いまだからこそ、知っておきたい最新情報&基本 これからの時代に「成功する転職」の秘訣

医師の転職は、一貫して売り手市場が続いていた。極端に多くを望まなければ、医師の希望は比較的叶いやすかった。しかし、COVID-19によって状況は変わり、一部では医療機関側の買い手市場に移行している。現状の課題は何か、転職のベストタイミングはいつか、事前準備のポイントは何か。医師の転職自由化が始まって以来の環境変化のなか、転職を成功させるための方策を、読者医師とキャリアアドバイザーに聞いた。

(株)リクルートメディカルキャリア ドクター転職支援室 室長
高野 潤
医師転職支援の長として業界動向や転職マーケット情報に通じる。

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(株)リクルートメディカルキャリア ドクター転職支援室
石鍋祐樹
理論的分析に長け誠実な支援に定評のあるキャリアアドバイザー。

石鍋祐樹氏 写真

  • 総論

圧倒的な売り手市場から、一部〝買い手市場〟へ。
転職希望者は一時増加するも、現在は様子見が多数

最新情報

東京では影響が顕著だが、
他の地域では採用意欲ありも

COVID-19のパンデミックは、医師の転職市場に大きな影響をもたらした。リクルートメディカルキャリアのドクター転職支援室室長・高野潤氏は「これまで圧倒的な医師の売り手市場でしたが、一部では求人数が減少し、買い手市場に変わったところも出てきました。医師の転職が自由化されて以来の環境変化と言っても過言ではありません」と語る。

一番の要因は、患者の受診控えにより、多くの医療機関で収益が悪化していることだ。感染症対策のための経費や手当などによる支出もかさんでいる。既存の職員へのボーナスさえ支給できない病院もあることは周知のとおりだ。

「いまは、医師の採用を手控えている医療機関が増加しています」(高野氏)

加えて、クリニックの新規開院や、病院の診療科新設が見送られるケースも出てきた。これらの傾向は、特に東京で顕著で、緊急事態宣言の発令(4月7日)前後から急速に強まったそうだ。例年6〜7月は秋の採用に向けた求人が増加する時期だが、今年はその山もなかったと言う。

同社のキャリアアドバイザー(CA)を務める石鍋祐樹氏は、診療科ごとの傾向についてこう話す。

「皮膚科や耳鼻科、小児科、健診など外来が主体の診療科は軒並み患者が減り、求人も減っています。特に外来への影響が大きく、感覚的には平時の半分〜3分の2程度の求人数になっています。面接のキャンセルや内定取り消しの例もありました。入院の伴う内科や外科は比較的影響が少ないものの、COVID-19の患者を受け入れている病院の外科は予定手術の延期が相次いでいます。今後、外科の求人減も起きるかもしれません」

とはいえ、あらゆる医療機関が求人を控えているわけではない。

「地域によっては、いまも医師採用に意欲を持っている医療機関があります。また、訪問診療の領域はほかに比べると影響が少ないと思います。ある医師は『患者さんが出向いて来るわけではないので、医療者側が感染対策をしっかりすれば何とかなる』と話していました」(高野氏)

では、最近の転職市場を医師自身はどう捉えているのか? 弊誌では読者の医師の協力を得て、インターネットによるアンケートを実施した(6月中旬)。転職経験者は約7割(Q1)。COVID-19によって転職への考えが変わったか(Q2)を訊ねると、半数が「特になし」だった。しかし、転職を「しばらく待とうと思った」「やめようと思った」という慎重な声が合わせて30・3%に上った。フリーコメントでは、感染防止のための転職活動の制限や、医療機関の収益悪化に伴う求人減と報酬ダウンを懸念する声が目立つ。その一方で「転職を早くしようと思った」「転科を伴う転職を考えた」という積極的な回答は合わせて16・3%で、それほど少数ではなかった。今後に対する不安感や、早めに環境を変えたいなど理由は様々だと思われるが、一部でこんな話もある。

「おもに非常勤医ですが、勤務先から『やむを得ず給料を6割しか払えなくなる』『外来患者の多い午前だけの勤務にしてほしい』などと言われ、次の職場を探す医師が一時、急増していました」(石鍋氏)

また、施設選択への考えを問うと「施設選択時にCOVID-19対応の有無を聞く」「感染管理体制を確認したい」が共に24・4%に上った。そうした動きは、実際の転職現場でも広まっているようだ。

「多くの医師が面接時に『COVID-19の対応方針を聞かせて下さい』と質問するようになりました。院内感染が発生した場合の対応など、非常に細かく確認しています。誠実な回答をする医療機関であれば、安心して転職できると判断されているようです」(高野氏)

