自分が理想とする働き方ができていない…。医師として次のステージに歩を進めたい…。そのような理由から転職を考える医師は少なくない。
アンケートによると転職したことがある医師は約33%。転職活動のみの経験者も合わせると約41%に上る。
また時期未定の人も含むと半数近い人が転職を考えている、というデータもある(下グラフ参照)。
弊社で医師の転職を支援しているキャリアアドバイザー(以下、CA)のA氏は、「転職を成功させるためには、なぜ転職するのか、転職によ って何を得たいのかを明確にすることが重要」と話す。
現在の職場に不満があるから転職したい、というだけでは、どんな施設なら満足できるかが明確ではなく、転職先としてどんな施設を探せばいいかがみえてこない。自分が何を求め、どんな施設ならそれが叶うのかを考えることが大切だ。
その際、心掛けたいのが、長期的なキャリアプランを描き、それに基づいて中期、短期の働き方を考える、ということである。
年齢別に考えると、20代は医師として吸収するものが多い時期であり、転職には慎重さが求められる。
対して一定のキャリアを積んだ30代は、臨床医として成長するために急性期病院で研鑽を積む、といった時期である一方、医局からの退局、転科などを考え始める時期でもある。
また開業は40歳頃にする人が多く、その前後は独立するか否かを見極める局面といえる。
40代後半以後は定年後の生き方も考え、指導医、クリニック院長などのポジションも視野に入れたい。
「ほとんどの医師が意識しているのは次の転職先までですが、自らのキャリア形成について長期的な展望を持つことが大切。長期のキャリアプランがあれば、将来のビジョンに向け、今必要なことは何か、そのために今はどんな環境に身を置くべきか、といった視点が生まれます。それによって、どんな転職先が望ましいかなどについて正しい判断ができると思います」(A氏)
後期研修期間中のため転職は慎重に
必要性を考慮の上、目の前だけでなく将来を見据えた選択を現職場にキャリア形成上の不利益が多いと考えるなら迅速に
一番売り手市場の時期
医局からの退局、転科、開業を視野に。いずれも好タイミング
臨床医として1人前になりたいなら次も急性期で研鑽を積む道も
医局を出るかどうかのみ極めの時期
開業決定の時期(40歳頃) 外科への転職なら早めに
定年後やその後のライフスタイルまで視野に入れて選択を
指導医、クリニック院長などのポジションも選択項目に
一般内科等ニーズの高い領域への転向も有効
転職を考えるうえで念頭におきたいのが、「首都圏近郊では特に、必ずしも売り手市場ではなくなってきた」(A氏)という現状である。
「以前は、来てくれるならどんな医師でも歓迎という傾向がみられなくもなかったが、今は違う」という。
背景にあるのは、医療制度改革により医局を出る人が増え、人が動くようになった分、施設側も採用の経験値を上げてきているということ。
それでも医師不足であることに変わりはないが、「誰でもいいというわけではない」「信頼できる医師でなければ採用しても仕方ない」という意識が強くなっている。協働の意思がない医師では、他の医師や職員への影響のみならず、患者からの信頼が得られるかも懸念され、かえって混乱を生むことにもなりかねないからだ。
急性期病院では医師の専門性の高さが重視されるが、200床前後の中小規模病院では人間性も重視される傾向にある。
これから転職活動のポイントをみていきたい。
転職動機
転職活動を行う前にまずは、なぜ転職するのか、を整理しておきたい。
転職の動機が明確になっていないと転職先選びの基準もあいまいになって満足度の低い転職になり、転職を繰り返すことにもなりかねない。
「転職が多い、ひとつの施設での勤続年数が3年に満たないといった場合、施設側に、何か問題があるのでは、長期勤務は期待できないのでは、などの不安を抱かせてしまう懸念も生じます」(A氏)
収入を上げるために転職したいという医師も多いが、あるCAは、「希望する収入アップの実現は難しいと考えられる事例も少なくない」と指摘する。療養型の施設で週4日勤務、年収2000万円を希望、年収1200万円の医師が現職とほぼ同じ勤務体制で年収1800万円を希望など、要求する水準が現実的でないと思われるケースもあるからだ。
好条件を求めることはモチベーションを維持するためにも重要だが、現実に即して冷静に考えた方が、結局は転職をスムーズにする。
収入以外でも、客観的にみて現在の職場が、自分が思うほど条件が悪いのか俯瞰してみることも重要。人の話を聞いたり、情報を集めたりして判断したい。
