VOL.82

幅広い精神科医療により
地域のニーズを満たす診療を行い
自らも成長できる道を選んだ

ハートランドしぎさん
精神科 山下圭一氏(33歳)

岡山県出身

2009年
香川大学医学部 卒業
社会医療法人 愛仁会 高槻病院 研修医
2011年
社会医療法人北斗会 さわ病院
精神科 研修医(後期臨床研修)
2012年
医療法人社団志誠会 平和病院
精神科 研修医(後期臨床研修)
2013年
社会医療法人北斗会 ほくとクリニック病院
精神科 研修医(後期臨床研修)
2016年
聖マリアンナ医科大学病院 神経精神科
一般財団法人信貴山病院 ハートランドしぎさん
精神科 入職

山下圭一氏が精神科を選んだのは偶然に近い。初期臨床研修で興味を持ち、子どもの頃から志望していた産婦人科から方向転換。その後、精神科医療を急性期から慢性期まで経験する中で、発達障害の重要性に気づいてキャリアチェンジを図った。そして現在、発達障害のほかにも多様な診療経験を積みながら、日々成長を実感しているという山下氏に話を聞いた。

リクルートドクターズキャリア2月号掲載

BEFORE 転職前

患者の人生に深く関わりたい
自らの直感を信じて
産婦人科から精神科に志望変更

研修時の興味をもとに
目標とする専門分野を決定

聖徳太子ゆかりの信貴山近くにあり、精神科医療を中心とするハートランドしぎさん(奈良県)に、山下圭一氏が入職したのは2016年。精神科の救急やリハビリなどを幅広く経験した後、自分の強みを作りたいと熟考。全年齢層の発達障害を診る「子どもと大人の発達センター」を持つ同院で、キャリアアップを目指している。

山下氏が精神科医療に興味を持ったのは、初期臨床研修中。それまでは産婦人科志望で、初期研修先に総合周産期母子医療センターを持つ病院を希望したほどだ。

「叔父が産婦人科の医師で、両親がその病院で事務職を務めており、産婦人科はなじみがありました」

大学卒業後、初期研修で内科や外科を回り、念願の産婦人科での研修が始まったものの、どこか違和感があったと振り返る山下氏。

「確かに子どもが誕生する瞬間は感動的で、やりがいも十分感じられたのですが、自分がこの分野で診療を続けていくイメージがどうにも持てなかったのです」

逆に現場で面白く思えたのは、検査の数値だけでは判断できない難しさもある精神科の診療。患者や家族と話し、手がかりを得ながら症状や原因を探るやり方が自分に向いていると感じたようだ。

「うつ病等の精神疾患によって休職するなど、その方の生活が変化したり、回復過程で新たな道が開けたりして、患者さんの人生に深く関われるのが精神科の魅力だと思いました」

精神疾患と治療の地域性を
沖縄での研修で実感した

初期研修を終えた山下氏は自らの直感を信じて精神科を選択。精神科救急に強みを持つ病院で後期臨床研修をスタートさせた。

「現場はとても忙しく、抑うつ状態で食事が全く食べられない方や幻覚妄想状態で興奮が強い方など患者さんも多様で、精神科救急の現状を肌で感じる研修でした」

先輩医師の取り組みによって、それぞれの患者が回復していく過程は勉強になり、また自身も主治医となった患者と良好な関係を築けたケースもあったなど、濃密な時間を過ごせたと山下氏。

そして1年半後、山下氏は同院と関係が深い沖縄県の病院に派遣された。研修プログラムの連携施設の一つで、ここでは精神科リハビリテーションなどを経験。

「1年の期間限定でしたが、精神疾患はその場所の社会状況や文化と密接な結びつきがあり、地域が違えば疾患も患者さんへの関わり方も変わることが学べました」

その土地にマッチしたやり方を知り、診療の幅が広がることを実感したと山下氏はいう。

「もちろん沖縄で自然豊かな暮らしを満喫できたことも、いい気分転換になりましたね(笑)」

精神科医療に必須の
発達障害を学ぶ道を検討

次に山下氏は50床の精神科スーパー救急病棟のみを持つ病院で、約2年半の研修を続けた。

「大阪市内唯一の精神科救急で、都会で暮らす精神疾患の患者さんを外来で診るといった、沖縄とは違った地域性を経験できました」

規模がコンパクトなだけにスタッフ間の交流も密で、多職種連携の面で学ぶことも多かったという。

同院での研修中に山下氏は精神保健指定医を取得。ある程度基礎が固まったところで、自分なりの強みを身につけるため環境を変えたいと考えるようになった。

「精神科医療でもっと学びたいと感じたのは発達障害の専門知識でした。病院を受診される患者さんの中には発達障害特性を持った方もいるため、それを意識しながら診療に臨むことでより適切な治療につながってくるからです」

