「せっかく非常勤で働くからには、自分の希望に合い、キャリアに活かせる方がいい」。そう願う医師は少なくないが、情報があふれ、なかなか選択しにくい現状がある。決まった曜日や時間に勤務する「定期非常勤」と、特定の日だけ勤務する「スポット非常勤」とでも、募集数の傾向や待遇、求められる条件などが異なる。それぞれの紹介業務に従事するアドバイザーに、最新動向を取材した。
リクルートメディカルキャリアでキャリアアドバイザーを務める山本亮介氏は、定期非常勤の募集状況についてこう説明する。 「非常勤医の勤務開始が多い時期は毎年4月です。最近は、少し前倒しした1月頃から求人が増え始めます。募集数は前年とさほど変わりません」
報酬の相場は、地域や科目などによって若干異なる。関東圏の状況はどうだろうか。「東京都心や横浜など人気の高い地域は、時給1万円が相場です。栃木県や群馬県など北関東は、医師不足などの理由で時給がやや高く、1万~15000円程度です。特に外科系は高い傾向があります」(山本氏)
他に、整形外科や居宅への訪問診療など、診療報酬が高い科目も、比較的、時給が高いといわれている。総合病院より、クリニックの方が、より好待遇の場合もある。
科目別の募集数は、圧倒的に内科や整形外科の外来が多い。医師数も多いため、需要と供給のバランスが取れている。一方、医師に人気が高いのはスキルを磨ける科目だ。 「内視鏡が扱える消化器内科や、未経験での美容皮膚科などを希望される医師が比較的多く見受けられます。しかし、どちらも募集数があまり多くなく、競争が激しい分野です」(山本氏)
産業医も昔から人気が高い。昨今、会社員のうつ病の増加などで業務は忙しくなっているが、それでも希望する医師が絶えない。 「求人はかなり少なく、常に医師が待っている状態で、募集が出るとすぐ埋まります」(山本氏)
同じくキャリアアドバイザーの川口和馬氏は「定期非常勤には即戦力が求められます」という。人気の高い科目の医療機関が自院で募集せず、紹介会社に依頼するのは、スキルの高い医師を求めているからだ。
未経験者歓迎の科目としては、AGA(男性型脱毛症)外来が伸びている。知識を広げるためや、好条件に魅力を感じて参入する医師もいる。 「業務はマニュアル化されており、いわゆるdo処方が多いといわれます。肉体的な負担が軽く、東京なら新宿や渋谷などターミナル駅に多いこともメリットです」(山本氏)
他に募集が増えてきているのは訪問診療だ。2014年に施設訪問の診療報酬が大幅に引き下げられ、一時的に医師の募集が減ったが、数ヵ月後には復活している。 「定期非常勤で訪問診療をしようと思う医師は、40代後半~50代のベテランに多く見られます」(川口氏)
施設訪問では、コミュニケーション能力に長けた内科医が歓迎されやすい。居宅の場合は、胃瘻や人工呼吸器などのニーズが高いこともあり、外科系の医師が求められる傾向だ。褥瘡の処置のために、皮膚科医を募集することもある。当初、美容皮膚科を希望しつつも募集が少なく、訪問診療にシフトする医師もいる。
また、精神科クリニックの訪問診療もニーズが高まっている。 「例えば、外来に来なくなったアルコール依存症患者宅への定期的な訪問診療などです。会社員の患者が多いため週末の求人が多いのが特徴です」(川口氏)
定期非常勤で最も重視する点は「給与」と「勤務内容」が共に約4割。定期非常勤で働く理由は「収入を増やすため」が約7割と圧倒的多数だ。勤務日数は「週1日程度」が約4割で最多である。勤務形態は「日勤(1日)」が半数。「午前のみ」「午後のみ」「当直のみ」も2~3割ほどあり、多様な働き方がうかがえる。入職した経路は「同僚・知人の紹介」が半数で最も多い。次いで「医局の紹介」が約4割、「民間人材紹介会社」が約2割だった。
※未経験の方は想定でご回答ください。
出典:リクルートメディカルキャリア「2015年3月 医師に関する調査」
(web調査、全体回答数800人、Q2〜5は定期非常勤経験者回答数206人)
医師が定期非常勤で働く理由は、大きく3パターンに分かれる。「一つ目は常勤先の研究日でも収入を得るため。二つ目は、症例増や周辺知識習得などスキルアップ。そして三つ目は主に女性医師で、育児と仕事を両立するためです」(山本氏)
最も多いのは、収入増のための定期非常勤だ。子どもの教育費がかかる40~50代の医師によく見られる。スキルアップを理由とするのは、30代の若手医師に目立つ。女性医師は、時短勤務を希望するケースが多い。ここ5年ほどで病院側の対応が変わり、変則的な勤務も受け入れられやすくなってきている。
