超高齢社会を前に、厚生労働省は「時々入院、ほぼ在宅」の方針を打ち出している。在宅医療は、医師としてキャリアを築く上で、重要な位置になってきた。一方、2014年の診療報酬改定では施設訪問の診療報酬が大幅に下がるなど、変動が多い業界でもある。これから参入を検討している医師は、何に注意したらいいか。また、今後の在宅医療は何を目指すべきか。先駆者である3人の在宅専門開業医にお集まりいただき、弊社社長の司会のもと、本音で語っていただいた。

治療以外の価値基準があるのが在宅医療。
ありたい姿は、“医療と介護との綿密な連携”

非常勤での在宅医の経験がクリニック開業のきっかけに

長尾本日はお集まりいただきありがとうございます。在宅医療のいまと今後について忌憚のないご意見を伺えればと思いますが、まずは、先生方が在宅医療を始められたきっかけからお聞かせください。

長尾 吉祐
司会 (株)リクルートメディカルキャリア 代表取締役社長
1993年㈱リクルート入社。2007年㈱ジョブダイレクト代表取締役社長、2009年自動車カンパニー・カンパニーオフィサー、2013年㈱リクルートマーケティングパートナーズ執行役員を経て、2015年4月より(株)リクルートメディカルキャリア代表取締役。

長尾 吉祐氏

杉浦私が笑顔のおうちクリニックを開業したのは2011年です。

もともと血液内科医として急性期病院に勤務していましたが、ある時に過労で倒れ、ボランティア活動ばかりしていた時期があります。その時の非常勤勤務先が在宅医療に熱心な坂の上ファミリークリニック(静岡県)でした。元血管外科医だった小野院長は、病院から電話があればすぐに飛んでいって患者の退院対応をし、患者の家では輸血や人工呼吸器など高度医療機器が当たり前のように使われていました。これがきたるべき2025年の姿だと実感をしました。元来、急性期病院の時から患者様を笑顔にしたいという気持ちが強く、「最高の笑顔と医療をお届けする」と理念を掲げ、開業することにしたんです。

杉浦 立尚
笑顔のおうちクリニック 代表・院長
2001年名古屋大学医学部卒業。同大学血液・腫瘍内科学教室入局。トヨタ記念病院、社会保険中京病院を経て名古屋大学に帰局し、院内事故防止を研究。医療の質・安全学会医療安全管理者ネットワーク委員会委員を務める。並行して、AED普及のボランティア活動に従事する。09年坂の上ファミリークリニックで非常勤勤務。11年笑顔のおうちクリニック名古屋を開業。埼玉県、千葉県にも分院を持つ。ITを活用し、24時間の完全な患者安全管理を目指す情報共有システムの実証実験を行っている。

杉浦 立尚氏

笑顔のおうちクリニック
  • 設立:2011年
  • 拠点:5か所(愛知県名古屋市中区・瑞穂区・千葉県松戸市・船橋市・埼玉県さいたま市)
  • 医師数:常勤12人 非常勤20人

名古屋市2か所、さいたま市、松戸市、船橋市の5拠点で在宅療養支援診療所を展開。安全で質の高い在宅医療を追求しながら、ICTによる情報連携に力を入れている。24時間動画通信で各拠点がつながっているほか、スマートフォンやタブレット端末のチャット機能を使ってスピーディーに連絡を取り合っている。電子カルテとコミュニケーションツールを統合した「笑顔のおうちICTシステム」を開発した。また、医師と患者のコミュニケーションを手助けする「スマイルコンシェルジュ」を独自に定め、各拠点に配置している。医師は提携先病院のカンファレンスにも参加し、病院の担当医と診療情報を共有。急変時にも速やかに連絡がとれる態勢を整えている。

佐々木悠翔会には9つの機能強化型在宅療養支援診療所がありますが、一つ目を創ったのは06年。在支診が制度化された年でした。

きっかけは、私もアルバイトです。新宿のあるクリニックで訪問診療をしたのですが、患者の多くは、もう治らない状態でした。急性期病院で“治す”ことを使命としてきたので、最初はすごく重たい世界だと思いました。でも患者は違った。治らない現実の中で成熟し、それを生活の一部として受け入れて生きている。“人間ってすごいな〟と思いました。ガイドライン化された病院の治療は僕でなくてもできるけれど、この仕事なら、人間の本来の救済ができるかもしれない。それで、自分でやるしかないと思い至りました。

