時代をよんだ手堅い成功ポイントとは?2020年最新 5年後もうまくいく開業

新型コロナウイルス感染症の影響で、医院経営は厳しい状況だとも言われる。だが、患者の受診抑制もいつまでも続くわけではないだろう。感染リスクを下げようと、病院から医院に受診先を変える患者が増え、医院の存在感が大きくなる可能性もある。先行きは見通しにくいが、だからこそ焦らず中長期的な視点を持った開業を心がけたい。開業支援のプロに、最新状況と「5年後もうまくいく」開業方法を聞いた。

  • 最新状況

コロナ禍でも影響の少ない医院はある。
本質を捉えた開業なら、いまだからこその成功可能性

株式会社日本医業総研
専務取締役
植村智之
東京本社責任者として100件超の医院開業をサポートし、そのすべてを成功に導くための指揮を執ってきた。また、経営力で勝負できる開業を支援するため、医院経営塾を企画開発し、自ら講師としても活躍している。無理なく事業が軌道に乗るために必要な対策を積極的に取り入れた資金計画には定評がある。患者目線のマーケティング調査に基づく立地選定とあわせて、「成功コンサル」の領域を目指し日々ブラッシュアップを心がけている。

植村智之氏 写真

地域や患者のためになるか?
真の価値が問われる時代に

新型コロナウイルス感染症の流行は、開業市場にどのような影響を与えたのだろうか。開業コンサルティングを行う日本医業総研の植村智之氏は、これまでの状況をこう語る。

「4月に緊急事態宣言が発令された際、開業準備を一時ストップする医師が大半でした。先の見通しが立たず、そうせざるを得なかったのです。宣言が解除されて以降は準備を再開するケースが多いのですが、私は“本質が問われる時代になった”と感じています。コロナ禍以前に比べて、患者が求める医院、地域に貢献する医院であることがより重要になってきたからです」

植村氏がこう考えるのは、新型コロナが既存の医院にもたらした打撃を知っているからだ。小児科や耳鼻科など比較的軽い疾患の急性期を担う医院は、患者の受診抑制によって大幅に売り上げが落ちたところが多いと言う。内科でも、立地の良さだけで患者が来ていたと思われる医院や、必要以上の再診を患者に求めていた医院は打撃が大きかった模様だ。
また、都心や都市部の医院への影響も著しいと言う。全国の医院数はここ数年、微増しており(図表1)、診療科別には、糖尿病内科や心療内科、精神科などが特に増加している(図表2)。植村氏は「数年前から、オフィス街やターミナル駅で、専門性の高い医院を開業する流れがありました」と言うが、新型コロナによって状況は様変わりした。

「4〜5月にオフィス街から人が消え、その辺りで開業している医院は診療科を問わずかなり影響を受けました。都心であるが故に家賃が高く、売り上げが上がらないと、かなり厳しい状況になってくると思います」

こうしたエピソードを聞くと、いまは開業を控えた方がいいのかと思うかもしれない。だが、必ずしも悲観的になる必要はない。植村氏によると、新型コロナを経験したからこそ、見えてきた事実もあるそうだ。

「注目すべきことに、内科系の医院でも、新型コロナによる患者減が1〜2割で済んでいるケースがありました。慢性疾患の患者を定着させていて、新型コロナ禍の最中に電話再診を始めたり、薬の処方日数を長くしたりして、患者の利便性を図った医院です。そうした医院は、もともと『地域貢献』や『患者の利益』などを経営理念としており、その実現のために、綿密に戦略を練って立地や診療方針を決めていました。つまり、従来から重要だと伝えている開業セオリーを着実にふんでいれば、新型コロナの影響は限定的ではないかと言えるのです」

そもそも開業をするには、新型コロナに限らず経営上のリスクを引き受ける覚悟が必要だ。また、新型コロナの予防によって風邪などの患者は減ったと言われるものの、生活習慣病などの非感染症疾患の患者数はさほど変わらない可能性がある。病院が新型コロナの対応に比重を置くため、非感染症疾患の治療や予防を担う開業医の役割はより重要になるという見方もできる。

