VOL.67

最先端のがん診療を行う病院で
子育てと両立させて働ける
健診センターの仕事を選んだ

公益財団法人がん研究会 がん研有明病院
健診センター 検診部 山田 由美氏(36歳)

秋田県出身

2004年
秋田大学医学部卒業
秋田大学医学部附属病院
2006年
秋田組合総合病院
(現:秋田県厚生農業協同組合連合会 秋田厚生医療センター)
2009年
秋田大学医学部附属病院
2014年
秋田大学大学院医学系研究科修了
公益財団法人がん研究会 がん研有明病院 健診センター 非常勤医
2015年
公益財団法人がん研究会 がん研有明病院 健診センター 入職

出産や子育てのために医療現場から離れ、再び戻る時期を探ることになるのは、女性医師に共通する悩みだろう。特に山田由美氏の場合、出産と夫の転勤が重なるなど人生の転機が一度に訪れて苦慮したという。生まれ故郷の秋田を初めて離れ、夫と生まれたばかりの子と東京へ。まず非常勤医からと探した復帰の道は、意外にも最先端のがん診療を行う病院で見つかった。

リクルートドクターズキャリア11月号掲載

BEFORE 転職前

多様な疾患への初期対応と
専門分野の強みを併せ持つ
医師を目指していた

医師である父親の姿を見て同じ道を志した

結婚や出産を経験し、夫の仕事に伴う転居により、自らも秋田大学の医局を離れ、東京都内の新たな職場へ。ここ数年で山田由美氏の仕事と暮らしは大きく変わった。現在はがん研有明病院(東京都)の健診センターに勤める山田氏は、縁と運に恵まれたおかげと笑うが、それは医療への強い思いが引き寄せたものだろう。

自分が医師を目指したのは父親の影響が大きいという山田氏。

「父は勤務医でいつも忙しそうでしたね。しかしその生き生きした様子を見ていると、きっとやりがいのある仕事だろうと感じ、そんな父を尊敬していました」

自然と医療分野に興味を持つようになった山田氏は医学部を志望。当時はずっと秋田県内で診療を続けるつもりで、迷わず地元の秋田大学医学部に進学した。

「私は高校卒業後にすぐ入学しましたが、金融機関や農業などの仕事に就いた後、医学部に入り直した同級生も多く、驚きました。それだけ医師を目指す気持ちの強い人たちと学んだことは刺激になり、またみなさんの経験を聞けたのもいい社会勉強になりました」

手技による検査が多い消化器内科を自らの専門に

山田氏が大学を卒業した2004年は医師の臨床研修制度が新しくなった年。初期研修医となって秋田大学医学部附属病院と秋田組合総合病院を行き来し、内科や外科、小児科、救急科、産婦人科などを回り2年間を過ごした。

「初期研修医の第1期生という不安はありましたが、以前の制度とは違って、大学卒業後にさまざまな診療科を経験できたのは有意義でした。特に専門分野をまだ決めていなかったので、実際に現場を知った上で検討する時間がもらえたのは有り難かったですね」

「私は自分で手を動かして診療するのが向いているようで、最初は手術中心の外科と迷った時期もありました。しかし消化器内科は内科ながら手技が必要な検査が多く、外科的要素を強く感じたのです。また対象が年齢を問わず幅広く、さまざまな患者さんの役に立てることも選んだ理由の一つです」

その後は秋田組合総合病院、後期研修医として消化器内科の診療に従事。同院は救急告示病院として地域から多様な患者を受け入れており、さまざまな症例が経験できる点がよかったという。

もちろん当直の際は自分の専門とは違う分野も診療し、視野を広げていった。

「救急や当直では、いざというときの診療の手順とそれを実践する度胸など、何でも診ようとする前向きな姿勢が培われたと思います。私は若いうちにいろいろ経験して、幅広い疾患に対応できる力を磨きたかったんです。どんな分野でも初期対応は確実にでき、さらに特定の専門分野に強みを持った医師が目標でしたから」

