高齢社会で医療費が高騰する今、医療提供体制はどうあるべきか。日本中が頭を悩ませるこの課題は、実はアメリカにも共通する。多摩大学大学院教授の真野俊樹氏は、例年、アメリカの医療機関を巡る視察ツアーを開催している。2015年11月29日から5泊8日で行ったツアーでは、アメリカ屈指の病院の経営戦略や、地域医療体制、高齢者施設、テクノロジーなどの最前線を視察した。日本がアメリカに学ぶべき点について、真野氏に詳しく報告してもらった。

  • 日本の現状と日米比較

「アクセス・クオリティ・コスト」は
日米変わらず理想的な医療提供体制の3要件
 

アメリカに特に学ぶべき点は病院経営や医療テクノロジー

理想的な医療提供体制の要件とは何か?多摩大学大学院教授の真野俊樹氏は「アクセス、クオリティ、コスト」の3つをキーワードに挙げる。患者が自由に質の高い医療を受けられて、なおかつ医療費も低い体制である。「今までの日本は、すべて達成していました。フリーアクセスは保証され、医療の質もよく、アメリカに比べると低コストです。ところが、超高齢化社会が近づくにつれて費用がかさみ、改革が必要とされています」

現在、厚生労働省が推進している地域包括ケアシステムは、急性期、回復期といった医療機関の機能を明確に定め、患者もそれに沿った受療行動をするものだ。いわば、アクセスを制限してコストを抑えようとする政策である。

真野氏によると、こうした動きは、アメリカにも似た側面があるという。日本のような国民皆保険がないアメリカは、低所得者などが十分な医療を受けられないという意見があるが、最近は状況が変わりつつあるようだ。一般の患者だけでなく、メディケア(高齢者・障害者の公的医療保険)やメディケイド(低所得者の医療扶助制度)の医療提供体制も整備し、地域医療に力を入れている。「アメリカの医療はコストが非常に高くて、アクセスも悪いことが問題になっていました。アクセスをよくしたい点は日本と違いますが、質を優先しながらコストを下げたい課題は同じです。すでにアメリカでも地域包括ケアシステムのような仕組みを作っています」

日本がアメリカから学ぶべき点は多い。一つは“患者目線”を重視したアクセスの改善である。「日本では行政や医療提供者を中心とした話し合いで病院機能を決め、患者が選ぶ仕組みです。話し合いのメンバーに患者代表は含まれますが、個々人が意見を言ったり、選択したりする視点は弱いと言わざるを得ません。一方アメリカは、ITを活用したアクセスの改善が図られ、患者個人が『この医師に診てもらいたい』と選べるようになりました。私たちが視察ツアーで訪ねたクリーブランドクリニックはその模範です」

クリーブランドクリニックは、アメリカ屈指の大規模病院で、経営面も優れている。「アメリカは民間病院が多く、激しい競争原理が働くため、病院の経営レベルが高い。赤字病院はほとんどありません」

アメリカには、ほかにもメイヨークリニック、マサチューセッツ総合病院など、規模が大きく世界最先端の医療技術を備える病院がいくつもある。安倍晋三首相は2014年に開催されたダボス会議で、「日本にもメイヨークリニックのような大規模医療法人ができてしかるべき」との趣旨の発言をしている。今後、日本の医療を巡る環境でアメリカに近づく部分があることも予想される。「日本では今までの急性期病院の一部が高度急性期となります。そこを担う大学病院やJCI認定施設は、アメリカやアジアと競って世界最先端の医療やテクノロジーを揃えるようになるでしょう。アメリカの病院経営に見習う点は多いと思います」

さらに、真野氏の視察ツアーでは地域医療連携の実例や、手厚いケアの高齢者施設、IT機器を導入して患者満足度を高めている小児病院、ビッグデータを活用してコストをカットする企業も訪問した。次項から、じっくり報告する。

真野 俊樹
多摩大学 医療・介護ソリューション研究所所長 多摩大学大学院教授
1987年名古屋大学医学部卒業。内科専門医、MBA。臨床医を経て、95年コーネル大学医学部研究員。外資系製薬企業、国内製薬企業のマネジメントに携わる。その後、昭和大学医学部(病院管理学担当)専任講師、大和総研主任研究員、大和証券SMBCシニアアナリスト、多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授を経て、現職。ほか東京医療保健大学客員教授、中央大学ビジネススクール兼任教員など。

