VOL.66

不妊治療の第一線にいながら
家庭も大切にできる
理想の職場に巡り合った

オーク住吉産婦人科
産科・婦人科 苅田 正子氏(41歳)

大阪府出身

2002年
大阪医科大学医学部卒業
大阪医科大学附属病院 産婦人科学教室 入局
2004年
独立行政法人国立病院機構 大阪南医療センター 産婦人科
大阪医科大学附属病院 産婦人科学教室 助教
2007年
大阪医科大学大学院医学研究科 産婦人科学 入学
2010年
オーク住吉産婦人科 非常勤医
2011年
大阪医科大学大学院医学研究科 産婦人科学 修了
独立行政法人国立病院機構 大阪南医療センター 産婦人科
2013年
オーク住吉産婦人科 入職

外科にも内科にも興味を持った苅田正子氏が選んだのは、その両方を満たす産婦人科。そして大学病院や関連病院で忙しく診療を続ける中で、子育てと両立させる難しさに悩むようになった。それでも「仕事も家庭も充実させたい」との思いから、苅田氏は新たな進路を模索する。希望をあきらめなかったからこそ巡り合えた、理想の職場とはどんなところなのだろうか。

リクルートドクターズキャリア10月号掲載

BEFORE 転職前

外科も内科も経験できる
女性の総合診療のような
産婦人科にひかれた

自分が医師に向いているか考えるのは後回しで入学

産婦人科医になったのは、女性の目線で女性特有の病気を治し、出産を支援したいと思ったから。現在、オーク住吉産婦人科(大阪府)で診療する苅田氏は、進路を決めた際の思いをそう振り返る。

「といっても高校生の頃は、人助けになる仕事だし、数学もそこそこ得意で、両親も医師になればと勧めてくれるから……といったようなふんわりした考えでした」

医学部に入って、自分が医師に向かないと思えたら、また考え直せばいい。そうやって楽観的に行動するタイプだと苅田氏は笑う。

産婦人科に魅力を感じたのは大学時代に各科を見学したとき。女性目線で女性をサポートすることに加え、外科手術もあり、外来の診療では内科的な見立ても必要な幅広さに興味を持った。

「女性のための総合診療のようなところがとても魅力的で、外科も内科もやりたい私に向いていると感じたんですね」

忙しい職場と聞いていたが、大学病院では女性医師が苅田氏の予想以上に多かったという。

「先輩たちが日々をどう過ごしているか、お子さんがいる人はどうかなどを現場で見聞きし、自分ならやれるか置き換えてみて、たぶん大丈夫だと思えたんです」

家業も医療関係ではなく、どの専門分野に進むのも自由だったため、苅田氏は自分の興味のまま産婦人科に入局を決めた。

不妊治療を専門にしたのは大学病院の先輩の影響

医学部を卒業して大学病院で2年間の研修。その後、独立行政法人になった大阪南医療センターの産婦人科勤務となった。

「そこではさまざまな患者さんを診ることができましたが、私は不妊治療の研究に取り組みたかったので、しばらくして大学病院に戻り、大学院進学も念頭に診療を続けることにしました」

不妊治療を専門にしようと思ったのも、やはり大学病院の先輩の影響が大きいという。患者の妊娠を一緒に喜べるのはもちろん、その後も経過を診ていき、出産までフォローできるのは、産婦人科医としてとても大きなやりがい。先輩の女性医師が語る言葉に素直に共感できたと苅田氏。

「実際に自分も担当を持つようになり、出産を終え、赤ちゃんを抱く患者さんの姿を見た感動は本当にすばらしいものでしたね」

医師として母として納得できる生き方をしたい

そのように充実した仕事と並行して大学院に入学して研究し、さらに自らも一児の母となった苅田氏。その後も診療と研究と家庭をバランス良く続けられるのか、真剣に考えるようになったという。

「特に研究が一段落した頃、2度目の大阪南医療センター勤務になったときは切実でした。不妊治療だけの担当ではなく、お産や緊急手術などで夜遅くまで残ることもあって、肉体的にも精神的にもつらくなるばかりで……」