結婚、出産、夫の転勤人生の転機が一度に訪れた

こうした医療現場から距離を置く転機が大学院への進学だった。後期研修を終え、その後の進路に迷っていたところ、秋田組合総合病院の上司から「大学院での研究が診療の幅を広げるのに役立つのでは」とアドバイスされたという。その意見を参考に、山田氏は診療中心の生活から研究中心となる大学院への進学を選んだ。

「大学院では研究の傍ら、集中して文献を読む時間もでき、分子レベルで疾患を考えるようになったり、世界的な医療の現状を知ることができたりと、自分の視野を広げるいい機会になりました」

さらに山田氏は大学院在籍中に結婚し、2013年2月に出産。私生活でも大きな変化が続く中、夫の国内留学先ががん研有明病院に決まり、山田氏も出産直後に東京に行くことになった。

「初めての子育て、初めての東京暮らしと、しばらくは初めてづくしで手一杯でした。しかし1年ほどたって、そろそろ自分も医療現場に戻りたい、少しずつでも続けることが大切だと思うようになりました。そこで東京で新たな職場を探そうと思ったのです」

AFTER 転職後

がん専門病院の健診部門で
内視鏡検査をはじめ
健診全般に携わる常勤医に

意外に身近なところで 復帰の道が見つかった

約1年、子育てに専念していた山田氏が医療現場に戻ったのは2014年。職場は予想外に身近なところ、夫が勤めているがん研有明病院で見つかった。同院の健診センターなら週1日の非常勤医として働けるとわかったのだ。

「その頃は秋田大学の医局を離れて数年たっていましたが、当時の上司を頼って相談したところ、大学の先輩後輩だった縁で、当センターのセンター長である土田先生を紹介していただきました」

同病院は学会発表にも積極的で、がんの研究・治療では誰もが最先端と認める専門病院。健診センターでの経験も今後のキャリアに生きると山田氏は考えた。ファミリー・サポート・センターを通じて子どもの預け先が見つかるなど、子育て環境が整ってきたことも復帰の後押しとなった。

「職場には残業がなく、突然の子どもの発熱という最も危惧していた事態にも、ほかの先生方に協力していただける配慮もあり、安心して働き始められました」

担当業務は秋田でも慣れ親しんだ胃の内視鏡検査だが、これはかなりの緊張を強いられたようだ。

「現場から約1年離れていたことで技術面にやや不安があったのに加え、この病院では絶対にがんを見落とせないと強いプレッシャーを感じました」

病院との密接な連携の中最先端のがん診療も学べる

しばらく続けるうちに勘を取り戻して緊張も解けた頃、山田氏は常勤医になる誘いを受けた。

「2016年1月に大幅拡充する健診センターでの勤務を土田センター長に打診され、私も保育園を見つけるなど早めに準備していたことが幸いして、2015年には当センターの常勤医となって本格的に職場に復帰しました」

常勤医となって2年目の今、山田氏は健診センターでの内視鏡検査のほか、がん専門ドックコースやがん基本コースといったがんドックの検査結果を最終確認し、受診者へのアドバイスを加えるなど健診業務全体に携わっている。

並行して週1日、病院で内視鏡検査の研修を行っており、これはがん研有明病院の治療を詳しく知る機会になっているという。

「最先端のがん診療の現場で仕事をすると、治療にあたる医師が病変をどう診るかなどを知ることができます。その経験を生かして、センターでの内視鏡検査で特に注意すべき点を意識できるなど、非常に勉強になっています」

今はがん診療という専門性をもっと磨きたい

検査でがんが疑われたら、精密検査や治療も同病院を希望する受診者がほとんど。日本でトップクラスのがんの専門家を紹介できるのは強みの一つと山田氏はいう。

「しかし健康だと思って健診を受けた方が、がんと疑われるときにどう伝えるかには悩みます。結果の重大さをお伝えして、早く病院を受診されるよう促すと同時に、ショックを受けた方の心のケアなど、当センターが担う責任は非常に大きいと思っています」

人生の節目のたびに自分にふさわしい職場を見つけ、医療現場に立つ努力を続けてきた山田氏。初期研修から大学院まで過ごした秋田では、さまざまな疾患への知識と対応力を深め、現在はがん専門病院の健診業務に携わり、病院でがん診療の研修にも参加している。

