都道府県による地域医療構想の策定が進められ、地域医療が再編されようとしている。同時に、診療報酬改定で7対1入院基本料の算定基準はより厳格化した。すでに中小規模病院を中心に、病床再編や診療の見直しなどが盛んになっている。そうした中、成功する病院にはどんな特徴があるのだろうか。また、医療の再編は勤務医のキャリア形成に影響するのか。先駆的な病院の事例を基に考察する。

急性期・回復期・慢性期と
病床機能の分化が進み、
各病棟の診療内容が高度化する

急性期は外科系のDPC病院や救急体制の厚い病院に淘汰

国が昨年6月に発表した2025年の必要病床数をみると、急性期病床が58万床から約40万床に、回復期病床が11万床から37・5万床に、慢性期病床が約35万床から約24万床~28・5万床になるとの試算が出ている。今後、病床機能報告制度によるデータに基づき、病床機能分化が本格化する。全日本病院協会副会長で日本慢性期医療協会副会長の安藤高朗氏は、こう語る。

「高齢化に伴い、日本の医療モデルは『身体を治す医療』から『生活を支える医療』へと変化しつつあります。この流れに沿うように、今年度の診療報酬改定で7対1一般病床の重症患者割合が15%から原則25%に引き上げられました。こうした重症度、医療・看護必要度のアップにつれて、急性期は、外科系のDPC病院が中心になっていくでしょう。または救急で夜中でも重症患者を多く受け入れられる体制のある病院などが生き残っていくのではないでしょうか」

安藤氏が理事長を務める永生会の南多摩病院(東京都)は、170床で全床7対1病床のDPC病院だ。年間の救急車受け入れ台数は約4500台にのぼり、外科医の夜間オンコール態勢も整えている。

「それでも、重症患者割合25%を達成するのは大変です。将来的に重症度がより厳しくなった場合には、地域包括ケア病棟とのケアミックス病院にすることも考える必要が出てくるかもしれません。7対1病棟に重症患者を集め、地域包括ケア病棟でポストアキュート、サブアキュートを担う形です」

全国には、同じように急性期の一般病床から地域包括ケア病棟への転換を考えている病院も多い。安藤氏が示す「地域包括ケア病棟への転換フローチャート」によると、重症者割合25%をクリアできる病院でも、在宅復帰率が80%を超えない場合は一部病棟を地域包括ケア病棟(復帰率70%)、または回復期リハビリテーション病棟(復帰率70%)への転換を提案している。

また、慢性期を担う療養病棟の今後については、こう予測している。

「療養病棟にも強化型として在宅復帰率が導入され、医療区分が重い患者の受け入れが強化されました。療養病棟であっても重症者を積極的に受け入れなくてはなりません。地域包括ケア病棟まで行かないまでも、ポストアキュート、サブアキュート、認知症の方のケア、さらにターミナルケアや在宅支援、難病患者の対応など、多機能が求められるでしょう」

国は、そうした対策が難しい病院には、院内に高齢者の住居を設ける「新類型」を設ける案を検討している。療養病棟のあり方は、今後も大きく変化しそうだ。

2025年の必要病床数

「第5回医療・介護情報活用による改革の推進に関する専門調査会」資料より

高齢化に伴う医療モデルの変化

安藤氏資料より

病床再編にあたってのチェックポイント

安藤氏資料より

高度急性期の医師は今まで以上に多忙になる

安藤氏は、病床再編を成功させるポイントとして、内部要因と外部要因に分けて考える必要があると言う。

「内部要因としては、どんな病態の患者が多いか、将来的に医師やほかのスタッフは集まるのか、病院の立地条件として拡大が可能か―例えば、リハビリのスペースを取れるか、医療機器を置くことができるか、などを把握するのです」

外部要因は、地域の将来的な人口動態と疾病構造の変化、医療機関と介護施設の競合状態、そして地域住民のニーズと、行政の動向などが挙げられる。

「市区町村が何に重きを置いて補助金を出すのか、といったところも踏まえて考えることが大切です。DPCデータや市区町村のさまざまなデータを組み合わせると、方向性が見えてきます」

さて、こうして病院が変わりゆく中、医師に求められる要件も変わっていくと思われる。

「急性期病院では、よりプロフェッショナルスキルが重視されるでしょう。来年にも新専門医制度が始まる予定ですが、今後も取得、維持する努力が欠かせません。高度急性期病院は専門医を増員するかもしれませんが、平均在院日数を短縮するため、今まで以上に忙しくなるはずです」

