私が医師を目指したきっかけは、祖母の存在でした。物心ついた頃、祖母は小児科の勤務医として活躍していて、凛とした白衣姿が印象的で多くの子どもたちを助ける力強さに対して憧れを持ちました。祖母のような医師になって格好よく生きていきたいと思い、医学部へ進学。6年生になる春、当院に実習に来た際に家庭医の仕事を知ったことで、地域の人たちの身近な存在である家庭医になろうと決意しました。
私を含め、現在当院には多くの家庭医がいますが、日本全体に目を向けてみると病院に勤務する家庭医は少なく、私が入職した10年前もあまり知られていませんでした。しかし、ここで働いている先輩家庭医の姿を見て「私がやりたかった医療はこれだ」と思うようになったのです。
先輩は患者さんの近くにいつも寄り添い、ときにはベッドサイドまで行き、ご飯の介助をすることもありました。医師が食事介助をするなんて、と私は驚きました。医療現場には適切な役割分担がありますから、慣れていない介助行為を医師が行うことにメリットはあまりないと、最初は思っていたのですが、先輩は患者さんとの時間を通して「どうやって食べているのか?」「食欲はどのくらいあるのか?」など、家庭医として大切な情報を体感していたのです。衝撃を受けた私は、この頃から患者さんのためになるのなら、どんな垣根も越えて行こうと考えるようになりました。人のために、できることはなんでもやる、という想いは新人の頃も今も変わっていません。