山下氏のそうした希望を受け、紹介会社が探した病院の一つがハートランドしぎさんだった。山下氏は病院見学で現地を訪れ、院長の徳山明広氏とも面談した。

「診療分野はスーパー救急、認知症、身体合併症など幅広く、私の経験をさらに磨ける環境でした。もちろん発達障害の治療にも力を入れており、近く全年齢層の発達障害を対象とする部署を立ち上げるといった話も聞けました」

病院の雰囲気も明るく好印象。自分のニーズにも合うことから、山下氏は同院への転職を決めた。

AFTER 転職後

発達障害の診療を中心に
急性期から慢性期まで
幅広く経験を積む

発達障害に対する
全人的な診療を経験

ハートランドしぎさんに患者の年齢を問わない「子どもと大人の発達センター」が開設され、山下氏は発達障害を全人的に診療する環境で新たな一歩を踏み出した。

「児童期に発達障害特性が明らかで発達障害の診断がついているケースとは異なり、成人期に発達障害が疑われるケースは、発達障害特性が目立ちにくく、いわゆるグレーゾーンである方もいます。また、発達障害を持ちながら何とか頑張ってきた方が、二次障害を呈して不適応状態となり、来院される場合も多くみられます」

それだけに大人の発達障害に対する診断は難しく、同院で十分な経験を積みたいと山下氏。

「発達障害が児童期から成人期への連続性のある疾患であると考えると、全年齢を診療できる当院での経験は勉強になると思います」

しかし山下氏は、ただ診断がつけば終わりではないと強調する。本人の得意分野や苦手なことから環境調整を行うことに加え、大人なら職場復帰や就労を継続するための支援も重要になるからだ。

さらに同センターでは大人の就労準備デイケアに加えて、子どもには必要に応じて感覚統合療法、ソーシャルスキルトレーニングを提供。保護者にはペアレントトレーニングを行うなど、保護者のストレス軽減も目標としている。

スムーズな多職種連携が
患者の社会復帰に貢献

同院では多職種連携も早くから進んでおり、同法人内の看護専門学校が輩出する看護師のモチベーションは高く、連携の核となってチーム医療に貢献しているという。

「大人の患者さんの就労支援なども多職種連携は欠かせませんが、当院は各自の知識や認識が一定レベルにあるため職種が違っても話しやすく、すぐに情報共有できるので働きやすい環境です」

同院に入職して1年半、大人や子どもの発達障害について手応えを感じ始めたという山下氏。

「少しずつですが診断の見通しがつくようになりました。今後は臨床だけでなく、日本児童青年精神医学会などでの学会発表も積極的に行って、知識の体系化にも努めたいと考えています」

救急やリハビリなど
多様な分野の診療も継続

さらにスーパー救急やリハビリ、外来診療などで培った知識や技能も維持したいと考える山下氏は、こうした発達障害の診療と並行して、各病棟やサテライトクリニックでの診療も担当している。

「当院の入院患者さんは高齢の方、認知症の方も多いですね。病状の変化は多くはありませんが、リハビリや食事中など日常生活の中でのご本人の様子をスタッフに聞き、その人らしさを見つけ丁寧に接するように心がけています」

一方で同院の精神科スーパー救急は統合失調症やパーソナリティ障害などの患者も数多く受け入れ、3ヵ月以内の退院を目指した急性期の診療を行っている。

「救急は患者さんをご自宅にお戻しすることを基本としています。その場合はご本人の仕事や退院後の生活をしっかりとイメージして計画を立て、再入院にならない治療を行っています」