「開業の動機が、地域貢献をしたい、患者のために良い医療を提供していきたいなどという明確な理念を持っている医師であれば、いつ開業しても結果は一緒だと思います」

図表1● 診療所 開設・閉院件数推移
出典:厚生労働省「医療施設(動態)調査」
図表2● 診療所施設数の推移(重複計上)
診療科/年 2014 2017 増減率
内科 63,888 63,994 0.2%
呼吸器内科 7,894 7,813 −1.0%
循環器内科 13,097 13,057 −0.3%
消化器内科(胃腸内科) 18,658 18,256 −2.2%
神経内科 3,065 3,120 1.8%
糖尿病内科 3,273 3,870 15.4%
小児科 20,872 19,647 −6.2%
外科 13,976 13,076 −6.9%
整形外科 12,792 12,675 −0.9%
リハビリテーション科 12,198 11,834 −3.1%
リウマチ科 4,403 4,410 0.2%
皮膚科 12,328 12,198 −1.1%
アレルギー科 7,241 7,475 3.1%
耳鼻咽喉科 5,870 5,828 −0.7%
眼科 8,260 8,226 −0.4%
婦人科 1,907 1,829 −4.3%
泌尿器科 3,726 3,741 0.4%
精神科 6,481 6,864 5.6%
心療内科 4,577 4,855 5.7%
出典:厚生労働省「医療施設(動態)調査」

承継を選ぶ医師が増加。
テナントは借りやすい傾向に

新型コロナの影響によって、市場に新しい変化も見られている。

「事業承継による開業を検討する医師が、明らかに増加しています。初期費用を抑え、患者を引き継ぐことで早い段階から利益が見込めるためです。ゼロベースで開業するより、リスクを抑える手段として非常に注目されています。同時に、高齢の開業医が引退を決め、承継先を探す動きも増えています。通常は、70代くらいまで続ける方が多いのですが、今後の見通しや感染リスクへの不安などで、少し早めの60代半ばで承継を決めるケースも出ています」

新規開業の場合は、平時よりテナント選びの選択肢が広がっているそうだ。新型コロナの影響でテナントに入っていた飲食店などが撤退し、いままでは希望しても得られなかった物件が得られやすくなっている。

「ある意味で、開業のチャンスなのです。なかには“ピンチはチャンス”と捉え、むしろ積極的に開業準備をしている医師もいます。他の医師が慎重になっているいまこそ、着実な理念と準備を経た開業はうまくいく可能性があるのかもしれません」

一般的に、うまくいく医院は開業5年目くらいまでに経営が安定してくると言われる。現時点で、新型コロナが収束する目処は立っていないが、先行きが不透明な時代だからこそ、まずは5年後の成功を目指して、着実に準備を進めたいものだ。

  • 開業準備

感染対策PRやオンライン診療、事業承継…
新たな動きを把握するとともに、開業準備の基本を大切に

経営理念

腹落ちできる理念決定から
すべての開業準備が始まる

「5年後の時点で成功している医院、していない医院の違いは、経営理念にあると思います」

と植村氏は語る。経営理念は“医院の目指す方向性”を言語化したもので、開業の出発点であり、屋台骨である。立地選定や資金計画、開業スタイルなどあらゆる開業準備の意思決定は経営理念に照らして考え、開業後の運営でもことあるごとに経営理念に立ち戻る。

「地域医療に貢献する、患者のために尽くす、あるいは従業員の幸せのためなど、だれが聞いても正しいと思えるような経営理念をしっかりと持つことです。経営理念は医院全体の雰囲気ににじみ出ます。患者はそれを敏感に感じ取りますから、医師自身の利益を最優先させるような方向性だと、なかなか支持が得られません。まずは自分でも腹落ちできる経営理念を決め、そのうえで具体的な開業準備に入ることが大切です」

立地

住宅地も後背地にある
ターミナル駅が狙い目

立地選定の基本的な流れは図表3のとおり。いまも大筋は変わらないが、新型コロナの影響を考慮して、いくつか注意すべき点がある。

まず、都心での開業は慎重にならざるを得ないそうだ。これまで、専門性の高い医院は大きなターミナル駅のオフィス街を選び、広域から患者を集める方法が定番だった。しかし、新型コロナの影響でオフィス街に人がいなくなるリスクが生じたため、別の戦略が必要になっている。

「これからの立地選定のポイントは、『住宅地も後背地にあるようなターミナル駅』です。なおかつバスの乗り入れがあるとベスト。仮にビジネスパーソンの患者が来なくなっても、地域住民の患者で経営が成り立つところを狙っていくのです」

思い切って地方で開業するという手もある。すでに、都心のオフィス街で開業していた医院が、新型コロナの影響で街に人がいなくなったことから、東京のベッドタウンに移転するケースも散見されるそうだ。