今後の転職市場の見通しについて、高野氏は次のように語る。

「いわゆる“Withコロナ社会”が終わり、“Afterコロナ社会”になるまで、現在の求人状況は続くと思われます。ただ、オンライン診療を始める医療機関が増えつつあったり、中小規模病院でよい人材を採用しようとする動きが出たりする可能性もあります。新たなニーズを見逃さないことが大切です」

Q1 転職経験と回数は?
Q2 COVID-19によって転職への考えが変わった点はありますか?
読者コメント COVID-19が転職に及ぼす影響は?
  • 今後落ち着くまでは病院見学などができないと思う(精神科・40代前半・男性)
  • COVID-19により、医療機関の経営状況が悪化しているので、その点を考慮しておいた方がよい(整形外科・60代前半・男性)
  • 逆に感染症に興味があるので、上層部が感染対策や感染症診療に熱意を持ってくれる病院を探したい(一般内科・40代前半・男性)
  • 外来患者が減って時間ができたので残業が減って給料も減りました。いいか悪いかはよくわかりません(精神科・40代後半・男性)
  • 手術がなくなると、外科医は淘汰されていくと思った(一般外科・40代前半・男性)
  • 通勤自体が不安でもある(一般内科・30代後半・男性)
  • COVID-19を診察する必要があるところには行きたくない(一般内科・50代後半・男性)
  • 非常勤はやはり不安定なので、常勤が基本。それにプラス、余裕があればアルバイトかな(麻酔科・50代前半・男性)
  • 感染防御がきちんとできていればあまり心配ない(一般内科・50代後半・女性)
  • 病院や大学医学部のあり方が大きく変わる可能性があり、チャンスでもあるが、ある種の危機でもある(その他内科系科目・40代後半・男性)
  • 減給が横行しそう(一般内科・50代前半・男性)

成功実態

収益性の高いスキルと
アピール力が成功のポイント

こうした医療界の大変革のなか、転職を成功させるには何が必要か。アンケートでは83・3%が「転職で成功した経験がある」と答えている(Q3)。その要因として「転職目的が明確だった」「条件を吟味した」「複数を比較検討した」などが挙げられている(フリーコメント)。回答者が転職を果たした時期はCOVID-19パンデミックの前だが、高野氏も石鍋氏も、「こうした基本姿勢の重要性は不変」と口を揃える。

加えて、成功する転職の秘訣として、高野氏は「5〜10年の中長期的なキャリアプランを持つことも重要」とアドバイスする。外科医ならばいつメスを置くか。内科医ならいつ開業するか。若い世代の医師は結婚や子育てと仕事をどう両立するかなどがキャリア上の課題となる。それらによって積み上げてきた専門分野を手放していいのか、よく熟慮してほしいそうだ。

「専門性やワークライフ、いずれかを選択しようとご相談をいただくケースが多いのですが、いままでの専門性を活かしながらワークライフバランスを保つ転職も可能です。キャリアの方向性を極端に変更することを考えるよりも、希望の優先順位を整理し、これから先の長い医師人生を見据えて、検討していただければと思います」(高野氏)

また、COVID-19の影響下であっても転職を成功させている例は、いま医療機関が“こうあってほしい”と思っている2つのニーズを、心得ている医師だという。

「経営状況の先行きが明るくないいま、多くの医療機関は『収益性の高さ』と『コミュニケーション力』を医師に求めています。収益性は、スキルや資格で判断されることが多く、何かしら診療報酬の加算が取れる専門医などを持っている医師が歓迎されます。コミュニケーション力については、外来の患者対応と内部の他職種連携がうまく取れるかが重視されます。コメディカルに対し高圧的な医師などは組織としてのリスクにもなるので、面接に看護部長などが同席するケースも出てきました。その際、柔軟な対応ができる医師が転職を成功させています」(高野氏)

重ねて、石鍋氏はこう語る。

「その医療機関にとって収益性があることを、医師が自分の言葉で伝える重要性が増しています。これまでコミュニケーション力=人柄の良さのように思われてきましたが、最近は『アピール力』も問われているように思います。応募の動機を聞かれたとき『興味があって』というだけではなく、転職先で何がしたいか、それによってどのくらい収益が発生するかを語れる医師が、転職を成功させているのです」

