医師の非常勤勤務(以下、非常勤)は、収入を補填するという重要な目的があると同時に、医療機関側も常勤医の不足を補う有効な手段だった。しかし、COVID-19の影響で状況は様変わりした。患者の減少や、感染予防のために、非常勤医の採用を控えざるを得ない医療機関が続出しているのだ。新しいマーケットにおいて、どのように非常勤先を確保するか。読者アンケートと、非常勤医を支援するキャリアアドバイザーの取材から状況を探る。
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非常勤市場に地殻変動が起き、求人数は乱高下。
初めての「買手市場」で、より戦略が必要に
求人数は感染者数に連動?
前年同期比大幅減だった時期も
COVID-19は、医師の非常勤やスポットに大きな影響を与えている。感染拡大以来、医局が医師の外勤を禁止したり、受け入れ先だった病院の患者が減って非常勤医の採用を止めたりする事態が報じられてきた。リクルートメディカルキャリアの非常勤グループ兼スポットグループマネージャーの光成陽一氏は、これまでのマーケットをこう振り返る。
「非常勤、スポットともにマーケットはかなり乱高下している状況です。4月以降、両者とも一気に求人数が減りましたが、6月末頃に回復の兆しがありました。しかし、7月2週目頃から再びダウントレンドに入りました」
その後も、COVID-19の状況に連動するかのように、非常勤やスポットの求人数は変動している。医療機関側がかなり慎重な姿勢になっていることは確かだ。
「一方で、非常勤を希望する医師数は増加しています。最も多かった6月は前年同期比1・35倍。平時よりかなり少ない求人に、多くの医師が集まるような状況なのです。医師の非常勤市場で初めての買手市場となり、地殻変動が起きたと言っても過言ではありません」(光成氏)
非常勤
一定のキャリアがあり、
安定して勤務を継続できることが重要
同社で非常勤のキャリアアドバイザー(CA)の松川美央氏によると、医療機関の種別や診療科などによって求人数の減少幅に差があるようだ。
「全体的に病院よりクリニックの方が、求人減の傾向です。診療科別では、最初に影響が出たのが健診でした。一般健診ほか、婦人科検診、内視鏡検査も同様の状況です。耳鼻科や眼科はもともと求人が少ない領域ですが、従来より患者さんの受診抑制が増加傾向で、影響が出ています」
一方で、比較的、影響の少ない分野もあると言う。
「総合病院などでは、外来は求人が減っていますが、病棟管理や、当直はそう変わらないようです。患者さんも、緊急性の低い外来受診は抑制できても、入院治療はそういうわけにいかないからではないでしょうか」(松川氏)
同様に、訪問診療も影響が少なかった分野だ。
「訪問診療は止めることができない分野です。通常は1日外来の求人を出していた病院が、午前外来・午後訪問という求人に切り替えている例もあります」(光成氏)
弊誌アンケートによると、COVID-19が非常勤に何らかの影響を与えたと回答する医師は約40%。 「報酬単価が下がった」「雇い止めにあった」などが比較的多かった(Q3)。フリーコメントでは「新型コロナの影響で、内視鏡が中止になった」(一般外科・40代前半・男性)など具体的な声が寄せられた。
空前の買手市場となった今、採用されている医師の共通点は何か?
「医療機関側としては、感染予防のために医師が入れ替わり立ち替わり入ることを避けたい考えがあります。そのため、すでに一定のキャリアを持ち、安定して勤務し続けられる医師を求める傾向にあるようです」(光成氏)
スポット
スポットの経験があり、
常勤先の感染リスクが低いことも有利に
スポットは、非常勤以上に状況が厳しいようだ。以前は1、2件の応募で決まっていたものが、10件ほどの応募でようやく決まる例もあるという。スポット担当のCAを務める大畑絢香氏はこう語る。
「外来縮小や診療時間の短縮で、求人数は大幅に減っています。ただ、前にもスポットで入った経験があり、感染発生リスクの少ない病院が常勤先の医師であれば来て欲しい、というニーズもあります」
- Q1 非常勤勤務経験の有無(5年以内)
- Q2 スポット勤勤務経験の有無(5年以内)
- Q3 非常勤勤務への新型コロナウイルス感染症の影響
読者コメント
非常勤&スポット事情の変化(コロナ禍影響含む)