「テレワークの増加で、埼玉県などは日中の人口が増え、患者を確保しやすくなっています。家賃も安く、ローコストで経営できるので、これからの新規開業は都心の周辺エリアに目を向けてもいいでしょう」

プライマリ・ケアを中心とした医院は、従来どおり住宅地が適地となる。なかでも、総合病院の近くは注目に値する。これまで病院の外来を受診していた患者が、新型コロナの感染リスクを避けるために医院に移り、医療機関の機能分化が急速に進む可能性があるためだ。

「地域によっては、基幹病院が急性期から慢性期まで外来機能を担っていました。そうした病院の近くに総合診療的な医院を開業すれば、患者が流れて来るという市場の見方はできるかもしれません」

図表3● 立地選定の基本的な流れ

資金計画

初期投資は最低限に抑え
運転資金を多めに見積もる

図表4のとおり、固定費(家賃や医療機器のリース料など)が高いほど損益分岐点が上がり、高い売り上げを維持しなくてはならない。たとえば、一般内科における医療機器の初期投資は1200万〜1500万円が相場(図表5)だが、植村氏はできるだけ低く抑えることを勧める。

「新型コロナで先行きが見通せないいま、過剰な投資はリスクが高すぎます。資金計画はローコストオペレーションを基本としましょう。テナントは最低限の面積のところを選んで家賃を抑え、成功してから広いところに移転する。医療機器も確実に使用するものに絞り、5年くらいで軌道に乗ってから追加していく。そうした“ステップアップ方式”で資金計画を立てましょう」

運転資金を多めに見積もることも、いまは非常に重要になっている。

「今後、新型コロナによる影響が想定以上に大きくなる時に備えるためです。金融機関からの借入額は増えますが、医院を維持することを優先して考えた方が良いと思います」

図表4● 損益分岐点の考え方
図表5● 医療機器の初期投資目安(単位:千円)
診療科目 特記事項 金額
内科 一般内科 12,000〜15,000
消化器 15,000〜30,000
循環器 12,000〜20,000
小児科   10,000〜15,000
整形外科   20,000〜25,000
眼科 オペなし 20,000〜30,000
オペあり 40,000〜50,000
耳鼻咽喉科   15,000〜25,000
皮膚科   12,000〜15,000
婦人科 無床 15,000〜25,000
心療内科・精神科   5,000〜8,000

人員計画

開業時はパート採用が基本
オンライン面接をする例も

以前から植村氏は、スタート時のスタッフはパートで雇用することを推奨してきた。患者が少ない時はシフトを減らすなど、柔軟な調整がしやすいからだ。

「ローコストオペレーションが基本となったいまは、いっそうパートで採用する必要性が強まりました。また、人員数も最低限に抑えた方がいいでしょう。診療科ごとの人員配置の目安(図表6)を参考に、自院に合った採用人数を決めてください」

新型コロナ前と比べた変化としては、オンライン面接の導入がある。すでに実施しているケースもあり「特に問題なく面接ができています」と植村氏は語る。ただ、当然ながらビデオ越しの顔と声しかわからないため、対面による面接より人柄が見えにくいことは確かだ。

「感染対策をしっかり行ったうえで対面面接をした方が、細かな表情や立ち居振る舞いまでわかり、人材を見極めやすいと思います。オープニングスタッフは医院の印象を決定づけるので妥協せず、周辺地域の新型コロナの状況を鑑みて、オンラインか対面かを検討してください」

また、数年前から続く全産業的な求人難は、医院も例外ではない。これからは、新型コロナの影響で「医療機関は感染リスクのある職場」というイメージが付き、いっそう採用が難しくなる懸念もないではない。

「なるべくスタッフの働きやすい環境を整えて、人柄のいい人材を確保できることが理想です。診療時間を少し短くすると、応募が増えることもあります」

図表6● 各診療科における必要職種・必要人数
診療科目 特記事項 看護師・准看護師 医療技術員 受付事務等
内科 一般 1名〜2名   2〜3名
小児科   1名〜2名   2〜3名
整形外科 施設基準 無 1名〜2名   2〜4名
施設基準 有 2名〜3名 1名〜 2〜5名
眼科 オペ あり 2名   4〜5名
オペ なし 0名〜1名   4〜5名
耳鼻咽喉科   0〜1名 0〜1名 2〜4名
皮膚科   0〜1名   2〜4名
婦人科 無床 1〜2名   2〜3名
心療内科・精神科   0〜1名   1〜2名
*上記人数は配置数