 地域包括ケア病棟や療養病棟では、やはり、よりジェネラルな要素が求められる。これまで以上に、幅広いスキルが必要になりそうだ。

「地域包括ケア病棟は、今年度から手術が出来高制になり、件数も増えると思います。急性期から転換しても、診療の内容は意外と変わらないのです。ジェネラルとプロフェッショナルを使い分けられる医師が求められるでしょう。療養病棟もまた、従来に比べ高齢者の急性期にも対応できる医師が必要になると思います」

地域包括ケア病棟などへの医療再編は、医師が新しい医療をやれる契機にもなる、と安藤氏は語る。

「日本の医療は、大きく変わろうとしています。従来の常識が通用しなくなってきた今、医師個人の考えをどんどん発信できるチャンスだと思います。さまざまな診療科の医師が集まって、地域に合った地域包括ケア病棟や療養病棟などを作ることができるのです。地域医療を構築するのは、まさに今の医師たちなのです」

地域包括ケア病棟への転換フローチャート(7:1)

安藤氏資料より

安藤 高朗
公益社団法人 全日本病院協会 副会長 日本慢性期医療協会 副会長
1984年日本大学医学部卒業。89年医療法人社団永生会理事長就任。2014年医療法人社団明生会理事長就任。現在は、全日本病院協会副会長、日本慢性期医療協会副会長、東京都病院協会副会長、東京都医師会理事などを務める。

安藤 高朗氏

医師ニーズの変化

  • 事例1
  • 医療法人社団紺整会 船橋整形外科病院

日帰り手術を増やすと同時に
重症度の高い症例に注力し、
7対1急性期を維持

病床内容

一般病棟 入院基本料 7対1
70床

医師の自主性を尊重し手術をブラッシュアップ

前述のとおり、7対1一般病床は重症患者割合が原則25%以上に厳格化されたことにより、中小病院を中心に病床再編するところが増えている。そんななか、独自の工夫で機能強化し急性期病床を維持しているケースがある。船橋整形外科病院だ。

「当院は手術件数が多く、年間約5000件です。病床数に対する手術の割合はほぼ100%。7対1は今のところ十分維持できています」

こう語るのは、船橋整形外科病院(千葉県)副院長の白圡英明氏だ。

「今の状態に至るまでに、いろいろと改革を行いました。まず重症患者割合を上げるには、分母、つまり全体の手術件数を減らすか、分子である医療看護必要度の大きい手術を増やすかです。当院は、はじめに分母を減らすことにしました。2年前の診療報酬改定で重症患者割合が15%になった時、上肢の骨折や上肢・下肢の関節鏡視下手術など1~2泊の手術をどんどん外来手術に移行したのです。麻酔科医を1人から6人に増員して管理体制を強化したため、今では年間500件、全手術の約10分の1は外来で行っています」

そのうえで、重症度の高い患者の入院を増やす対策もとっている。

「整形外科で重症度が高い症例はやはり脊椎手術です。この4月から新たに脊椎の専門医が2人赴任することになり、より多くの脊椎手術ができるようになる見込みです」

同院の平均在院日数は5・3日と短い。これまで10数年をかけて工夫を重ね、徐々に短縮してきた。ポイントは、手術のブラッシュアップだ。

「関節鏡視下手術は直視下手術に比べて低侵襲で、早期の退院につながります。当院は、人工股関節手術では世界でもトップレベルの低侵襲の技術を持っています。肩の手術に関しても著名な医師がおり、県内外からその医師の手術を求めて患者が訪れます。やはり高い技術を持つ医師の採用が何より大切です」

なぜ、同院には医師が集まるのか。その背景には、医師たちの自主性を尊重した病院運営がある。

「手術手技や手術の適用などは、現場の医師の判断に任せています。新たな手技を導入したい、従来のやりかたを変えたいといった時は、医師同士でディスカッションをして決めています。また、学会活動を奨励し、どんどん発表させています。それを見た医師が、勉強したいと入職する例が増えてきました。若く優秀な医師には大学院進学や留学も認めています。定着率は高い方だと思います」

平均在院日数の短縮には、周術期の看護や術前術後のリハビリテーションの充実も関係している。

「手術の翌日からリハビリをします。身体の機能回復だけでなく、退院後の生活を見据えた指導に力を入れており、自信を持って退院できる形をとっています。クリニカルパスは毎年のように見直しを行っています」