しばらくアルバイト的な立場で勤める選択肢もあったが、苅田氏は勤務医を続けながら成長したいとの思いが強かったようだ。

「子育て中の私に配慮し、上司は『もし担当の患者さんが亡くなっても、勤務時間外は来なくていい』と言ってくれましたが、医師としてそうした部分はきちんと対応したくて、夜中に病院に向かうこともしばしばでした」

しかし仕事に集中すれば、子育てにしわ寄せがいく。葛藤の中で、働き方を変えるために転職を考えるようになったという。

「診療や研究が続けられ、子どもの面倒もしっかり見られる。そういう希望を満たせるのが、不妊治療専門のクリニックではないかと思ったのです。できれば最先端の医療にも取り組めるところを、と考えて転職先を探しました」

そして候補に挙がったのが医療法人オーク会。苅田氏は以前から同法人のオーク住吉産婦人科で非常勤医として経験を積んでいた。

「ですからここが新しい治療法を積極的に採り入れ、研究にも力を入れているのは知っていました。知人の勧めもあり、転職先としても魅力的と思えたのです」

もし駄目だったらまた次を考えればいい。持ち前の楽観論で苅田氏は一歩前に進んだのだ。

AFTER 転職後

診療する患者数は多くても
忙しくならない院内体制
最先端の治療にも挑戦できる

1日の中で計画をたてて診療と研究が両立できる

非常勤として勤務する間に職場の雰囲気の良さ、診療のレベルの高さなどを実感。2013年に大学を離れて、オーク住吉産婦人科の常勤医となった苅田氏は、大学病院と比べて圧倒的に多い患者数にも手応えを感じている。

「一口に不妊治療といっても、いろいろな原因、症状の患者さんがいらっしゃいます。そうした方を診るのは医師として貴重な経験ですし、クリニック全体で多様な事例を蓄積していけば今後の治療にも役立つと思いますね」

しかも緊急対応が多い総合病院などに比べて、1日の平均的な流れはある程度予測でき、その日にやるべきこと、やりたいことを自分なりに調整して進められるのも大きなメリットだという。

「患者さんの治療はもちろん、自分が勉強したり研究したりする時間もうまく配分できるんです」

法人全体で研究活動に力を入れていることもあり、苅田氏は今、大学院でも扱った子宮内膜症の研究をさらに進めている。

「当院は子宮内膜症の一種であるチョコレート嚢胞について、アルコール固定術による除去を積極的に行っています。そうした治療を受けた患者さんの予後を追跡調査し、有用性をデータで確認できるようにしたいのです」

同院は患者数が多いため、より信頼性の高いデータが得られると苅田氏は期待している。

新しいことを採り入れ自分も常に成長できる職場

また非常勤医のときには同院の物事を決める早さに驚いていた苅田氏も、最近は効果的と思われる治療法を新たに導入し、効果が期待できないものはすぐに外していくというような、スピード感ある決断に慣れてきたという。

「当院は患者さんの着床時期を詳細に知る検査を全国に先駆けて導入したほどで、そうした職場にいると自然に知識や技術を磨く気持ちになります。それができる環境なのもありがたいですね」

しかも同院はエンブリオロジスト(胚培養士)の人数が多く、採卵や卵の凍結、保管、融解といった部分は、専門の技術職に安心して任せられる利点もある。

「その分、医師は患者さんの診療など自分の業務に集中でき、仕事のクオリティーも上がるのです」

そのためか患者との対応に気を配る余裕もできたと苅田氏。

「不妊の悩みを抱えてお見えになる患者さんに、なるべく寄り添うような接し方を心掛けるようになりました。そして診療の終わりに『ほかに何かありませんか?』と聞くなど、その方が話しやすい雰囲気づくりも大切にしています」

子育てに理解ある環境の中ストレスなく働ける

同院の常勤医となって3年が過ぎた苅田氏。転職後に2人目の子どもが生まれたが、周囲の女性医師全員に子どもがいるため相談相手にも困らず、子どもが熱を出したときの代診にも気さくに応じてもらえるそうだ。

「今は下の子を連れて出勤し、仕事中は院内の託児所に預け、連れて帰るのが日課。上の子は小学生になりましたが、私の勤務が夕方5時に終わるので、家で一緒に過ごす時間もたくさんあります」

