VOL.78

患者がいるところが診療の場
自分が目指す地域医療は
在宅診療の中にあった

三鷹あゆみクリニック
内科 山根秀章氏(36歳)

山口県出身

2011年
日本大学医学部 卒業
日本大学医学部附属板橋病院 研修医
2013年
日本大学医学部附属板橋病院 消化器・肝臓内科
2014年
医療生協さいたま 熊谷生協病院 非常勤
2015年
医療法人財団コンフォート 昇和診療所
2016年
医療法人社団 壮仁会 三鷹あゆみクリニック 入職

以前は大学病院で消化器内科の手術と当直、市中の総合病院で内科外来とほぼ毎日仕事だった山根秀章氏。知人の紹介で偶然入った在宅診療の分野に、自分の父が打ち込んでいた地域医療の新たな形を見いだした。「今はガイドラインより患者さんの希望が優先。その人が本当に必要とする医療が提供できている」と満足げに語る山根氏のキャリアの変遷を紹介する。

リクルートドクターズキャリア10月号掲載

BEFORE 転職前

地域医療に従事した父を追い
医療の道へ。開業を念頭に
消化器内科を専門に選んだ

地域医療に熱心だった
父がお手本になった

自治医科大学出身だった父親が地域医療に打ち込み、患者一人ひとりを丁寧に診ていた姿と、今の自分とが重なる。個人宅の在宅診療を主とする三鷹あゆみクリニック(東京都三鷹市)で、2016年から診療を始めた山根秀章氏は最近そう感じているという。

「父は大学卒業後、9年間の義務年限を出身地である山口県の診療所で過ごしました。私や弟たちは物心ついた頃からそうした父の仕事場にも出入りし、診療の様子に接する機会が多かったのです」

治療後に患者から感謝の言葉をもらう父親に憧れ、周囲に「お父さんの後を継ぐのでしょう」と期待され、自然に医師を目指す気持ちは高まっていったと山根氏。

「やがて義務年限を終えた父は、母の実家に近い栃木県に私たちを連れて転居。さらに数ヵ所の診療所勤務を経て、当時無医村だった群馬県内の町で開業するなど、地域医療に取り組んでいました」

その頃には山根氏自身は埼玉県の全寮制高校で学び、日本大学医学部に入学するなど夢の実現に向けて着実に歩を進めていた。

大学病院での手術に加え
市中病院では外来を担当

山根氏は大学卒業後、大学病院で研修医として経験を積み、同院消化器・肝臓内科に配属された。

「最初は内科も外科も診られる小児科を目指したのですが、研修医時代にその大変さを痛感しました。子どもだけでなくお母さんのケアも必要で、論文執筆や学会参加の負担も大きく、今後の少子化を考えるとへき地などでの開業には向かないと思えたのです」

逆に多くの患者をカバーできると感じたのが消化器内科だった。研修中の当直で診た急患の多くは、腹痛か胸の痛みを訴えるケースがほとんど。そのどちらかを専門にすれば開業後の地域医療にも役立つと山根氏は考えたという。

「消化器・肝臓内科にいる間にできる限り技術を習得しようと、1年目は内視鏡から肝がんのカテーテル治療まで必死で学びました。しかし同時に外来をやりたいという思いも強くなってきました」

診察室で患者と話し、診断して治療方針を決めるといった流れを常に経験していないと、開業時に臨床能力が低下しているのではないか。そう懸念した山根氏は2年目から埼玉県の病院で非常勤となり、内科の外来を受け持った。

施設から個人宅での診療へ
在宅の方向性がより明確に

だが、これは長続きしなかったと山根氏は当時を振り返る。

「研修医のときに利用した奨学金を、2年間で返そうと無理をしていた面もありました。平日は大学病院で肝臓がんなどの治療に携わり、非常勤では内科の診療、土日のいずれかは大学病院の当直とほぼ毎日働いていましたから」

あまりに忙しい日々を何とかしようと、仕事を減らすことも考えた山根氏。しかし医局の一員ではそれもできず悩んでいたとき、知人の医師に「ここなら生活のペースも整うのでは」と教えられたのが在宅療養支援診療所だった。

未経験の分野だが、地域医療を知る機会だと山根氏はトライアルで診療を経験。訪問先は福祉施設で勤務時間も9時から17時と安定しており、自分の暮らしも少し落ち着くように感じたという。

