識者取材、成功者事例、読者アンケートからこれからの医師のキャリアを考える〜医師の幸せな人生のために〜

従来の2025年問題、2040年問題に加え、医師の働き方改革、ICTの進展、そして新型コロナ禍など、医療界は大きく変動している。そのなかで医師のキャリアパスもまた、従来と同じ考え方では通用しなくなってきている面もある。医師として、自身が納得のいく幸せな人生を歩むためには、これからのキャリアをどう設計、選択していけばよいのか。
識者インタビュー、成功者事例、読者アンケートなど多方面からの声をご紹介する。

キャリアに関わる制度の変遷

キャリアに影響を与えた制度改定のTOP3は、
新専門医制度、新医師臨床研修制度、医師の働き方改革

国の施策に合わせて
医療界の空気も変わった

医療制度の変遷を振り返ると、医師のキャリアにかかわる改定は幾度も行われてきた(下年表)。弊誌読者のアンケートでは、キャリアに影響を与えた制度改定として2004年の「新医師臨床研修制度」(32・2%)、18年の「新専門医制度」(40%)、19年の「医師の働き方改革」(30%)を挙げる回答が多かった(下グラフ)。

新医師臨床研修制度は、それまで主流だった「医局に所属して研修を受け、医局人事に従って働く」というキャリアパスを根底から覆した。マッチング方式で医師が研修施設を選ぶようになり、働き方の多様化につながった。また、研修医の待遇も改善された。その半面、医局が弱体化し、医師の地域偏在・診療科偏在が加速した。読者からは「研修医が入らないので大学病院での低給医員を長くやらされた」(精神科・50代前半・男性)などの声が寄せられた。

新専門医制度は、学会主導だった従来の専門医制度を日本専門医機構が管理し、専門医の質を標準化する狙いがあった。だが、研修施設の多くは大病院で、医師の地域偏在を深刻化させたと言われる。また、資格更新の手間や費用がかさむようになり、「専門医を更新しないという選択肢を考えるきっかけとなった」(産業医・40代後半・男性)という意見もある。

医師の働き方改革は、長時間労働を是正するため、医師事務作業補助者の採用やワークシェアの導入などが促進されており、医師もQOLの高いキャリアを求めてもいいという風潮が広がった。「薄給でも人に尽くして当たり前という考え方が蔓延していた医療界も空気が変わった」(一般内科・30代後半・女性)。

今後も、医師のキャリアを左右する制度改定は起こるだろう。医療制度の動向を注視し、自身の幸せにつながる選択をしてほしい。

医師キャリアに関わる体制や制度の変遷
編集部作成
Q 医療界の体制や制度変更で、医師のキャリアに影響があったと思われる項目をお選び下さい(複数回答)

読者フリーコメント

【新専門医制度】
  • 専門医制度が厳しくなって、再び大病院中心の研修が多くなった(麻酔科・50代前半・男性)
【新医師臨床研修制度】
  • 臨床能力の底上げになった(在宅・訪問診療・40代後半・男性)
  • 希望する専門科目以外の研修を受けられたので、コンサルテーションの際に役立った(小児科・40代前半・男性)
【医師の働き方改革】
  • 若い世代の臨床能力の育成に影響を与えていると思う(一般内科・40代前半・女性)
  • 定時で帰ることを要求され、仕事に対しての考え方が変わった(皮膚科・40代前半・男性)
  • 大学医局にとらわれない医師が増えてきたと思う(脳神経外科・30代後半・男性)
【医療機能の分化・連携】
  • 医療の細分化が進んで責任も細分化し、総合的見地での診療は薄くなった(消化器内科・60代前半・女性)
【地域医療構想】
  • 在宅医療を視野に入れた(その他外科系・50代前半・男性)
  • インタビュー

これからの医師のキャリアをどう考えるか

未曾有の状況のなか、今後のキャリアを考えるヒントとなるよう、地域医療、慢性期医療、在宅医療、医療ICT、国際比較など、各分野の識者にメッセージをもらった。

医師を志したときの熱い想いを忘れずに
明確なビジョンを持って行動してほしい

一般社団法人 日本病院会
会長
相澤孝夫
1973年東京慈恵会医科大学卒業。信州大学医学部附属病院を経て、社会福祉法人 恵清会理事長、社会医療法人慈泉会 相澤病院理事長・院長を歴任。2017年から社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。同年日本病院会会長に就任。

