• 療養型病院

子育て中でも常勤勤務が可能
積極的な治療も増加傾向、専門性を活かせる

医療法人社団誠馨会 総泉病院 (千葉県千葉市)

急性期や回復期退院後、長期に療養が必要な患者さんの受け入れ先となっている療養型病院。積極的に治療しなければ悪化してしまう入院患者も多く、医師としてやりがいが感じられる職場であることはあまり知られていない。子育てと常勤勤務を両立させている医療法人社団誠馨会総泉病院神経内科・谷もも氏に、療養型病院の勤務の実際を伺った。

療養型病院だからこそ子育てと常勤の両立ができる

療養型病院だからこそ子育てと常勤の両立ができる

神経内科専門医である谷もも氏(37)が、千葉県千葉市の療養型病院、医療法人社団誠馨会総泉病院の常勤になったのは2011年。現在3歳児の子育て中だ。大学院修了の春に出産した時、子育てしながら仕事を続けるにはどうしたらよいかを相談したのが、大学院在学中から非常勤を務めていた同院の大坊昌史院長だった。幼児期は子供が発熱すると保育園から連れて帰るように電話が入るため、突発的な早退をある程度認めてくれる職場でなければ常勤は難しい。現に谷氏の同級生の女性医師で、子育てしながら常勤を続けている例はほとんどないという。
谷氏の非常勤での働きぶりに絶大な信頼を寄せていた大坊氏から、少々であれば早退にも柔軟に対応するとの提案があったことと、偶然にも谷氏の夫の勤務先が同院の近くであり、また公立保育園が同院から10分程度の場所にあったことなどが後押しとなって、谷氏は総泉病院の常勤となった。
朝、子供を保育園に預けて出勤、神経内科医として病院業務をこなし、延長保育に間に合うよう夕方6時前に退勤する毎日。同院では残業、当直、オンコールがない。
子育てと常勤の両立に、女医仲間からは驚かれます。神経難病の患者さんも数十名おられ、専門医のキャリアも十分に活かせていて、現在の私にとっては理想的です。療養型病院は入院期間が長期ですから、回転の速い急性期病院とは違って、時間をかけて親身に患者さんを診療できるところにも、大きなやりがいを感じています」と、谷氏は笑顔を見せる。無理なく、子育てとやりがいのある仕事が両立できていることに感謝しているという。

谷 もも

谷 もも
総泉病院 神経内科
2002年順天堂大学医学部卒、脳神経内科入局。11年から現職。
神経内科専門医。

大坊 昌史

大坊 昌史
総泉病院 院長
1979年順天堂大学医学部卒、消化器・一般外科入局。91年加曾利病院(現千葉中央メディカルセンター)外科部長、同院副院長を経て、2007年総泉病院副院長、08年より現職。

主な業務内容

慢性期だが積極的な治療が必要なケースが少なくない

療養型病院には、急性期病院や回復期リハビリテーション病院を経たものの在宅での療養が難しい方、神経難病で長期入院している方、がん末期などでターミナル期を迎えている方などが入院している。勤務医の仕事は入院患者の全身管理が中心だが、積極的な治療が必要なケースも少なくない。
「10年以上入院のケースもありますが、最近は徐々に病状が重い方が増えており、結果的に入院期間は短縮化の傾向にあります。早め早めに対応しなければ悪化するので、勤務医にはジェネラリストとしてのしっかりとした臨床能力が求められます。入院患者が対象ですが、様々な疾患の患者さんを診療する開業医の仕事にも近いものがあると、個人的には感じています」と、大坊氏は話す。

最新求人情報

求人は横ばい。求人難のため勤務条件は交渉の余地あり

「療養型病院の医師求人は横ばい」と話すのは、医師転職会社の担当者。療養型病院の側からすると、難しい状況が続いている。
「療養型病院では、勤務の実情が一般の勤務医に知られていないこともあり、応募が少なく、なかなか紹介できない病院が少なくありません。そのため、年収や勤務条件に交渉の余地があります。急性期病院で卒後10年未満なら年収は一千万円台の前半から半ばくらいに落ち着く施設が多いのですが、療養型施設の中には、急性期の病院の相場以上で交渉がまとまるケースもあります」。
収入以外にも、交渉可能な勤務条件として、総泉病院では「子育て中の突発的な早退に柔軟に対応可能」や「産休・育休後の復帰が可能」などがある。もちろん、勤務条件で便宜をはかってでも勤務してほしいと信頼を寄せられるだけの実力や熱意、病院に貢献する姿勢が勤務医側に求められるのはいうまでもない。
全体的に療養型病院の勤務はゆったりしているところが多く、総泉病院のように当直は非常勤医師が担当したり、オンコールには常勤医師がかかわらない体制の施設も少なくない。療養型病院は、勤務条件に融通が利かせやすい側面があるのは間違いない。