「また患者さんのいる施設に行って話を聞き、診療するやり方は、診療に短い時間しか割けない病院より好ましく思えました」

目標とする地域医療に一歩近づくと考え、医局を離れて診療所に移った山根氏。しかし施設内で診療する制約は予想以上に大きく、容体が悪化するとすぐ救急病院頼みになるなど、自分では看取れないケースもかなり多かった。

「思い描いていた在宅診療とどこか違う。そのもどかしさの中で、やはり父のように患者さんをじっくり診たいと考え、施設ではなく個人宅を訪ねる在宅療養の診療所に移ろうと検討を始めました」

ただし現在の収入とさほど変わらない待遇で、といった条件をもとに紹介会社から紹介されたのが三鷹あゆみクリニックだった。

「前回はいきなり現場に飛び込んで決めましたが、さすがに今回は院長との面談から始めるなど慎重に話を進めるつもりでした」

AFTER 転職後

最期の看取りまで視野に
本人と家族に最も望ましい
在宅診療を提供していく

院長の考えに共感するも
オンコールへの不安は残る

今回は慎重にと考えていた山根氏だったが、三鷹あゆみクリニック院長の高橋氏と話した後には転職を決めていたと笑う。

「高橋院長はとても気さくな人ですが、『常に患者さんを中心に考える』というビジョンが明確で、私の父がやっていた診療のイメージに非常に近い感じでした。また入職後も埼玉県の病院での非常勤を続けられるなど、条件面での配慮もありがたかったですね」

山根氏はこの人と一緒に在宅診療に取り組みたいと思いながらも、一つ悩みがあったと明かす。

「在宅療養支援診療所は24時間のオンコールがつきもの。大学病院では当直が重荷でしたから、オンコール対応には不安が残りました。高橋院長には電話の回数は少なく、困ったら相談に乗るからとは言われましたが、こればかりは実際にやってみないことには……」

同院は平日9時から17時まで、平均して1日12件ほどを訪問診療で回る。そして夜間のオンコールは主治医制で、担当患者の電話は基本的に主治医が受ける体制だ。

最初のうち、山根氏は帰宅しても携帯電話が手放せず、緊張気味の日々を過ごすことになった。

定期的な訪問診療に加え
断らない往診で信頼を得る

しかし高橋氏の言葉どおり電話は週数回程度で、そのうち急を要するものはごくわずかだった。

「大抵は熱が出た、家の中で転んだといった内容。発熱なら解熱剤を出すよう当院のスタッフに指示すればよく、転んだ患者さんには翌日の訪問でも対応できます」

数週間でそれを実感し、山根氏は自宅や休日をリラックスして過ごせるようになったという。

だからといって同院で扱う症例すべてが軽い訳ではなく、週3、4人は末期がんの患者を受け入れている。また臨時往診も必要なら積極的に対応する方針だ。

「特に高橋院長は『患者さんが来てほしいと言ったら、必ずいいよと答える』がポリシー。その様子を見ているうちに、定期訪問のほか、臨時往診も含めて患者さんやご家族と信頼関係を築くことで、その家庭に必要な医師だと認められるのだと理解できました」

医療と介護の垣根なしに
最適な提案をすることが重要

そして山根氏は転職の翌年に病院での非常勤を辞め、業務を同院の在宅診療に絞り込んだ。どんな点に魅力を感じたのだろうか。

「在宅診療の場合、必要なら1時間ほどかけて患者さんやご家族と話せますし、ご自宅に伺えばその方の生活背景まで見えてきます。例えば1日3回の薬を朝だけしか飲まないのは、服薬を手伝う家族が日中不在だからといった理由がわかれば、患者さん本位の薬の調節もしやすくなるでしょう」

飲めないなら減薬のリスクをふまえて回数を減らすか、あるいは介護サービスを入れれば日中も飲めるのかなど、患者のために何ができるかを考え、実行するのが在宅診療の醍醐味と山根氏はいう。

「以前は、介護保険で介護用ベッドを入れるなどの提案はケアマネジャーの役割だと思っていました。しかし在宅診療では各専門職と連携しつつアイデアを出し合い、医療と介護の両面から患者さんとご家族を診ることが重要なのです」