相澤孝夫氏 写真

新型コロナ禍で問われたのは
医療を提供する覚悟

2020年から現在に至るまで、新型コロナウイルスは各地の医療機関の経営や医療現場での対応に大きな影響を与えてきました。そうした中で、私が以前から抱いていた「医療に携わる者すべてが明確なビジョンを持つべき」との想いはますます強まっています。

たとえ陽性反応を示す住民が増えてきたとしても、「何としても地域の救急医療を守る」という明確なビジョンを持つ病院なら、発熱の有無に拘わらず救急患者を受け入れ、医療資源を集中させるために一般診療は一時的に縮小するといった体制をとるはずです。

病院のしっかりしたバックアップがあれば、医師も「患者さんを診ることで社会に貢献する」という強い信念のもと、必要とされる治療に集中できるでしょう。

その意味で今回の新型コロナ禍は、医療機関や医師がどれだけ明確なビジョンを持ち、患者さんや地域社会のために医療を提供していけるかを問うものだと言えます。

医師として幸せな人生を送るためにも、医師を志したときの熱い想いをもとに、「自分は何のためにここにいるのか」を何度も問い直し、ビジョンを磨き続ける努力を惜しまないでほしいと思います。

さまざまな疾患への対応力や
多職種と連携する力も必要

少子高齢化が進む日本において、高度急性期・急性期病床を適正化する医療政策は、新型コロナ禍後も変わらないでしょう。専門医療で力を発揮する医師は絶対に必要ではありますが、活躍の場は現在よりも大幅に減っていきます。

一方で、近隣の医療機関と連携して、在宅の患者さんの容体急変時などに入院を引き受けるような地域密着型の病院へのニーズは確実に存在します。このような病院の医師に求められるのは、入院患者の管理に加え、連携する医療機関の医師と協力して、自らもかかりつけ医という意識を持って患者さんを診ていける力です。

しかも診療する患者さんの多くは複数の疾患と複雑な生活背景を持つ高齢者で、ある程度の専門分野の知識と幅広い分野に対応する力、多職種の医療・福祉従事者との協力も必要になります。

さらに開業医の役割は、こうした病院よりさらに地域に密着した活動が求められます。例えば高齢者福祉施設や地域の老人会を訪ねて早期に介入するなど、高齢者一人ひとりの人生に寄り添い、健康の維持・増進をサポートすることが主な仕事になるはずです。

医師として何をすべきかを
考えて今後の選択を

私は少子高齢化も新型コロナ禍も、日本の医療体制を変えるチャンスだと考えています。それは同時に医師が自身の医療の原点を見つめ直し、ビジョンを再度明確にするチャンスでもあります。

前述の通りこれから医師が進む道は、専門医療に特化した中核病院の限られた枠に入るか、地域密着型の病院や診療所で活躍するかのいずれかです。これから日本が大変な状況になる中で、培ってきた専門性だけに頼るのではなく、「医師として何をすべきか」という視点から今後のキャリアを考えてほしいと思います。

医療現場でのマジョリティーとなった高齢者を
社会復帰も考えて診療できる医師が求められる

一般社団法人 日本慢性期医療協会
会長
武久洋三
1966年岐阜県立医科大学(現 岐阜大学医学部)卒業。1971年徳島大学大学院医学研究科修了。平成医療福祉グループとして早くから慢性期医療に取り組む。同グループ代表。2008年日本慢性期医療協会会長に就任。

武久洋三氏 写真

臓器別専門医だけでは
日本の医療は立ちゆかない

現在の医療政策は専門医の育成に力を入れ、毎年の専攻医数は医学部卒業者数の9割を占めますが、総合診療専門医を目指すのはそのうちわずかに過ぎません。

しかし、実際の医療現場を見ると患者さんの大半は高齢者で、それほど多くの臓器別専門医が必要なのかと疑問に思います。がんなど専門的な治療はむろんあるものの、フレイルによる虚弱性に起因する総合的疾患のように、ある分野の専門性だけでは解決できないケースが非常に多いからです。

加えて、キャリア形成においても専門性を重視する傾向が続いたことで、中堅からベテラン世代の医師の能力と医療の現状とのミスマッチが起きています。

また、急性期医療から回復期、慢性期への移行がスムーズでないケースも目につきます。急性期で病気やけがを治療する際に、患者さんの体力の維持までは診ていないことで、回復期や慢性期での入院期間が長引き、そのまま要介護になる方も出てきます。急性期医療に携わる医師であっても、患者さんの社会復帰を念頭に置き、全身状況の改善という観点を早急に採り入れる必要があると思います。

