【寄稿】医療人事 第三回 医療におけるダイバーシティマネジメントについて考えよう!

第一回は、新型コロナウイルス感染が拡大する中、「働き方改革」について考え、第二回は、人事管理はなぜするのか? 何を基軸に何を評価するのか? について考え、第三回は、ダイバーシティについて考えたい。

多摩大学医療・介護ソリューション研究所
副所長・シニアフェロー
公益財団法人日本生産性本部認定
経営コンサルタント
幸田 千栄子
輸送用機器メーカーにて人事・人事企画・採用・教育・女性活躍推進・秘書などに従事。2000年公益財団法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了し、公益財団法人日本生産性本部経営コンサルタントとして、各種事業体の診断指導、人材育成の任にあたる。2009年5月から1年間、サービス産業生産性協議会スタッフとしてコンサルタントと平行して任にあたり、サービス産業の生産性向上PJに参画すると同時に顧客満足度・従業員満足度調査開発・設計を行う。

幸田 千栄子氏 写真

ダイバーシティとは?

今年もアメリカでは人種差別が大きな問題となっているが、1960年代のアメリカで人種や性別などによる差別的な人事慣行の撤廃を求める動きのなかで注目されるようになった言葉である。

ダイバーシティとは、多様性を意味する言葉であり、もともとは「ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion)」を指している。インクルージョンは受容を意味する。

多様性を規定する要素には、考え方や価値観の違いとして①ジェンダー(性別)の違い、②人種・国籍・民族・宗教の違い、③年齢の違い、④LGBTや、健康面の事情として①障害者、②疾病(がん・メンタル不全等)、更に働く条件の違いや生活制約の違い①育児、②介護などがある。

組織のダイバーシティ・女性活躍

ダイバーシティマネジメントとは、性別・年齢・国籍・障害の有無といった個人の属性にかかわりなく、多様な人材の能力や発想、価値観を融合することで、組織や企業の活性化を図り、企業の経営基盤や商品提案力を強化する経営手法のことを言う。

ダイバーシティが求められる背景として3点が考えられる。現代はグローバルルールで競争しており世界レベルの競争力を保つ為、日本を含め世界から優れた人材を惹き付ける魅力的な働く場の構築が求められていること。次に人口減少・労働力の減少に対応して多様な労働資源の活用が求められていること。更に組織・社会が永続的に発展するには、価値観の多様化により革新的な考えを生み出し実現することを求められていることである。

具体的には、女性活躍推進、外国人採用、高齢者雇用、障害者雇用などの取り組みが行われている。女性活躍推進の取り組みを見ると、「全ての女性が活躍できる社会を創ること」を成長戦略の中核とし、2020年迄にあらゆる分野で指導的地位の女性が30%以上となる社会を目指すと2012年に閣議決定した。(※指導的地位の定義①議会議員②法人・団体等における課長相当職以上の者③専門的・技術的な職業 のうち特に専門性が高い職業に従事する者)しかし、昨年は14・9%であり、目標の半数にも至っていないのが現状であるため、今後も引き続き取り組んで行く方針である(図1)。

女性医師比率については2016年では21・1%であり目標の30%に達していない。「OECD Health Statistics 2015」によると、OECDの単純平均で44・8%、加重平均で39・3%。日本の女性比率の低さが際立っている。G7諸国では、英国47・2%、ドイツ44・5%、フランス43・6%、カナダ40・6%、イタリア39・8%で、6位の米国ですら34・1%と日本を10ポイント以上引き離している。そもそも医師国家資格を持つ男女比は年々増加しているが7:3である。厚生労働省が2014年に「女性医師のさらなる活躍を応援する懇談会」を設置し復職支援、勤務環境改善、育児支援等の具体的取組を一体的に推進していることに期待したい。

女性医師資格者と9%ほどの差がある背景には、第一回の働き方改革でも述べた医師の長時間労働と関連があり働きながら子育てすることが困難な状況と言える。2016年の厚生労働省のアンケートで、子育てと勤務を両立させるために必要なものは、「職場の雰囲気・理解」「勤務先に託児施設がある」「子供の急病等の際に休暇が取りやすい」「当直や時間外勤務の免除」「配偶者や家族の支援」の順に多く、特に女性に必要とされている。「職場の雰囲気・理解」は、医師に限らず一般企業においても女性が働く上で最も重要な要因の一つである。男女雇用機会均等法ができて35年、女性が活躍し誰もが子育てしながら仕事をし続けることができる社会の実現に向けてまだまだ先がある。