- 3つの定期非常勤のうち、2つが患者減少でなくなった(小児科・40代前半・男性)
- 検査件数の減少にともなって、休診扱いとなった(消化器外科・40代前半・男性)
- 感染対策の不十分な勤務先に行く可能性があるので、そこから常勤元に持ち帰らないかがとても不安です(心臓血管外科・40代前半・男性)
- 勤務先によってPPEの実情が異なるので、自ら持参して対策を立てているのが現状です(呼吸器内科・50代前半・男性)
- 県外の病院に診療応援しにくくはなった(麻酔科・50代前半・男性)
- 新型コロナウイルス感染症の関係で、今まで出務していないところには行きたくない(一般内科・50代後半・男性)
- 働き方を変えるいい機会である(消化器外科・50代後半・男性)
- 当直代の入院時インセンティブが減った(精神科・40代前半・男性)
- スポットの検診が急にキャンセルとなって面食らった(整形外科・50代前半・男性)
非常勤もスポットも、外来は人気が高く、
競争率が激しい傾向。柔軟な条件設定が必要
非常勤
勤務日数を減らし、
当直や病棟管理を選ぶ医師が増加か
今回のアンケートで直近の非常勤の勤務状態を尋ねた結果はQ4〜6の通り。弊誌では、17年にも同様のアンケート(回答者数235人)を行ったが、少し変化が見られる。
今回は、勤務日数が「週1日程度」という回答が44・3%だったが、前回の53・2%より9ポイント近く減少。その半面、「月2、3日以下」という回答は、今回の21・5%に対し、前回は8・9%で、大幅に増えたと言える。COVID-19の影響によって希望の求人が減少したことで、非常勤の勤務日を減らした医師がいることの表れかもしれない。
勤務形態は、「当直」が増えているようだ。今回は32・9%だが、前回は14・5%と半分以下の割合だった。また、勤務内容は「外来」が最多であることは、今回(60・8%)も前回(55・3%)もそれほど変わらないが、「病棟管理」は増加しているようだ。今回43%に対し、前回は23・4%だった。本来は外来を希望している医師が、比較的、COVID-19の影響が少ない当直や病棟管理にシフトしている可能性がある。
なお、今回調査のフリーコメントでは「昨今の情勢では、急な雇い止めもあり得る話なので、従来よりも慎重に案件を見極めるべきです」(循環器内科・40代前半・男性)という声も寄せられた。従来にない市場の変化を敏感に察知する医師の姿が見受けられる。
「いまの時代に非常勤先を見つけるには、勤務形態の希望をできるだけ柔軟に考えることが重要です。例えば、内科外来だけでなく訪問診療も引き受ける。小児科医でも、子どもの患者が少ない時間帯は成人も診るなど、臨機応変な対応を求める声を、医療機関側から聞きます」(光成氏)
スポット
学会中止でスポットに入りたい医師が増加。
発熱外来にニーズ
「COVID - 19の影響で秋の学会が中止になったため、スポットを探しているという相談が少し増えてきています。前述の通りスポットは一般外来の求人数が大幅に減っていますが、新たに発熱外来のニーズがあります。確実にスポットに入りたい医師は、発熱外来も視野に入れてみてはいかがでしょうか」(大畑氏)
- Q4 非常勤の直近の勤務日数
- Q5 非常勤の直近の勤務形態(複数回答)
- Q6 非常勤の直近の勤務内容(複数回答)
読者コメント
非常勤の働き方への考え ・ アドバイス
- あらゆる条件で満足できるとは限りませんが、報酬面で不満がないのが第一条件(呼吸器内科・50代前半・男性)
- いろいろな職場のやり方を知るのはいい経験(精神科・40代前半・男性)
- 若い人は、経験を積むことを目標として勤務先を選ぶことをお勧めします(一般内科・50代後半・男性)
- 自分のプライベートの予定や、体調や気分によって、仕事に行きたい時に行くことができる。ただ、固定勤務先がない不安のようなものは常にある(脳神経外科・40代前半・女性)
- 時間に融通が利く勤務形態なので満足している(放射線科・40代前半・男性)
時給1万円は維持されているが、今後は未知数。
勤務時間短縮で、日給ベースではダウンの場合も
非常勤
報酬が高い順番は、訪問診療、外来、健診。
救急はインセンティブも
