転職を意識したとき、ふと頭をよぎるのは「本当に希望は叶うのか?」という不安かもしれない。本誌では転職前後の状況についてアンケート調査を実施し、実際に転職した医師266人から回答を得た。医師たちの生の声には、転職目的や、転職活動時の反省、満足できる転職の秘訣までが凝縮されている。調査結果をご紹介するとともに、キャリアアドバイザーから、転職の現場状況および医師へのアドバイスを語ってもらった。

  • 全体分析

転職目的は収入や待遇の改善が多数
約半数は予想外の問題で不満足感が残る

「あえて100%を求めず〝80%の満足〟を目指すといい」

アンケートの結果では、40代後半(21・4%)や50代前半(21・8%)で転職した医師が多く見られた。転職の目的は、「勤務時間、残業、休日などの労働条件・待遇に不満」(30・8%)が最多で、「収入を上げるため」(26・7%)、「スキルアップのため」(21・1%)が続く。また転職で譲れない条件は、「勤務時間、残業、休日などの労働条件・待遇がよいこと」(50%)がダントツだった。

そして転職の満足度は、「満足」(47・7%)よりも「部分的に満足していない」(48・1%)が上回った。理由は「入職前に予想していなかった問題」が53・2%と最多だ。

転職で十分に希望がかなわなかったとされる内容は、収入や労働条件、人間関係が上位に並ぶほか、転職前にはそう意識されていなかった「方針や理念・風土」や「人間関係」の数値が高いのが目につく。

キャリアアドバイザーの白田大輔氏は、後悔しない転職のためには、大前提として留意しておきたいポイントがあるという。「まず、優先順位をつけることです。例えば専門性を極めたいのならば、症例数の多さを第一優先にして転職先を探す。目先の条件に惑わされず、長期視点で考えることも大事です。長い医師人生を見据えると、結果として今は転職すべき時期でない方もいます。本当に優先すべき条件を突き詰め、キャリアプランを練ることが大切です」

加えて、相場観を持つことも重要だという。自分の年次、資格、実績が客観的にどう評価されるかを冷静に把握するのだ。「時折、『卒後6?7年で年収1400万円、週4日勤務、当直なし』などの希望をうかがいますが、合致する病院は多くありません。卒後6?7年なら相場は年収1200万円程度で当直ありが大半。積極的に診療に関わってほしい年代だと病院側は考えていますから」

白田氏は、転職のアドバイスをする際、あえて〝80%の満足〟に目標設定することを勧める。「100%を求めると、どうしても該当する案件が少なく、チャンスを逃すこともあります。完璧でなくとも、今の自分に必要な条件を満たす転職のほうが、『こうなりたい』という医師像への近道なことが多いのです」

白田 大輔
監修/キャリアアドバイザー
医師のキャリアアドバイザー歴4年。モットーは「まずはドクターの話をよく聞くこと」。双方に喜ばれる結果が出せて、医師と祝杯をあげる時が幸せだという。

白田 大輔

満足できる転職のためにもっとも重要だと思うこと

  • 必要とされている病院にいくこと。(40?44歳・整形外科)
  • 自分の希望をはっきりさせること。希望の優先順位を考えておくこと。(40?44歳・一般内科)
  • ドラッカーではないが、自分の売りと顧客を見失わないこと。(55?59歳・一般内科)
  • 100%満足できるところなんてないから、これだけは譲れないという条件は突き詰めて、他はある程度妥協点を決めておくこと。(45?49歳・眼科)
  • 医師やスタッフの定着率がよく、職場の雰囲気がよいこと。(35?39歳・整形外科)
  • 自分がどのように仕事をしていきたいのかを、最初の面接でしっかり伝えるだけではなく、入職後も油断せずに主張し続けること。(40?44歳・精神科)
  • 現状への不満先行だとあまりうまくいかないように思います。自分なりに転職する確固たる理由があり、条件的にも納得することが必要です。(50?54歳・その他)
  • 項目別アドバイス

将来、どんな医師になりたいかを想像して、必要条件を絞り込む

最終ゴールが明確でなければ転職しても物足りなく感じる

転職目的や条件設定などの反省点は、「条件をもっと具体的に設定しておけばよかった」(25・2%)、「将来のキャリアプランをもっと考えておけばよかった」(17・3%)が上位だ。

なぜ、こうした悔いが残るのか? 白田氏は「やはり長期的な視点に立った優先順位づけが十分でなかったのでは」と語る。

高度な技術を持つ専門医を目指し経験を積みたいのか、家庭と仕事を両立する医師になりたいのかによって、転職先選びはまるで違う。キャリアの最終ゴールが明確でなければ、いざ転職しても何か足りないような気持ちが残ることが多い。

とはいえ、白田氏の元に転職の相談で訪れる医師のうち、およそ半分は優先順位が不明確なのだそうだ。「将来、どんな医師になりたいかをじっくり考えることで、おのずと優先順位が見えてきます」

転職目的

●到達目標を掲げて計画すべきだった。(35?39歳・一般内科)●条件の幹と枝葉をはっきりさせること。(50?54歳・整形外科)●常に10年後の自分を念頭に置いてキャリアプランを立てるべきだった。結局開業したが、落下傘で苦労している。(45?49歳・老人内科)●スキルアップへの協力を条件としたが、もう少し細かく決めればよかった。(45?49歳・産婦人科)●具体的な条件を明文化して、書類として作っておくべき。(45?49歳・麻酔科)●仕事内容をもっと明確にしておけばよかった。病病連携・病診連携に関する評価をもっとしてくれると思っていたが、そうでもなかった。(60?64歳・循環器内科)