在宅診療の質の向上に、自分たちができることは多いと山根氏。

「今後は患者さんの死生観まで理解し、ご家族とも共有し、その方が望む看取りをしたいと考えています。それでようやく『患者さんを診た』といえるのだと思います」

2017年には院長の高橋氏が三鷹市医師会の理事となり、市全体の在宅診療を後押しする側に回るため、自分はより現場に注力したいと意を新たにしている。

担当患者の診療内容について、迷ったときなどは院長の高橋氏とも相談する。 画像

担当患者の診療内容について、迷ったときなどは院長の高橋氏とも相談する。

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
患者や家族の希望に応える診療を行う

ガイドライン重視でなく
医師の裁量に任される現場

総合病院、在宅診療のクリニックを経験した後、院長として三鷹あゆみクリニックを立ち上げた高橋壮芳氏。同院を開設する際には、在宅診療の現場で実感した以下の3点を重視したと語る。

「まず患者さんやご家族の希望に応えること、それには地域でチームとなる看護・介護の事業所と密接に連携すること。さらに一緒に頑張ってくれるスタッフへの適切な評価も重要と考えました」

これらの方針をもとに、患者や家族から選ばれるクリニック、医師や職員が勤めて良かったと思える職場を目指すという高橋氏。

「必要なのは当院の医師やスタッフが、相手にとって何が本当にいいことなのかを自ら考え、進んで実行することです。病院ではガイドライン重視ですが、当院の在宅診療は患者さんが主体。一人ひとりの希望をかなえるには、マニュアルに頼らず医師ごとの裁量で対応していいと私は考えています」

例えば1日3回も薬を飲みたくないといった患者には、リスクを勘案した上で回数を減らすなどの対応も考えていくという。

「そうした診療で患者さんやご家族の喜ぶ姿が次への原動力となり、自身の成長にもつながるはず。医師として十分に働きがいのある職場だとアピールしたいですね」

一方で在宅に興味はあるが、24時間のオンコール体制が不安との声も高橋氏の耳には届いている。

「山根先生からも入職前に何度も質問されましたが(笑)、さほど心配はいらないと思います。電話は週数回程度、臨時往診になるケースはそれ以上に少ないのです」

また診療を続けて患者の容体が理解できると、今日は呼ばれると予測もできると高橋氏はいう。

「だからこそ往診の依頼は断りません。必要なときは必ず来てくれるという安心感があれば、逆にオンコールは減るはずです」

今後は医師やスタッフと密に話をして、より適切な評価を心がけたいという高橋氏。運営面で今以上のゆとりが生まれれば、すぐに還元したいとの言葉に、メンバーへの期待と思いやりもうかがえた。

高橋壮芳氏

高橋壮芳
三鷹あゆみクリニック 院長
2002年名古屋大学医学部卒業後、東京ほくと医療生活協同組合 王子生協病院に約6年勤務。内科での診療に加え、後半は外科に移って幅広く経験を積む。その後、在宅診療のクリニックを経て、2011年に三鷹あゆみクリニックを開設し、院長に就任。2012年から医療法人化。2013年に新百合ヶ丘あゆみクリニック開設。

三鷹あゆみクリニック

個人宅を主な対象にした在宅療養支援診療所として、2011年に東京都郊外の三鷹市に同院を開設。2013年には新百合ヶ丘あゆみクリニック(神奈川県川崎市)を開設するなど、地域の信頼を得ながら着実な展開を進めている。同院が在宅で行う診療内容は幅広く、訪問診療時の問診、投薬の管理のほか、携帯型の超音波検査器を使った腹水や胸水の除去、IVHや胃ろうの管理、モルヒネによる末期がんの疼痛緩和など、患者のニーズに応じた医療を提供する。訪問診療には医療クラークが同行し、医療行為以外の補助を行うが、医療クラークは医師と患者・家族とのコミュニケーションを円滑にするために力を注ぐ点も特徴だ。院長の高橋氏は「地域の中で選ばれるクリニック」を目指した運営を行うと同時に、三鷹市医師会の理事として市全体の在宅診療の質を向上させる取り組みにも積極的だ。

三鷹あゆみクリニック

正式名称 医療法人社団 壮仁会
三鷹あゆみクリニック
所在地 東京都三鷹市上連雀7-32-32
コムドエリー202
設立年 2011年
診療科目 内科
神経内科
常勤医師数 2人
非常勤医師数 8人
訪問件数 12件程度/日
(2017年7月時点)