真野 俊樹氏

  • Report1 : 病院経営

クラウドによる一大連携システムの構築で
最先端医療を多くの人に届け経営効率化も
Cleveland Clinic

循環器では全米1位。IT活用で患者数640万人

 視察ツアーの初日は、クリーブランドクリニックへの訪問だった。同院は1000床以上の大規模総合病院で、アメリカの情報誌『USニュース』の病院ランキングでは全米5位。循環器に関しては全米1位を誇る。医師や研修医、看護師の数も多く、質の高い医療を提供している。「ペイシェント・ファースト」の理念を大切にし、一般の患者をはじめメディケア(高齢者)、メディケイド(低所得者)の患者も多く診察している。現在は、高度急性期だけでなく、地域医療にも重点を置く。「アメリカのトップクラスの病院は、医療関係者向けの経営セミナーを頻繁に開いています。“ミニMBA”のような内容で、通常は1週間程度かけて受講します。今回は簡易セミナーとして、同院の経営のエッセンスをレクチャーしてもらいました」

特筆すべきはIT活用だ。同院では、「eクリーブランドクリニック」というコンセプトで、ITを用いた地域医療連携を展開している。「オバマ大統領が見学に訪れたことがあるほど、同院のIT活用はアメリカ国内でも注目されています。まず病院の電子カルテが充実していること。加えて、同院と同じ電子カルテを地域の開業医も導入し、クラウド上で患者情報を共有していることです。既往歴、治療の経過などを共有していますから、患者を紹介、あるいは逆紹介する際も、非常にスムーズです。eクリニックの患者数は640万人にものぼります」

開業医がクリーブランドクリニックの電子カルテを導入する費用は、同クリニックが持つ。「オバマ大統領は、新しい公的保険制度『オバマケア』を普及させる際、電子カルテの導入に補助金を付けました。クリーブランドクリニックからすると、多少投資をしてもいいと思える状況なのです」

オハイオ州北東部、州内第2の都市にある、クリーブランドクリニック。

国外の病院とも情報共有。海外患者数は4400人超

ちなみに、アメリカは開業医のあり方が多様で、最近ではクリーブランドクリニックの勤務医でありながら地域で開業している医師も増えてきているそうだ。「日本の中小規模病院でも、同様の仕組みを検討してもよいのではないでしょうか」

ITを用いた医療連携は、同じ地域内にとどまらない。同院では、アメリカ各地や海外から、最高の医療を受けようとやってくる医療ツーリストも多い。海外からの患者は10年足らずで倍増し、年間4400人超を数える。遠く離れた医療機関であっても、やはり同じように電子カルテを導入してもらう。「あらかじめ患者情報を共有し、時間をかけて遠方から来る価値があるかどうか、紹介元の医師と、同院の医師とで検討します」

充実した医療を本当に必要な患者に届けることができ、患者にとっても無駄足を防ぐ利点がある。

(上)地図の印104ヵ国からネットでセカンドオピニオン受診。(下)エントランスには多言語の挨拶を表示。

iPhoneアプリなど患者向けサービスも充実

eクリーブランドクリニックには、医療機関同士だけでなく、患者向けのITサービスも含まれており、すでに多くの患者が利用している。「『マイチャート』という、患者が自分の診療情報を閲覧できるiPhoneアプリによるサービスで、利用者は200万人。これまでどんな治療をしたか、次の受診はいつか、今後どんな検査が必要かなど、すべて分かります。医療スタッフとコミュニケーションをとる機能もあります」

 ネット上でセカンドオピニオンを受けられる「マイコンサルタント」というサービスもある。患者が詳細な診療情報をアップすると、クリーブランドクリニックが選んだ専門医からコメントをもらえる仕組みだ。世界中からアクセスがあり、特にヨーロッパや中東の利用者が多いようだ。「日本でも、医療機関の少ない地域の住人などにニーズがあるのではないでしょうか」

ほかにも、「マイモニタリング」という、退院後の患者の経過を管理するシステムがある。患者は、自己採血の結果などをネット上で日々、報告し、それに対し同院の医師が必要な指示を出している。「今後は、次のステップとしてウェアラブルセンサーで得たバイタルサインに基づき、経過を管理する構想もあるようです」

