「助け合える」?それとも「ノルマがきつい」?

読者に「グループ病院は働きやすいと思うか?」を理由とともに尋ねたところ、フリーコメントで多様な意見が寄せられた。 大別すると、おおむね肯定的な意見が33%。「患者の受入先が豊富で安心」(大阪府・神経内科)、「グループ内施設間で助け合える」(岐阜県・腎臓内科)、「グループ内で異動できる」(埼玉県・麻酔科)、「経営が安定」(北海道・消化器内科)。人数が多く長期休暇がとれる、体制が整っている、など組織の盤石さからくる利点を推す声がみられた。
一方、否定的な意見は26%で「ノルマがありきつそうなイメージ」(埼玉県・一般内科)、「個別対応や融通をきかせてもらいにくい」(東京都・精神科)、「経営の実権が事務方にあり収益優先」(地域不明・精神科)などの懸念が寄せられた(他は、わからない19%、その他22%)。
今回は病院側にもアンケートを依頼、協力いただいた5つのグループ病院のデータとともに、グループ病院の特徴と、医師にとっての働きやすさを考える。
なお、グループ病院としての公の定義はない。今回は人事組織運営・経営を統括する本部機能があり複数の急性期病院及びその他施設を有するものとした。

経営努力や人事評価が誤ったイメージに直結か

グループ病院のメリットは何か。関係者が口を揃えて最初に挙げるのは医薬品・資材の一括購入によるコスト削減。加えて重点領域に思い切った投資が可能で、それが経営の安定とグループ全体の発展につながる。
スケールメリットを経営に生かすことは企業として当然だが、それが“医療より経営重視”と捉えられることがあるようだ。
経営重視の延長として「ノルマがきついイメージ」「ジェネリックを強要されるのでは」という声もある。これに対してあるグループ病院本部の採用担当者は「グループ病院は人事評価制度が整っており、評判のいい医師は高く評価される。これがノルマと誤解される」という。
診療への介入やジェネリックの推奨はどうか。「薬は購入規模が大きいので比較的多種類を揃えられる。医師の申請で採用薬を検討する場合も多い。経営視点だけでジェネリックを強要することは絶対にない」(別のグループ病院本部)。読者コメントでも、グループ病院の勤務医から「医師の裁量が認められており得意分野を伸ばせる」(大阪府・内科)という声も届いている。

大組織ならではの特徴と働きやすさ・将来性を考える

しかし大きな組織は(グループ病院に限らず)ルール遵守が求められる。人によってはこれを窮屈に感じるのだろう。反対に体制が強固ゆえに可能なことも多い。学会参加の奨励、急性期~慢性期まで完結できる体制……。グループ病院に明るい医師転職会社のCAは「特別視することは何もない。勤務時間も明確で働きやすい職場」と話す。
ここまでグループ病院全体をみてきたが、施設によって個別事情は大きく異なる。転職に際しては詳細を十分確認したい。
ともあれ、医療が変遷を続ける時代に「将来的にグループ病院は医局に代わる機能を有する場所にもなりうるのでは」(東京都・精神科)との声もある。今後のグループ病院に期待したい。

上尾中央医科グループ(AMG)

中心病院の名称 上尾中央総合病院
中心病院の病床数 753床
中心病院の所在地 埼玉県上尾市
都道府県別病院数 埼玉14、神奈川5、千葉4、東京2、茨城・山梨各1
グループ全体の収入 約1100億円
グループ全体の利益 -
グループ全体の病床数 6227床
急性期病院:11
慢性期病院 ケアミックス病院:8/療養型・回復期リハ病院:7/精神科病院:1
クリニック:9
老健:20
その他の施設:訪看21、訪介6、老人福祉施設2、グループホーム6など
海外拠点 -
グループ全体の常勤医師数 660人