消化器内科の50代男性医師の例。勤務負担が正当に評価されていないとの理由で転職を希望。優先順位は勤務負担の軽減、報酬水準維持など。一般病院では難しく、オンコール体制等の仕組みが確立した訪問診療クリニックを提案した。医師としては想定外だったようだが、条件を重視し決意。優先順位に沿って柔軟に判断したことで、登録から約1ヶ月で決定した。
腎臓内科の50代男性医師の例。方向性が定まっておらず、腎臓専門医取得可能施設など3つの軸で、年収、勤務日数、定年の年齢、忙しさなどの詳細な条件で紹介を依頼された。複数の施設で面接を受けるが、条件に適わず、改めて優先順位を整理し、リハビリ病院へ入職。転職目的、優先順位が明確でなかったため、多くの手間と時間を費やした。
方向性と優先順位
経験を積む、当直のない勤務にする、開業資金準備のために報酬を優先させるなど、自身の状況や価値観に照らして転職の方向性を決めよう。キャリアプランをベースに考えると、進むべき方向性がみえてくる。
キャリアプランを考える際は、やり甲斐を感じるのはどんなときか、人生で大切なもの、譲れないものは何かなどを自問するといい。将来の医療政策や社会のニーズから外れないかという視点ももちたい。
何を優先させるか、譲れないのは何か、を整理しておくことも重要だ。
たとえば忙しいのに収入が低い、という不満から転職を考えた場合、勤務時間などのゆとりと、収入のどちらを優先させるかによって施設選びも違ってくる。
勤務が過酷という理由で転職を考えるなら、負担を減らすことによって、スキルアップが二の次にならないか、成長の機会を失うことにならないか、ということも考えてみたい。
場合によっては、『時間的なゆとりが欲しいが、将来のことを考えると、今はスキルを積む時期。あと数年は転職を控え、今の職場に留まろう』といった判断になることもある。
「条件について医師側は細かくみるが、施設側の提示は意外とあいまい」と、A氏。まずは求人情報をくまなくチェックし、明らかになっていない部分は面接の際に確認しよう。
一般的に大学病院より民間病院、同じ科目・同じ患者数なら、都市部より郊外や地方の方が年収は高い傾向に。勤務日数や担当患者数、科目、当直やオンコールの頻度などでも相場が異なる。
福利厚生も合わせて確認。借り上げ社宅があれば住居費が抑えられるし、学会加入費、学会出席のための交通費などを負担してくれる施設もある。それらを考慮することで、実質的な報酬の多寡が把握できる。
知人から状況を聞くこともできるが、条件は医師ごとに異なることもある。参考程度にとどめ、面接の際にしっかり確認する必要性が高い。
勤務時間、当直の有無、オンコールへの対応などを確認。イレギュラーなことも多いという事情もあり、明確に提示していない施設もある。あいまいなままだと入職後の不満につながりやすいので、面接の際にしっかりと確認したい。事前に自らの希望を明確にしておくことが大切。
当直は非常勤医師で担う例も増えており、当直なしの交渉も可能。オンコールはあとでトラブルになりやすいので、負担の度合いを明確に確認。
学会に参加する際は欠勤扱いか、休暇は申請通りに取得できるか、連続休暇が可能かなども聞く。
チーム制をとっているか、とっているなら実態はどうか、また夜間の診療は当直医が行うか、主治医が呼び出されるかなどを確認。
先輩や同世代の医師が多ければ自らが担当できる症例が限られるが、少ない場合は多くの症例を任せてもらえそうなど、望む仕事の内容に影響するような組織体制についても把握したい。組織体制によっては若手の指導を任されるケースも。
診療科数や病床数など、施設の規模や設備についてはホームページなどからもある程度情報が得られるが、見学して自らの目で確認したい。
子育て中の医師は、病児保育の受け入れ態勢があるなど、育児支援の体制が整っている施設を探す道も。
施設の経営状態、将来性は医師個人では判断しにくく、人材紹介会社などに意見を求めるなどの方法をとるといい。医療政策の転換にどう対応していくかなども確認し、キャリア形成が実現できるかを見極めたい。
報酬 | 給与 |
---|---|
諸手当(研修、住居等) | |
待遇 | 役職・立場 |
勤務条件 | 勤務日数 |
休日 | |
当直 | |
救急対応 オンコールの有無 | |
福利厚生 | |
診療内容・体制 | 診療方針 |
人員体制・学閥 | |
症例数・手術数 | |
研究支援等の体制 | |
施設内容・体制 | 規模(診療科数・病床数) |
タイプ(単体・グループ) | |
施設・設備 | |
特徴(地域の中核等) | |
経営 | 方針 |
安定性 | |
将来性 | |
勤務地 | エリア |
立地 |
スケジュール
転職を成功させるには、いつまでに転職したいか、時期の目標を立てるといい。目標時期が決まれば、それに合わせて情報収集や面接、退職申し入れといった予定を立てやすい。