身につけた専門性をベースに
総合診療の力を養う

今の医療現場のマジョリティーは高齢の患者さんで、対応には総合診療の力が欠かせません。とはいえ、中堅、ベテランの医師が改めて総合診療専門医を取得するには時間がかかります。それより自らの専門性をもとに守備範囲を広げ、総合診療の力を養う方が実情に合っているでしょう。

例えば、それまで専門性を磨いてきた大学病院や都市部の総合病院を離れ、へき地に近い公立病院でしばらく経験を積むことも考えられます。そうした病院の患者さんは複合疾患を持つ高齢者がほとんどで、自分の専門だけ診ていても治療になりません。目の前の患者さんを何とかしたいという気持ちを持てば、独学で必要な知識を習得して、総合診療の力を身につけられるはずです。

専門性を磨いて、その道のスペシャリストとして腕をふるう医師も確かに必要です。しかし、専門医療を行う病院の統合が進めば、この分野で活躍する医師の数も減り、将来のキャリアの選択肢が狭まるのは間違いありません。

しかも、以前は「医局に入局し、関連病院をしばらく回った後に開業する」といった人生を送る医師も多く、開業後は専門分野を中心に診ることも可能でした。しかし現在は「開業せずに勤務医のまま一生を終える」という選択肢も現実的になっています。

これからは、今まで以上に「医療現場のニーズに合った診療を提供できる医師」、「患者さんを治すためなら専門分野にこだわらず、自分ができることを拡大していく医師」が、病院や患者さんから選ばれ、長く活躍できるようになるでしょう。医師にはこのような時代がやがて来ることを正しく理解したうえで、よりよいキャリア選択をしてほしいと思います。

臨床で活躍するには対人援助の力を磨くこと
医療で解決できない課題にも取り組んでほしい

医療法人社団悠翔会
理事長・診療部長
佐々木 淳
1998年筑波大学医学専門学群卒業。三井記念病院、東京大学医学部附属病院などを経て、2006年在宅療養支援診療所を開設。2008年設立の医療法人社団悠翔会は15の診療拠点を持つ機能強化型在宅医療ネットワークに発展。

佐々木 淳氏 写真

医師の今後はオペレーターか
開発者か対人援助者に大別

これからの医師のキャリアには、医療DXによる医師の役割の変化も大きく影響してきます。医師が知識・経験をもとに行ってきた画像診断や手術などは、エキスパートシステムに置き換えられ、その精度は飛躍的に高まるはずです。

そして医師の役割は、技術の開発など研究面で活躍するか、培ってきた手術スキルの延長としてオペレーターを目指すか、対人援助にシフトするかの3つに集約されるでしょう。医学が治療や予防の分野で進化し続けるために研究者は必要ですが、これは臨床家より大学で基礎医学を学んだ人が目指すことになると思います。

また、内視鏡をはじめとした医療機器は技術革新により、医師の技術のサポート役から手術の主体になることも考えられ、やがて医師がオペレーターとしてサポートすることになるかもしれません。

今後も臨床で活躍したいのなら、対人援助の力を磨く道が考えられます。むろん、こうした考えが正しいかどうかを知るには、時間が必要です。しかし「臨床での対人援助」という視点は、目の前の患者さんが抱える課題を解決するヒントになるものです。

例えば、頭痛で悩んでいる人は片頭痛やうつ病ではなく、生活面や家族・友人関係のストレスが影響しているかもしれません。そうした場合は、医療よりも相手の話をじっくり聞き、家族や友人とも話し合う対人援助の方が問題解決に至る可能性は高まります。実際に海外の家庭医はこうした対応を実践していて、日本でも医療で解決できない課題に取り組むことを考えるべきだと思います。

医師は患者価値の最大化を目指すべきで、患者さんを治療することだけが診療の目的ではありません。医師法の第1条は「(前略)国民の健康な生活を確保するものとする」であり、突き詰めると病院の要らない社会を作ることが医師の目標だと私は捉えています。

在宅医療は治療より
患者の人生の充実を優先

私が従事する在宅医療は、治療ではなく患者さんの人生の充実を優先するため、「患者さんのために何ができるか」という対人援助の視点を大切にしています。

病院ではガイドラインに沿ったチーム医療が基本で、主治医が誰であっても、おそらく同じ治療結果が得られると思います。

在宅医療もチーム医療ですが、患者さんと誰が対話をして、どのような関係を築けたかによって、その方の人生も左右されます。「在宅はもう無理」とご家族も思っていたのに、「このような工夫でどうだろう」という提案で最期まで患者さんが自宅で過ごせたなど、医師やスタッフの取り組み次第で結果が変わる可能性があるのです。さらに新型コロナ禍で病院の受診控えが起き、「入院せずに在宅で生活の質を高める」ことが患者さんとご家族に浸透してきました。

