平成25年版高齢社会白書(内閣府)によると、団塊の世代が75歳以上に達する2025年には、全人口の3割が65歳以上、全人口の18%が75歳以上という構成比になる。

この現実に対し、平成26年度診療報酬改定の基本的な考え方でも、「高度急性期医療よりも地域に密着した回復期の医療ニーズが増加すると見込まれる」と指摘。入院早期からのリハビリや、急性期を脱した患者(亜急性期)の病床の整備、長期療養患者の受け皿の確保など、地域に密着した病床の大幅増を課題としている。まさに、急性期以降を支えていく施設が、これからの日本の医療の主軸になっていくのだ。

現在、40代後半から50代半ばで急性期医療から回復期・慢性期医療にキャリアチェンジする医師が多い。求人は65歳半ばまであり、現場では80代の現役医師もいるなど、この領域は長く働けることも魅力だ。社会的要請が高く、患者の急変や救急が比較的少なくワークライフバランスが取りやすい働き方として、今後注目されるキャリアの選択肢の一つになることだろう。

患者の療養を支える施設の特徴

回復期リハビリテーション病院

回復期リハビリテーション病棟入院料の届出をしている医療機関数は1,219(病床合計6万4,903/2012年7月現在)。理学療法士、作業療法士を配置し、主として脳血管疾患、大腿骨頸部骨折などの患者を対象とするほか、心臓や呼吸器の分野、神経難病などを対象にした、専門的なリハビリテーションを行う施設もある。★待遇は施設により幅が大きく、年俸相場は1,000~1,800万円。求人数は増加傾向にある。

療養型病院

長期療養を必要とする患者を入院させるための療養病床を有する病院数は3,892(病床合計32万8,888/2012年10月現在)。厚生労働省の医療施設経営安定化推進事業では「療養病床が全体の80%以上を占める病院」を療養型病院と定義しており、民間病院(医療法人)の2割程度が相当する。★年俸相場は1,300~1,800万円。求人数は横ばい傾向。

ケアミックス病院

医療法で規定する一般病床(主に急性期対応)と療養病床(主に慢性期対応)または精神病床を併せ持つ病院を、一般に「ケアミックス病院」と呼ぶ。約5,700ある民間病院(医療法人)の3割程度、約1,000ある自治体病院の2割程度が相当すると推測される。幅広い疾患・患者に対応し、特に地方では欠かせない存在となっている。★療養病棟担当で年俸相場は1,300~1,800万円。求人数は横ばい傾向。

精神科単科病院

精神病床のみを有する精神科病院(精神科単科病院)数は1,071(病床合計34万2,194/2012年10月現在)。入院患者の疾患は、かつては統合失調症が中心だったが、近年では高齢者の認知症を含む器質性精神障害が増加。他にも幅広い精神疾患に対応している施設も少なくない。★認知症など主に慢性疾患中心の施設の年俸相場は1,300~1,800万円。ほとんどの施設で精神保健指定医の資格が前提となる。

今後の病床分類の流れ

我が国では高齢化が急速に進み、入院患者数の大幅増が予想されるなか、各病院の病床機能を明確にしたうえで、それぞれの連携強化が必須の状況となっている。そのため、厚生労働省は医療法などを改正し、2014年度中にも「病床機能報告制度」を創設する意向だ。同制度は、医療法で規定する一般病床または療養病床を有している施設を対象に、それらの病床の医療機能を(1)高度急性期、(2)急性期、(3)回復期、(4)慢性期の4つに分けたうえで、各施設に病床機能の現状と将来の予定について都道府県知事に報告させるというもの。その報告内容を踏まえて、都道府県では「地域医療ビジョン」を策定する。

現状、一般病床は急性期だけに使われていると思われがちだが、実際には慢性期の患者にも多く使われている。この制度が創設されると、「急性期」も再定義されることになると同時に回復期や慢性期の患者を受け入れられる施設・病床も明確になり、効率的な医療の提供体制構築が期待できる。

  • ケアミックス病院

脳神経外科から療養型ケアミックスの内科医へ 新たな学びに充実感を得ながら患者と向き合う

大学医局に所属し、脳神経外科医として1,000件以上の手術にあたってきた井出勝久氏が、医局を離れたのは4年前のことだ。配置転換で遠方の病院を打診されたことをきっかけに、職を辞した。時をおかずして、かつての仕事仲間の看護部長に声をかけられたのが、一般・療養・認知症・ホスピスの各病棟をもつ、日の出ヶ丘病院だった。「清潔感のある施設で、スタッフがきびきびとしているのが第一印象だった。理事長や院長との面談で、診療に対する考え方や人柄にひかれて決めた」という井出氏は、現在、一般内科と療養型の2つの病棟を担当する。