非常勤の報酬は、時給1万円が相場と言われる。働き方によって多少異なり、日給にすると訪問診療は約10万円、外来は約8万円、健診は6万〜7万円ほどの水準が保たれていた。当直は、いわゆる寝当直で1勤務あたり3万円、救急対応などで多忙な当直は6万〜7万円+インセンティブであることが多いようだ。
また、往々にして、医師の多い都心部よりも、郊外や地方都市の方が報酬は高い傾向にある。専門医を持っていると、少し報酬が上がる医療機関も存在する。
「この報酬相場は、COVID-19の流行前後であまり変わりません」
と光成氏は言う。今回のアンケートでも、Q7「直近の非常勤による年収」は400万円未満が最多(41・8%)で、Q8「直近の非常勤1勤務あたりの報酬」は4万〜5万円未満と、5万〜6万円未満(ともに16・5%)が多かったが、前回(17年)のアンケートと大きな隔たりはなかった。
ただし、今後もこの水準が続くかどうかはだれにもわからない。松川氏は、報酬減の兆候がちらほらと現れつつあると感じている。
「非常勤で時給1万円を切るわけではないのですが、COVID-19の影響で診療時間が短縮になり、その分、日給が下がる例が出始めています。大きな医療法人も、個人のクリニックも同様です」(松川氏)
アンケートのフリーコメントでは「診療体制が縮小された場合、報酬が下がる可能性が高い。しっかりとした常勤先を確保しておくことが安定した収入を維持するために必要」(麻酔科・40代前半・男性)という声も寄せられた。
スポット
日給が下がる傾向が現れつつあるが、
急募は高報酬もあり
スポットは非常勤より早く報酬減が現れているかもしれない。光成氏は「日給8万円で内科外来のスポットという希望が多いのですが、難しいのが実情。訪問診療の場合は、日給7万円程度のことが多くなっています」と言う。
ただ、急募の場合は、高額の報酬もある。
「当直に多いのですが、勤務日が4〜5日後と迫っていると、日給が1万円ほどアップすることがあります。以前に比べると減少していますが、都心から離れたエリアでは今もそうした求人があります」(大畑氏)
- Q7 直近の非常勤による年収(複数箇所の場合は合計)
- Q8 直近の非常勤の1勤務あたりの報酬
読者コメント
非常勤の報酬相場への考え ・ アドバイス
- 自身の長期的ライフプランニングと、勤務先の業務形態を照らし合わせて選ぶことが必要になるかもしれません(泌尿器科・40代後半・男性)
- 勤務内容、実績、対応力、専門性などから、その人にふさわしい報酬がないと、長続きは難しい気がします(呼吸器内科・50代前半・男性)
- 金額より仕事内容、仕事のしやすさが重要(一般外科・60代前半・男性)
- 整形外科だと1勤務あたり8万〜10万円が妥当かもしれません(整形外科・40代後半・男性)
- 救急診療があると単価は高くなる。1泊2日で10万〜14万円。ゆったり過ごしたいなら療養型。療養型は2泊3日で14万円程度(脳神経外科・40代前半・女性)
- 今後は非常勤勤務の報酬が下がると思う(麻酔科・50代後半・男性)
現状は、条件のいい求人は〝早い者勝ち〟。
心理的ハードルを下げ、早めの決定を目指したい
非常勤
来春からの非常勤先を探している医師は、
年内の決定を目標に
平時であれば、来年4月からの勤務開始に向け、11月頃から非常勤市場に活気が出てくる。医師人材紹介会社に登録し、CAから複数案件を紹介され、早ければ1週間後には非常勤先が決まる――それが一般的な流れだった。しかし、COVID-19の影響によって、施設選択にも大きな変化が生じている。
「前述の通り、非常勤の求人は前年同期比30%まで落ちこんだ時期がありました。今後、回復する可能性はありますが、年内いっぱいは求人が急増することは難しいと思われます。また、医療機関によってはCOVID-19の影響で多忙を極め、登録から決定まで時間がかかるようになっています。条件のいい求人は“早い者勝ち”です。本当に非常勤で働きたい医師は、早めに求人を探し始め、年内に決定するつもりで行動することをお勧めします」(光成氏)
アンケートのQ9「非常勤勤務先選びで重視する項目」では、「給与・諸手当などの報酬」(84・8%)が最多だった。次いで「勤務時間などの労働条件」(73・4%)、「診療内容」(62%)が上位にあがった。これまでにない買手市場となった今、非常勤先を見つけるために何が重要だろうか?