2040年に高齢者人口がピークを迎えますが、人口が密集する都市部で在宅医療の必要性が高まるのはもちろん、地方には在宅療養支援診療所が設置されていない基礎自治体がまだ残っています。

そうした場所で在宅医療を始めるとしたら、地域医療にインパクトを与えるやりがいのある仕事ができるのではないでしょうか。

高齢社会で求められるジェネラリストの医師
異分野との交流などで独自の強みを磨こう

中央大学大学院戦略経営研究科 教授
名古屋大学未来社会創造機構 客員教授
真野俊樹
1987年名古屋大学医学部卒業。医学博士、経済学博士、総合内科専門医。臨床医、製薬企業のマネジメントを経て、現職および多摩大学大学院特任教授。医療・介護業界のマネジメント、医療の国際比較にも詳しい。

真野俊樹氏 写真

医療ICT導入後の環境で
力を発揮できる人材が必要

日本は医療機関へのアクセスがよく、オンライン診療は定着しづらかったのですが、新型コロナウイルスの感染対策として改めて注目され、初診でも利用できるなど条件も緩和されました。

それでも、まだ多くの人が利用するには至らない一方で、海外にはアメリカ、イギリス、中国などオンライン診療の利用が進んでいる国・地域も見られます。

もちろん従来の日本の医療体制にも利点はあり、近くの専門医に気軽にかかれることは生活習慣病の管理に非常に効果的で、定期的な診療や検診は、がんの早期発見や治療にも役立っていました。

一方、医療過疎や医療の担い手不足といった課題を考えると、日本もオンライン診療をはじめ医療ICTの導入を急ぐべきです。が、それは必ずしも医師の業務効率化にならないことも考えられます。

例えば患者さんのデータをAIで分析してオンライン診療に臨む場合、分析結果を説明したり、前回の受診から昨日までの運動量や消費カロリーを見てアドバイスしたりと、扱う情報量の増加で一時的に負担が増えかねません。

加えてデータ活用のスキルを習得し、オンラインでのコミュニケーションに慣れるなど、新たな診療環境でも十分に力を発揮できる人材が求められると思います。

スペシャリストなら
海外での活躍も視野に

これからの医師は、新たな医療技術を生み出すイノベーター、非常に高度な手技を持つスペシャリスト、幅広く診療するジェネラリストに役割が分かれ、活躍の場もそれぞれ異なってくるでしょう。

イノベーターは自ら新たな価値を生み出すため、医療ICTの進化でポジションを奪われることはないと思います。スペシャリストはロボット支援手術などに影響を受ける可能性もありますが、それが今すぐに起こるとは考えにくいところです。さらに手技という強みは国際的にも通用するため、急性期医療中心の新興国での指導や、可能なら手術を行うなど活躍の場を広げることもできます。

ただ、以前は医療ツーリズムとして海外から患者さんを受け入れたり、病院として海外に診療拠点を造ったりという動きが目立っていましたが、今は新型コロナ禍もあり下火になっています。スペシャリストとして海外進出する場合は個人で行うことになるでしょう。

人文的な素養や発想を磨く
ジェネラリストに期待

今後の舵取りがもっとも難しいと感じるのはジェネラリストです。新型コロナ禍による受診控えの影響を大きく受けているうえに、AI診断などによる置き換えも懸念されています。しかし、今の高齢社会で求められている医師は、総合診療、高齢者医療に詳しいジェネラリストにほかなりません。

前述のオンライン診療など医療ICTの効果的な利用だけでなく、人文的な素養を身につけ、異分野の人とも積極的に交流して知見を広げ、新たな発想を磨くなど、ICTでは代替困難なジェネラリストを目指してほしいと思います。

