現場の医師が感じる・考える これからのキャリアと可能性、働き方

弊誌が現場の医師を対象に実施しているアンケートから、7月号では医師のあり方に対する回答を紹介した。
当8月号は20代から70代まで幅広い年齢層からの回答をもとに、将来が見通しにくい時代の今後のキャリアについて、その可能性、働き方などに関する感じ方や考え方をまとめた。

シニア期(60歳以降)の
仕事選びやキャリア設計について、
知りたいことは何ですか?

下の40代・女性医師のコメントのように、「いつかは確実に来るのに漠然としたイメージしか持てない」のがシニア期以降の仕事選びやキャリア設計だろう。最も多い回答も「なし・まだ考えていない」で、全体の3分の1を占める。

次の「求人状況・求人条件」は、シニア向けの求人の有無、求人条件(専門性やスキル、資格等)や勤務条件(給与、勤務日数・勤務時間等)を知りたいという回答。「病院以外にどんな勤務先があるのか」「どのような分野で需要があるのか」など、退職を機に新たな道を検討する医師も多いようだ。

より具体的に「シニアの女性医師の働き方を知りたい」「実際に就職・開業、管理職以外で、シニアの外科医が就いた仕事が知りたい」など、働いているシニアの事例を求める回答も20%近くある。

シニア期の仕事内容や職場についてよく分からず、自分の将来を迷っている回答者も多い。具体例を早くから知ることが、自分に合ったキャリア実現のカギになる。

  • 「自分の実力に見合った職場が見つかって食べていけるか」(40代・男性/循環器内科)
  • 「求人の市場動向。どんな診療科や資格、スキルが期待されるのか」(40代・女性/神経内科)
  • 「仕事内容や給料について知りたい。また何歳まで就労可能かも知りたい」(60代・男性/消化器外科)
  • 「いつかは来るのにまったく漠然としているので、一般的にはどういう働き方をしているものなのか、現状の割合やどんな可能性があるのかを教えてほしい」(40代・女性/一般内科)
  • 「高齢の医師が対応すべき業務内容、どのような内容が望まれているのかがわかりにくい」(50代・男性/一般内科)
  • 「開業、管理職に就いていない外科系の先生がどういった仕事をしているか、知りたい」(30代・男性/消化器外科)
  • 「収入の目安」(50代・男性/内分泌内科)
  • 「収支のバランスのとり方、それに伴う働き方」(30代・男性/精神科)
  • 「年金とのからみでいくらぐらいの貯えや、生活費が必要かが知りたい」(50代・男性/泌尿器科)
  • 「体に辛くなく、高齢になっても働ける環境」(50代・男性/救命救急科)
  • 「知識をアップデートする方法」(20代・女性/放射線科)

シニア期の仕事選びやキャリア設計について、
不安なことを教えてください。

シニア期のキャリアで不安なことは、「なし」という回答を除けば、「自分の体力・能力への懸念」が最も多く、「知識や技術が使い物にならなくなるのではないか」「そのときの体力・能力に合った仕事があるのか」など、将来の自分を心配する回答が目立つ。

そのほかには「60歳以降、体力に合わせた働き方を提案してくれる職場があるのか不安」など、今後の求人状況、勤務条件・勤務形態に関する不安も多い。

また、収入・貯蓄について「同じ勤務内容でも年俸が下がる」といった不満、リタイア後の生活への不安をあげる層も一定数いる。

回答数としては少数派だったが、「シニアが職場に長く残っていると煙たがられるのでは?」という不安は、多くの医師に共通するものではないだろうか?

  • 「現在のシニアは職探しには困らなくても、今の若手・中堅に該当する医師が相応の年齢になった際に、妥当な職場が残っているのかどうかについて」(30代・男性/循環器内科)
  • 「60歳以降、体力に合わせた働き方を提案してくれる職場があるのか不安」(40代・男性/消化器外科)
  • 「手術ができなくなったらどういった仕事をするか」(30代・男性/消化器外科)
  • 「前職までの勤務内容と全くつながっていないと意義を感じにくいのではないか」(30代・男性/救命救急科)
  • 「管理職になるのとそうでないのとでの違い」(50代・男性/麻酔科)
  • 「自身がいくつまで働けるかが分からないこと」(60代・男性/消化器外科)
  • 「長く在籍していると、若手からうっとうしいと思われないか。医師の世界はたいてい年功序列なので、目の上のたんこぶがいつまでも職場にいるのは…」(40代・女性/精神科)
  • 「高齢化に伴い認知能力が低下して、仕事に支障を来さないか心配です」(30代・男性/腎臓内科)
  • 「将来的に、医者が余るようになったら働きたくても働けないのでは、と心配です」(40代・男性/精神科)
  • 「必要金額が貯蓄できないのではないか」(40代・男性/感染症科)
  • 「現役の給与との格差や生活の変化などについて、漠然と不安があります」(40代・男性/神経内科)

医師としての今後のキャリアは誰に相談しますか?

  • 「自分で情報を集めて考えます」(50代・男性/一般内科)
  • 「家族、特に妻と相談します」(50代・男性/消化器内科)
  • 「多くの同僚と相談すると思います」(50代・男性/一般外科)
  • 「尊敬している先輩」(40代・女性/精神科)
  • 「友人および友人からの紹介によるトップランナー」(30代・男性/麻酔科)
  • 「特に誰とは決めていませんが、その領域で対応されている先生にご相談する可能性が高いです」(40代・男性/救命救急科)
  • 「エージェント・コンサルタントにどのような形がいいのか、まず、流れを聞いてみます」(50代・男性/一般内科)

医師に定年は必要だと思いますか?