「求人が減っていることを理解し、自分の条件をどこまで緩和できるかがポイントになります。本当は、『日給10万円の外来、通勤時間30分』を希望しているけれど、日給を9万円にしたり、訪問診療に応じたり、遠方の医療機関を視野に入れたりと、心理的なハードルを下げられる医師は、今の時代でも非常勤先が見つかります」(光成氏)
スポット
通常は年末年始のニーズが高まるが、
今年は未知数
「スポットは年末年始の需要が高く、例年10月以降から一気に求人が増えます。しかし、今年はどうなるか判断が難しいところです」(大畑氏)
見通しがつかない以上、「求人は少ない」という前提で行動した方が無難だ。
「基本的には、スポットも非常勤と同様に、希望条件を緩和することが近道と言えます」(光成氏)
フリーコメントでは「自分の要望だけではなく、先方の要望に自分が合致するのかをしっかり考えることが大切」(泌尿器科・40代後半・男性)という声も寄せられた。
- Q9 非常勤勤務先選びで重視する項目(複数回答)
読者コメント
非常勤勤務先選びへの考え ・ アドバイス
- 報酬だけで選択すると全く寝ることもできない当直になったり、合間を見ての勉強などができません。ある程度余裕のある勤務がいいと思います(泌尿器科・50代後半・男性)
- 時間がしっかりしている。勤務内容が明確。交通、食事の手当て。アメニティが最低限はある(産婦人科・30代後半・男性)
- 信頼できる同僚など、知人が状況を把握している医療機関を中心に探すべきだと思います。ただ、あまりにも年次が離れた先輩の場合、情報がアップデートされていなかったり、医療機関側に忖度していたりすることも多々あるので、鵜呑みにしない方が無難(循環器内科・40代前半・男性)
- 経営者やスタッフとの相性が重要です(麻酔科・50代後半・男性)
これからの非常勤医に求められる〝3大スキル〟は
ITリテラシー、コミュニケーション力、柔軟性
面接
非常勤の7割は医師単独で面接に行く。
WEB面接導入の例も
通常、スポットは書面審査のみで勤務が決まるが、非常勤は医療機関の面接がある。COVID-19以前から、CAが非常勤の面接に同行するケースは3割ほどで、7割は医師が一人で面接を受ける。最近では、感染予防のためにオンライン面接を実施する医療機関もある。松川氏によると、非常勤の面接では、医師から次のような質問が多いという。
「やはり、防護服など感染対策を気にされる医師は多いですね。だいたいの医療機関で体制を整えているのですが、たまに『これから対応します』という医療機関もあります。医師も求人が少ないことを理解しているので、応募を取りやめた例は今のところありませんが、以前より慎重に面接を受けている印象はあります」
アンケートのフリーコメントでは「いたずらに背伸びせず、自分のスキルと病院のニーズがマッチすれば心配ありません」(泌尿器科・50代後半・男性)という声が寄せられた。週数回または月数回の非常勤であっても、入職後のミスマッチを防ぐために医師自身も注意を払っていることがうかがえる。
いかに時代の変化を
柔軟に受け入れられるか?
一方で、医療機関側は非常勤の面接で“3つのスキル”を重視しているそうだ。光成氏は、複数の医療機関から聞いた話を元にこう語る。
「前にも増して、ITリテラシーが問われています。ある医療機関は非常勤の面接でオンライン診療の可否を尋ね、一人は『経験がないし、ちゃんと診られるかわからない』という回答。もう一人の医師の面接時にも同じことを聞くと『すでにオンライン診療の経験があり、意外と対面と遜色がない部分もある』という回答だったそうです。もちろん、有利になるのは後者の医師です。現時点でオンライン診療の求人が目立って増えているわけではありませんが、今後の方向性として、ITスキルが必須であると考えておきましょう」
次に重要なスキルは、コミュニケーション力だそうだ。10年以上前から重要性が指摘されてきたスキルで、患者やスタッフに気持ちのいい応対ができることはすでに当たり前になった感がある。これからの時代は、さらに高度なコミュニケーションスキルが求められていると言う。
「例えば、オンライン診療で表情や身振り手振りがよく見えなくても、患者さんの話の文脈を読み取ることもコミュニケーション力の一つです。そうした洞察力も医師に問われるようになると思います」(光成氏)
もう一つのスキルは、柔軟性である。これは前述のITスキルやコミュニケーション力と連動するものだ。
「COVID-19の動向や社会の変化に連動して、非常勤の働き方も変わっていくと思われます。やむを得ない理由で勤務時間や仕事内容が変わったとき、柔軟性を持って対応できるかどうかが問われるのです。先ほどのオンライン診療の話も、単にITに対応できるということだけでなく、時代の変化を受け入れる姿勢が見られています」(光成氏)
今後、COVID-19がいつ収束するかは未知数だ。非常勤のマーケットが回復する可能性はあるものの、完全に元通りになるとは思いにくい。状況を冷静に理解し、新たな応募戦略を考えることが必要なようだ。
読者コメント
非常勤勤務の面接への考え ・ アドバイス
- 印象を良くするために「できます」と答えがちですが、昨今の情勢では避けるべきだと思う(循環器内科・40代前半・男性)
- 先方の業務形態説明は、求めている人材の説明でもあり、長くお世話になるのであれば、自身がお互いにとってメリットがある人材であることを具体的に伝えることが必要(泌尿器科・40代後半・男性)
- 面接では自己の経歴、取得手技、これから取得したい経験や手技などを明確に。また、労働条件などの細かい話もよく聞くこと(一般内科・50代後半・男性)
- お金のことから最初に話しはしない(麻酔科・40代後半・男性)
図表・コメント出典:弊誌「『医師の非常勤&スポット勤務』に関するアンケート」/2020年8月実施/全体回答数111人