向いている医師の条件

全身管理に加えて専門性も活かせる。患者・家族への丁寧な説明も不可欠

急性期病院のハードな勤務をリタイヤして、定時勤務が可能で当直やオンコールがない病院が多い療養型病院へ転職する勤務医は少なくない。40代後半から50代は自身のライフスタイルを見つめ直し、キャリアチェンジをはかる時期といえそうだ。
転職後、外科系専門医の資格を維持したいと、研究日に急性期病院で非常勤を務める外科医もいる。それができるのも療養型病院の勤務に余裕があるからだろう。
療養型病院など慢性期の病院は、急性期に比較して専門領域のやりがいに欠けるとの先入観をもたれることもあるが、実際には、入院患者の疾患が多領域にわたっているため、高齢者の全身を診る臨床能力に加えて、様々な専門領域の医師がキャリアを活かせる場面は多い。
循環器系、呼吸器系、消化器系疾患を抱える患者さんも多いので、これらの領域の専門医であれば、十分にキャリアを活かせるのではないかと感じています」と谷氏は話す。
求められる医療は、全身管理の延長線上が中心であり、急性期の医療とは異なるものの、病状が重い患者には、専門領域のスキルを発揮できる場面も多々ある。
療養型病院の患者さんや家族は高齢者が多いため、勤務医には治療方針や処置の内容について、わかりやすく根気強い説明を行う姿勢が求められる。また、当直の非常勤医師への申し送りも、とくに丁寧に行うことが求められる。

大坊 昌史

病院情報
医療法人社団誠馨会総泉病院/千葉県千葉市の療養型病院。
353床(医療病棟253床/介護病棟100床)すべてが療養型病床群。
年内に介護病棟を医療病棟に転換予定。常勤医師数8人。
内科・外科・整形外科・リハビリテーション科・神経内科・もの忘れ外来・嚥下障害。長期療養が必要な患者さんを対象に、病床面積や廊下を広くとり、談話室などを設置して長期療養にふさわしい環境を整備、医療保険と介護保険の両方で運営されている。
  • 回復期リハビリテーション病院

専門を活かしながら患者を退院まで見届けられる
ほどよいワークライフバランスとやりがいが両立

IMSグループ 医療法人三愛会 埼玉みさと総合リハビリテーション病院 (埼玉県三郷市)

急性期の後、症状が安定する回復期には社会復帰や在宅復帰を目指して集中的にリハビリテーション(以下、リハ)を行うのが、回復期リハビリテーション(以下、回リハ)の役割。専門病院もあれば、病床の一部を回リハ専用にしている施設もある。今回は埼玉県の医療法人三愛会埼玉みさと総合リハビリテーション病院勤務の若手医師らに回リハ病院で働く姿とやりがいを伺った。満足度は非常に高いことが伝わってきた。

スーパーウーマンを目指すより仕事と家庭のバランスをとる

スーパーウーマンを目指すより仕事と家庭のバランスをとる

埼玉県三郷市の埼玉みさと総合リハビリテーション病院に、神経内科専門医の原ゆかり氏(仮名・42)が転職したのは、2002年のこと。関連病院に勤務していた原氏は、大学から博士号取得を目指して大学病院に戻ることを説得されていた。
「当時結婚したばかりで、非常に悩み、夫とも何度も話し合いました。医学にまい進したい気持ちはありながらも、何時に帰れるのかわからない長時間勤務の生活に再び戻る気にはなれませんでした。私は、そういう生活を乗り越えてキャリアを重ねるスーパーウーマンにはなれない、と悟りました」
大学医局を離れる決断をした原氏は、医師転職会社に勤務時間がはっきりしている転職先の紹介を依頼。紹介されたのが現在の施設だった。同院の場合、当直、オンコール、残業が一切ない。朝9時に出勤、午後6時に退勤する生活は入職以来11年間、変わっていないという。
「定時に帰れますので、よいペースで仕事ができています。専門領域である神経内科の患者さんも多く、スキルが活かせます。回リハ病院勤務なら仕事と家庭の時間のやりくりが容易なことが周知されたら、転職希望者が殺到するのではないかと思います(笑)」。原氏は現在、内科医長として活躍している。

