Medical English 特別講座「知識として身に着けたい英語」

知っているようで知らない、勉強したけどもう一度確認したい…。
いざという時のために身に着けておきたい医療英語。
今号では、医師なら知っておきたいとっておきの英語をご紹介します。

監修 押味貴之
国際医療福祉大学 医学教育統括センター准教授
医師/日本医学英語教育学会理事

1.医師なら「とっさに」言えるようになりたい英語表現

この数年で日本を訪れる外国人の方は本当に増えましたね。
このような状況の中、日本で働く医師にとっても日常的に英語を話す機会が増えてきました。
そこで今回は医師であれば「とっさに」言えるようになりたいと思われる英語表現をいくつかご紹介いたします。

では下記の4つの場面での英語表現を考えてみてください。皆さんは「とっさに」表現することができますか?

1. 道端で傷病者が倒れていて「AEDを持ってきてください!」と言いたい場面
2. 長年診察していた患者さんが亡くなってしまい、その奥さんに慰めの言葉をかけたい場面
3. 癌の告知を終えて「本当に辛いですよね」という言葉をかけたい場面
4. 妊娠検査の結果から「ご懐妊ですよ」と告げたい場面

いかがでしたか? 皆さん「とっさに」言えることができたでしょうか? では一つずつ見ていきましょう。

① Go get an AED!

これには色々な表現がありますが、日本人に意外と知られていないのがこの “Go get” という表現です。これは「ここから離れて対象となるものを持って帰ってきてください」というニュアンスの便利な表現です。緊迫した場面ではよく使われる表現です。海外の病院でも「ストレッチャーを持ってきて!」と言いたい場合には “Go get a gurney!” (米国では車輪の付いたストレッチャーは gurney と呼ばれます)のように表現しましょう。

② We’ve lost a great man.

日本語の「御愁傷様です」に相当する英語表現として “My condolences” というものがありますが、例文のように表現すると「とても惜しい人を失いました」というニュアンスになります。また “You’ve lost a great man.” と比べて “We’ve lost a great man.” には「あなただけでなく私にとっても大切な人を失いました」というニュアンスが含まれます。

③ This must be so upsetting/distressing.

多くの方が思いつくであろう “This must be so hard.” でも良いのですが、ここではより自然な upsetting や distressing という形容詞をご紹介します。前者には「感情を取り乱させる」、そして後者には「辛い思いをさせる」というニュアンスがあります。

④ You have a baby on the way.

せっかくの嬉しいニュースなのですから、ここでは “You are pregnant.” という無味乾燥な表現よりも例文のような表現や、 “You have a bun in the oven.” のような慣用句を使って少し演出的に表現してみるといいでしょう。

ではさらにもう4つの場面での表現に挑戦してみてください。

5. 患者さんに「自分が考えていることはしっかりと伝えた方がいいですよ」と諭したい場面
6. 急いでいる患者さんに「お時間は取らせませんので」と言って引き止めたい場面
7. ストレスが溜まっている患者さんに「しばらくゆっくりした方がいいですよ」と伝えたい場面
8. 検査の説明を終えて、患者さんがその検査の内容を正しく理解したかを確認したい場面

いかがでしたか? ではまた一つずつご紹介していきましょう。

⑤ You should keep talking about your feelings.

こういう場合の「考える」には「感じる」を意味する to feel の方が動詞として適切です。また「した方がいい」には had better は使わないようにしましょう。これは親が子供を躾ける際に使うような「上から目線」の表現ですのでご注意を。

⑥ I won’t keep you but a moment.

これも日本語からだとなかなか思いつかない表現です。英語を直訳すると「お時間は取らせませんが、ほんの少しの時間だけ頂きます」という意味になります。口語ではよく使われる表現です。

⑦ You need to unwind for a while.

「ゆっくりする」には to relax という動詞の他にも、例文のような to unwind(「アンワィン」のように発音します) や to chill out というようなものがあります。また「喧騒から離れて旅行する」という意味で to get away という動詞もありますので、患者さんに「この週末はどこか旅行にでも行ってみたらどうですか?」と言いたい場合には “Why don’t you get away for the weekend?” と表現してみましょう。

⑧ I want to make sure that we have the same understanding about the procedure.