Q3 転職で成功した(自身の転職目的を達成した)経験は?
読者コメント 転職で成功した要因は何?
  • あらかじめ新職場の上司との面談を重ね、信頼関係を築いてから転職した(その他内科系科目・40代後半・男性)
  • 自分のしたいことを明確にし、しないことも明確にすること(緩和ケア科・30代後半・男性)
  • 医局に相談する前に転職コンサルタントに相談しておいたこと(消化器外科・40代前半・男性)
  • 現状から変わることに対する勇気(循環器内科・40代後半・男性)
  • 目的は「子どもにかける時間がほしい」だったので、短時間勤務の職場を探した(消化器内科・50代前半・女性)
  • 地域を考慮したこと(泌尿器科・30代前半・男性)
  • 体裁や役職にこだわらず、自分が納得のいく仕事の仕方と、時間の使い方ができる働き方を実現した(一般内科・40代前半・男性)
  • 信頼できるエージェントを介して、十分な情報収集を依頼したから(循環器内科・40代前半・男性)
  • 粘り強く探し続ける(呼吸器内科・40代後半・男性)
  • 自分の心に正直に転職する(麻酔科・50代前半・男性)
  • 転職準備

希望条件の「マスト」と「ウォント」を明確化し、
勤務希望地を緩和することも成功への近道

どのくらい変化に対応できるか
どのくらい収益を生み出せるか

Q4で転職の目的を訊ねたところ「収入アップ」「労働条件(勤務時間など)の改善」が共に40%で最多。次いで「スキルや経験を活かすため」が31・7%だった。いわばそれらの実現が成功する転職の条件だが、転職活動の前に一度、自分の希望等を整理することが欠かせない。

Q5の「転職条件の整理で有効だと思うこと」は「目的を明確にする」(66・7%)、「条件を具体的に設定する」(53・3%)、「優先順位をつける」(41・7%)が上位に上がった。石鍋氏はこのうち優先順位づけを重視し、こう助言する。

「絶対に叶えなくては困る『マスト』の条件を1〜2つに絞り、他は叶ったら嬉しい『ウォント』とすれば、一部で買い手市場となったいまも成功しやすくなります。勤務地が人気エリアで業務負担も軽く、さらに年収は200万円アップ……などと条件を重ねると難航しやすくなるため、まずは『何が一番譲れないか』を明確にしましょう」

高野氏は勤務地の希望を緩和すれば、かなり可能性が広がるという。

「二次医療圏は、人口または人口密度に応じて『大都市』『地方都市』『過疎地域』に区分されていますが、大都市は医師数も多く、転職が厳しい状況が続いています。しかし、地方都市まで足を延ばすと競合する医師が少なくなり、だいぶ希望が通りやすくなります。居住地とは違う都道府県でも、新幹線に乗れば意外とすぐ、という場合もあります」

また、今後も状況が変わり続けることが見込まれるなか、「変化への対応力も重要」と高野氏は語る。

「前述のとおり、医療機関側は医師の収益性を重視するようになってきました。こうした変化を受け止め、自分の業務がどのくらい収益を生み出すのか、大まかでも把握しておいてほしいですね」(高野氏)

Q4 転職の目的は? (複数回答)
Q5 転職条件の整理で、より有効だと思うことは? (複数回答)
読者コメント 転職準備で重要なこと
  • 自分が入職することで、何がどう変わるかを明確にする(一般内科・30代後半・男性)
  • 譲れること譲れないことを明確化(整形外科・50代前半・男性)
  • 医療以外の業務の詳細を確認(整形外科・50代後半・男性)
  • 資格なら、その施設で取れるのか、上に立つ人が資格をたくさん有しているか等を見極める(一般外科・40代前半・男性)
  • 自分の過去の診療経験が活かされるか否か(一般内科・70代以上・男性)
  • 医師人生としての最重要のゴールを何に置くかの考察(その他内科系科目・40代後半・男性)
  • 自分のキャリアにプライドを持つ(一般内科・60代前半・男性)
  • 現状逃避の転職はやめるべき(健診科・40代後半・男性)
  • 夢中になれる仕事かどうか(一般内科・40代後半・男性)
  • 転職活動

ライバルが少ないいまのうちに活動開始するのも手。
スキルを整理し、交渉する転職が市場のトレンド

タイミング

こだわりの希望や時間的制約の
ある医師は早めの活動開始を

一部で買い手市場となっているいま、いつ転職すべきか様子見状態の医師は多いと思われる。だが、高野氏によると、必ずしも待つことがベストとは限らないようだ。

「いま採用活動をしている医療機関は本当に医師を必要としており、ある程度は条件を叶えてくれる可能性があります。また、転職活動でライバルとなる医師が少ないことも事実です。希望条件の高い医師ほど、スピーディーに動いた方がいいと私は思います」

また、家庭の事情等がある医師も、早めに転職行動を始めた方がよさそうだ。

「子どもの就学に合わせて転職したいなど、明確なタイムリミットのある医師は着々と準備を進め、内定を勝ち取っています。COVID-19の動向は鑑みつつも、目標に向かって計画的に転職することが成功の秘訣です」(石鍋氏)