定期非常勤をその後のキャリアに活かす医師もいる。例えば、内視鏡などの症例数を重ねて専門医を取得・維持するケース。あるいは開業準備に活かすケースだ。
「2~3年後をめどに開業予定の医師で、複数の医療機関に定期非常勤で入り、経営のノウハウや人事マネジメントを学ばれている方がいます。そうした理由の定期非常勤を病院側が歓迎するか否かは半々ですが、開業後、うまく病診連携が取れる場合はハードルが下がります」(山本氏)
自分に合った非常勤先を見つけるポイントとして、両氏はこう語る。「遠くても高報酬がいいのか、報酬は低くても都心で負担が少ない方がいいのかなど、先生の『軸』を明確にすることで、病院側の条件とのギャップが少なくなります」(山本氏)
「週1回の勤務でも、人脈が広がったり、普段とは違う治療を学べたりします。ぜひ、条件面に加え、自身のキャリアも考慮して選んでほしいと思います」(川口氏)
スポット非常勤とは、不定期に募集のある日に勤務することを指す。東京大学医学部附属病院の医師による互助組織として始まり、スポット非常勤の医師紹介で案件数が最大級のMRT(株)に現状を聞いた。
同社人材紹介事業部部長の宮田純氏は、募集も応募も増加傾向と語る。「求人数は毎年10~20%のペースで増加し、登録医師数も、名古屋・大阪営業所新設により全国規模で増えています。30~40代が中心ですが、中には80歳以上の医師もいます」
同社代表取締役社長の馬場稔正氏によると、急きょ、募集がある案件も少なくないそうだ。「例えば、当直医が体調を崩し、今日の夕方から入ることができる医師を募集する場合。常勤先で日勤を終えた医師がマッチングしたり、18時~22時までの医師と、それ以降から朝までの医師と、当直を分担して勤務することもあります。18時からを19時に時間調整すること等も可能です」
報酬は、時給1万円が相場だが、勤務地や科目、仕事内容や忙しさなどによって異なるという。「整形外科では、時給1万2000~3000円。救急は相応のスキルがあることが前提で、二次救急、三次救急と上がるにつれて時給もアップし、忙しい当直だと1日に6〜8万円。救急車の台数に応じてインセンティブがつくところも。逆に緩やかな勤務の病院は、時給8000~9000円が相場です」(宮田氏)
募集は、内科の一般外来が定番だ。「毎年、春と秋は健診の募集シーズンです。北海道や沖縄のほか、特に北関東や東北は相場が東京の平均より日額1~2万円高いこともあり人気です。このエリアだと1週間で50~70万円程度になります」(宮田氏)
例外的に、マスコミ出演やイベントに帯同する医師なども募集されるのも、スポットのユニークなところ。「ライブ会場やギネスブック認定イベント、大食い選手権の会場など、さまざまなシーンで医師が求められます。医療ドラマの監修、雑誌やテレビの取材などもあります。医療界以外とのコネクション作りにもなるためか、通常の診療より報酬は安くても人気があります」(馬場氏)
医師がスポット非常勤で働く理由は多様である。「常勤先が忙しかったり、育児中だったりして、いつ時間が空くか分からないケース。留学からの一時帰国で、短期間だけ勤務したいケースもあります。あるいは、困っている病院を助けたい思いが強い医師が、東北や北陸地方に月1回のペースで勤務する例もあります。この15年間、ほぼ変わらない傾向です」(馬場氏)
馬場氏は、医師がスポット非常勤先を決める基準は2パターンに分かれると分析する。「一つは、立地や報酬など経済合理性で勤務先を決めるパターン。もう一つは『医師はバイトで育つ』というように、経験を積めることを重視するパターンです」
病院によっては、スポット非常勤の医師でも専門性の高い診療を行えたり、常勤医と一緒に研修できたりもする。また、スポット非常勤をキャリアに活かす方法として、時々あるのが‘“常勤化”に向けたトライアルとなるケースだ。「やや遠方の病院にスポットで入った医師が、院長と意気投合し、3ヵ月ほどで定期非常勤に。さらに1年以上たって常勤として入職した例がありました」(宮田氏)
開業準備としてうまくスポットを活用するケースもある。「開業医は幅広い患者を診ることになります。ある医師は小児科と皮膚科にスポットで入り、経験を積んでから開業していました。スポットで訪問診療にトライアルし、自身で開業した医師もいます」(馬場氏)
数日のスポット非常勤も、スキル訓練、将来に向けた適性探しなど、本人の意識次第でキャリアの下支えになるといえそうだ。
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