「当院の体制は柔軟で、本人が希望すれば健診センターから病院への異動も可能です。今は子育てのウェイトも大きいのですが、いずれは新たな経験のために病院でがん診療に携わることも選択肢の一つと考えています」

そう語る山田氏の笑顔は未来を切り開く喜びに満ちている。

山田氏による健診センターでの内視鏡検査風景

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
新棟移転でがん健診の最先端を目指す

日本の検査のスタンダードを生み出す先駆者となる仕事

がん研有明病院の健診センターは2016年1月に完成した新棟の3、4階に移転し、従来の2倍のキャパシティとなった。同センターの健診者はリピート率が高く、その数は毎年増える一方。新棟移転により、健診のニーズに応える体制がようやく整ったと同センター長の土田氏はいう。

「私は2009年から健診業務に携わっていますが、日本の医療は健診を含む予防医学の部分が非常に手薄だと感じます。特に日本人の2人に1人ががんに罹患する現状で、当センターのような健診施設の拡充はがん克服に大いに役立つものと考えています」

しかも同センターはがん研有明病院の名にふさわしく、新たな健診方法を積極的に採り入れ、高精度の検査を提供するのも特色。例えば肺がん検診ではCTによる早期発見を目指すだけでなく、放射線技師と読影担当の医師が検証を重ねて設定を調整した結果、放射線量を通常のX線写真と同程度に抑えることに成功している。

「また大腸内視鏡検査に代わって、短時間で高精細な大腸の3D画像が得られる大腸検査(コロノグラフィー検査)も選択肢として用意しています。こうした先進的な取り組みの効果が実証されていけば、やがて日本における検査のスタンダードになるはず。そうした先駆者の喜びが感じられるのも当センターならではでしょう」

一方で医師が働く環境としても魅力的と土田氏はいう。

「勤務時間が決まっていて残業もないため、子育てや介護と仕事の両立を考える人などに働きやすい職場だと思います。しかも時間があれば病院での内視鏡検査に加わって、最先端のがん診療の現場から直接学ぶことも可能です」

 2015年から常勤となった山田氏をはじめ同センターの医師に対しては、内視鏡検査業務の研究、センター運営の検討などの取り組みにも期待していると土田氏。

「当センターは自ら一歩踏み出して新しいことにチャレンジできる環境。これを存分に活用して成長につなげてほしいですね」

土田 知宏氏

土田 知宏
公益財団法人がん研究会 がん研有明病院 健診センター センター長
1990年に東京医科大学卒業後、東京逓信病院、東京大学医学部附属病院、東京大学医科学研究所、東京拘置所医務部などを歴任。2001年、東京大学大学院医学系研究科修了。2002年、公益財団法人がん研究会 がん研有明病院に入職。内科シニアレジデントを経て、2006年に消化器内科医長、2009年に健診センター副所長、2014年から同センター長を務める。

公益財団法人がん研究会 がん研有明病院

がん研有明病院は、日本初のがん専門機関である癌研究会を母体として発足した、がん専門病院。2005年に現在の有明地区に移転し、「臓器別チーム医療」という新たな概念のもと、診療科の壁を取り除いた患者中心の医療を目指している。近年は健診センターによる早期発見と予防にも力を入れ、多くの受診者が利用できるよう2016年1月には大幅拡充を行った。さらに健診センターの医師が病院での検査に協力するなど、健診・診断・治療が密接に連携する体制を整えている。

がん研有明病院

正式名称 公益財団法人がん研究会 有明病院
所在地 東京都江東区有明3-8-31
設立年 1934年
診療科目 呼吸器内科、消化器内科、乳腺内科、
血液内科、腫瘍内科、感染症内科、
漢方内科、疼痛緩和内科、呼吸器外科、
消化器外科、乳腺外科、整形外科、
形成外科、頭頸部外科、精神科、
皮膚科、泌尿器科、婦人科、眼科、
放射線診断科、放射線治療科、病理診断科、
救急科、歯科、麻酔科、健診センター
病床数 700床(一般)
常勤医師数 355人
非常勤医師数 170人
外来患者数 1,708人/日
入院患者数 607人/日
(2016年8月時点)