原 ゆかり

原 ゆかり氏 (仮名)
埼玉みさと総合リハビリテーション病院 内科医長
1995年国立大学医学部卒、老年病科に入局。
2000年関連病院勤務を経て、02年医師転職会社の紹介により、同院に転職。08年から医長。
神経内科専門医、リハビリテーション認定医。

家族との時間や将来を考え回リハ病院へ転職

家族との時間や将来を考え回リハ病院へ転職

同院に勤務する脳神経外科医の大供孝氏(45)が大学医局を辞し、同院に転職したのは40歳。ワークライフバランスを考え始めたころだった。
「週1回の当直は問題ありませんでしたが、定時帰宅は不可能な毎日。このままでは永久に育児に参加できないと漠然と感じていました」。
このころは、脳神経外科医としての将来を考え、手術中心の脳神経外科医を続けるか別の道に進むかを迷い始めた時期でもあった。40歳になっても後輩が入ってこない組織にいる限界も感じていた。脳神経外科医のキャリアに未練を残しつつも、医師転職会社の紹介で同院に転職した。
同院は脳卒中患者のリハを特徴とする施設ゆえ、大供氏は専門知識や経験を活かして活躍中だ。現在は勤務5年目。ワークライフバランスは圧倒的に改善された。急性期の施設では知りえなかった患者さんの「その後」も勉強になるという。
同院は日本リハビリテーション医学会研修施設であることから、大供氏はリハの認定医も取得した。今後は専門医の取得を目指す。

大供 孝

大供 孝
埼玉みさと総合リハビリテーション病院
1993年宮崎医科大学卒、順天堂大学脳神経外科医局に入局。
公益財団法人東京都保健医療公社東部地域病院などを経て、医師転職会社の紹介で同院に転職。
脳神経外科専門医、リハビリテーション認定医。

主な業務内容

野球なら7回からゲームセットまで
在宅復帰を見届けられる病院

「回リハの魅力は、患者さんの在宅復帰を見届けられること」と話すのは、同院のリハビリテーション指導医・加藤剛氏。
「急性期病院では手術をしても、そのあと患者さんがどうなったのか、実はわからないという不全感を抱いている勤務医は少なくないのではないでしょうか。回リハ病院は、急性期医療のあと、3~6ヵ月の入院期間で集中的なリハビリを実施し、患者さんが病院から家に帰る瞬間を見ることができます。野球に例えれば7回からゲームの結末までを見届けられる。ここに、医師として満足感を感じます」と話す。
回リハ病院の場合、リハ自体はリハ医やOT・PT・STなどのリハスタッフが担当するが、リハ以外の診療科の医師も多数勤務している。容態が落ち着いた患者さんがリハに集中できるようバックアップするために、元の疾患に詳しく、全身管理も担う医師の存在は欠かせない。

加藤 剛

加藤 剛
埼玉みさと総合リハビリテーション病院 リハビリテーション科
1996年千葉大学医学部卒、同大整形外科医局入局。
2003年千葉県千葉リハビリテーションセンターを経て、08年より現職。 リハビリテーション指導医。

最新求人情報

求人は横ばい。今後は増加?
勤続年数や実績で年収アップも

回リハ病院の求人状況は長く横ばいだったが、ここ2~3年、東京都近辺で、いくつもの回リハ病院の新規開設準備が進んでいる。人口に対する回リハの病床数は西高東低といわれており、以前から東日本、特に東京都内では十分ではないとの指摘があった。現時点の求人は横ばいだが、これから求人が増加に転じる可能性は高いと考えられる。
年収については「急性期病院のように卒後年数で金額がかっちり決まる施設はどちらかというと少ないようだ」と、医師転職会社の担当者は話す。
「施設にもよりますが、年収と卒年の相関は、急性期病院ほど厳密ではありません。ゆるやかに運用しているところが多いようです。かといって、老健のように年収の相場が一律に決まっているわけではなく、勤続年数や実績が評価されれば、年収アップが期待できる面もあります。交渉の余地はあります」

