VOL.37

自分の専門領域に集中でき、
仲間と支え合える“理想郷”のような病院

医療法人福寿会 メディカルトピア草加病院 婦人科 
小堀 宏之
氏(43歳)

埼玉県出身

1995年
順天堂大学医学部卒業
順天堂大学医学部産婦人科学講座入局
1998年
東京女子医科大学第二生理学教室へ国内留学
2001年
順天堂大学大学院医学研究科卒業(医学博士)
2003年
順天堂大学医学部産婦人科学講座助手
2004年
越谷市立病院産科・婦人科医長
部長
2008年
同 部長
2012年
ディカルトピア草加病院低侵襲手術センター長
順天堂大学医学部産婦人科学非常勤講師(兼任)
埼玉県立大学看護学科非常勤講師(兼任)

メディカルトピア草加病院は、2012年にリニューアルオープンしたばかりの新しい病院だ。内科、外科などの地域医療を担いながら、内視鏡を用いた低侵襲治療に重きを置いている。婦人科疾患の内視鏡手術が専門の小堀宏之氏は、院長の金平永二氏にスカウトされて同院に入職した。もともと総合病院に在籍していた小堀氏にとって、自分の専門領域に集中できる日々は、何ものにも代えがたいやりがいがある。「転職をしてマイナスになったことは一つもありません」と語る表情には、一点の曇りもない。

リクルートドクターズキャリア4月号掲載

BEFORE 転職前

もっと婦人科疾患の患者が
ハッピーになれる環境を作りたかった

恩師の技術と志を伝える環境を手に入れた

誰にも気兼ねすることなく、自分の専門領域に集中できる環境は、医師にとって一つの理想郷かもしれない。メディカルトピア草加病院の小堀宏之氏は、その病院名通り“医療の理想郷”を転職によって手に入れた。専門は子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣嚢腫の内視鏡手術。順天堂大学医学部を卒業後、同大学同学部産婦人科学講座に入局し、婦人科内視鏡手術の権威と言われる故武内裕之氏のもとで技術を磨いてきた。

「尊敬する武内先生の技術と志を引き継ぐことは、私にとって一つのテーマです。生前、武内先生は婦人科の内視鏡センターを作りたいと語っていました。どうにかして先生の思いを実現できないか、かねてから考えていました」

それまで医局人事で勤務していた越谷市立病院では、40歳手前で部長を任され、10人近い後輩を指導していた。やりがいはあったが、お産を含め、産婦人科の全領域に対応するため、内視鏡に集中できる環境ではない。後輩に内視鏡の技術を教えても、彼らはほどなくして別の病院に転勤になる。

「内視鏡の手術は、開腹手術以上に助手にも高い技術が求められます。腹腔鏡手術では腹部に4つの穴を開けますが、そのうち2つは執刀医の操作鉗子。1つは助手の操作鉗子で、残り1つは腹腔鏡が入り、モニターに患部がよく映るようにカメラワークを調整する必要もあります。さまざまな領域を扱う総合病院では、内視鏡手術の技術を伝え、広げていく面に難しさを感じていました」

加えて、患者目線に立って考えたとき、改善の余地を感じる部分もあったようだ。

「婦人科の内視鏡手術を受ける患者は30代が多く、独身だったり、出産経験がなかったりする女性もいます。彼女たちは手術自体にナーバスになりやすいのですが、総合病院では、病室や待合室で妊産婦と居合わせることもあります。もっと婦人科疾患の患者がハッピーになれる環境を作りたいと願っていました」

院長と理想の医療像を語り合った1年

転機となったのは、2010年。メディカルトピア草加病院院長の金平永二氏との出会いだ。金平氏は内視鏡手術のスペシャリストとして知られる。すでに注目されていた小堀氏の腕を見込んで、合同手術の誘いを持ちかけてきた。

「ちょうど同じ年に、金平先生が出演したテレビ番組を観ていて、憧れていました。まさか自分に声がかかるとは思っていなかったので、一緒に手術室に入った時はうれしかったですね。これをきっかけに交流が生まれ、何度も理想の医療像を語り合いました。私が目指すのは、侵襲性が少ない治療法で、患者も職員も笑顔になれる医療です。金平先生も共感してくださいました」