  • 成功事例

幸せなキャリア選択とは

転職は幸せなキャリアを叶えるための手段だ。キャリアアドバイザー(CA)が支援し、医師が納得の働き方に至った転職事例を紹介する。

事例1
すぐにメスを置くのではなく、
外科7割・内科3割の業務割合で転職。
ストレスなくキャリアチェンジを実現した
50代前半・男性

キャリアの選択は
〝ゼロか100か〟で考えない

大学病院でメスを握っていた消化器外科医。50代に入り、立ち止まって考えた。

「10年後、自分はどこで何をしていたら幸せか?」

ずっと外科医でいたいとまでは言い切れないが、すぐに内科に転科する決断もできない。葛藤を抱えたまま、医師人材紹介会社のCAに相談した。すると、「外科をやめるかどうかを“ゼロか100か”で捉えず、もっと柔軟にキャリアを考えては」と提案された。

CAに紹介されて面接を受けた中規模の一般病院では、院長や事務長が一緒になって将来のキャリアを検討してくれた。病院としては消化器内科医を募集しているが、当面は消化器外科医として手術を執刀してもいい。少し時間をかけて内科に転科してもいいと言う。あと1回は外科の専門医を更新したいという希望も叶う。縦割り組織の大学病院ではなく、自由度の高い一般病院だからこそ可能な働き方である。

国の施策で、外科は集約化の方向にある。その中であと10年踏みとどまって、定年してから内科に転職をするか? それとも、今の段階で転科し、早めに内科のスキルを身につけるか? 長い目でキャリアを考え、後者を選んだ。

転職してしばらくは、外科7割・内科3割ほどの割合で働いた。その後、内視鏡検査など内科のスキルを身につけ、1年がたつ頃には外科3割・内科7割に転じた。病院に信頼され、消化器内科だけでなく一般内科の外来も任されている。一気に外科の看板を下ろすのではなく、自分が納得できる時期まで猶予があったことで、ストレスなくキャリアチェンジができた事例と言える。今後は、外科医だった知識を生かして、地域医療を支えていきたいと考えているそうだ。

●Profile

Before After
施設形態 大学病院 一般病院
科目 消化器外科 消化器内科
業務 外来・病棟・オペ 外来・病棟・(オペ)
勤務形態 常勤・当直あり 常勤・当直なし
年収 1800万円 1850万円
事例2
生涯、外科医であり続けたい。
その願いが叶う病院に、転職で巡り会えた
50代前半・男性

人柄と若手の育成力を
見込まれ、部長職で転職

「手術件数は減っても、生涯、消化器外科医でいたい」という信念は、揺らいだことがなかった。だが、人と競うことを好まない性格で、大学で教授になれる見通しは厳しい。CAに相談すると、一般病院で消化器外科部長を募集する希少な求人が見つかった。

その病院が求めていた医師像は、穏やかで協調性があり、若手の育成ができる医師。ほかの医師からの応募もあったようだが、面接を受けると「ぜひ、あなたに来てほしい」と歓迎され、転職を決めた。手術はもちろん、若手の育成も大きなやりがいがある。技術を教えてほしいと入職してくる若手も増えた。「この病院で、外科医として骨を埋めたい」と思っているという。

●Profile

Before After
施設形態 大学病院 一般病院
科目 消化器外科 消化器外科
業務 外来・病棟・オペ 外来・病棟・オペ
勤務形態 常勤・当直あり 常勤・当直あり
年収 1600万円 1800万円
事例3
ICT導入に積極的な病院へ転職。
遠隔診療を駆使し、プライベートの時間を確保
50代前半・男性

自分を大事にしてくれる病院
だから長く働ける

複数の病院から手術の腕を買われ、常勤と非常勤を掛け持ちしていた脳神経外科医。週の半分は病院に泊まり込む働き方をしていたが、家庭の事情で時間が必要になり、転職することにした。

CAから紹介された一般病院は、電車で1時間超の距離だが、医療のICT化に積極的で、遠隔画像診断支援システムを導入していた。定時で帰宅しても、スマートフォンでCTやMRIなどの画像を見て、部下に指示を出せるし、緊急の呼び出しは少ない。また、病院として脳神経外科を強化する計画があり、スタッフも揃っていた。実際に転職してみると「自分を大事にしてくれる病院。ここなら長く働ける」と実感したそうだ。

●Profile

Before After
施設形態 一般病院 一般病院
科目 脳神経外科 脳神経外科
業務 外来・病棟・オペ 外来・病棟・オペ
勤務形態 常勤・当直あり 常勤・当直なし
年収 2000万円 2000万円
事例4
戦略的、合理的にキャリアを検討し、
30代で外科から内科へ転科した
30代後半・男性