向いている医師の条件

リハの重要性を理解しリハスタッフと対等に接する

同院院長の黒木副武氏は、回リハ病院はどの診療科の医師でも勤務可能と話す。
「リハの重要性を理解し、リハに関心を持ってもらえるなら、勤務条件はクリアです。施設により差はありますが、我々の病院のように、当直・土日夜間のオンコール・残業がほとんどない回リハ病院は少なくありません。多忙を極める急性期病院からの転職を考える医師、産休育休から復帰を考える女性医師などに、非常に向いていると思います」と続ける。「男性医師でも、子煩悩な人が多いかもしれません(笑)」。
先の大供氏は、リハスタッフらとコミュニケーションがとれる医師であることが大切だと話している。
「転職してきて最初に感じたのは、急性期病院と、ここでのチーム医療の中の医師とは、位置づけが異なることでした。脳神経外科医としてチームの上から指示を出すのが当たり前でしたが、回リハ病院のリハの主役は、リハスタッフや看護師です。医師として全体を統括する責任はあると同時に、医師が独善的にならないようにしなければ、と肝に銘じました」
リハビリテーション指導医の加藤氏も指摘する。「急性期病院から転職してきた医師の中には、自分がチーム医療の上に立つイメージから抜け出せず、他の医師やスタッフの意見を受けつけない方もいます。医師はチームのまとめ役ですが、チームの一員であり、メンバーと対等な存在であると意識を変える必要があります」。このツボをおさえれば、あとは非常にスムーズだと言う。

黒木 副武

黒木 副武
埼玉みさと総合リハビリテーション病院 院長
1981年日本医科大学卒、同大学第2内科医局入局。新松戸中央総合病院副院長などを経て、2003年より現職。
日本神経学会専門医、日本糖尿病学会専門医、研修指導医、日本老年医学会認定老年病専門医、日本内科学会認定医。

病院情報

病院情報
医療法人三愛会埼玉みさと総合リハビリテーション病院/埼玉県三郷市の回リハ病院(175床)。
常勤医師数8人。
リハビリテーション科・内科・神経内科。
2003年開設。
脳血管疾患および大腿骨頸部骨折で急性期病院を退院した患者を対象に、ADL(日常生活動作)の訓練による廃用症候群の防止と在宅復帰のためのリハビリテーション医療を提供している。
3~6ヶ月入院後の在宅復帰率は8割で、全国的にも高い数字である。
  • 在宅医療

専門施設に加え、在宅医療を新設・拡充する病院も。
拡大する領域で、急性期とは異なるやりがいを得る

社会医療法人社団三思会 東名厚木病院 (神奈川県厚木市)

在宅医療専門の施設が増えるにつれて、在宅医療に従事する医師も増えている。最近では急性期を担う病院が在宅医療部門を新設・拡充する例も増えてきた。在院日数短縮の流れの中で、可能な限り早期に患者を自宅に戻す動きがすすむ一方、退院後も在宅医療でフォローすることができる点が魅力だ。病院の在宅部門では、外来や病棟勤務の傍ら在宅医療の経験を積むことができるため、はじめて在宅に従事する際にハードルが低いというメリットがある。今回は、約30年前から在宅医療に取り組んでいる急性期病院、東名厚木病院で、乳腺外科と在宅医療に従事している日野浩司氏に、病院の在宅医療部門の魅力とやりがいについて伺った。

社会医療法人社団三思会東名厚木病院は、1981年の病院開院当初から在宅医療に取り組んできた。同院の勤務医30人強のうち在宅医療部門を担当しているのは4人。全員50代の外科医で、1人は在宅に専任、3人は病院勤務と在宅医療の両方を担当している。

在宅患者の即入院が可能
在宅部門の勤務医間で相互支援も

在宅患者の即入院が可能 在宅部門の勤務医間で相互支援も

がんの末期の患者さんを対象にした在宅ターミナルケアを専門にしているのが、医務部長で乳腺外科の日野浩司氏(53)である。週1回手術日があり、午前中は外来、午後は病棟回診と急性期病院の業務もこなしながら在宅医療にかかわっている。
定期的な往診日は木曜日の午後。1日2件程度往診する。ターミナルケアでは、患者や患者家族とのコミュニケーションに最低30分以上の時間が必要だ。じっくり話を聞くことが大きな意味をもつ。定期的な往診以外に24時間オンコールによる緊急の呼び出しがある。週平均で2~3回連絡を受け、夜間の緊急往診に出かける。