そうした交流が1年ほど続いたある日、金平氏から、メディカルトピア草加病院の設立メンバーになることを打診される。同院の前身は、1979年から地域医療を担ってきた埼玉草加病院である。上尾中央医科グループの系列で、同じ医療圏の埼玉回生病院、八潮中央総合病院と機能を分担・特化するため、2012年にリニューアルした。建物を改装し、病院名も職員も一新して、低侵襲外科治療を柱とする病院として生まれ変わった。

「ほぼ全てがゼロスタートですので、少し驚きました。それでも、金平先生が院長に就任するのなら、きっと私が目指す医療を実現できるはずです。また、内視鏡に特化した診療ということは、若手医師を“促成栽培”できる環境でもあります。教育のやりがいがありますし、武内先生のご遺志を引き継ぐこともできます」

医局に相談すると、快く退局を認められた。恩師への恩返しと、理想の医療を実現するためのキャリアチェンジ。小堀氏はそれを「攻めの転職」と表現する。決して後ろ向きではなく、前へ前へと突き進むための決断である。新たな環境への期待を胸に、大きな一歩を踏み出した。

AFTER 転職後

「攻めの転職」を成功させた秘訣は、
技術に対する自信と患者からのニーズ

学会参加や臨床研究を後押しする環境

メディカルトピア草加病院のオープンから2年。小堀氏の内視鏡手術は、口コミで評判が広がり、今年2月時点で8月まで予約がいっぱいだ。「攻めの転職」を成功させた秘訣を尋ねると、小堀氏は「技術の自信と、患者のニーズ」を挙げた。その背景には、恩師・武内氏の教えがある。

「技術に自信があっても、患者が集まらなければ宝の持ち腐れになってしまいます。武内先生からは、手術の技術はもちろん、患者への接し方も学びました。親身になって話を聞き、医師―患者間の信頼関係を醸成することは極めて大切です」

また、専門領域を絞ることも、小堀氏の転職を成功させた一因だ。

「婦人科の内視鏡手術は、まだまだニーズが増えている途中です。手術痕が気になる若い女性だけでなく、体力の低下した高齢者にも適しているため、今後も広がっていくでしょう。また、専門を絞ることで他分野の医師の話を素直に聞けるようにもなりました。結果的に自分の知識が増していくのがうれしいですね」

内視鏡手術は月40件ペース。転職前の期待通り、自分の専門領域に没頭する日々を送っている。入職直後、婦人科の医師は小堀氏のみだったが、医局の仲間の応援で徐々に増えた。4月から常勤医が3人になり、10月はさらに増えて4人になる。人員が充実することで患者数はさらに増加する見込みだ。

「すでに豊富な症例数があるため、臨床研究にも力を入れています。当院は、院長の方針で学会や研究会への参加を奨励しており、昨年だけで私は20回ほど発表しました」

スタッフを育てることも大きなやりがいの一つ

院長の金平氏(左)と、小堀氏。同じ内視鏡手術の専門医として生き方が共鳴する2人だ。
院長の金平氏(左)と、小堀氏。同じ内視鏡手術の専門医として生き方が共鳴する2人だ。

臨床や研究に励む一方で、小堀氏はスタッフ教育にも尽力している。院内の職員満足度委員会委員長を務め、スタッフ間のコミュニケーションを増やすための会議やアンケートを行っている。また、手術の場でもきめ細やかな配慮を忘れない。

「一般的に内視鏡手術は2時間ほどかかりますが、途中、鉗子を動かさずに待つ時間が生じます。そうした時も、スタッフのモチベーションが下がらないように何かしらの言葉をかけます。また、時々、病棟看護師に手術室を見学させています。入院する患者が、どのような経緯をたどってきたかを把握することで、その後の接し方が変わるはずですから」

病院の将来像については、こんな抱負を抱いている。

「広く浅くというよりは、各地に拠点を置くセンター式になると予測しています。がんセンターがそうであるように、低侵襲手術を受けたい患者が自ら選んで来院するのではないでしょうか。拠点が増えた暁には、さらに仲間を育て、質の高い医療を提供したいですね」

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
医療法人福寿会 メディカルトピア草加病院
院長・外科診療顧問 金平永二氏