脳神経外科の領域も患者の大半は高齢者だ。術後の合併症なども診てきた井出氏は内科診療にも抵抗はなかった。「外科から内科にかわって一番大きかったのは、手術をしなくていいことです。手術は、常に合併症などのリスクと背中合わせでしたから。今は内科的なことや新薬について、書物やインターネットで調べたり、周囲の医師から学んだり、勉強することがたくさんあるから面白い」という。

井出氏のように高齢者の全身を診る臨床能力があり、意欲的に知識を吸収する力があれば、転科でもキャリアチェンジはスムーズだ。実際、高血圧や糖尿病なども「関心をもって学び診療に活かすと、高齢でも治療の効果がでる方もいるのでやりがいがあります」と、新たな領域での充実感を語ってくれた。

井出 勝久

井出 勝久
医療法人社団崎陽会 日の出ヶ丘病院(東京都・西多摩郡)内科医
1983年東京大学医学部卒業、脳神経外科医として東京都立墨東病院、 寺岡記念病院、東京大学医学部附属病院、森山記念病院を経て、90年富士脳障害研究所附属病院、93年東京都立神経病院、2002年東京都立府中病院(現多摩総合医療センター)。10年より日の出ヶ丘病院
1日の診療スケジュール

午前

申し送り。病棟回診(常時20~30人の患者を担当)。新患受け入れ。

午後

検査、書類作成、カンファレンス、面談などを行いその間に入退院の対応。
週4日勤務で、研究日には脳外科クリニックの外来に勤務

  • 精神科単科病院

チームで患者の人生そのものを一緒に見ていく、精神科ならではの関わり方にやりがいを感じて

南埼玉病院は、230床を有する精神科の単科病院だ。長根亜紀子氏は「初診時には中学生だった患者さんが、10年かかってよくなるなど、初期からずっとその方の生活や人生にふれて、一緒に考えていける点は、精神科ならではのやりがいです」と語る。

「胸が苦しい」のは、身体なのか精神状態なのか、あるいは身体疾患の影響で精神に不調をきたしているのか。理路整然とは話せないこともある患者の声を聞き取り、一つ一つの可能性を検証し、的確に診断していく。その意味では、精神科は一般内科や外科など体全体のことを学んできた医師にとっても、経験値を活かせる新たに挑戦しがいのある領域といえるだろう。

入院日数に制限がある急性期の病院と異なり、精神科病院の場合、長期的な視点にたったフォローが可能なので医師もスタッフも、長期にわたる介入を通じて患者の地域復帰を支えていくという意識が強い。「服薬ひとつでもチームで話し合い、患者さんのアドヒアランスを良好に維持し、食事の管理や作業療法などさまざまなケアで退院後の生活につながる環境づくりを考えています。統合失調症などは薬で治る疾患になってきていますが、その後の生活につながる受け皿や社会的な体制は、いまだ整備されていません。こうした課題に対しても、向き合っていきたいですね」。

長根 亜紀子

長根 亜紀子
医療法人社団俊睿会 南埼玉病院(埼玉県・越谷市)精神科医
1999年順天堂大学医学部卒業、同年より東京都立墨東病院で内科研修を行ったのち、2001年順天堂大学精神医学教室入局。04年いずみクリニック院長就任、同時に南埼玉病院の非常勤医として病棟を担当。精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医
1日の診療スケジュール

午前

申し送り、外来、入院受け入れ。

午後

病棟回診、カンファレンス、面談など。日によって患者の作業療法やデイケアにも参加。
週2日非常勤勤務。同施設は院内保育所があり、非常勤の女医も多い。

  • ケアミックス病院

高齢者の急性期を診て、その後の生活も考える 現場の医師として介護と医療をつなぐ

大学病院で外来を受け持つとともに教官として講義を持っていた久田哲也氏は、専門領域を深めると同時に、医療と福祉の問題に関心をもってきた。「介護と医療をつなぐところをもっと学びたい」とケアマネジャーの資格も取得している久田氏が、一般病棟59床と療養病棟140床を持つ所沢第一病院に来たのは、1年前のことだ。

久田氏は、救急で搬送される高齢者など、急性期の患者を診ながら、長引くようであれば療養病棟への橋渡しの役割も担う。「家庭環境やご本人の状態によって家で診られない時に、退院後どこで過ごしてもらうのか。焦らず探してもらえるよう、看護師やケアマネ、相談員らと協働し、病院に逆戻りせずにすむ治療と療養を支えたい」と久田氏。

同院は主治医制のため、自身が受け入れた患者は可能な限り、療養病棟に移っても担当し一貫して診ていく。「加齢には勝てませんので、病棟でお亡くなりになる方もいます。そんなときは気持ちも沈みますが、患者さんや家族が安心できる状態や環境が整い、退院していくのを見守れることが、ケアミックスの良さであり、喜びです」。

ケアミックスで求められるのは、まさに「自分の価値観や医療の価値だけを押し付けるのではなく、聞くときはじっくり聞き、患者や家族の気持ちに寄り添いたい」という久田氏のような姿勢だろう。