これまで得た知識や技能を維持しつつ、発達障害について専門的に学ぶ道を選んだ山下氏。どんな将来像を描いているのだろうか。

「勤務を続けるだけでなく、開業も視野に入れて将来の選択肢を検討中です。そのためにも、まず精神科医療で鍵となる発達障害の診療に自信を持ちたいのです」

この将来像についても徳山院長と共有済みだと山下氏。

「この環境を利用して大きく成長し、その力を社会に広く生かしてほしいと応援していただき、いっそう励みになりましたね」

作業療法士、看護師、ソーシャルワーカー、医事課スタッフとのカンファレンス風景。 画像

作業療法士、看護師、ソーシャルワーカー、医事課スタッフとのカンファレンス風景。

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
全人的な精神科医療を実践する

スーパー救急から認知症まで
精神科全領域の診療を目指す

精神的に何か困ったら、ここに来れば安心と頼られる病院になりたい、と院長の徳山明広氏はいう。

「目指すのは精神科の全領域、全年齢層が対象の診療体制です。そのために、いつでも救急を受け入れる精神科スーパー救急を整備し、身体合併症を診るため複数の内科医や放射線科医が常勤しています」

認知症は認知症疾患医療センターでの相談対応・鑑別診断に加え、脳ドックやMCIデイケアで早期発見や予防にも注力していく方針。

今後は認知症のがん患者など治療に苦慮するケースも増えるはずだが、身体科では認知症を診られない、精神科では身体合併症を診られないといった事態も多い。そうした「行き場に困った患者」を診るには、全人的な精神科医療が必要と徳山氏は考えている。

発達障害領域も子ども対象から全年齢対象の「子どもと大人の発達センター」に改組。構想は数年前からあったが、スタッフをそろえるのに時間を要したと徳山氏。

「児童精神科の医師による専門診療はもちろん、作業療法士が行う感覚統合療法のほか、ソーシャルスキルトレーニング、ペアレントトレーニング、さらには就労準備デイケアといったプログラムを提供し、患者さんが社会で自立できるよう治療・支援することが当センターの役割と考えたからです」

多様な経験ができ、多職種連携が当然の環境は医師にも魅力的だ。

「精神科の救急を経験し、指定医や専門医を取得済みの山下先生も、当院でキャリアアップできると感じて入職されたのだと思います」

同院は他科から転科した医師も多く、一つの医局の中で外科、内科、救急科など各自の専門性を学び合う自由な気風も特色だ。

今後は入院患者を対象に行っている認知行動療法を外来診療にも採り入れたいと徳山氏。そのために自らも資格取得を目指すなど研さんを積んでいるという。

「自分の専門分野しか診られないのでは複合的な疾患が増える現状に合いません。地域の中で選ばれる病院であるために、全員で成長し続けたいと考えています」

徳山明広氏

徳山明広
ハートランドしぎさん 院長
1998年奈良県立医科大学卒業。2001年同大学精神医学教室助手。2002年から三重県立こころの医療センターおよび社会医療法人北斗会 さわ病院の各精神科で経験を積み、2006年に奈良県精神保健福祉センター所長。2007年一般財団法人信貴山病院 ハートランドしぎさんに入職。2015年同院副院長に就任後、現職。精神保健指定医、精神保健判定医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医など。

ハートランドしぎさん

同院は精神科を中心に内科や放射線科、歯科などを併設し、精神疾患だけでなく身体合併症まで対応。病床も精神科スーパー救急、精神科一般、精神科療養、認知症治療と多様で、外来には精神科一般外来のほかに認知症疾患医療センター、子どもと大人の発達センターも備え、精神科全領域をカバーする。院内は明るく、ロビーにはカフェも開設。精神科の「暗い」「怖い」イメージを変え、気軽に受診できるようにという同院の考えを具現化している。同院での外来診療・デイケアのほかに、関連施設であるメンタルクリニックでも外来診療・デイケアを行っている。

ハートランドしぎさん

正式名称 一般財団法人信貴山病院
ハートランドしぎさん
所在地 奈良県生駒郡三郷町勢野北4-13-1
設立年 1934年
診療科目 心療内科
精神科
神経内科
内科
皮膚科
放射線科
歯科
病床数 700床 (精神科スーパー救急36床、
精神科療養306床、精神科一般53床、
認知症治療208床、特殊疾患50床、
内科療養47床)
常勤医師数 25人
非常勤医師数 14人
外来患者数 205.3人/日
入院患者数 696.8人/日
(2017年12月時点)