外科より内科の方が
働く場は10倍多い

外科の医局員として、ほとんど休みが取れないようなハードワークを続けてきた。子どもが生まれたことを機に「このままの働き方でいいのか?」と考えた。

CAに相談したところ「外科より内科の方が働く場は10倍多い」と聞いた。まだ30代と若く、外科に未練がなかったとは言えないが、戦略的、合理的にライフプランとキャリアを検討した結果、「定年近くになってから転科するより、今の方がいい」と判断。一般病院の内科へ転職した。

当直はなく、プライベートの時間は大幅に増えて子育てにも参加できるようになった。内視鏡など内科のスキルを着々と身につけ、新しいやりがいを感じている。

●Profile

Before After
施設形態 大学病院 一般病院
科目 一般外科 一般内科
業務 外来・病棟・オペ 外来・病棟
勤務形態 常勤・当直あり 常勤・当直なし
年収 1700万円 1800万円
事例5
70歳から再び医療に貢献したい!
熱い情熱を在宅医療の現場で叶えた
70代前半・男性

皮膚科医の専門スキルと
開業医の接遇力が生きた転職

皮膚科医として開業したのち、60歳でリタイヤ。悠々自適の日々を送っていたが、70歳を節目に「再び医師として医療に貢献しよう」とCAに相談した。

当初は皮膚科での転職を希望したが、年齢がネックになり、求人が見つからない。そこで、在宅クリニックを視野に入れて検討することにした。面接を受けると、皮膚科医としてのキャリアは高齢者の褥瘡治療に生かされ、開業医として培った接遇力も患者との距離感が近い在宅に合っていた。

転職し、70歳にして内科を学び直しているが、それが医師としての喜びに感じられるそうだ。転職の目的が医療への貢献であることをCAが重視したため、成功した転職と言える。

●Profile

Before After
施設形態 リタイヤ 在宅クリニック
科目 皮膚科 一般内科
業務 訪問診療
勤務形態 常勤・当直なし
年収 1800万円
事例6
シングルマザーで子どもを育てるために
適切な勤務地と年収を維持する転職
30代前半・女性

少子化の影響を考慮し、
小児科でも内科を診ることに

結婚・出産後も小児科医として働いていたが、子どもが幼いうちに離婚。大都市から離れた実家に戻ることになった。我が子の教育費を考えると、年収1200万円はどうしても維持したい。しかし、人口が少ない地域で、小児科医としての転職は厳しかった。

CAからは、「大都市以外の地域では少子化の影響で小児科医のマーケットは縮小している。長期的なキャリアを考えれば、内科への転科も検討したほうがいい」と進言された。

その意見に納得し、実家からほど近い病院に転職。小児科と内科の両方を受け持つことになった。今後は高齢者医療も学び、安定的なキャリアを築こうと考えているそうだ。

●Profile

Before After
施設形態 大学病院 一般病院
科目 小児科 小児科・内科
業務 外来・病棟 外来・病棟
勤務形態 常勤・当直なし 常勤・当直あり
年収 1200万円 1200万円
事例7
子どもの教育費を得るために、
インセンティブの高い病院に転職
40代前半・男性

外科医の離職で手術激減。
退職か減給を迫られ…

手術の多い病院の麻酔科で勤務していた。しかし、外科医の離職に伴って手術が激減。院長から「麻酔科医は退職か減給」の二択を迫られた。ちょうど子ども二人の教育費がかさむ時期で、減給は受け入れがたい。年収2500万円を維持できる病院に転職することにした。

だが、それまでの病院と同じ条件の求人はあまり多くなかった。CAから提案されたのは、「基本給は低いが、麻酔のインセンティブが高い病院」だった。転職し、忙しさは増したが、もともと仕事は好きだったため苦にならない。必要十分な収入を得て満足している。少し視点を変えることで、幸せを手にした転職事例である。

●Profile

Before After
施設形態 一般病院 一般病院
科目 麻酔科 麻酔科
業務 外来・病棟 外来・病棟
勤務形態 常勤・当直なし 常勤・当直なし
年収 2500万円 2500万円
  • 読者の声

医師自身のキャリアへの想い

医師のキャリアは、社会情勢や時代の変遷に大きな影響を受ける。だが、「医師が幸せを感じる本質」は不変かもしれない。読者医師の生の声をお届けする。

治療の成功や、患者からの感謝に
「幸せ」を感じる医師が多数

コミュニケーション力や
専門外スキルが役に立つ

読者アンケートで、Q1「現在のご自身のキャリアに満足していますか?」と訊ねたところ、「満足」「どちらかと言えば満足」を合わせて75・5%にのぼった。その理由として、「独自性が評価されていろいろな仕事を指名でもらえるようになったから」(産業医・40代後半・男性)、「学位や専門医がすべて順調に取得できたから」(その他内科系・30代後半・男性)などのコメントが寄せられた。適正に評価されたり、思い通りのキャリアを描けたりすることが、満足につながっているようだ。