最後に患者さんの理解を確認したい場合の表現です。これにも様々な表現がありますが、失礼にならないような工夫が必要です。この例文には「私たちがこの検査を同じように理解しているかを確認したいのですが」というニュアンスがあるので、 “Do you understand what I said?” のような「上から目線」の印象を与えることはありません。

2.医師の呼び名に関する英語表現

皆さんは名刺を作成する際に自分の肩書きの英訳で困った経験はありませんか?
「呼吸器内科」や「消化器外科」といった診療科を正しい英語名に翻訳するには、英語圏でのそれぞれの診療科でのトレーニングに関する背景知識も必要です。
そこで今回は医師の呼び名に関して日本人にはあまり馴染みのない英語表現をご紹介します。

では下記の医師の呼び名に関する英語の意味を考えてみましょう。

1. Takayuki Oshimi DO
2. ENT doctor
3. ID doctor
4. couch doctor
5. consultant
6. thoracic surgeon
7. general surgeon

① 医師

皆さんが「医師」として用いる学位の表現としては medical doctor を表す MD が一般的だと思います。以前は M.D. のように、ピリオドを使う表記が一般的でしたが、近年はピリオドを省略した MD という表記が一般的です。(同じように「博士号」を表す Ph.D. も、PhD のように省略して表記するようになってきています。)

アメリカでは medical school を卒業すれば MD を取得することになるのですが、一部の medical school では MD ではなく DO という学位を与えるところもあります。これは doctor of osteopathy の略で、元々は osteopathy という「整骨医学」の学位でしたが、現在では MD と全く同じ学位として認識されています。ですから肩書きが MD ではなく DO であっても、同じ「医師」であると認識してくださいね。

② 耳鼻科医

日本の医療機関で ENT は「退院」を意味する俗語ですが、これはドイツ語の entlassen が語源です。これに対して英語の ENT (「イーエヌティー」と発音します)は ears, nose and throat の略で、「耳鼻科」を表す一般用語です。もちろん「耳鼻科」には otorhino-laryngology という医学用語もありますが、患者さんに馴染みがあるのは ENT となります。

③ 感染症専門医

略語の ID だとピンと来ない人も多いかと思いますが、これは infectious disease の略で「感染症」を表します。以前は熱帯医学のイメージが強かった分野ですが、現在では様々な診療科を横断してコンサルテーションを行う「職種横断的」multidisciplinary/interdisciplinary な活動が主体です。また、アメリカのID doctor は日本に比べて移植後の患者さんや AIDS の患者さんを診療することが多いのも特徴です。

④ 精神科医

英語圏では精神科の患者さんは、椅子ではなくベッドのような couchに横たわって診療を受けることが一般的です。したがって精神科医 psychiatrist にはこの couch doctor というあだ名があるのです。これ以外にも精神科には shrink や head shrinker という俗名もあります。これは「妄想が大きくなった精神科の患者の頭を縮める人」というイメージでついた呼び名で、医師が使うにはかなり品の良くない表現です。患者さんが使った際には意味がわかることが大切ですが、皆さんは使わないようにしてくださいね。

ちなみに「精神科」を表す psychiatry は「サィカィエトリィ」、「精神科医」の psychiatrist は「サィカィエトリィスト」、そして「精神科の」を表す psychiatric は「サィキァトリィ」のような発音になりますのでご注意を。

⑤ (英国の)指導医

アメリカの「指導医」を意味する attending doctorは日本では広く知られていますが、英国でこれに相当する consultant はあまり知られていないようです。英国では専門医は specialty registrar と呼ばれ、さらに研修を積んで指導医となると consultant と呼ばれます。

⑥ 胸部外科医/呼吸器外科医

英語圏での「呼吸器内科」の名称は respiratory internal medicine ではなく、pulmonology が一般的です。また「呼吸器外科」も respiratory surgery ではなく、thoracic surgery が一般的です。英語圏では外科はまず general surgery で研修を積み、その後呼吸器や食道の手術を担当する場合には胸部外科である thoracic surgery に進みます。日本の「呼吸器外科医」の先生が respiratory surgeon を肩書きに使うのは全く問題ありませんが、このような制度の違いがあることも忘れないでください。

⑦ 一般外科/消化器外科

英語圏の一般外科である general surgery では腹部の手術全般を担当します。したがって英語圏の「消化器外科医」の肩書きを見ると general surgeon という場面が数多くあります。もちろん英語圏にも「消化器外科」を専門としている医師も多いのですが、その場合には colorectal surgery や hepato-biliary-pancreatic (HBP) surgeon のように subspecialty で名乗ることが一般的です。ですので、日本の「消化器外科医」を digestive surgeon のように表現する際にも、そのような制度の違いがあることも頭の隅に入れておいてください。