グループの特徴

上尾中央総合病院

上尾中央医科グループ(AMG)は中央総合病院グループの1つで、2014年で開院50周年を迎える。埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県、茨城県、山梨県の1都5県に27病院(うち臨床研修指定病院11)、20介護老人保健施設等を展開している。「高度な医療で愛し愛される病院・施設」を理念に、地域、患者、職員から愛される病院を目標に掲げ、ハイレベル・トータルケア(保健・医療・福祉)の提供を目指している。

勤務のメリット、働きやすさなど

グループ病院ならではの福利厚生が充実。大学返済金および生活資金支援や入学・在学・留学に対する奨学金制度、学会旅費・学会休暇制度、療養費還付金制度(職員家族の受診は医療費還付)、赴任手当(引っ越し費用50万円まで)、借上住宅制度(法人契約(敷金礼金負担なし)、家賃の半分を負担(上限10万円まで))などがある。ほとんどの病院が院内保育所を併設。長年、病院運営と地域医療に貢献した医師に対して開業支援も行っている。

セコム提携病院グループ

本社の名称 セコム医療システム株式会社
本社の所在地 東京都渋谷区
都道府県別病院数 千葉6、北海道・東京・神奈川各3、兵庫2、大阪1
グループ全体の収入 約1300億円(提携病院のみ)
グループ全体の利益 -
グループ全体の病床数 約5600床
急性期病院:12
慢性期病院 ケアミックス病院:0/療養型:4/回復期リハ病院:2
クリニック:1
老健:0
その他の施設:サービス高齢者住宅4、有料老人ホーム9、訪介4、訪看32、通所介護6、薬局3
海外拠点 インドバンガロールにSAKRA World Hospital
グループ全体の常勤医師数 約900人

グループの特徴

セコム医療システム株式会社本社

北海道、東京、横浜、大阪、兵庫に急性期病院12、療養型病院4、回復期リハ病院2を展開。地域に密着し、安心安全な医療の提供に取り組む。本社機構であるセコム医療システムが、グループ病院の医療の質、経営の質、組織の質の3つを念頭に運営管理し、企業理念でもある「正しさの追求」を目指す。本社には医師、看護師など医療専門職が在籍しており、人材の教育育成方針や危機管理対応などに長期的な視点から取り組んでいる。

勤務のメリット、働きやすさなど

医師の疾患別研究活動、スタッフも含めた医療安全、感染管理勉強会など、横断的な定期的交流が盛ん。質の向上、情報の共有に努めている。幹部候補向けには病院のあるべき姿や経営について学ぶ医師リーダーシップ研修を開催。グループには研修病院から療養型、リハビリ、在宅まであり、医師個人がライフワークバランスを考慮しつつ、生涯グループ病院で働くことも可能。2014年インドに新病院を開設、今後グループ医師の海外での勤務も考慮中である。

カマチグループ

中心病院の名称 福岡和白病院
中心病院の病床数 367床
中心病院の所在地 福岡県福岡市
都道府県別病院数 福岡5、東京4、千葉3、埼玉・栃木各2、山口・佐賀・神奈川各1
グループ全体の収入 約600億円
グループ全体の利益 約100億円
グループ全体の病床数 3307床 (開設予定施設を含む)
急性期病院:6
慢性期病院 回復期リハ病院:12 (開設予定施設を含む)/急性期+回復期リハ病院:1/療養型病院:0
クリニック:3
老健:0
その他の施設:-
海外拠点 米国とカンボジアに提携医療機関
グループ全体の常勤医師数 287人 (国内留学医師8名を除く)

グループの特徴

福岡和白病院

グループ法人は社会医療法人財団池友会、一般社団法人巨樹の会、医療法人社団緑野会の3法人。九州と関東を中心に、回復期リハ病院9、急性期病院6、急性期+回復期リハ病院1を展開。2014年4月千葉県松戸市に120床、千葉市中央区に120床、更に2015年4月には東京都渋谷区に297床の新たな回復期リハ病院の開設を予定。「手には技術、頭には知識、患者さまには愛を」を基本理念に、高度医療・チーム医療・地域医療の推進を基本方針に掲げている。