さて、ITの活用は患者情報の共有だけでなく、病院の経営管理にも生かされている。「経営データはすべて電子化され、ダッシュボードで可視化されています。在院日数、病床稼働率、外来ブースの稼働状況などのほか、会計情報なども細かく分析されています。最近では日本でも導入する医療機関が増えてきました」

先ページで説明したように、アメリカは医療アクセスを改善しながら、コストダウンとクオリティーの維持を目指している。同院は前述の取り組みにより、患者増、医療の質向上、コストダウンなど多くの指標で成果をあげており、その最前線といえる。

患者が自分の診療情報を閲覧できるiPhoneアプリ「マイチャート」。退院後も安心だ。

連携先医療機関の患者情報は、クリーブランドクリニックのサーバーにアップされる。

「eクリーブランドクリニック」は病院側、患者側双方に向けたITサービスの総称。

(上)「マイモニタリング」では、家から状態をネットで報告。(下)寄せられた電子カルテの患者情報は、同院の医師1人と2人の看護師が管理。

視察では、院内の設備についても説明を受けた。

  • Report2 : 地域医療体制

高齢者医療はACOの連携体制のもと
良質の医療を効率よく提供することを目指す
LEGACY HEALTH SYSTEM(ACO)

地域内の医療機関が連携し診療報酬を分け合う仕組み

アメリカには、医療機関にインセンティブを付与することで、効率的な地域医療体制を作る仕組みがある。それが、メディケア利用者(高齢者)を対象とした「ACO(AccountableCare Organizations)」だ。連携の取れた質の高い医療・ケア提供を目的として病院、家庭医、リハビリ機関などが自発的に作る医療グループで、主に地域利用者の健康管理を担っている。真野氏が視察した「レガシーヘルスシステム」もその一つ。ポートランドに拠点をおく非営利団体で、複数の病院をカバーしている。「ACOは、まず地域住民の人口、年齢層、既往歴などのデータに基づいて必要医療費を推計し、国に登録します。それが認められると包括払い方式で診療報酬が前払いされ、グループの参加施設で分けます。実際にかかったコストが診療報酬より安かった場合、余剰分の一部がACOに残ります。つまり、コストを削減するほど、医療機関はインセンティブを得られるのです」

インセンティブを得るには、左表にある「質の管理指標」を満たすことが条件である。治療、医療協力体制と患者安全、予防、リスクのある特別疾患、の4分野33項目は、決して低いハードルではない。「ACO内の医療機関が協力し、予防医療を充実させて入院を防いだり、投薬や検査の重複等を解消し無駄な医療費を省くことで、質の高い医療とコスト削減を両立させています」

日本の診療報酬は、DPC対象病院の入院治療を除き、出来高払い方式が普通だ。高齢者の慢性疾患が増え、高度な入院治療を伴わないニーズが増加している今、ACOの仕組みは新たな手本になるかもしれない。

オレゴン州ポートランドにあるレガシーヘルスシステム。

33 ACO Quality Measures

※評価基準/1年めはReporting、2・3年めは一部の指標を除きPerformance

州が低所得者向けの公的医療保険に
ACOの概念を取り入れた独自施策
OREGON HEALTH AUTHORITY
オレゴンヘルスオーソリティー

オレゴン州には、ACOとよく似たCCOという地域医療体制がある。主としてメディケイド利用者(低所得者)を対象とした医療グループだ。そのなかの一つ「ファミリーケア」はオレゴン州からCCOの管理を委託されている民間の保険会社である。CCOに参加する医療機関の窓口的な役割を持つ。「今回の視察ツアーでは、オレゴン州政府と、ファミリーケアで話を聞きました。ACOのように、予防医療やタイムリーな治療を提供することを定めた指標があり、達成するとインセンティブを得られます。達成率は約半数とのことで、簡単ではない印象を受けました」

オレゴン州全体に16のCCOがあり、医師はどこに所属するかを選択できる。また、患者個人もどのCCOの病院を受診するか選ぶことができ、1年ごとに変更できる。「医療に限らず、政府が指標を決めて達成したらインセンティブを得られる仕組みはアメリカ国内で広まりつつあります」