部位別手術件数割合の推移

船橋整形外科病院HPより

手術件数の推移

船橋整形外科病院HPより

全員参加の院内学習会や部門別勉強会を開催

 そのほか、年1回は全員参加の院内学習会を開き、さらに肩や膝など部門別勉強会を定期的に開催する。病院全体として医療の質を高めることで、平均在院日数を短縮している。退院後の患者は、2つのサテライトクリニックで継続した診療やリハビリを行う体制も整えている。

こうした病院の方針を職員に浸透させるために、毎年、実績に基づいた目標設定を行っている。

「12月の経営会議で前年の反省会を開いています。各部門の部門長がプレゼンテーションし、翌年の目標を発表するのです。その資料と全体の実績をもとに企画部が目標案を作り、経営会議で審議。再度、部門長と話し合い翌年の目標を決定します。2月には全医師に対して個別面接を行い、目標に向けて何をするかを聞きます。ここで年俸も決まります」

今後、急性期病院はますます絞り込まれ、整形外科医のキャリアにも少なからず影響し得る。白圡氏は、こうアドバイスする。

「整形外科医の中にも手術にこだわる医師、そうではない医師がいます。後者の場合、開業したりリハビリ病院に転職したりして、いわゆる整形内科に転じるキャリアがあります。一方で、最先端の手術をずっと続けたい医師は、やはり症例数が多い病院でより腕を磨かねばなりません」

同院は、数年以内に外来センターを新設し、病棟を増床する計画がある。よりいっそう医療の効率性を高め、優秀な整形外科医が育つ病院へと発展していく見通しである。

白圡 英明
医療法人社団紺整会 船橋整形外科病院 副院長
1970年、千葉大学医学部卒業。1989年、船橋整形外科グループ代表。日本整形外科学会専門医。

白圡 英明氏

医療法人社団紺整会 船橋整形外科病院
所在地/
千葉県船橋市
創立/
1989年12月11日
診療科目/
整形外科、麻酔科、理学診療科

  • 事例2
  • 医療法人 笠寺病院

すべて13対1だった128床を
一般、地域包括ケア、療養に分割。
短期間で平均入院単価が上昇した

病床再編内容

改変前

一般病棟 入院基本料 13対1
128床

改変後

一般病棟 入院基本料 10対1
43床
地域包括ケア病棟 13対1 + 50対1
42床
療養病棟 20対1
43床

連携の「中継地」として病院の役割を発揮したい

名古屋市南区に位置し、中規模の内科系病院である笠寺病院。院長の藤野信男氏は、昨今の地域医療再編を「追い風」であると感じている。

同院は2012年に全面改築。14年5月には、すべて13対1一般病床だった128床を、大胆に再編した。重症度の異なる患者が混在していた状態を見直し、10対1一般病床43床、地域包括ケア病棟42床、療養病棟43床に改めた。藤野氏が院長に就任した時期は再編後だが、それまでも同院との関わりは深く、状況はよくわかっている。

「病床稼働率は低くなかったものの、13対1では入院単価が安く、経営は厳しい状況でした。そんななか、14年の診療報酬改定で地域包括ケア病棟が創設されたことから、いち早く導入に踏み切りました」

病床再編後、経営状況は大きく上向いた。13年には2万4000円台だった平均入院単価は、14年5月から上昇し続け、15年9月には2万8000円を超えた。

「地域包括ケア病棟の1日の入院単価は約3万円です。10対1一般病床とあまり変わりませんが、こちらで単価を上げようとすると、急性期の患者を集めて、平均在院日数を短縮する必要があります。当院のような中小規模の内科系病院にはそう簡単ではありません」

現在では地域包括ケア病棟の患者が増えている。病棟の役割は、急性期治療後の患者を受け入れるポストアキュート、在宅や施設で療養中の患者の急性増悪を受け入れるサブアキュート、在宅復帰支援の3つだ。

同院はもともと在宅診療も行っていたため、現場ニーズの理解も深い。

「当院のある名古屋市南区は、市内でもっとも高齢者が多い地域です。そのため当院は早い段階から在宅療養支援病院の届出をし、訪問診療や訪問看護を行っていました。14年には愛知県の『在宅医療連携拠点推進事業』の事務局を担い、多職種による在宅医療支援体制の構築や、地域住民への普及啓発を促進。15年10月からは名古屋市医師会の要請で、南区の『在宅医療・介護連携支援センター』にも指定されています」

同センターは、高機能病院で急性期治療を終えた患者が、退院後すぐに在宅復帰できない際の中継地の役割を担う。地域包括ケア病棟で継続治療をしたうえで、ケアマネジメントや退院後のアセスメント等を実施し、開業医に繋ぐ。そして、開業医の患者の急性憎悪時には同院に入院してもらう、という連携体制だ。