在宅患者の即入院が可能 在宅部門の勤務医間で相互支援も
在宅の患者宅は病院からほとんどが30分圏内だが、遠方だと車で1時間弱かかることも。「職住接近が欠かせません」と日野氏。写真は往診に出かける同院総合診療科、往診担当の医師、野村直樹氏。

日野氏は、在宅医療への取り組みを病院でスタートさせるメリットをこう話す。
「在宅医療で医師や患者家族が不安なことは、急変の際にすぐに入院ができるかどうか。私たちは病院勤務医なので、すぐに入院させることができます。これは患者家族の安心と信頼につながります。また、担当患者のオンコールが続いて1人では対応しきれなくなれば、在宅医療部門の4人で予定を調整し合うことができます。仲間とフォローし合って業務の集中化を避けられるのは、大きなメリットです」

日野 浩司

日野 浩司
東名厚木病院 医務部長 乳腺外科 在宅医療部門内科医長
1987年富山医科薬科大学卒、第2外科入局。
2000年医局を離れ、広島の病院に勤務。
08年東名厚木病院外科。同院の在宅医療の患者さんのうち、特にがんの在宅ターミナルケアの患者さんを担当している。
11年から現職。

執刀した患者さんの最期を看取りたい

「外科医なら『手術した患者さんは最期まで診療せよ』と教わってきたはずです」と話す日野氏。在宅に関わることで、外科医として担当した患者を最期まで看取りたいという思いがかなう環境が手に入ったという。執刀した乳がんの患者さんに加え、同院でがん治療を受け末期になった方、再発転移により他院から紹介された方など5年間で約290人を看取った。うち在宅で亡くなった方は約80人だ。
「家に帰りたいという願いをかなえられてよかったという患者家族の感謝の声が、やりがいにつながっています」と、日野氏は話す。
在宅医療に魅力を感じるが、いきなり飛び込むことに抵抗があるなら、指導体制のしっかりした施設や、患者搬送先を確保できる一般病院の在宅医療部門という選択肢もある。開業予定の医師にも学ぶところは多い。

主な業務内容

胃ろうや疼痛管理の患者が増加
訪問看護師との連携が必須

在宅医療の患者さんは様々だが、近年は胃ろうや気管カニューレを装着して在宅に戻った方や、がん末期のため麻薬を使った疼痛コントロールが必要なターミナルケアが増加している。特に在宅ターミナルケアでは、患者さんの予後が短いため、短期間で患者さんとその家族との関係を構築しなければならず、医師の精神的負担も小さくはない。
日野氏のように24時間オンコールというところもあるが、これは施設によってまちまち。患者数の多い在宅専門の施設では複数の医師でオンコールを輪番制にしたり、電話対応を中心にして夜間の往診を極力減らす工夫している施設も多い。ただ、どのような体制をとっているにせよ、欠かせないのは、訪問看護師など他職種のスタッフとの連携である。
「在宅医療は、訪問看護師など在宅スタッフのサポートなしには成立しません。彼らの力量や熟練度を見極めて任せる患者さんを振り分ける力量こそが、在宅の医師には求められます。病院でもクリニックでも、熟練した在宅スタッフのサポートがあれば、経験の浅い医師でも安心して在宅医療に携わることが可能です」(日野氏)

最新求人情報

在宅医療の医師の求人は診療所・病院共に増加中

在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院の認定を受ける医療機関は増加しており、それに伴い、在宅医療に携わる医師の求人数も右肩上がりだ。病院からは「一般内科を中心に幅広く診療できる医師」、「往診のためフットワークの軽い医師」を求める声が多いという。往診は運転手・看護師が同行する場合、1人で行く場合、さらにバイクや自転車というケースもある。多忙な急性期病院ほど体力的にハードではないにせよ、60代からの転職はやや厳しいかもしれない、と医師転職会社の担当者は話す。
報酬はクリニックのほうが高め。在宅療養支援診療所の求人では、年収2,000万など高額報酬が期待できるところも少なくない。一方、病院で在宅医療を担当する場合、病院業務と兼任することも少なくない。その場合、在宅医療担当とはいえ、年収は他の勤務医と同様、病院の規定による。ただし、オンコールによる往診などには別途、手当がつくのが一般的だ。