オレゴン州政府でCCOについてヒアリングをする様子。

  • Report3 : 高齢者施設

全米に2000あるシニア向け施設CCRC
元気なうちに入居し最後は看護サービスまで
MARY'S WOODS(CCRC)

入居金約3000万円、月利用料約25万円程度

「CCRC(Continuing Care Retirement Community)」は、リタイアした高齢者のためのコミュニティー施設で、発祥のアメリカには約2000ヵ所も存在する。真野氏がツアーで視察した「マリーズ・ウッズ」は、アメリカ国内では標準的なCCRCだ。入居金は約3000万円、月額利用料は約25万円である。「日本の有料老人ホームとは全く規模が違います。広大な敷地内には緑が茂り、立派なチャペルもあります。居室はアパートタイプだけでなく、約半分は一戸建てのヴィラです。共用のレストランで食事をする入居者は一様に身なりを整えており、一つの社交界ができあがっています」

基本的には裕福なアクティブ・シニアが入居するが、介護が必要になったら身体状況に応じて部屋を移る。自立〜要支援程度の「インディペンデント・リビング」、要介護1〜3程度の「アシステッド・リビング」、要介護4〜5程度の「ナーシング・ホーム」の3段階に分かれており、ナーシング・ホームは日本の特別養護老人ホームに近い。「ほとんどのナーシング・ホームは正看護師が24時間体制でケアを提供しています。費用は入居金や月額利用料とは別で、ここの場合、フルに介護を受けると月60万〜70万円ほど。アメリカには公的介護保険がないため、おそらく民間の介護保険を利用していると思います」

CCRCはインディペンデント・リビングの段階からの入居が基本。若い利用者は60代半ばだ。「アメリカはリタイアの概念が明確で、老後も働きたい人は少数のため抵抗が少ないのかもしれません」

日本政府も、高齢者の地方移住の受け皿として「日本版CCRC」の創設を構想している。「日本では元気なうちに施設に入る人は少ないので、アシステッド・リビング以降のCCRCが現実的でしょう。老人保健施設を併設したサービス付き高齢者向け住宅に要介護度の低い人が入る、という感じが落としどころではないでしょうか」

もともとは大きな教会だったマリーズ・ウッズ。

敷地全体の模型を見ながら、説明を聞く真野氏(右)。広大な敷地内にはチャペルも備わっている。

きれいに整備された庭。天気のいい日は入居者たちが集う。リゾートホテルのような雰囲気。

CCRCは元気なうちからの入居が基本。入居者たちは身なりを整え、レストランで食事をとる。

併設されたフィットネスジム。室内プールもある。日常的な運動が、介護予防につながっている。

  • Report3 : 高齢者施設

在宅やCCRCへの入居が難しい高齢者を
支える場として期待されている
ON LOK INC

日本の小規模多機能に似て通所サービスがメイン

CCRCと対照的な高齢者向けサービスに「オンロック」がある。1970年代にサンフランシスコ市のチャイナタウンで発祥した施設で、中国語の「案楽居」を英語表記した名称である。「もともと中国系の高齢者向けで、現在も中国人の利用者が多いのですが、アメリカ国内で同様の施設が増えてきています。リタイア後、在宅療養やCCRCへの入居が難しい高齢者や、低所得者を支える役割を期待されているのです」

真野氏が視察したところは、日本でいう小規模多機能型居宅介護のような施設だ。55歳以上の要介護者を対象に、医療・介護サービスを提供している。「メインは通所サービスで、デイサービス、通所リハビリ、ほかに訪問介護、訪問看護などを受けることができます。マージャンなどのレクリエーション設備もありました」

オンロックの財源はメディケアとメディケイドで、包括払い方式を採用している。8ページのACOのようなインセンティブはない。利用者の要介護度が上がるほど経営が厳しくなるため、介護予防に力を入れている。「CCRCほど豪華ではありませんが、施設内にプールも備わっています。実際、健康管理に取り組むことで入院が減ったなどのデータも出ています」

真野氏は、日本の小規模多機能より優れている点として「医療と介護の完全な連携」をあげる。オンロックには高齢者医療に熟練したプライマリケア医が配置され、医療・介護の垣根を越えたチームがケアにあたっている。経営面でもケアの面でも学ぶことがありそうだ。