「今後、当院の在宅医療は徐々に縮小して、センターの機能に重点を置きます。なるべく地域の開業医にかかりつけ医として患者を診てもらおうと考えています。今年4月からは深夜入院に加算がつくようになり、緊急対応も行いやすい状況になったので、うまく行くのではと期待しています」

藤野 信男
医療法人 笠寺病院 理事長・院長
1972年名古屋市立大学医学部卒業。同大学医学部第一内科研究員、国立療養所恵那病院内科、名古屋市立大学医学部助手、名古屋逓信病院副院長をへて2014年10月から現職。

藤野 信男氏

将来的には全床を地域包括ケア病棟に転換

ゆくゆくは、10対1病棟を地域包括ケア病棟に転換し、さらにその先には、全床を地域包括ケア病棟にすることも検討している。

「4月から地域包括ケア病棟の手術が出来高制になりましたから、急性期病棟は必須ではありません。当院には、3つの手術室があり、救急の体制も整っています。高齢者の救急であれば、地域包括ケア病棟で十分に対応できます」

すぐに全床を地域包括ケア病棟にできない理由は、60日間という入院期間の制限だ。この間に退院できなかったり、受け入れ先が見つからなかったりする患者もいる。

「そうした患者は、療養病棟に移ってもらう場合があります。多いのは中心静脈、人工呼吸器など医学的な管理が必要なケースです。なるべく退院してもらうようにはしていますが、どうしても長くなる人もいます」また、すべてを地域包括ケア病棟にするには急性期病院からの受け入れを増やす必要もある。現在、同院の入院患者区分は外来からが過半数を占めるが、地域連携による受け入れも増やしたいところだ。

「あと数年たつと、さらに急性期病院の絞り込みが進み、紹介が増えるのではと予測しています。その時のために、地域包括ケア病棟をもう一段充実させたいと考えています」

さらに同院では、消化器に強いという同院の特性を、在宅や地域包括ケア病棟の診療に生かしたいとも考えている。

「内視鏡室は3部屋あり、消化器のがん診療に力を入れてきました。今後は、抗がん剤治療や痛みのコントロールも地域包括ケア病棟で実施したいと考えています。どちらも出来高制で算定が可能です。急性期治療を終えたがんは予後の見通しが立てやすく、在宅での看取りにも適しています。今後もがん患者が増えることは間違いありませんから、対応できる体制を整えたいと思っています」

もう一つ、地域包括ケア病棟ではリハビリも充実させていく構えだ。

「原則として、地域包括ケア病棟のリハビリは包括払いですが、摂食機能訓練は出来高算定が認められています。消化器内科医とリハビリスタッフが協力して、摂食嚥下のリハビリも充実させたいですね」

入院患者区分(平成27年度)

笠寺病院資料より

2013~15年度平均入院単価

笠寺病院資料より

大学からの非常勤医派遣で慢性疾患の患者を集める

外来からの集患については、新たな取り組みも始まりつつある。市内の大学病院では外来を縮小するため、肝臓疾患や糖尿病の患者を大勢受け持っている医師を、非常勤で関連病院に派遣する予定だ。

「いったん当院の外来で診てもらい、落ち着いた頃に地域の開業医に紹介したいと考えています。慢性疾患に関しては、全国的にこうした連携が広がるのではないでしょうか」

最期まで地域で暮らせる医療体制は、患者の生きがいに寄与するだけでなく、医師のやりがいにも通じる。

「地域包括ケア病棟は、高齢者の看取りの場でもありますから、熟練した医師の経験が生きてきます。大きな急性期病院の勤務医は、ベテランになるにつれて病院の経営や管理に関する業務が増え、臨床から離れてしまいがちです。地域包括ケア病棟では現役として長く活躍できるので、現場が好きな医師に向いていると思います」

また、医学教育の一助にもなる。

「すでに近隣の大病院の研修医が、在宅医療の研修に来ています。今年度は20数名、来年度も30名近くになる見込みです」

笠寺病院の思い切った病床再編が、地域医療にもたらした波及効果は大きい。

新しくした病院のロビーは、くつろげるスペースなども設けられており、明るく開放的。

医療法人 笠寺病院
所在地/
愛知県名古屋市
創立/
昭和21年6月8日
診療科目/
内科・消化器科・内視鏡内科・呼吸器内科・老年内科・糖尿病内科・代謝内科・内分泌内科・神経内科・循環器内科・外科・消化器外科・整形外科・皮膚科・リハビリテーション科・放射線科・麻酔科