応募方法

●麻酔科からの転科のため、外科や常勤麻酔科医に手術麻酔を手伝って欲しいという交渉をされることが多く、角が立たないようにお断りするためにはエージェントを通すべきと思いました。(40?44歳・呼吸器内科)●勤務条件の向上や収入アップが目的の場合は、人材紹介会社を通した方が第三者的な目線での情報も得られてよいと思います。(35?39歳・麻酔科)●知人からの紹介は、後々人間関係に影響があるので勧めない。(45?49歳・神経内科)

情報収集の方法

●トライアル勤務などをすればよかった。(35?39歳・一般内科)●地域性などは特にわかりませんので難しい限りですが、周囲の医療機関との連携など見え難いことも多いです。候補病院の周辺の経済や人の動向といった客観的な点も参考にすべきと思います。(45?49歳・消化器内科)●ネットだけではわからない生の声が必要だと感じました。(35?39歳・麻酔科)●実際に勤務している方からの意見を聞けばよかった。(50?54歳・一般外科)

紹介会社を利用すれば給与や労働条件の交渉が容易

応募方法の反省点は約7割が「特にない」と回答した。他方、直接応募や知人を介して応募した医師からの「人材紹介会社を利用すればよかった」とする声は、合わせて14・7%ある。「直接応募は、給与や労働条件などの交渉が難しい面があります。知人の紹介は、もし面接で自分に合わないと思っても辞退しにくいことは否めません。紹介会社を利用すれば、そうした問題を回避できます」(白田氏)

MRや医療機器メーカーに転職先候補病院の評判を聞く

情報収集の方法の反省点では、「同僚・知人から情報収集をすればよかった」(16・9%)、「転職活動の効率的な方法を調べておけばよかった」(15%)が上位だった。実際、上手な転職をしている医師は、MRや、医療機器メーカーの担当者などから情報収集をしているそうだ。「転職先候補の病院の雰囲気や人間関係など、ネット上などからではわかりにくい評判を聞いているそうです」(白田氏)

諸手当や残業代の有無など細かな点まで確認すること

もっと情報収集すればよかったという点は、「給与や諸手当などの報酬」と「医師やスタッフの定着率や職場の雰囲気」がともに22・2%でトップだった。「給与については、年俸だけでなく、残業代の有無、オンコールの手当、学会参加時の旅費負担など、細かな点まで確認しましょう」と白田氏。

一方、職場の雰囲気は面接や事前の情報収集ではわかりにくいものだ。一つの手として、離職率を尋ねるといい。「前任の医師の退職理由を聞くことも大事です。もしかしたら労働条件が厳しくて大量退職したのかもしれません。面接時に質問をして、明確な答えを得られないようであれば、気をつけた方がよいかもしれません」

また、病院の経営状況や診療体制も忘れずに確認を。病床機能報告制度の導入などによって、将来的に病院の機能が変わる可能性もある。入職時は急性期病院でも、いつか地域包括ケアが中心になるかもしれない。「先々、訪問診療を行う予定はあるかなど、気になる点は確認を」

情報収集の内容

●入院患者を診ている医師が少なく、外来から丸投げしてくる医師がいて困ることが多々あった。スタッフ数のみではなく、実際、どのような勤務形態のスタッフがいるか?などまで聞くべきであった。(40?44歳・一般内科)●収入だけでなく保険や年金などの待遇もCheckするべき(30?34歳・その他)●患者さんやMRからの評判(50?54歳・脳神経外科)●職員の定着状況をもっと情報収集すればよかったと思います。(50?54歳・一般内科)●経営状況の収集はかなり難しいと思いますが、MR、MSさんなどから入手できるかもしれないですね。(45?49歳・腎臓内科)

面接

●面接ではなかなか踏み込んだことが聞けない、聞き難い雰囲気であるため、事前に人材紹介会社のエージェントに希望などを伝えておいていただき、ほぼ100%近くまで詰めておいた方がよいと思う。(40?44歳・一般内科)●自分の立ち位置を明確に。「何でもやります」はいけません。(45?49歳・消化器内科)●聞きたいことは、必ずメモしておくこと(45?49歳・神経内科)

内定・退職

●かなり引き止められたので、もっと早期に承諾を得ておけばよかった。(50?54歳・一般内科)●退職先の上司に1年前から退職の交渉をしたが、拒否された(40?44歳・呼吸器内科)●一番難しい相手にどのタイミングで切り出すかが戦略上重要(40?44歳・消化器外科)●前の職場を辞めるのが最優先事項だったため、新たな職場についての調査が足りなかった。(50?54歳・眼科)●もう少し早めに引き継ぎの準備をしておきたかった。(60?64歳・小児科)

「話し過ぎ」に注意して、会話のキャッチボールを

アンケートでは「条件交渉にもっとこだわればよかった」(14・7%)、「職場の雰囲気をもっと聞けばよかった」(12・8%)が上位だったが、注意すべきはそれだけではない。「よくあるのは、医師の『話し過ぎ』です。自身の専門性や実績をアピールしたいために多弁になり、病院側が質問できないのです。会話のキャッチボールが成り立つように留意することが大事です」(白田氏)

転職先が決まっても元の病院をやめられない場合も

退職時の反省点は「自分の意志を明確にしていればよかった」(8・3%)などが多くあがった。実際、転職先が決まっても医局から出られなかったというケースは、ままある。「大学医局に属している医師は半年前、民間病院でも3カ月前には、退職の意思を伝えるのが一般的です。転職に成功した医師は、部長→院長→教授などと、退職の意思を伝える順序に気をつけているそうです」(白田氏)