佐々木 淳
医療法人社団 悠翔会 悠翔会在宅クリニック 理事長 代表医師
1998年筑波大学医学専門学群卒業。三井記念病院内科入局。99年メディカルインフォマティクス(株)取締役Founder。03年井口病院(東京都)、金町中央透析センター(東京都)を経て、06年MRCビルクリニックを開業。07年メディカルインフォマティクス退職。08年東京大学大学院博士課程修了。MRCビルクリニックを医療法人社団悠翔会に改称。東京都内、埼玉県、神奈川県、千葉県などに9つの機能強化型在宅療養支援診療所を展開している。

佐々木 淳氏

医療法人社団 悠翔会
悠翔会在宅クリニック
  • 設立:2006年
  • 拠点:9か所(東京都港区・新宿区・葛飾区・品川区・足立区・埼玉県川口市・越谷市・神奈川県川崎市・千葉県柏市)
  • 医師数:常勤26人 非常勤35人

日本の在宅専門クリニックの黎明期に開業。当初から24時間、365日体制を実施している。夜間は、当直医が院内に待機し、要請に応じて随時往診している。万全の体制が評判を呼び、組織として成長していった。現在は9拠点、26人の常勤医師、35人の非常勤医師を擁する、首都圏最大規模の在宅医療チームである。居宅診療を中心に取り組み、患者数はチーム全体で約2300人、年間看取り数は500件を超える。内科のほか、精神科、皮膚科・形成外科、整形外科、麻酔科、緩和ケア科など、ニーズの高い診療領域に対し、専門医が対応できる体制を整えている。さらに、歯科医師や理学療法士、管理栄養士など多職種による総合的な医療サービスを提供している。

武藤私の場合は「1人の患者を治すだけでなく、社会の仕組みを変えることで世の中の役に立てないか」、と考えたのがきっかけでした。05年に臨床を離れてマッキンゼーに入社し、経営コンサルタントとして2年間勤務しました。辞める際に頭に浮かんだのが、高齢社会を支える在宅医療です。以前にアルバイト経験があったのですが、そこで目にしたのは、丸1日誰とも話さずにいる患者や、ごみが山積みの中で暮らしている患者たちです。急性期病院の恵まれた医療の環境とのギャップが激しく、“このままでいいのか”との気持ちが、心に残りました。在宅医療には、仕組みづくりなどで自分が貢献できる余地があるように思い、10年に開業するに至ったのです。

武藤 真祐
医療法人社団 鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長・院長
1996年東京大学医学部卒業。02年同大学院博士課程修了。宮内庁で侍医を務めた後、07年コンサルティング会社マッキンゼーに勤務。10年、東京都文京区に祐ホームクリニック開業、翌年9月に被災地石巻市に祐ホームクリニック石巻、15年7月に同平和台を開設。15年8月シンガポールにTetsuyu Home Care開設。INSEADでEMBAを取得。循環器専門医、東京医科歯科大学臨床教授、厚労省情報政策参与。

武藤真祐氏

医療法人社団 鉄祐会
祐ホームクリニック
  • 設立:2010年
  • 拠点:3カ所(東京都文京区・練馬区・宮城県石巻市)
  • 医師数:常勤11人 非常勤14人

東京都内2ヵ所と、宮城県石巻市に1ヵ所の拠点を構えるクリニック。地域医療を実践すると同時に、東日本大震災の復興支援にも積極的に取り組んできた。天皇皇后両陛下の侍医を務め、経営コンサルタントの経験も持つ武藤氏らしく、広い視点で社会を捉え、イノベーションを大切にしている。15年からはシンガポールで在宅医療・介護事業を開始した。現地の患者のケアプラン作成や訪問看護の提供、遠隔医療の提供を通して、日本式ホームケアを展開する予定だ。シンガポールでモデルを確立したあとは、アジア周辺国への展開を予定。他国の優れた技術を日本に持ち帰ることを構想している。最終的には高齢者向けの医療・介護・生活支援を一元的に提供するサービスプラットフォームの構築を目指している。

多職種連携と目的共有が鍵医師はゴールキーパー役に

長尾お三方とも人生の分岐点があり、ドクターとしてもさることながら、人間としての想いが強くあって、キャリアチェンジされたのですね。では今、在宅医として活躍されるなかで「在宅医療のありたい姿」とはどんなものでしょうか?