集患

動画を使った疑似内覧会や
感染症対策のPRで患者を確保

医院の集患ツールは、チラシ、看板、電柱広告などもあるが、近年はホームページを主軸にする傾向が強まっているようだ。

「開業前にプレサイトを設けて医院の場所やコンセプトなどを紹介し、開業と同時に自院の強みや診療内容などを明確に打ち出した本サイトをオープンします」

新型コロナ以前は当たり前だった内覧会は、実施しにくい状況になった。医院の魅力を地域住民に直接アピールできる機会が減ったわけだが、ネットを活用した方法で補うことが可能なようだ。

「院長の挨拶や、医院のコンセプトを説明する動画を撮影し、ホームページに掲載するのです。それも、誰でも見られるのではなく、あえてワンクッション置きます。折り込みチラシで新規開業の案内をし、『院長のご挨拶はこちら』として動画のQRコードを載せる。チラシを見た地域住民がHPにアクセスして院長の話を聞くという、疑似内覧会のような機能を果たすことができます」

加えて、徹底した感染症対策をアピールすることも有効だという。実際に新規開業を準備している医院で図表7にあるような感染症対策を取り入れるケースが増えているという。

「キャッシュレス決済は、手数料がかかるものの、患者にもスタッフにも安心なので急速に広がりました。自動精算機は300万円ほどかかりますが、スタッフを守るために導入するという声を聞きます。WEB予約システムは、小児科や耳鼻科などではすでに普及していましたが、待合室の混雑回避のために内科でも取り入れられるようになりました。このほか感染症対策を施した待合室などは、新規開業だからこそ対応しやすいと思います」

図表7● 感染症対策(例)
  • ソーシャルディスタンスを考慮した待合室レイアウト
  • ついたてのある待合室の椅子
  • 受付のアクリル板
  • WEB予約システム
  • 自動精算機
  • キャッシュレス対応
編集部作成

オンライン診療

対面+オンライン診療で
患者の固定化を図る

特集冒頭で述べたように、小児科や耳鼻科などは新型コロナの影響を大きく受けた。内科系でも、立地や診療内容によってはやはり影響を受けている。しかし、今後はオンライン診療の導入で、活路が見つかるかもしれない。

「時限措置により、初診もオンライン可になりましたが、すべてオンライン診療に移行することは患者に好ましくないかもしれません。いまは診療報酬も低いため、医院の収益性の面でも現実的ではありません。しかし、対面診療と組み合わせることで、患者と繋がり続けるツールになると思われます。『慢性疾患の定期診察はオンライン』『検査や直接診る必要のある時は対面』などと使い分ける時代になるでしょう。開業当初は難しいかもしれませんが、導入を見据えておいた方がいいと思います」

承継

元院長と診療方針が合うか、
負の遺産はないかを要確認

前述の通り、スタート時のコストやリスクを抑えるために事業承継を選ぶ医師が増えている。新規開業と承継開業を比較すると、患者数や資金調達、勤務医時代と同等の給与を得るまでの期間などの面で、承継のメリットは大きいことがわかる(図表8)。どのような基準で承継案件を見極めるといいのだろうか。

「もっとも大切なことは、元の院長と自分の診療が近いことです。ある程度は割り切りが必要ですが、専門性や診療方針、経営の方向性などがあまりにもかけ離れていると、承継してもうまくいきません」

案件によっては“負の遺産”を持っている場合があるそうで、注意が必要だ。

「承継時点で売り上げが下がっている医院の場合、その理由を必ず確認しましょう。新型コロナによる一時的な影響だったり、院長が高齢のために診療日数を減らしていたりする場合は、承継後に回復が見込めます。しかし、街の人口減少などで立地条件が悪化している場合などは、承継しても経営が厳しいかもしれません。また、初期投資はかからないにしても、数年後にはテナントの修繕や、医療機器の買い替えなどで大きなコストが発生する可能性もあることは、念頭に置いておきましょう」

図表8● 継承開業の新規開業と比べた特徴
新規開業 継承開業
1.患者数 0人スタート 利益人数以上
2.損益分岐 約1年後 開業初日
 勤務医同等給与 約3年目から 初月から以上
3.資金調達 普通 安易
 借入金額 5,000万円 さまざま
4.スタッフ 新規 継続
 採用 困難 別の問題
5.開院準備 煩雑 限定
6.内装 新規 古い(経年劣化)
7.機器 新品 古い(買換?)
8.業者 新規 比較検討
9.ストレス 大きい 大きい

