超高齢社会の到来とともに、ニーズが高まっている回復期リハビリテーション。
総合病院の回復期リハビリ病床や、リハビリ専門病院は増加しつつある。
現場ではどんなやりがいがあるのか。新たに参入する場合、知っておくべきことは何かをレポートする。

  • ドクター INTERVIEW

スタッフの意見を尊重しながら、チームを統括し、患者一人ひとり異なる目標の達成を目指す

患者の摂食・嚥下機能が回復することがやりがい

院内の患者を診て回る澤田石氏。この日は、言語障害のある患者の喉を、STがマッサージしていた。
院内の患者を診て回る澤田石氏。
この日は、言語障害のある患者の喉を、STがマッサージしていた。

鶴巻温泉病院(神奈川県)は、全591床のうち、206床が回復期リハビリテーション病棟だ。患者の約7割が脳卒中で、約3割は骨折など整形外科系の疾患である。
リハビリ専従医の澤田石順氏は、2002年から同院で勤務している。多岐にわたる業務のうち、「患者の摂食・嚥下機能を治すことにやりがいを感じる」と言う澤田石氏。その背景には、かつて勤務していた一般病院での経験がある。
「3日も食事をとっていないという高齢の女性が搬送されてきたことがありました。とにかく食欲がなく、そのままでは経鼻栄養か、胃ろうをせざるを得ない状況です。ちょうどその頃、摂食・嚥下リハビリの第一人者である藤島一郎先生の著書を読んでおり、そこには薬の調整や咽頭マッサージなどで状態が回復することが書かれていました。実行すると確かに患者は回復し、食欲を取り戻しました。以来、リハビリに強い関心を持つようになったのです」
ほかにも同様の処置で回復する患者がいた。これをきっかけに澤田石氏は、嚥下造影検査などさらに専門的なリハビリを行うために、鶴巻温泉病院へ転職したという。

澤田石 順

澤田石 順
医療法人社団 三喜会 鶴巻温泉病院
1989年秋田大学医学部卒業。同大学脳神経外科教室入局。医局人事でいくつかの関連病院を経験後、内科医に転身。名古屋徳洲会総合病院等の一般急性期病院での勤務を経て、2002年2月に鶴巻温泉病院に入職。

急性期と回復期リハのチーム医療は異なる

現在の勤務時間は、午前9時から午後5時30分まで。午前は病棟を回って看護師に薬の指示を出したり、多職種のスタッフ達とカンファレンスを行ったりする。新患が入院する日は、患者や家族との面談も入る。午後も回診や面談を行い、夕方の時間帯は再びカンファレンスを行うか、書類仕事に費やす。
「毎日1.2家族との面談がありますが、外来がないため、ある程度、自分で仕事の段取りを組むことができます。また、土日が休みで、オンコールもありません」
担当患者は基本的に25人以下である。病院によっては40人ほどのケースもあるが、「30人以上となると丁寧に診ることが難しくなる」というのが澤田石氏の実感だ。リハビリ専従医と言っても、直接、患者のリハビリをするわけではない。リハビリ自体は、PT(理学療法士)やOT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)などが行い、医師はその統括役を担う。
「医師によっては、リハビリスタッフに細かな指示を出しますが、私はなるべく任せるようにしています」。ここに、急性期医療との大きな違いがある。回復期リハビリはあくまでも協働遂行が核。同じチーム医療でも、急性期のそれとは異なる。
「急性期のチーム医療は、医師の主導で診断や治療を行い、周囲が合わせるように動きます。一方、回復期リハビリは、リハビリスタッフや看護師が患者一人ひとりに合った計画を立て、実行する。医師は、その内容に無理はないかなど、医学的観点から助言したり、訂正を求めたりする立場です。役割分担というより、相互作用によって回っています」
最初は戸惑う医師もいるそうだが、「自分はお医者様だとふんぞり返っていては、チームはうまく機能しません」と澤田石氏は言う。

回復期リハビリは常にポジティブな医療

  • 回復期リハビリは常にポジティブな医療
  • 回復期リハビリは常にポジティブな医療

急性期医療と回復期リハビリの違いは、もう一つ、最終的なゴール設定の考え方にもある。
「急性期医療が、医学的問題の解決という明解なゴールに向かう『問題解決指向』だとしたら、回復期リハビリは『目標達成指向』。医学的な問題をたくさん持った患者が対象ですから、すべて解決することは現実的ではありません。医学的問題に気を取られると、厳しい食事制限など、何らかの無理を強いることになりがちです。それよりも、患者ごとのな目標を達成することを目指す医療なのです」
患者によって、身の回りのことだけできればいいというケースもあれば、ゴルフや旅行に行きたいというケースもある。
それぞれの希望や身体状況を踏まえて、具体的かつ個別の目標をたてる。
「私は『QOL』ではなく『EOL』(Enjoyment of Life)と言っていますが、何よりも患者が生活を楽しめるようになることが重要だと考えています。回復期リハビリは、常にポジティブな医療です」
急性期医療と回復期リハビリには様々な違いがあるが、「急性期で高齢者を診ていた医師であれば、さほど違和感を持たないでしょう」と澤田石氏は言う。スタッフと協働しながら患者ごとの個別目標を目指すという、新たなキャリアがここにある。