入職時期は医局人事に合わせて4月と10月が多いが、最近は通年で採用を行っている施設も増えている。
下のグラフで、実際に転職した人たちの活動開始時期をみると、入職希望時期の1年以上前が約3割、半年以上前~1年前未満が約3割、残りが半年前未満となっている。
A氏は、「人材紹介会社を通じた転職活動の場合は、登録から入職が決まるまで2カ月程度が標準的。加えて、入職するのは決定から半年後など、ケースによって異なります」と話す。自分で探すのであればもう少し時間を取りたい。
例年、11月~12月には翌4月の医局人事をめぐる動きが出てくる。その前に転職が決められるよう逆算してスケジュールを立てるのもいい。
入職希望時期が1年以上先でも採用を検討する施設が増えており、「実際、今年6月頃から、来年4月入職の案件が決まってきている」(A氏)という。
短期決戦で効率よく動くのもいいし、早めに動き出せばじっくりと活動できる。4月入職を希望するなら、9月頃から活動を始めたい。
1.同僚・知人のつて | ○ 安心感がある × 条件交渉等が不明確になりがち |
---|---|
2.人材紹介会社 | ○ 相談でき希望を探してくれる × 希望をきちんと伝える必要あり |
3.直接応募 | ○ 自分のペースで活動できる × 1人の判断、情報量の制限あり |
応募方法
施設への応募には、同僚・知人の紹介を受ける、民間の人材紹介会社を利用する、情報誌やウェブ、施設のホームページなどを見て直接応募する、などの経路がある。
医師仲間、先輩など、信頼できる人からの紹介なら安心感があるが、報酬などの条件が口約束で不明瞭になりがち、という注意点もある。
人材紹介会社を利用する場合、CAが医師の希望に沿う施設を探し、面接などの日程調整を行う。CAは施設の経営状態や職場の雰囲気なども把握しているので、効率よく活動できる。ただし希望をうまく伝えられないと、イメージする転職先がすぐに上がってこない可能性も。
自らで施設を探し、直接応募する方法は、自分のペースで活動できるのがメリット。面接の日程調整や条件の確認、交渉が直接できるので、話が早い。ただし、どうしても情報が少なく、他施設との比較がしにくいなどの制限もある。
面接
面接は医師と施設のお見合いのようなもの。人材紹介会社を利用する場合はCAも同席する。
医師側からは自らの希望に合うか、その施設に入職すれば自らが描いているキャリアプランが実現できるかをじっくり探りたい。待遇、勤務時間など、条件面についても自分が納得できるまで質問を。
A氏は、「施設側は医師のスキルはもちろん、最近はコミュニケーション力も重視しています」と話す。具体的な事例では、条件面では両者の希望が合致しているにもかかわらず、いくつもの施設で不採用になった医師がいたという。面接の際、相手を置き去りにして一方的に話してしまう傾向があったのが原因だ。
患者やその家族とコミュニケーションがとれないと、診療がうまくいかないなどの問題も生じやすく、敬遠されやすい。自分では気付きにくいので、客観的にみてくれるCAから助言を受けるのもいいだろう。
基本的なことだが、服装にも配慮したい。「かつてはカジュアルな服装の方も結構いらっしゃいましたが、今は最低限のマナーとしてジャケット着用が望ましいと思います」(A氏)
以前は一度の面接で採用、不採用が決まるケースが多かったが、希望すれば再度、面接の機会を作ってくれる例も増えている。確認しきれなかったことがある、疑問や不安が残っている、という場合には、再度の面接を依頼するといい。自分の都合のいいように解釈したり、あいまいなまま入職したりすると、後悔につながりかねない。
アンケートによると、面接を受けた人の80%以上の人が内定を得ているが、6%近くが内定に至っていない。医師不足だから、と慢心しないことが賢明といえそうだ。
退職
退職の意志を伝えると医局からはほぼ確実に引き留められる。引き留められて転職を断念する医師も少なくないが、入職を待っている施設側は混乱してしまう。自分は本当に転職したいのか、しっかり意思を固めておくのがマナーといえる。
退職の意思を伝える相手は直属の上司か、院長や教授か、職場での力関係などを考慮して決める。
キャリアプランを伝えて理解を得られればいいが、難しそうなら、実家を継ぐ準備のためなど、納得してもらえそうな理由を伝える。安易な嘘で信頼を失わないように注意を。
「退職の意思は遅くとも3カ月前までには伝えたい。入職の時期はある程度、融通がきくので、慎重に予定を立てたいところです」(A氏)
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