勤務のメリット、働きやすさなど

学会・研究会等への積極的な参加を奨励しており、学会入会費、参加費用、交通費、宿泊費等を支給している。国際学会も支給対象である。後期研修医を対象にした国内外の留学制度(国内:1年程度、 国外:米国提携施設への短期または長期留学)がある。国内外の災害援助活動、カンボジアのアンコール小児病院への人材派遣など国際協力活動にも積極的に医療スタッフを派遣しており、希望があれば参加が可能である。

錦秀会グループ

中心病院の名称 阪和病院
中心病院の病床数 549床
中心病院の所在地 大阪府大阪市
都道府県別病院数 大阪9、兵庫1
グループ全体の収入 約430億円
グループ全体の利益 -
グループ全体の病床数 約6000床 (福祉施設を含む)
急性期病院:2
慢性期病院 ケアミックス病院:1/療養型病院:4/精神科病院:3
クリニック:1
老健:4
その他の施設:訪看2、特養4、養護2、ケアハウス3、グループホーム1など
海外拠点 -
グループ全体の常勤医師数 約160人

グループの特徴

阪和病院

大阪府を中心に6法人2財団10病院を展開。療養型病院、精神科病院に加えて、急性期病院、ケアミックス病院、老健やケアハウスなどの高齢者施設を有する。急性期病院では心臓血管、脊椎・脊髄、消化器、人工関節、PET検診をセンター化、三大疾患の検診にも力を入れる。「やさしく生命を守る」を理念に、急性期治療、療養、老健や特養における高齢者の生活支援まで、グループ内で医療・福祉サービスが完結できる体制を目指す。

勤務のメリット、働きやすさなど

急性期病院では新入院カンファレンス、隔週1度の抄読会、新薬勉強会、地域開業医との合同カンファレンスに力を入れ、消化器・循環器の国際シンポジウムも開催している。各病院に保育所があり、子育て中の女性医師の急性期病院から慢性期病院への異動、時短勤務の希望を受け入れている。勤務医のライフステージに合わせて、急性期病院や外科から慢性期病院や福祉施設へ異動の希望にも応じる。中には80歳になっても診療を続けている勤務医もいる。

武田病院グループ

中心病院の名称 武田病院
中心病院の病床数 394床
中心病院の所在地 京都府京都市
都道府県別病院数 京都9
グループ全体の収入 -
グループ全体の利益 -
グループ全体の病床数 1621床
急性期病院:7
慢性期病院 ケアミックス病院:0/療養型型・回復期リハ病院:2/精神科病院:0
クリニック:10
老健:2
その他の施設:訪看4、訪介4、特養4、軽費ホーム1、デイサービス6、ケアハウス2など
海外拠点 -
グループ全体の常勤医師数 298人

グループの特徴

武田病院

京都市を中心に急性期病院7、療養型・回復期リハ病院2を有する。「思いやりの心」にあふれるハイレベル・トータルケアを目標に、予防健診から急性期医療、回復期・慢性期医療、在宅・入所サービスに至るまでの総合的なケアサービスを提供している。医療再編が進む中で、地域に質の高い医療・介護サービスを提供する体制が維持できるよう、質の向上と組織基盤の強化を目指し、グループ病院の連携や機能の集中を進めている。

勤務のメリット、働きやすさなど

症例検討会やモーニングセミナーなどの院内勉強会や、地域開業医との定期的な勉強会が頻繁に開催されている。学会参加や発表を奨励しており、交通費等をサポートする。福利厚生では、職員・職員家族医療費免除・還付制度、優秀職員表彰制度、院内保育所がある。スタッフの相互交流の促進を目的に、バレーボール、サッカー、野球などイベントやサークル活動も盛んである。

  • グループ病院トップに聞く

グループ病院が実現する医療の質の継続的な担保

1980年代に医療分野に進出したセコムグループは、札幌・関東・関西を中心に12の急性期病院と、6つの療養型・回復期リハ病院と提携している。各病院の連携を強化し、それぞれの病院機能を高めるため、グループ全体のとりまとめを行うセコム医療システム株式会社代表取締役社長・布施達朗氏に、グループ病院の魅力を聞いた。