回復期リハビリは常にポジティブな医療

  • 業界 REPORT

超高齢化社会に向けて病床数は着実に増加するも、専門医の不足は続き、今もって売り手市場

病床数・専門医数ともに西高東低の傾向

2000年に新設された回復期リハビリ病棟では、脳血管疾患または大腿骨頸部骨折などの患者に対し、ADLの回復や家庭復帰を目的としたリハビリを集中的に行う。病床数は着々と増え、回復期リハビリテーション病棟協会の調べによると、全国で約6万8000床にのぼる(図1)。総合病院の一部としての回復期リハビリ病棟だけでなく、最近では回復期リハビリを専門とする医療法人も増えてきている。
ただ、地域間格差の問題は依然残る。人口10万人あたりの病床数を都道府県別にみると、九州・四国では平均超である一方、関東・東北では全国平均を下回る県が多く、中でも茨城県や神奈川県は少ない(図2)。
この傾向は、専門医数にも共通している。同協会データで、人口10万人あたりのリハビリ科専門医(日本リハビリテーション医学会認定)の数を都道府県別にみると、徳島県、香川県、高知県、熊本県、鹿児島県などでは比較的多く、福島県、茨城県、埼玉県、岐阜県などでは少ない。
ただ、そもそもリハビリ科専門医は絶対数が少なく、全国にわずか1930名しかいない。基本領域18専門医制度のうち、臨床検査専門医に次いで2番目に少ない(2013年、日本専門医制評価・認定機構調べ)。専門医を配置すると診療報酬が上がるため、病院側は切望するところだ。 リハビリ専門医にとっては、まだまだ売手市場と言える。

病床数・専門医数ともに西高東低の傾向

整形外科系の患者が増え相対的に脳卒中患者が減少

回復期リハビリ病棟の入院患者層は、この10年あまりで徐々に変化してきた。同病棟制度の発足当初は、70%超が脳血管系の患者だったが、12年には47 ・6%に(図3)。整形外科系の患者が実数・割合ともに増加し、廃用症候群の患者も微増したため、相対的に脳血管系患者の割合が減少したのだ。 多様な疾患に対応できる医師が求められている。
なお、回復期リハビリ病棟は入院と在宅療養の橋渡し的な意味合いが強いため、介護保険サービス資源を併設しているケースも多い(図4)。訪問リハビリ、通所リハビリを実施したり、ケアマネジャーなどを雇用したりして、介護事業を展開している。2008年からは、診療報酬上、高い在宅復帰率を達成すると、高い点数を得られる仕組みになっていることもあり、各医療機関では退院後の支援に力を入れているのだ。 今後、地域包括ケアの中心を担う病院も増加することが予想される。

整形外科系の患者が増え相対的に脳卒中患者が減少

整形外科系の患者が増え相対的に脳卒中患者が減少

整形外科系の患者が増え相対的に脳卒中患者が減少

回復期リハビリに参入する医師は、急性期を経験したベテランか在宅を見据えた若手医師に二極化している

リハビリ専門病院は未経験医師を育てる基盤がある

病床数の増加に伴って、回復期リハビリ病棟の医師募集案件も増えている。各病院では、一体どのような医師を求めているのだろうか。医師転職会社のキャリアアドバイザー・佐藤考氏は、こう説明する。
「もともとリハビリに携わっていた医師はもちろん、脳神経外科、整形外科、神経内科からの転科は非常に歓迎されます。これらは回復期リハビリが対象とする患者層と近く、即戦力になるためです。一方で、大規模なリハビリ専門病院では、あえて未経験の医師を採用することもあります。 院内で一からリハビリを教える基盤が整っているからです」
昨今、回復期リハビリに参入する医師の年齢は二極化しているという。一方は、急性期で十分に経験を積み、退院後の患者を診たいと考える40代以上の医師。 もう一方は、国の医療政策に合わせてキャリアプランを考える若手医師だ。将来、在宅医になることを念頭において回復期リハビリに参入するケースもある。
「ある医師は『在宅医になってもリハビリの知識がなくては治療がうまく進まないかもしれない。今から回復期リハビリを勉強したい』と話していました。 15年先、20年先を見据えて、需要の高まる領域でキャリアを構築しようという考え方です」

オン・オフが明確で時間あたりの報酬も高い

回復期リハビリへの転職が成功するか否かは、医師のコミュニケーション力によるところが大きい。
「急性期と異なり、一刻を争う医療ではなく、これから社会復帰を目指して頑張ろうという場です。患者やその家族と気さくに会話ができる医師は、転職後もいきいきと仕事をしていることが多いようです」また、リハビリスタッフと同じ目線に立って、チーム医療を円滑に運営する能力も問われる。
「外科や救急のチーム医療とは、180度違うと言って過言ではありません。外科系は医師のリーダーシップでうまく回りますが、回復期リハビリはPTやOTが中心で、医師は統括役です。そこのギャップを受け入れられるかどうかが、転職の際には重要です」
リハビリスタッフは20代の若者が多い。 そうした世代とスムーズに会話できることも、入職後の仕事に影響する。病院によっては、職員同士のコミュニケーションを円滑にする工夫を施している。
「ある病院のユニフォームは、医師でも白衣ではなく、ポロシャツでした。『医師もリハビリスタッフも分け隔てないから』という院長の意向によるものです。院内の雰囲気は明るく、医師もスタッフも楽しげな表情で、うまく回っているようでした」
また、回復期リハビリ病棟は、医師のワークライフバランスを保ちやすいのも魅力の一つだ。
「回復期はあまり急変がないため、当直といってもいわゆる寝当直が多く、オンコールも少な目です。オン・オフが明確な職場ですから、子育て中の医師にも向いています。 報酬に関しては、一般内科と同程度です。前の職種によってはダウンするかもしれませんが、自由な時間が増える分、時間あたりの報酬は高くなることが多いようです」