佐々木在宅の患者の多くは、人生の最終段階にいます。その人たちの希望は「自分の人生を、一日でも長く、生きている実感とともに生きる」こと。在宅医はそのサポート役に徹し、前面に出すぎない方がいいと思います。「もう食べられないから点滴です」「胃ろうを造設しましょう」などと言うと、患者は自分らしい人生を生きられないかもしれませんから。そして人生に納得してもらうために大事なのは、プロセス。ですから在宅医は、患者本人とご家族、訪問看護師、介護士らとコミュニケーションをとり、一緒に一番いい形を考えることが非常に大事です。薬では治せなくてもコミュニケーション力で援助できることがある。在宅医にとって一番の武器だと思います。

武藤在宅医療のゴールは、「患者が最期まで家で安心して過ごせること」です。医療は必須ですが、十分条件ではない。医療と介護が綿密に連携した仕組みが大事で、これが社会にあまねく展開されるようにしたい。そのためにはITを使った情報連携が必要だと思いますし、私たちも取り組んでいるところです。

武藤真祐氏 加えて、患者の適切な食事や移動手段を整えたり、生きがいを持って生きられる社会作りも必要です。

日本人の人を思う気持ちや、チームで患者を診る在宅医療の仕組みは非常に素晴らしいものです。それをもっと世界に発信したいですし、逆に、日本に足りないことは海外から持ち込みたい。だから最近はシンガポールで、訪問看護とケアマネジメントの事業を始めました。

杉浦私が専門にしている患者安全にも課題があります。医療事故を防ぐには、医療者個人の努力だけでなく、事故にならないためのシステム作りが大事です。患者安全の文化は急性期病院でやっと根付いてきたところで、在宅にまで広がっていません。当院では、5つのクリニックに共通で学べる学習支援体制をひいており、患者安全を高める努力を続けております。完成したプログラムは介護士や看護師などがオープンに共有するため患者安全財団も設立しました。全員参加型の患者安全を目指しています。

長尾医師だけでなくチームで、プロセスを大事にしながらやるのだと。これが大きなポイントのようですね。

佐々木チームが形成されないと生活を支えられないのですよ。訪問看護師や介護士、理学療法士、歯科医師、管理栄養士など、いろんな専門職がいて、その人たちでしかできない部分があります。在宅医療は、急性期病院のようなヒエラルキーではなく、フラットなチームが基本です。ただ、単に連絡を取り合って一緒に医療をしようとしても、連携は実現しません。全員が目的を共有して「この患者にはこういう医療を提供しよう」と思わなければ、チームは機能しないのです。そのためにサービス担当者会議などがありますが、物理的に全員が集まるのは非効率です。会議はSNSやオンラインチャットを使うなどの工夫が求められています。これらに地域で主体的に関われる医師は、他職種からもパートナーとして選ばれやすいようです。

長尾在宅における医師の役割は、急性期病院とは違うようですね。

佐々木在宅医はリーダーというよりゴールキーパー。先頭に立って動くのはそれぞれの専門職で、最後に支えるのが医師の役目です。あまり医師が動きすぎると医療費もかかりますから、最小限の介入にとどめるのが合理的ではないでしょうか。

医師以外の専門職が自由に自分の意見を言える場作り

杉浦今の話を聞いて、勤務医だった頃のことを思い出しました。血液内科の病棟にある貧血の患者がいて、いろんな検査をしても原因が分からなかったことがありました。私も黙り込んでしーんとしていたら、栄養士さんが一言、「銅欠乏性貧血じゃないですか」と。当時、私の持っていた教科書には銅欠乏性貧血のことは書かれておらず、本当か! ?と思いましたよ。でも、調べてみたら本当に銅が低値でした。その患者が使っていた経管栄養は旧世代のもので銅が入っていなかったのですね。まさにチームに教えられた経験でした。