5年後もうまくいく
開業準備ポイント

  • まずは何より経営理念の明確化を。
  • 立地選定はコロナ禍を前提に行う。
  • 初期投資は最低限、運転費用は多めに。
  • 人員計画は当初パートを基本に考える。
  • ネットや動画の利用で集患を図る。
  • 継続集患にはオンライン診療も視野に。
  • 開業後の運営

医療の機能分化が進み、診診連携の重要性が増す。
健全な経営管理を実行できる経営者意識も必須に

連携体制

在宅医を含めた医師同士の
個人的な関係構築がカギに

開業後に取り組むべき課題はいくつもあるが、新型コロナの影響で重要性が増しているのが医療連携だ。

「一定規模以上の病院は、新型コロナ患者用の病床確保などで、在宅療養が可能な患者を地域に戻す傾向です。医療の機能分化が進み、いままでのような病診連携のみならず、開業医が協力しながら患者を支える診診連携がより求められています」

円滑な診診連携を図る方法としては、医師会などの開業医コミュニティに参加することが一つ。加えて、日頃の誠実な姿勢がポイントとなる。

「紹介を受けたらお礼状を書いたり、結果を報告したりすることで、開業医同士の個人的な関係性が醸成されていきます。治療が終わった患者を自院に取り込まず、紹介元に戻すことは言うまでもありません」

在宅クリニックとの関係構築も、いまの時代の新しい課題だ。

「在宅療養中の患者のレスパイト入院を引き受けるために、有床診療所にする在宅クリニックが現れ始めました。一般診療所は、有床の在宅クリニックに紹介するルートも確保しておくことを考えましょう」

また、近年は医院の収支において介護収益の伸び率が高くなっている(図表9)。介護事業所との連携も積極的に取り組んでいく必要がある。

図表9● 一般診療所(全体)の収支状況(単位:千円)
前々年(度) 前年(度) 全体の伸び率
Ⅰ 医業収益 136,466 136,713 0.2%
 1.入院診療収益 7,185 7,056 −1.8%
 2.外来診療収益 121,151 120,920 −0.2%
Ⅱ 介護収益 1,957 1,995 1.9%
Ⅲ 医業・介護費用 120,377 120,860 0.4%
損益差額(Ⅰ+Ⅱ-Ⅲ) 18,046 17,847
施設数 1,704
出典:第22回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和元年実施)

経営管理

材料費の価格交渉や
人件費の削減は常に検討する

先行きが見通せないいま、ローコストオペレーションは医院経営の基本姿勢となっている。

「家賃などの固定費は見直しが難しいため、材料費や人件費といった変動費をなるべく圧縮しましょう。たとえば、薬剤などの仕入れ先と価格交渉をしたり、職員と協議のうえで出勤日数を減らしたり、人員削減を検討したりするのです」

医院における平均的な人件費は図表10のとおり。仮に受付スタッフを2人から1人に減らせば、年間約320万円の経費削減になる。平時であれば、多少の余剰人員も抱えられたかもしれないが、時代が変わったことを認識したい。

また、ローコストオペレーションを継続するには、損益計算書や貸借対照表を毎月確認し、常に収支状況を把握することが不可欠だ。

「新型コロナの影響を受けた医療機関向けに、ほとんど無利子で利用できる制度融資があります。真っ先に検討したのは、経営がうまくいっている医院でした。常に収支状況を把握しているので、ある程度先読みができ、『制度融資を利用して、新型コロナの第2波に備ようと』判断できるのです。開業医は、医師であると同時に経営者です。経営者意識を強く持つことが、5年後の経営に大きな影響を与えるでしょう」

図表10● 一般診療所(全体)の職種別常勤職員1人平均給料年(度)額(単位:円)
平均給料
年(度)額
賞与 合計
院長 34,446,376 227,729 34,674,106
医師 11,644,272 197,444 11,841,715
薬剤師 7,600,625 691,667 8,292,292
看護職員 3,345,645 735,419 4,081,064
看護補助職員 2,107,296 344,046 2,451,342
医療技術員 3,391,215 794,658 4,185,873
事務職員 2,598,133 572,651 3,170,784
その他職員 2,518,632 301,312 2,819,944
役員 6,292,021 0 6,292,021
出典:第22回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和元年実施)

5年後もうまくいく
開業後の運営ポイント

  • 日頃の誠実な姿勢とコミュニケーションで、診診連携を強化する。
  • 常に収支状況を把握し、ローコストオペレーションを実行する。
  • 経営者意識を持ち、状況を先読みして経営にあたる。

*注釈のない図表はすべて㈱日本医業総研提供