情報収集・施設選択

地域内における医療機能や
スキルの収益化の可否に着目

Q6で転職のために有効な情報収集方法を訊ねると「同僚・知人」が60%で最多。次いで「民間人材紹介会社」(51・7%)だった。また、Q7の「施設選択で重視する項目」は「報酬」(83・3%)、「労働条件・待遇」(75%)が圧倒的多数で、次が「診療体制」(45%)だった。身近な人からの情報によって、報酬や労働条件のいい転職先を見つけようと思う医師の姿が浮かび上がる。だが、留意しておきたい点もある。

「個人的な人脈による転職は、紹介者に気兼ねして強く希望を打ち出せない。あるいは、病院側が『医師同士の人間関係があるから、高い条件を出さなくても来てくれる』と考える場合があります。そのため、希望条件が思うように通らないケースが少なくありません。高い報酬や労働条件のよさがマストの医師は、民間人材紹介会社を利用した方が効率的に転職できるでしょう」(石鍋氏)

診療体制の条件を重視する場合は、地域における病院機能に着目した施設選択が大切になる。

「COVID-19を期に、各病院は変化を迫られています。急性期から慢性期やケアミックスにシフトする病院もあるかもしれませんし、病院の再編統合も進むはずです。希望勤務地域を『面』で捉え、その中で数年後も自分の目指す診療ができる医療機関はどこかを十分に見極めなくてはなりません」(高野氏)

また、成功する転職のためには、条件に合う求人が出るまで「待つ」のではなく、条件に合うように「交渉する」という発想も大切だ。

「最近の転職市場では、医師のスキルを整理し、それをマネタイズできる病院を探し出して交渉する手法がトレンドになっています」(高野氏)

数ある医療機関の中から交渉可能なところを見つけるには、幅広い情報網を持つCAに相談するとスムーズだと思われる。

Q6 転職の情報収集方法で、より有効だと思うものは? (複数回答)
Q7 施設選択で、重視する項目は? (複数回答)

見学・面接

オンライン面接が増加し
遠方の病院の面接も手軽に

COVID-19によるもう一つの変化が、オンライン面接の増加だ。

「対面に比べ、オンライン面接は医師の人となりがわかりづらい傾向があります。画面に映る姿や声のトーンで判断される部分が大きく、見た目の清潔感や明瞭な話し方は、前にも増して重要になってきました。面接で聞きたい事項をあらかじめ整理しておくことも大切です」(高野氏)

Q9「面接時に重視すべき項目」は「残業やオンコールなどについて聞く」が65%で最多。フリーコメントでは「上司になる人物の性格や能力の確認」や「労働条件を明確にする」を重要視する意見があった。

医療機関によっては、オンライン面接のみで内定まで決まるケースもある。Q8の「施設見学で重視する項目」は「患者層や雰囲気」が63・3%、「上司・同僚の人柄」が56・7%だが、内定前に確認できない可能性も想定しておきたい。

「事前に伝えておけば、同じ診療科の医師がオンライン面接に同席してくれることがあります。その日に都合が合わなくても、後日、オンラインで再面接できることも。以前より手軽に面接を受けられるようになったとも言えます」(高野氏)

また、仮に対面の面接が可能でも、感染リスクを抑えるため、CAが同席できないケースがある。

「最初の挨拶から面接時のコミュニケーションまで、医師が1人で完遂させる必要があります。時折、医療機関から『面接時に目を見て話していませんでした』などという声も寄せられるので、注意していただけたら、と思います」(石鍋氏)

COVID-19によるパラダイムシフトにより、転職時の姿勢を改めて見つめ直す時期が来たようだ。

Q8 施設見学で、重視する項目は? (複数回答)
Q9 面接にあたり、重視した方がよいと思う項目は? (複数回答)
読者コメント 転職活動で重要なこと
  • 時期によって募集があったりなかったりするので、いま出ていなくとも待つことも必要(精神科・40代前半・男性)
  • 相手の都合に合わせられるか否か(一般内科・70代以上・男性)
  • 転職する半年前に直属の上司と個別に面談。転職しないといけない理由を明確に伝え、お互いが承認した形で転職する(消化器外科・50代前半・男性)
  • あらかじめ大まかな予定を立てて、それに基づいて行動する(麻酔科・50代前半・男性)
  • 面接では正直に、率直に! (健診科・40代後半・男性)
  • やめるタイミングと理由を明確にしておく(麻酔科・50代前半・男性)
  • 普段から評判を知っている近隣の病院などだと判断しやすい(精神科・40代後半・男性)
  • 労働条件を明確に。入職後にあれもこれもと要求されることがある(健診科・60代後半・男性)