理想の医療を実現する3つのプリンシプル

「愛し愛される病院」。これが、メディカルトピア草加病院のモットーだ。スタッフは自然な笑顔で患者に接し、院内全体に優しい雰囲気が満ちている。院長の金平永二氏は、このモットーに込めた思いを語る。

「私が尊敬する人たちは、総じてポジティブで、ニコニコと笑顔を絶やさないことが共通しています。人が成長するには、地道な努力が大切という考え方がありますが、私はまず『幸せ』ありきだと思っています。常に満たされた気持ちで物事に取り組むことができれば、技術や知識は自然と身につきます。そうした働き方ができる病院にしたいですね」

毎週月曜の朝礼では、愛し愛される病院であるための「プリンシプル」について話す。「態度・進取・仲間」という3項からなるプリンシプルは、職員の目指すべき姿が凝縮されている。「態度」の項では、患者が「この病院に来て本当によかった」と思えるための振る舞いを目標としている。「進取」は、よいと思ったことは既成概念にとらわれずに実践する勇気を推奨する。特筆すべきは「仲間」の項で、職員同士の結びつきを重んじている。

「成長とは、知らないことを知り、昨日より今日、今日より明日と能力が高まることですが、自分の考えを表現して仲間が増えることも成長の一つです。自分だけでは難しいことでも、仲間となら達成できます」

入職する医師には、プリンシプルの厳守を求めるわけではないが、「おそらく多くの方が共通して抱いている思いではないでしょうか」と金平氏は語る。

メディカルツーリズムに対応できる体制を整備

小堀氏については「なにしろ手術がうまい。初めて会った時から、仲間として同じ病院で活躍してほしかった」と絶賛する。また、技術もさることながら、その人柄にもほれ込んだようだ。

「患者やスタッフへの接し方が優しく、みんなを笑顔にしてくれる医師です。経営的な観点も持ち、ベッドの回転率や手術数などの意見をくれることもありがたいですね。共に協力しながら医療の質を向上させ、病院の信頼感を高めたいと思います」

ゆくゆくは、海外を視野に入れた発展を目指す。すでに、英語、中国語、韓国語に対応できるスタッフをそろえて準備している。

「これまでアメリカ、イギリス、中国、シンガポールなどから患者が来院しました。メディカルツーリズムは世界的な流れです。当院から低侵襲治療を発信し、より多くの患者を救いたいと願っています」

金平氏の言葉の端々からは、医師、スタッフ、そして患者の幸せを願う思いがにじみ出ている。医療によって患者を幸せにし、医師もまた幸せになる。そんな充実した日々が待っている病院だ。

金平 永二氏

金平 永二
医療法人福寿会 メディカルトピア草加病院 院長・外科診療顧問
京都府出身。1985年金沢大学医学部卒業。関連病院の外科に勤務したのち、91年、ドイツのTuebingen大学医学部外科へ留学。92年金沢大学心肺・総合外科講師。2002年フリー外科医として国内外で手術を執刀。05年四谷メディカルキューブきずの小さな手術センター長。08年上尾中央医科グループ内視鏡外科アカデミー代表、上尾中央総合病院外科診療顧問を経て、12年から現職。

医療法人福寿会 メディカルトピア草加病院

メディカルトピア草加病院は、上尾中央医科グループの系列病院である。前身の埼玉草加病院は1979年にオープンし、地域診療を担ってきた。2012年、施設・設備・診療体系も含めてリニューアルし、低侵襲外科治療を柱とした診療を行っている。卓越した技術を持つ医師を集め、全国の患者を救っている。内視鏡、CT、MRIなどの検査機器や手術機器は最新鋭のハイスペックのものがそろい、トップレベルの診療を提供できる体制は万全である。今後は、海外からの患者への対応も強化していく方針。

医療法人福寿会 メディカルトピア草加病院

正式名称 医療法人福寿会 メディカルトピア草加病院
所在地 埼玉県草加市谷塚1-11-18
設立年月日 2012年2月1日(リニューアル開院)
診療科目 総合内科、女性内科、消化器内科、外科、
内視鏡外科、婦人科、小児科、皮膚科、
泌尿器科、呼吸器内科、循環器内科、麻酔科
病床数 80床
常勤医師数 18名
非常勤医師数 20名
非常勤医師数 90名
外来患者数 1日平均300人
入院患者数 1日平均60人(2014年2月末日現在)