レクリエーションルームは日本のデイサービスにも似ている。介護予防のプールがある点は日本より優れている。

「トヨタ生産方式」を導入し
医療の合理化を進めている
STANFORD HEALTH CARE
スタンフォードヘルスケア

スタンフォードヘルスケアはアメリカを代表する病院の一つだ。2018年には新病院が完成する予定で、より期待が高まっている。視察では、医療の質をテーマにヒアリングを行った。「日本の『トヨタ生産方式』を導入し、合理化を突き詰めていました。ほかの医療機関でも、トヨタ生産方式を用いている先例はありますが、まず無駄をなくすために『何が無駄か』を定義付けるところから始まります。医療の場合、医師や医療スタッフが患者に接している時間は無駄ではありません。では会計の待ち時間はどうか。診察室の動線はどうかなどを一つ一つ分析し、いかに無駄を減らすかに注力するのです」

スタンフォードヘルスケアでは、ほかにも患者とのコミュニケーションを重視し、医師は必ず名乗ってから診察をする。患者の満足度を確認してから診察を終えることなども実践している。「日本と違い、患者1人あたりの診察時間が長いアメリカだからこそ、実現できる面もあると思います」

シリコンバレーに位置するスタンフォードヘルスケア。

  • Report4 : テクノロジー

全米屈指の小児専門病院。クラウドを用いて
診療だけでなく、患者サービスも充実
UCSF BENIOFF CHILDREN'S HOSPITAL

病室にもIT設備を導入し快適な入院生活をサポート

UCSFベニオフチルドレンズホスピタルは、最先端医療を提供する全米でも屈指の小児専門病院だ。一日の外来患者数は約900人にのぼり、出産者数も多数。『USニュース』のランキングでは、こども病院のなかで糖尿病・内分泌、がん、神経内科、脳神経外科、新生児および腎臓などで高い順位を獲得している。

同院は、ITを使った患者サービスが盛んなことでも知られる。「病室に備え付けられた液晶モニターでは、テレビを視聴したり、音楽を楽しんだり、病状に合わせた患者の食事や、見舞いに来た家族の食事をオーダーできます。小児病院ですから、勉強や、エンターテインメントのコンテンツもあります。もちろん、クラウド上に保管している診療情報も閲覧でき、検査スケジュールの確認や、医師や看護師とメールでコミュニケーションもできます」

また、院内をロボットが走り、医療物資を搬送している。テクノロジーを活用し、人件費を削減している。

同様のシステムを一般の病院で導入するとなると莫大な設備投資が経営を圧迫しそうだ。しかし、同院は“家族と一緒に治療する”という考え方を大切にしている。見舞いの家族が過ごしやすいように病室は広々としているなど、もともと患者サービスには重点を置いているのだ。その分、医療費は高いことが予想されるが「十分な民間保険に加入している人たちが利用しているのでしょう」と真野氏は語る。

小児病院らしくエントランスから楽しめる設備があちこちにあり、受付も温かい雰囲気に。

小児病院らしくエントランスから楽しめる設備があちこちにあり、受付も温かい雰囲気に。

病室には大きなモニターが備え付けられ、ベッドからリモコンでさまざまな情報を見たり操作できる。

医療物資の搬送ロボットを導入し人件費を削減している。

  • Report4 : テクノロジー

ビッグデータの活用で
住民の健康を管理する構想
OSI Soft

ビルの電力使用量を予測する技術を病院に応用

ビッグデータを活用したコスト削減方法も開発されている。「OSIソフト」は、ビルの電力使用量を予測し無駄を省く技術を持つ企業だ。同社では、病院への応用を検討している。「日本支社長にも面会しましたが、ゆくゆくはウェアラブルセンサーなど不定型なデータを解析し、病院に行かずして心筋梗塞や高血圧症などのリスクを予測し、住民の健康管理をしようと構想しているそうです」

OSIソフトは大規模なベンチャー企業。日本にも支社がある。

summary

日本とアメリカでは医療を取り巻く状況が違うが、質を担保しながらコストを削減し、患者の利便性を高める必要性は同じだ。IT活用や経営の効率化から高齢者施設のあり方まで、参考になる点は多そうだ。