武藤ただ、チーム医療には注意すべき点もあります。「誰かがやっているから私でなくてもいいや」とポテンヒットになることもある。情報共有やコミュニケーションなどを促進して、チームの総合力を最大化しなくてはなりません。そのためには、リーダーシップが必要だと私は思います。佐々木先生がいうリーダーとは少し意味が異なりますが、各専門職がリーダーの自覚を持ち、自分の意見を言える環境作りが大事なのです。医師はチームのリーダーシップの総和を上げていく役割を担う。先ほどの銅欠乏性貧血の話も、仮に杉浦先生が栄養士のリーダーシップを押さえつけてしまう医師だったとしたら、栄養士は言い出せなかったでしょう。

長期的には診療報酬減の流れ。
ICT活用や地域の人的資源活用で医療の効率化が必要

いい医療を効率的に届けるためのさまざまな知恵も必要

長尾こうした先生方の先駆的な考え方を、果たして国は理解しているのでしょうか。医療政策のあり方についてはどう思われますか。

佐々木まだまだ担い手が足りませんから、在宅医療の診療報酬はしばらく高いままでしょう。でも、医療資源の配分には、生産性も考慮しなければなりません。高齢者医療も大事ですが、社会全体では若者の医療を優先させる必要があるでしょう。だから、在宅の診療報酬は下げざるをえない。すでに14年には施設訪問の診療報酬が大幅に下げられましたね。私たちの診療所も減収になりました。でも、より短い時間でより濃厚な診療ができるように施設内の他職種連携を強化したり、ICTでの情報共有をより効率化したりして、なんとかキャッチアップしました。

佐々木 淳氏 また、医療政策としては、要介護になってから医療費を手厚くするのではなく、予防を重視して健康な期間を延ばすことも必要です。そして、在宅での看取りをもっと充実させる仕組みも作らなくてはなりません。すべて保険の対象にすると医療費が不足しますから、家族の力や、専門職以外も含めた地域の人の力をうまく使っていくことになるでしょう。

杉浦これから診療報酬が少なくなっていくのは、私も当然だと思います。その中で、患者が満足できるようにするにはどうしたらいいか。私たちはとにかくいい医療を効率的に届けようと思っています。クリニックのスケールメリットを生かした効率化を進めながら、「現場100回」の気持ちで、常に自分を磨く職人チームのような形をとっています。

武藤私は、14年の診療報酬改定は大きすぎたと感じています。当院はそれほど影響がありませんでしたが、これから参入しようとしていた医師が思い止まるなどの萎縮効果が出てしまったのではないでしょうか。

杉浦確かに、在宅を目指す医師は減ったようですね。

武藤在宅の医療費は高いと言われますが、マクロの視点で見るとそうではないと思います。やはり病院で最期を迎えるよりは明らかに医療費が安くなりますから。おそらく16年の診療報酬改定では、末期がん患者診療などは手厚くし、要介護度の低いところは下げるなどの見直しがあるでしょう。ですがもし、施設訪問の診療報酬がさらに下がるようなら、それは方向性が違うと思います。

 独居や老老介護、認認介護などで、施設で過ごさざるを得ない高齢者はどんどん増えています。大勢を施設でまとめて診るのは、当然、効率的なわけです。施設訪問をしにくくするのではなく、むしろ一定のインセンティブを付けて促進すべきだと思います。その結果、利益が上がるならば、医師の教育やキャリアアップに充てるような誘導をすればいい。例えば佐々木先生のところで開業のための研修システムを作るとか、いい在宅医がモデルになれば、メイクセンスすると思うのです。

在宅と急性期病院を行き来できる仕組みがあるといい

長尾今後、先生方のような経営感覚を持っている在宅医が増えるには、何が必要だと思われますか?

