東京医科歯科大学脳神経外科助手、昭和大学藤が丘病院脳神経外科准教授および安全管理室室長(兼任)を経て、2009年6月に鶴巻温泉病院副院長に就任。同9月より院長。2015年6月から医療法人社団 三喜会 理事長に就任(院長兼務)。

鶴巻温泉病院

同院は591床と全国有数の規模を誇る多機能型慢性期病院で、206床の回復期リハビリ病棟をはじめ多機能な病棟を擁する。「高齢者・リハビリテーション・難病・緩和の各医療において全人医療を実践する」を使命とし、回復期リハビリ、障がい者・難病リハビリ、医療療養、緩和ケアなどを提供。いずれも患者の社会復帰・在宅復帰が目標で、例えば回復期リハビリでは多職種が連携し、患者や家族の希望をふまえて早期から自宅改修、退院後の訪問リハビリや訪問栄養指導などを提案する。緩和ケアでも患者のQOL維持や在宅復帰に向けたリハビリを行っている。また毎年多数の医師やスタッフが学会に参加して演題を発表するなど、自己研さんの気風も同院の特徴だ。

鶴巻温泉病院

正式名称 医療法人社団 三喜会 鶴巻温泉病院
所在地 神奈川県秦野市鶴巻北1-16-1
設立年 1979年
診療科目 内科
リハビリテーション科
神経内科
歯科
病床数 591床(一般145床 療養446床)
常勤医師数 25人(医科のみ)
非常勤医師数 10人(医科のみ)
外来患者数 20人/日
入院患者数 530人/日
(2017年5月時点)