母が家事を手伝ってくれるなど家族の理解もあり、子育て中でも不妊治療の第一線で働ける現状に非常に満足していると苅田氏。

「最初からアルバイトや退職を選んだら、おそらく巡り合えなかった職場。仕事と家庭のどちらもあきらめず、解決策を探したからこそ開けた道だと思っています」

医師は男女を問わず長く続けられる仕事。後輩たちも仕事と家庭をうまく両立できる方法を探してほしいと苅田氏は願っている。

カンファレンスや研究開発に力を入れ、各医師の専門分野を活かして診療にあたっている。

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
高度な技術で、最適な生殖医療を行う

最先端の生殖医療のため医師が成長する機会も豊富

オーク住吉産婦人科は高度な技術で不妊治療を行う施設として、顕微授精、AHA、胚凍結・融解、IVM、TESE等に対応し24時間365日態勢で運営する。

このほか男性不妊、不育症、着床不全などの専門外来も設け、大学と提携した遺伝カウンセリングまで行う。

さらに入院施設やサージセンターなどを設置。子宮筋腫は筋腫部分を核出して子宮を残し、子宮内膜症は腹腔鏡下で蒸散して不妊症への進展を防ぐなど、妊孕性を温存するような手術も可能だ。

「このほか当院が開発した着床不全の方の妊娠率を高めるIFCE(子宮内膜再生技術)など、新たな技術を数多く採り入れて、最先端の生殖医療を行っています」

と院長の多田佳宏氏。研究活動に積極的で国内外の学会参加も奨励されるなど、医師が成長する機会の豊富さも同院の特色という。

しかも生殖医療専門医の認定研修施設であり、入職後に専門医を目指す場合は多田氏のような専門医から指導を受けられる。

「生殖医療には多様な分野があり、興味ある分野を見つけて伸ばすことも十分可能です。やりたい分野が決まった方は院内のカンファレンスで方向性を煮詰め、新たな技術を採り入れてほしいですね。例えば苅田先生は子宮内膜症の研究で博士号を取得していますが、そうした方の入職で当院の診療は一層厚みが増したと思います」

現在も同院で子宮内膜症の研究を続ける苅田氏に、多田氏も最新情報を教えてもらうといい、院内の風通しは良好のようだ。

「当院の託児所を活用し、就労時間にも配慮して仕事と家庭を両立する苅田先生は、当院で働く女性医師の良いお手本なのです」

生殖医療を専門とする同院の目的は患者が妊娠し、無事に出産すること。このため初期の妊婦検診、胎児の病気の有無を判断する各種検査、絨毛検査による胎児診断などには今後も力を入れるという。

「妊娠、出産をご希望の方に寄り添いながら、一緒にその夢を実現したいと思っています」

多田 佳宏氏

多田 佳宏
医療法人オーク会 オーク住吉産婦人科 院長
1992年、京都府立医科大学卒業。国立舞鶴病院(現:独立行政法人 国立病院機構 舞鶴医療センター)、京都府立与謝の海病院(現:京都府立医科大学附属北部医療センター)、松下記念病院等を経て現職。子宮鏡手術の豊富な経験をもつ。男性不妊外来の中心として、泌尿器科との連携のもと、TESEからホルモン治療まで幅広く担当する。日本生殖医学会生殖医療専門医、産婦人科専門医、母体保護法指定医、日本アンドロロジー学会会員。

オーク住吉産婦人科

大阪市で2000年から診療を続ける高度不妊治療専門施設。顕微授精、AHA、胚凍結・融解、胚盤胞移植、TESE(精巣精子採取術)などの高度な生殖医療技術のほか、男性不妊、不育症、着床不全など、それぞれの専門外来も設けている。入院・手術設備もあり、妊娠初期の切迫流産や、不妊治療のための婦人科オペを行っている。また、学会認定のエンブリオロジスト(胚培養士)を多数擁し、体外受精の新しい技術を開発・導入し、国内外での学会発表も数多く行っている。日本生殖医学会生殖医療専門医制度細則による認定研修施設ならびに研修連携施設。

オーク住吉産婦人科

正式名称 医療法人オーク会 オーク住吉産婦人科
所在地 大阪府大阪市西成区玉出西2-7-9
設立年 2000年
診療科目 産科、婦人科
病床数 19床(一般)
常勤医師数 8人
非常勤医師数 11人
外来患者数 120人/日
入院患者数 2人/日
(2016年7月時点)