Q2「今までのキャリアでやりがいや幸せを感じたのはどんな時?」では、「患者の診療がうまくいった」(50%)が最多で、次に「患者や家族から感謝された」(40%)が多かった。自身の利益になる「キャリアアップ」(14・4%)や「社会的評価」(21・1%)などは比較的少ない。フリーコメントでは、「患者に感謝されるのはいつになっても嬉しい」(一般外科・40代前半・男性)など、“感謝”という言葉が非常に多く並んでいた。医師の仕事は、診療・研究・教育と多岐にわたるが、最終的には「患者が治り、感謝される」というシンプルな事象につながることが、幸せの根源のように見受けられる。

では、医師が幸せを得るために、どのようなスキルがあるといいか。Q3「今までのキャリアで、身につけておいてよかったことは?」では、「専門関連の診療知識・スキル」(42・2%)に次いで、「コミュニケーション力」(32・2%)が上位だった。患者はもちろん、周囲のスタッフと良好なコミュニケーションを取ることの大切さが、かなり浸透しているものと思われる。また、「専門以外の診療知識・スキル」(27・8%)も多かった。読者フリーコメントでは「途中で転科したが、前の科の知識が今も役立つ」(麻酔科・50代前半・男性)という声があり、キャリアチェンジによって医師としての幅が広がる様子が伝わってくる。

Q4「今後、身につけたい知識・スキル」は、「専門関連の知識・スキル」と「経営に関する診療知識・スキル」が共に26・7%で最多だった。経営に関心を持つ理由に、将来の開業を挙げるコメントが散見されるが、「経営なくしては成り立たないし、その環境はより厳しくなってきている」(一般内科・50代前半・男性)という声もあった。医療機関の収入は国民皆保険制度で支えられているとはいえ、今後の状況をシビアに見ている医師もいるようだ。

最後に、これからのキャリア観について訊ねた。詳細は下枠にまとめたが「専門性を生かした内容も持ちつつ、全人的なスキルの維持も向上させていきたい」(一般内科・50代前半・男性)、「定年まで現在の研究教育機関に勤めて、その後は地域医療に貢献したい」(その他外科系・50代前半・男性)、「50歳くらいで地域に貢献できる医院を開業したい」(在宅・訪問診療・40代後半・男性)など、志高いキャリアプランが数多く寄せられた。

* * *

医師のキャリアを取り巻く環境は刻々と変化している。同時に、医師自身の意識も多様化しており、“幸せなキャリア”の定義は千差万別だと思われる。

あるCAは、その見極めには「そもそも自分はなぜ医師になったのかという原点を振り返ること。そして、転職によって長期的に何を得たいかを明確にすることが大切です」と言う。自身のキャリアビジョンを見つめ直し、納得できる選択をしていただきたい。

Q1 現在のご自身のキャリアに満足していますか?

読者フリーコメント

【満足】
  • 自分の道に責任を持てている(麻酔科・30代後半・男性)
  • 報酬が高く社会的地位も高いから(一般内科・40代後半・女性)
【どちらかと言えば満足】
  • 医局人事とは関係なく、実力で地位と人望を獲得したと思う(泌尿器科・40代後半・男性)
  • 転職先では色々なことが勉強できて新しいスキルが身につき、生活様式もよい方向に変わった(一般内科・30代後半・女性)
  • ありがたいことにいろいろと声を掛けられる(一般内科・40代後半・男性)
  • ワーク・ライフ・バランス重視で仕事をしてきたが、今はそれの集大成と感じている(脳神経外科・40代後半・男性)
【どちらかと言えば不満足】
  • 医局の不条理に振り回されて、ドサ回りを多くさせられたから(循環器内科・40代前半・男性)
  • 労働に対する対価が合っていないと感じるときがある(消化器外科・40代前半・男性)
【不満足】
  • 全く思う通りにキャリア形成できない(一般内科・30代後半・男性)
Q2 今までのキャリアで、やりがいや幸せを感じたのはどんな時ですか?(複数回答)