3.医学に関する英語の格言

日本と英語圏の医学教育の違いの一つとして、英語圏の教員は日本人の教員と比較して有名な人物の言葉を引用することが多いという印象があります。
また英語圏の教科書や参考書では各単元の最初に、その内容に関するウィットに富んだ言葉を使うことも一般的です。
そこで今回は医学に関する有名な英語の格言を「引用したい場面」に合わせてご紹介していきます。

ではまず古代の医学の偉人による言葉をいくつかご紹介しましょう。これらの原文は英語ではありませんが、定訳となっている英語表現で見ていきましょう。

“Wherever the art of medicine is loved, there is also a love of humanity.”
by Hippocrates

Hippocratic Oath 「ヒポクラテスの誓い」で有名な Hippocrates に関しては説明の必要はないでしょう。この Hippocratic Oath でも “First do no harm” は特に有名です。上記の言葉は「医師にとって人文系の教養は重要である」と言いたい場面などで引用すると良いでしょう。

“That physician will hardly be thought very careful of the health of his patients if he neglects his own.”
by Galen

日本では「ガレノス」という発音で知られているのがギリシアの医学者・解剖学者の Galen (英語では「ゲィレン」のように発音されます)です。この言葉は直訳すると「自分の健康を疎かにするような医者は、その患者の健康を心から心配しているとは思われない」という意味になります。現在大いに議論されている「医師の働き方改革」に関連する話を切り出す際に使ってみるのもいいかもしれませんね。

“All we know is still infinitely less than all that remains unknown.”
by William Harvey

前述した Galen の説を否定し、血液循環説を提唱したのがこの英国人解剖学者の Harveyです。彼のこの言葉は非常に哲学的であり、英語のネイティブスピーカーでも一読しただけでは「?」となってしまうほど複雑な構造を持っています。ごく簡単に言ってしまうと「我々にはまだまだ知らないことがたくさんある」という意味なのですが、「現代の医学にもまだまだ未知のことがたくさんある」という話をしたい時に引用すると「カッコいい」かもしれませんね。

では次に原文が英語の言葉をいくつかご紹介しましょう。

“When you hear hoofbeats, think of horses not zebras.”
by Theodore Woodward

チフスの研究で有名なアメリカの医学者 Woodward による「馬の蹄の音が聞こえたら馬だと思え。シマウマな訳ないだろう」という意味のこの言葉は、臨床推論教育の場面で頻繁に引用されています。ここから転じて英語で「稀な疾患」は zebra と呼ばれているくらいです。臨床推論において common disease を考える重要性を述べたい時に引用するといいでしょう。

“Listen to your patient; he is telling you the diagnosis.”
by William Osler

医学教育の基礎を築いたカナダ人内科医の William Osler は世界で最もその言葉が引用されている医師と言っても過言ではありません。医療面接の重要性を説いたこの言葉は検査に頼りがちな現代の医師にとって「戒め」ともなる格言かも知れません。

この Osler 医師は数々の格言を残していますが、彼の格言はその内容はもちろん、英語の表現としても素晴らしいものがあるのです。

“The good physician treats the disease; the great physician treats the patient who has the disease.”
by William Osler

「良医は病気を治すが、偉大な医師は患者を癒す」という意味のこの言葉は、「疾患ではなく患者を診る」というメッセージを伝えたい場面で数多く引用されています。この “The good physician treats...; the great physician treats...” のように、対比構造を持つと英語にリズムが生まれます。同じような対比構図を持つ表現としては下記のようなものもあります。

“He who studies medicine without books sails an uncharted sea, but he who studies medicine without patients does not go to sea at all.”
by William Osler

「本を読まずに医学を勉強するのは海図を持たずに航海するようなものだ。しかし患者を診ないで医学を勉強するのは海にすら行かないようなものだ」という意味のこの言葉も “He who studies medicine without books..., but he who studies medicine without...” という対比構造を持っています。ベッドサイドで患者を診察する重要性を説く際に引用したい表現ですね。

最後に同じく Osler 医師による rhyme 「韻」をうまく踏んでいる表現を一つ。

“Medicine is a science of uncertainty and an art of probability.”
by William Osler