医療に関わるダイバーシティ

(1)社会の中のダイバーシティ人材

多様性を規定する要素として先に述べたもののうち、障害者、疾病(がん・メンタル不全等)、高齢者、育児、介護者などが働き、社会生活をするには医療・介護関連の方々にお世話になる。医師は、治療のプロの専門医と、診たてのプロの総合医とがあるが、私はたまたま母がお世話になったこともあり、静岡県が取り組んでいる「その人を診る家庭医」を知った。その後森町家庭医療クリニック所長に研究会にてご講演をお願いし、訪問看護・訪問介護・介護施設・ケアマネージャとの連携は勿論のこと医療の範囲に収まらない働きであることが解った。例えば睡眠導入剤を処方している高齢者が「寂しくて寝られない」と聞くと、街の方々と繋がって情報を提供し「繋がる場」に出てくる様に働きかけるなどである。

また、医療・介護施設をベンチマークした時のことである。事務スタッフとして知的障害のある方が働いていた。伺うと医療・介護の専門家の近くで働いたら対応の仕方が一番よくわかると考え雇用しているとのことである。(障害者雇用促進法:障害者雇用率民間企業2・2%以上、45・5人以上の企業は一人以上を雇用)

今では、障害者だけでなく疾病の治療を受けながら働きつづけることが当たり前になっているが、主治医と産業医が関わってくれるので健康的には心配ないが、どの様に両立して行ったら良いか不安を抱えながら働いている。

(2)医療・介護関係者と患者・利用者・利用者家族を繋ぐ

育児も介護も障害も疾病もそれぞれに向き合いながら、多様な人材が役割を全うする・働きがいを持ち続けることができる社会にするためには、お互いの状態や違いを理解することから始まる。

例えば、病気休職から復帰する人は「上司・職場の人に迷惑をかけて申し訳ないから、精一杯働く。」と言う。会社上司の立場では本人や産業医が働けるというのであれば今まで通りに仕事を与えることになる。全ての方ではないとは思うが、無理をして働いてしまうことがないかと心配になる。その様な場合、がん患者であれば症状や治療方法などの概要や、がんと診断された時・手術を受けた時・放射線治療を受けた時・回復してきた時など患者の体調や心の状態を理解しどのように寄り添えば良いのかを上司・人事担当者に説明会などを実施し、理解を促すことが必要である。

また、介護については、現在も地域のケアマネージャが介護相談に乗ってくれるが、初めての人にはケアマネージャが何をしてくれるのかさえ解っていないことが多い。介護施設の種類やどのような状態であればどの施設を利用できるのかなど解らないというのが正直なところである。2017・2018年の介護・看護離職者は各年約10万人であるが、あらかじめ具体的に道筋を考えておくことができれば、仕事も続けられる場合が多い(図2)。

このように見てくると、ダイバーシティ人材が職場や社会との折り合いをつけて両立するためには、組織・企業等の関わる人が知識を持ち理解し、医療・介護関係者と更につながることが重要と考える。

図1● 就業者及び管理的職業従事者にしめる女性の割合(令和元年男女共同参画白書)
(備考)
1.総務省「労働力調査(基本集計)」(平成30年),その他の国はILO”ILOSTAT”より作成。
2.日本,フランス,スウェーデン,ノルウェー,米国,英国及びドイツは平成30(2018)年,オーストラリア,シンガポール,韓国及びフィリピンは平成29(2017)年の値,マレーシアは平成28(2016)年の値。
3.総務省「労働力調査」では,「管理的職業従事者」とは,就業者のうち,会社役員,企業の課長相当職以上,管理的公務員等。また,「管理的職業従事者」の定義は国によって異なる。
図2● 介護・看護を理由とした離職者の推移(令和元年度版男女共同参画白書)
(備考)
1.総務省「労働力調査(詳細集計)」より作成。
2.前職が非農林業雇用者で過去1年間の離職者。
3.平成23年の数値([ ]表示)は,岩手県,宮城県及び福島県を除く全国の結果。