向いている医師の条件

ジェネラリストであること、病院近隣の居住は必須条件

日野氏は在宅医療の医師の条件として、まず全身管理ができるジェネラリストの視点があることを挙げる。
「専門領域へのこだわりが強い場合は、在宅医療にはあまり向かないかもしれません。正直なところ、専門医療はあまり求められていません。また、うまくコミュニケーションがとれる患者家族ばかりではありません。患者家族と話すのが好きなことが第一でしょう。他職種とのチームワークも欠かせないので、コミュニケーション力は重要です。すぐに往診に応じる“腰の軽さ”も大切。医師がなかなか動かないと、患者家族もスタッフも困ります」
ジェネラリストの視点、コミュニケーション力、フットワークの軽さなどに問題がなければ、医療技術的なことは一般的なレベルで大丈夫と日野氏。ただし、在宅では胃ろうや気管カニューレなどの外科的処置が必要な場合があるので、それらのスキルはあらかじめ身につけておくとよいという。その点、外科医は在宅医療向きだ。
なお、病院の近隣に居住することも、在宅医療に携わるには欠かせない要素だという。在宅患者は病院を中心とした同心円の圏内に分布していることが多い。自宅が病院から遠いと、オンコールの際の往診への対応などが難しくなる。病院の立地に加えて、患者の居住圏も確認したい。

病院情報

病院情報
社会医療法人社団三思会東名厚木病院/神奈川県厚木市(267床)。
常勤医師数34人、研修医12人。
17の診療科と在宅医療部門を備え、1981年の開院当初から、24時間365日の救急医療体制を整備することをうたっている地域密着型病院。
地域の医師会との連携も深い。
臨床研修指定病院、地域医療支援病院。
  • 介護老人保健施設

ゆったり勤務できる、と注目される老健
第2のキャリアの場としてリタイヤ予備軍にも人気

上尾中央医科グループ 医療法人社団協友会 介護老人保健施設 ハートケア横浜小雀 (神奈川県横浜市)

介護老人保健施設(以下、老健)は、看護・介護・リハビリテーション等を必要としているものの、病状は安定している高齢者に、在宅復帰を念頭に置いて医療と福祉サービスを提供する福祉施設。施設長として医師の常駐が定められている。急性期病院などに比べると勤務が比較的軽いイメージがあり、定年後の医師の活躍の場として人気だ。この領域に転身するタイミングやトレーニング、また、実際の働き方について、介護老人保健施設ハートケア横浜小雀施設長の湯浅茂樹氏に話を聞いた。

湯浅茂樹氏(63)が、介護老人保健施設ハートケア横浜小雀の施設長になったのは、2013年5月。同施設には151人の高齢者が入所しており、看護・介護・リハビリテーションなどのケアを受けている。

医師人生を長く続けるために59歳で老健施設長に転職

もともとは基礎医学研究者であった湯浅氏。医師人生を長く続けるためにはキャリアプランを転換し、臨床にかかわりたいと考えていた。新しいことを始めるには60歳前に、と59歳で研究職を辞し、老健施設長に転職した。臨床能力を身につけるために不退転の決意であえて関西の施設を選んで単身赴任。3年間の経験を積んで今年、転職会社を通じて自宅のある関東への転職をかなえた。現在は、神奈川県横浜市にある老健、ハートケア横浜小雀施設長だ。
老健の施設長の仕事は入所者の診療がメインである。湯浅氏の場合は、午前と午後、入所者の回診を行い、夕方以降は1日5~6通の書類を作成。午後8時半以降に退勤する。入所者の急変にはオンコールで対応しており、週2~3回は帰宅後に緊急連絡が入り、月3~4回は夜間に施設に駆けつけている。容態が気になる入所者のため、土日に非常勤医師がいても、午前中に1時間程度は施設に顔を出すようにしている。