医学が science と art の2つから成るというところから「医学は不確実性の科学であるのと同時に確率のアートである」と言い切ったこの表現はその内容だけでなく、uncertainty と probability というrhyme「韻」を踏んでいるところにその秀逸性があります。AI時代における「医師と情報の関係」を論じる際には是非とも引用したい素晴らしい言葉です。

4.発音に注意が必要な医学英語

私が教鞭を執っている国際医療福祉大学医学部では、最初の2年間の医学教育は全て「英語で」実践されています。
そのため医学部の教員は全員「英語で」教育することを前提に採用されていますが、そのように英語に自信のある先生であっても「そうやって発音するの? 知らなかった!」と驚かれる医学英語が存在します。
そこで今回は日本人にとって「目から鱗」の発音となる医学英語をご紹介します。

まずは次の5つの単語を発音してみましょう。

1. anion gap
2. renin
3. ibuprofen
4. melena
5. syncope

いかがでしたか? 特に注意されなければそれぞれ「アニンギャップ」「ニン」「イブプロフェン」「メナ」「シンコゥプ」のように発音された方が多いのではないでしょうか?残念ながらこれらは全て誤った発音です。では正しい発音を一つずつご紹介しましょう。

①「ナィオン ギャッ」

「陰イオン」を意味する anion は「ナィオン」のように発音します。私も長く医学英語教育に従事していますが、私の経験上、日本で医学教育を受けたほとんどの医師がこれを「アニン」と発音しています。スライドで anion gap と表示しながら発音すれば理解してもらえると思いますが、普通の会話で「アニン」と発音すれば、おそらくほとんど理解されることはないと思われます。ちなみに多くの日本人医師が「カチン」と発音する「陽イオン」を意味する cation は「カァタィオン」のような発音になりますので、こちらの発音も一緒に覚えておいてください。

②「リーニン」

これも日本で医学教育を受けたほとんどの医師には知られていない発音です。日本人が発音する「ニン」では rennin という英語のように聞こえます。これはチーズの発酵に使われる酵素のことですので、renin とは全く異なるものになります。

③「アィビュプロフェン」

エスエス製薬の「EVE」シリーズもあるくらい「イブプロフェン」という発音が日本では定着していますが、英語では全く異なる発音になります。同じ NSAIDsのacetaminophenも「アセトアミノフェン」ではなく、「アセタノフェン」のような発音になりますのでご注意を。

④「メリーナ」

ほとんどの日本人医師が「メナ」と発音する「黒色便」ですが、これは「メリーナ」のような発音となります。

⑤「シンコピー」

「失神」を意味する syncope ですが、これも正しい発音が多くの日本人医師には知られていない医学英語の一つです。是非周りの医師の方にも教えてあげてくださいね。

では、さらに下記の5つの英語を発音してみてください。最後のものは「単位」の発音に気をつけてください。

6. latex
7. psychiatry
8. gynecology
9. ward
10. 2 mg

いかがでしたか?ではまた一つずつ確認していきましょう。

⑥「レィテックス」

日本式に「ラテックス」と発音しても通じません。患者さんも “I’m allergic to latex.” のように表現することがありますので、しっかりと聴き取れるようにしておきましょう。ちなみに「ラシックス」で発音される Lasixも「レィシックス」のような発音になります。

⑦「サイカイェトリィ」

「精神科」の psychiatryは「サイカイェトリィ」、「精神科医」のpsychiatristは「サイカイェトリスッ」のように発音します。形容詞である psychiatric(精神科の)になると、「サイキアトリッ」となりますので注意してください。

⑧「ガィネロジィ」

日本では「ギネ」と呼ばれる「婦人科」を意味する gynecology ですが、英語では「ガィネロジィ」というような発音になります。

⑨「ゥォド」

「病棟」を意味する ward ですが、word と区別した発音ができる医師は少ない印象です。前者の wardは “wawrd” のように、後者の word は “wurd” のように発音します。

⑩「トゥー ミィグラムズゥ

ここでのポイントは “two milligrams” のように単位が複数形になるということです。0.1 mg は “point one milligrams” ですし、0 mg も “zero milligrams” になります。1 mg の “one milligram” のように1以外の数字に単位がつく場合には、 5 mm が “five milli-meters” となるように単位が複数形になりますのでご注意を。