久田 哲也

久田 哲也
医療法人社団秀栄会 所沢第一病院(埼玉県・所沢市)循環器内科部長
1995年防衛医科大学校卒業、初任実務研修、奥尻島勤務ののち、専門研修を経て、2002年より東京大学大学院医科学研究所。防衛医大公衆衛生学講座助教。12年前田病院、13年より所沢第一病院。
1日の診療スケジュール

月曜・火曜

午前外来、午後入院患者

水曜

防衛医大にて外来。

木曜・金曜

病棟。各日程の中でスタッフとのカンファレンス、患者の面談など。
連携施設からの搬送も極力受け入れるため、救急対応を優先しながら上記の診療にあたる。

  • 回復期リハビリテーション病院

全職種のスタッフと同じ頂上を目指しながら、患者の回復過程を診られることに医師としての喜び

脳神経内科を専攻し大学医局に所属していた藤田聡志氏は、急性期の病院で治療に当たりながらも、その後患者がどうなっているのかわからない、というもどかしさを感じていた。「その先まで見守る医療に携わりたい」と医局を離れることを決意し、医師転職会社に登録。総合リハビリテーション病院として回復期リハビリテーション病棟を含む591床をもつ鶴巻温泉病院に職を得た。

今、藤田氏は40代から100歳までの入院患者を受け持ち、廃用症候群への対応などリハビリの視点で全身管理にあたり脳だけでなく筋肉まで診ている。急性期では知りえなかった「その後」を見守り、回復を支援する日々だ。

回復期リハは、看護師やリハビリスタッフ、栄養士などすべての職種の人によるチーム医療が基本だ。治療内容やどんなリハビリをいつまでの計画で行い、退院につなげていくのか、医師として方向性を明確にすると同時に、お互いをチームの一員として尊重できる姿勢が求められる。「疑問があればリハビリスタッフにも質問し、現場から学ぶことも多い」と語る藤田氏は、患者や家族だけでなく現場スタッフからの信頼も厚い。「重症患者さんが歩けるようになり、経鼻胃管が外れ食べられるようになる。、そうした一つ一つのステップを、ともに喜びあえる」ことにやりがいを感じている。

藤田 聡志

藤田 聡志
医療法人社団三喜会 鶴巻温泉病院(神奈川県・秦野市)神経内科医
2007年日本大学医学部卒業、同年より東大和病院で初期研修ののち、09年順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科専攻。11年1月鶴巻温泉病院。リハビリ認定医。
1日の診療スケジュール

午前

約30人の担当患者の回診。

午後

カンファレンス、面談(2組×30分)、検査や入退院手続き、会議、書類作成など。昼休みも患者のもとへ出向き、摂食場面を観察して嚥下状態を知るようにするなど、精力的に動いている。

  • ケアミックス病院

病気だけを診るのではなく、ひとりの人間として 患者さんを診る医療を提供していきたい

三次救急まである病院で外科医として研鑽を積んでいた皆川智海氏は、父親の逝去により、皆川病院の院長に就任した。2007年のことだ。

一般病棟32床、療養病棟40床をもつ皆川病院は、一次・二次救急に応える地域の医療機関であると同時に、急性期を脱した患者がその後の医療を受けられる場でもある。経営的に考えれば、慢性期の病院であっても、3カ月を過ぎれば退院や転院を推し進めるのが常だが、「在宅医療はだれもが受けられるわけではありません。現実には、高齢者夫婦だったり、同居家族が日中家にいないなど、それぞれの事情で家にも帰れない、施設にも行けない人がたくさんいます。まだ入院が必要な、そうした患者さんに、いかに人間らしく過ごしてもらえるかを大事にしたい」と皆川氏。

その理念がスタッフにも浸透しているのだろう。院内の随所でさまざまなスタッフが患者に声をかける姿が見受けられた。薬剤師も検査技師も医事課も、お互いにコミュニケーションをとりやすい規模だから、何かにつけて相談できるし、ひとりひとりの患者についても情報共有がしやすいのだという。

慢性期医療で求められる医療人とはという問いに、「病気だけを診るのではなく、ひとりの人間として患者さんを診てくださる医師と、ともに働いていきたいですね」と語ってくれた。

皆川 智海

皆川 智海
医療法人社団隆成会 皆川病院(栃木県・足利市)病院長
1993年順天堂大学医学部卒業、同年より順天堂大学医学部附属順天堂医院にて初期研修ののち、同院、肝・胆・膵外科勤務。2005年総合太田病院(現・太田記念病院)外科。07年より皆川病院院長。
1日の診療スケジュール

午前

外来

午後

病棟。曜日によって午前と午後をほかの医師と交代。
随時、救急搬送の受け入れ。週1日急性期病院の消化器科で外来診療。