自分の臨床能力が試される
鎌倉に施設が近いのも魅力

自分の臨床能力が試される 鎌倉に施設が近いのも魅力

医師にオンコールの対応を求めていない老健もあるが、湯浅氏はオンコールも含めてやりがいを感じている。
「老健では医師はもっと楽をすることもできますが、私は診察と治療に積極的に取り組みたいと思っています。CTもMRIもないので、私自身の臨床能力が試され、聴診器・血圧計・体温計のみで診断するところにやりがいがあります。今後はもう少し施設で実施する医療レベルを上げていきたい。できることは注射や投薬、点滴などですが、たとえば発熱程度なら後方病院に転送しないで、点滴や投薬で様子をみるほうがよい場合もあります。搬送しても、大したことがなくてまた施設に戻された場合、搬送自体が高齢者の負担になるからです」と話している。
目下、仕事のストレスはまったくなく、充実しているという湯浅氏。同施設に転職した理由の1つに、同施設が鎌倉に近いことが魅力という点があった。湯浅氏はかつて、勤務の傍ら、美大に聴講生として通った経験があるほど美術に造詣が深い。歴史も趣味のひとつだ。週末には必ず鎌倉に足を運び、かけがえのない時間を過ごしている。

湯浅 茂樹

湯浅 茂樹
介護老人保健施設 ハートケア横浜小雀 施設長
1975年岡山大学医学部卒、生化学の研究者の道へ。
西ドイツ留学、慶應義塾大学医学部講師などを経て2001年国立精神・神経医療研究センター神経研究所部長。
59歳の時に定年に先立ち退職し、関西の老健施設長として3年間勤務ののち、13年から現職

主な業務内容

日常業務は回診が中心
急変時の対応は、施設により対応に差

施設長のメインの仕事は入所者の診療である。湯浅氏の場合は、発熱などの急変時も、回復が予想できる場合は施設内で対応する方針だ。対応は施設により異なり、医師がそこまで診療にかかわらず、急変時には即座に後方病院への転送を原則とするところもある。医師の個性による部分と、施設の方針による部分との両方がある。スタッフの態勢・スキルによっても医師の負担感は異なる。まさにケースバイケースだ。
老健=高齢の医師の勤務先、というイメージがあるが、日常業務の負担は、それなりに高い。書類業務も多く、湯浅氏は「自分の仕事の仕方の問題かもしれませんが、私は定時に帰るのは少々難しい」と話す。むろん、夜中にまでなることはないが、日常的にある程度の仕事量はある。ある施設では、70代の医師が就任したものの、3カ月で退職した例もあるという。老健の初就任で70代は厳しいだろう。なお、老健施設では入所者100人に医師1人が必要と定められている。1施設の定員はたいてい100人未満で、1施設に医師1人が一般的。湯浅氏の施設では、土日は非常勤医が対応している。

最新求人情報

老健の求人は横ばい
緊急の求人募集が出ることも

老健の施設長は、1施設に医師のポジションが1つなので人材の流動性が低い。よって、求人状況の増減は少なく、横ばいだという。
「定年退職後の医師を施設長として迎えている施設が少なくありません。年収は1,000~1,200万円で勤務年数が上がっても変わらないケースが一般的。地方によっては求人難のため、まれに1,400~1,500万円が提示されることもあります」(医師転職会社の求人担当者)
求人の流動性が低いので、希望する勤務地域に常時求人があるというわけではないようだ。ただし、施設長には比較的高齢の医師が多いため、ときおり、急な退職により「急募」されることもある。老健への転職を希望する場合は、医師転職会社に登録した上で、「求人が出たら教えてほしい」と依頼しておくと、求人に“出会える”可能性は高まる。

向いている医師の条件

適性が高い内科・泌尿器科
高齢者に声をかける医師が信頼を得る

病状が安定している高齢者の診療が中心となるため、全身管理および総合診療的な視点が求められる。内科、泌尿器科の医師には適性があるという。なかでも、泌尿器科は高齢者の対応に慣れていることが多く、適性は高いようだ。入所している高齢者たちは、医師に絶対の信頼を置いている世代に属し、医師と話すことで安心する人が多いという。医師に入所者に積極的に声をかける姿勢があると、入所者から厚く信頼される。また、入所者に声かけをする医師の姿勢は、スタッフにも伝わり、彼らとの信頼関係構築のきっかけにもなるだろう。

病院情報

病院情報
医療法人社団協友会介護老人保健施設ハートケア横浜小雀/神奈川県横浜市の介護老人保健施設(定員151人)。
常勤医師数1人のほかに看護師、リハビリスタッフがおり、24時間365日の体制で運営されている。
介護老人保健施設は病状が安定している高齢者が在宅復帰できるように看護・介護・リハビリテーションを提供し、介護保険制度によって運営されている。
入所対象は、要介護認定を受けた40歳以上。