やりがいや幸せを感じた時

  • 元気になった子の笑顔(小児科・40代前半・男性)
  • 思い通りの治療結果が得られたり、論文化したりできたこと(皮膚科・40代前半・男性)
  • 臨床での疑問を研究して臨床に還元できることを目指しており、一歩ずつでも進んでいる時にはやりがいを感じられる(一般内科・40代前半・女性)
  • 与えられた場でできることを充実して行い、患者さんに喜んでいただいて収入も得られれば十分(整形外科・50代前半・男性)
  • 学会などでシンポジストを務めた(その他外科系・50代前半・男性)
  • 原因不明の疾患の特定ができ、治療に進めたこと(呼吸器内科・40代後半・男性)
  • 大学では主に研究を行っており、時間確保が容易。おかげで有象無象の各種業務がはかどっている(脳神経外科・40代後半・男性)
  • 患者さんからの感謝の言葉は、やはりやりがいを感じる。どのような状況でも仕事がなくならず安定していることはありがたい(一般内科・30代後半・女性)
Q3 今までのキャリアで、身につけておいてよかったと思うことは何ですか?(複数回答)

身につけておいてよかったこと

  • 一つに固執しない診療が本当は重要と感じている(一般内科・50代前半・男性)
  • 専門医は泌尿器科だが、外科医で泌尿器科だからこそできた離島での難手術の経験や、講演・講話の評価から大学講師の仕事を得られた(産業医・40代後半・男性)
  • 会話が穏やかに無難にできること(整形外科・50代前半・男性)
  • 急患対応力をつけておいたことで、アルバイトには全く困らなくなった。またコミュニケーション力のおかげで仕事調達も順調(脳神経外科・40代後半・男性)
  • 内科全般の受け入れや接遇など、努力してスキルアップしてきたので、どのような状況でも患者が途切れることはない(一般内科・30代後半・女性)
  • やはり専門力を伸ばすことが大事だと思う(一般内科・40代後半・女性)
  • 専門分野を基盤として、患者対応力を身につけられた(消化器内科・60代前半・男性)
  • 整形外科や皮膚科の知識(在宅・訪問診療・40代後半・男性)
Q4 今後、身につけたい知識・スキルは何ですか?(複数回答)

今後身につけたい知識・スキル

  • 魅力のある講演ができるようになりたい(麻酔科・40代前半・男性)
  • ICTを活用した診療時代に備えたい(泌尿器科・50代前半・男性)
  • 指導の機会をいただいているが、なかなか職場内での部下とのコミュニケーションには苦労している(産業医・40代後半・男性)
  • クライアントと上手に交渉ができるともっといいと思う(総合診療科・40代前半・男性)
  • 英語力。日本だけで医師を続けられなくなるかもしれないから(その他内科系・30代後半・男性)
  • さらに専門分野を深めていきたい(皮膚科・40代前半・男性)
  • 経営に関する知識・スキルは、開業する機会があれば必要になる(一般内科・20代後半・男性)
  • 組織の運営についての指導力を得たい(泌尿器科・40代後半・男性)
  • あらゆる方面で昨日よりも今日の方がわずかでも進歩していたい(整形外科・50代前半・男性)
  • スペイン語を身につけたい(消化器内科・50代後半・男性)

これからキャリアをどう積んでいきたいか

  • 生涯研修医の初心を忘れずに、日野原先生超えを目指したい(一般内科・60代前半・男性)
  • 今の収入や働くスタイルを崩さずに新たなスキルを学べる場所があれば、転職も考える(救命救急科・40代後半・男性)
  • 新たな経験として、世界に進出している企業の外国対応に貢献したい(産業医・40代後半・男性)
  • スポーツ医学発信所を立ち上げたので、スポーツをする人を支えていきたい(一般内科・20代後半・男性)
  • 地域に根差した医院で働きたい(耳鼻咽喉科・50代前半・女性)
  • 40代後半までは、急性期病院で専門性を生かして仕事をしたいが、50代くらいからは緩和医療や地域に根差した全人的診療(寄り添う医療)で、できる限り長く働きたい(消化器外科・40代前半・男性)
  • 体力、気力の続く限り、現在の急性期病院で頑張るつもりだが、いつまで頑張れるかは分からない。50代後半にもなれば療養型病院への転職も考えるかもしれない(一般内科・40代後半・男性)
  • 企業の産業医としての診療、健康支援のレベルを上げていきたい(消化器内科・60代前半・女性)
  • 地域医療・総合診療を進めつつ、専門分野での相談にも応じられる程度に専門性も維持したい(泌尿器科・40代後半・男性)