杉浦何となく、在宅に行った医師はそのまま行ったきりのような、1か0かのような雰囲気がありますが、双方を行き来できる仕組みがほしいですね。今は、後期研修から在宅に関わって、そのまま在宅医になる医師もいます。彼らのその後のキャリアを考えることが大事です。例えば、在宅医として5年間の経験をして地域包括ケアを覚えたら、急性期病院に戻ってICUの管理を学んでまた戻るとか。そういうロールモデルが生まれると、在宅に関心を持つ若手医師が増えることでしょう。

杉浦 立尚氏 加えて、地域包括ケアを学問にすることも重要だと思います。循環器内科学、血液内科学といった風に医局にするのです。杉浦記念財団や名古屋大学が寄付講座を開いていますが、もっと充実させたいところです。地域包括は医療安全と同じで、医師だけで完結するものではありません。職種横断的かつ、社会学や経済学の観点も持った学問にするといい。やがて、それを学んだ人が世界に向けて日本の在宅医療を発信するようになることを期待しています。

佐々木病院の勤務医は非常勤でもいいので在宅医をぜひ経験してほしいですね。退院後の患者がどのように自宅で生活しているのか。家族が患者をどう支えているのかを見れば、意識が変わるはずです。患者がどんな状態になってから退院させるといいか。年齢や状態によっては、それほど集中的な治療をしなくてもいいことなどが分かるかもしれません。

今の地域連携でもっとも難しいのは、病院との連携です。在宅の患者が入院中に認知症が進んだり、廃用症候群になったりして帰ってくることがあります。勤務医が「病気を治す以外の価値基軸がある」と知れば、状況は改善されると思います。

また、ぜひ新しいプロフェッションとして在宅医療を選んでほしい。在宅医療の現場では、フレイルやサルコペニアから患者を守るための管理栄養学、リハビリテーション医学の知識が必要です。口から食べる機能を保つためには歯科や口腔衛生。認知症医療や緩和ケアの知識も欠かせません。通常の総合診療ではなく、「在宅医療」という別個の分野として一から学ぶ覚悟は必要です。

長尾非常に大変な側面もあり、一方、やりがいも大きいでしょうね。

佐々木大変ですが、自分が関わることで患者の人生が変わることもあります。骨折して寝たきりになりそうだった患者が筋肉を付けて車いすで外出できるようになったり、亡くなる前日まで患者が口からご飯を食べられたりすると、こっちも嬉しいじゃないですか。私はそれが楽しくて、ずっと続けてきました。

武藤在宅医療は、自分の得意な疾患に対応するだけでなく、患者や家族、地域社会を含めた中でナラティブなケアを構築する世界です。医師として学びになることは多い。病院勤務医が一時的に在宅に来たり、逆に在宅医が病院に行ってまた戻れたりするのが理想的です。

当院では、14年から「サバティカル制度」を始めました。この制度に申し込んだ勤続5年以上の医師は、有給で1年間休むことができます。その間、留学してもいいし、趣味を広げ、遊んでもいい。急性期病院に行って「やっぱり自分は循環器だ」となってもいいわけです。多様なキャリアパスがある中の1つとして、在宅を捉えてほしいですね。

佐々木1年間も給料を払って自由にするのですか。すごい。感動です。

非常勤でもいいから在宅医療を経験してほしい
今後さらに必要になる包括的視点が学べるはず

10年後も同じ医療スタイルを続けられるとは限らない

武藤私は、組織として医師に5つのものを提供したいと考えています。臨床と教育、研究、経営、そして私がシンガポールで挑戦しているようなイノベーションです。それらを経験できるメニューを揃えておくことで優秀な医師が入ってくるなら、やりがいがあります。私たちのほかの在宅クリニックも、それぞれの価値を打ち出しています。在宅への参入を躊躇している医師は、自分に合いそうな場に身を置いてみるといい。その後の医師人生にとって絶対プラスになります。

最後に、脅すわけではありませんが、将来的にコンピュータが発達していけば、医師の仕事は減っていくでしょう。外科手術はロボットがして、内科の診療は人工知能のワトソンが担うようになるかもしれません。

杉浦ワトソンなら、かつての私のように銅欠乏性貧血を見逃さないでしょうね。

一同(笑)。

武藤10年後も今のような医療スタイルが続くとは限りません。地域全体を見る包括的な視点や、コミュニケーション力、リーダーシップは、実践のなかでしか鍛えられない。今の自分に足りない部分を伸ばす場としても、在宅医療は良き場所だと思います。

長尾先生方のように日本の医療を支える医師、さらには看護師やコメディカルが増えることを願います。本日はありがとうございました。