グループ病院だからできる質の高い医療の継続

布施氏は、グループ病院の運営メリットは「一言でいうなら、安定した企業グループによるバックアップと個人のリーダーシップに依存しない合議制により、質の高い医療の継続的な提供が可能なこと」と話す。
たとえば次世代への継承の際、個人経営や小資本の病院で経営面や医療の質の維持が課題になるケースは少なくない。その点、資本の大きな企業のバックアップによるグループ病院なら、一施設のトップが交代しても方向性がぶれずに、質の高い医療を提供し続けられる。これは職員にも地域にも大きな利点だ。加えて人材の教育育成方針や各種の危機管理対応も、長期的な視点で組織として対応できる。これからの時代の医療に重要なのは、医療の質と共に組織として高品質であること。これも、グループ病院の大きな強みなのだ。

「収益・ノルマ重視」は誤解 目指すは最高水準の医療提供

本文でも触れたように、一部の医師の間に、ともするとグループ病院に対して「収益重視でノルマが厳しい」など、過度に診療に介入・管理されそうなイメージがあるようだ。
この原因を、「グループ=フランチャイズチェーン、とのマイナスイメージの連想に起因するのではないか」と布施氏は分析する。一般にコンビニのチェーン店の経営は画一的で、収益重視の印象を受ける。しかし実際にはそんなことはないと布施氏は一蹴する。「高水準の医療を提供し、地域に貢献することなしにグループの存続はあり得ません。うちの場合では、高品質な医療の提供よりも収益が重視されることは絶対にありません」と言い切る。「ジェネリック医薬品を強要されそうという声も聞こえますが、ジェネリックに関しては、医師のこだわりのない領域で検討をお願いすることはありますが、それもあくまでエビデンスをベースにしております。ジェネリックに限らず、医師が納得できないやり方では長続きしませんから」。

医師からの意見・提案を尊重 診療+αの事業への参加も魅力

グループ病院で働く魅力を具体的にみていこう。たとえばグループ内での研修や診療情報の共有。治療に有効な情報は多くの医師が欲するもの。多くのグループ病院でDPCデータは共有されている。また、セコムグループでは毎年、施設横断で診療科別勉強会を開催している。グループ全体では症例数も豊富な上、学会では質問をためらわれる場面でも身内感覚で率直にぶつけ合うことで議論も深まる。直接診療に活かせる学びが多く、学会以上の収穫だと好評だ。顔が見える関係が構築でき、その後も長く、交流が続く。
昨年から始めた診療部長・副院長対象の医師リーダーシップ研修も評判だ。医師・専門家と開発した内容で、参加者からは「もっと早く受けたかった」との声が多数寄せられる。
また、組織風土の風通しにも気を遣う。セコムグループの企業理念は「正しさの追求」。病院運営についても、布施氏は「嘘のないオープンな病院運営が何より優先」と話す。「病院のために良かれと思っても、嘘や違法行為は絶対にNGと職員に徹底、医療倫理研修にも力を入れています」。
風通しの良い組織だからこそ実現できることとして布施氏が大切にしているのが、自由闊達に意見を出し合う風土である。「あるリハ科の医師から提案された救急医療システムの改善策に、組織をあげて着手しています。こういう提案は大歓迎です。日本の医療に閉塞感を持つ医師は少なくないようですが、現場発のアイデアで閉塞感を打破できればと、臨床で活躍しながら直面する課題を解決したいと考えている、臨床だけに収まりきらないパワーのある方を歓迎したいですね。弊社は先日インドに総合病院を開設しましたが、海外展開も引き続き推進します。新たな事業展開をともに推進する熱き医師の参加を熱望しています」(布施氏)。

布施 達朗

布施 達朗
セコム医療システム株式会社 代表取締役社長
1982年慶應義塾大学商学部卒業。日本警備保障(現セコム株式会社)入社。99年医療事業部企画部長。2002年セコム医療システム株式会社取締役。09年より現職