医師に定年が必要かどうかの質問に対しては、他の質問に比べて長いコメントが数多く寄せられ、医師の関心も高いことが分かる。

ただ、不要派でも必要派でも大半の回答は「医師として適切な能力があれば働いて構わない(働くべき)」に集約される。

不要派の意見は「本人の自覚と周りの評価次第で、年齢で線を引く定年は必要ない」であり、必要派は「一定の年齢で能力は低下するので定年は必要」という見方だ。

そして、シニア医師の能力を免許更新制や定期的なチェックで見極めようといった意見は、不要派・必要派のいずれにも見られる。

なお、「医師不足や医師偏在の是正にもシニア医師は貢献しているので定年は不要」「後進に道を譲るためにも定年は必要」のように、社会状況や勤務環境を維持・好転させるといった視点から定年を考える回答もあった。

定年は不要
  • 「必要ないと思います。勤務内容によりますが」(50代・男性/一般内科)
  • 「本人の自覚と周りの評価次第だと思うので、年齢で線を引く必要はないと思う(自動車免許と同じ)」(30代・男性/産業医)
  • 「思わない。外来程度ならば、体力的に可能だと思うので。また、経験が豊富な方が良いと思う」(50代・女性/眼科)
  • 「口実としての定年はあっても良いと思いますが、判断力に問題なければ、定年は不必要です」(50代・男性/一般内科)
  • 「思わない。能力があれば後継者を育成できるし、患者も安定した医療を受けられるから」(30代・男性/産婦人科)
  • 「思わない。力の続く限り、医療に貢献すべきだ」(70代・男性/消化器外科)
  • 「思わない。その年齢にあった働き方で、関与していけばいい」(30代・男性/一般内科)
  • 「定まった年齢よりも知識・技量を更新制として、更新できなくなったところで引退すべき」(40代・男性/一般内科)
  • 「必要はないが、認知症テストみたいなのは必要?」(30代・男性/麻酔科)
  • 「思わないです。定年制とした場合、医師不足に拍車がかかります」(40代・男性/循環器内科)
  • 「思わない。若い医師が地方や僻地に行くとは思えないから」(50代・男性/その他)
定年は必要
  • 「診療科にもよると思いますが、手技が使えなくなったら定年」(40代・男性/精神科)
  • 「医師にも定年は必要だと思うが、力量には個人差があるので年齢だけでは決められないと思う」(60代・女性/小児科)
  • 「勤務医には年齢基準が必要、自営は自分で判断」(50代・男性/消化器内科)
  • 「必要だと思う。現場は60歳が限界、在宅、検診などでも70歳が限界かなあ」(40代・男性/一般内科)
  • 「若手の環境を守るために定年は必要」(60代・男性/麻酔科)
  • 「根強い年功序列の医療社会なので、年配者がいつまでも勤務されると仕事がやりにくい」(40代・女性/精神科)
  • 「医師の賞味期間が短くなるといわれている中、情報が刷新されていくのである程度必要と思う」(50代・男性/一般内科)
  • 「必要だと思う。知識と技術をアップデートできなくなったら患者の不利益でしかない」(30代・男性/救命救急科)

いずれは院長職に就きたいと思いますか?

病院、診療所を問わず「院長職に就きたくない」が3分の2と多数派で、責任の重さや多忙を敬遠する回答、「組織の長に向かない」「第一線で頑張りたい」など適性で判断した回答が中心だった。

また、「就きたい」という回答では「機会があればぜひとも」など積極的な意見も多かったが、「あまり希望しないが仕方ない場合は」「条件次第では」などの消極的な意見が30%近くあった。

多くの医師は、院長職を誰もが目指す目標ではなく、できれば避けたい、あるいは条件が合えば就く役職と捉えているようだ。

就きたい
  • 「周囲に望まれるのであれば考えたい」(40代・男性/一般内科)
  • 「病院の院長になりたいです」(40代・女性/精神科)
  • 「家族の同意次第」(40代・男性/精神科)
就きたくない
  • 「責任とリスクばかりで就きたくない」(50代・男性/一般内科)
  • 「まだ一線で頑張りたいと思っています」(50代・男性/泌尿器科)
  • 「全く思いません。勤務してきた病院の院長先生方は大変で、自分では無理と感じております」(40代・男性/循環器内科)

医師のキャリアは何歳くらいに決まると思いますか?

医師のキャリアが決まる年齢に対する回答は、「40歳または40代」が約40%、「何歳からでも変えられる」が約30%を占めている。特に「何歳からでも」には、「スキルさえあれば」「意志さえあれば」など、個人の努力で道は開けるといった回答が寄せられた。

次に「30歳または30代」が17%程度、「50歳または50代」が11%程度と続く。

なお、キャリアが決まる年齢・年代と回答者の年代にさほど関連性は見られず、自分の経験や周囲の状況などから適切と思える年齢・年代を判断したようだ。

  • 「個人の体力、好奇心にも左右されるが、気持ちの若い人なら50代半ばくらいまでは新たなキャリアチェンジも可能と思う。保守的な人なら、40歳前後で頭打ちになることも十分あり得る」(40代・男性/泌尿器科)
  • 「ある程度職種は限られてくるとは思いますが、何歳でもキャリアは変えられるのが医師の魅力だと思います」(30代・女性/一般内科)
  • 「年齢に応じた職務内容になるので、一生決まらない」(60代・男性/心療内科)
  • 「50歳頃でおおむね方向性は決まると思うが、訪問診療や産業医など、診療科に関係ない業務に関しては何歳でも変えられると思う」(40代・男性/神経内科)
  • 「現実的には50歳前後が最後の分岐点になるだろう。あとは厚生労働省の制度設計次第。新専門医制度は、2016年以前に免許を取得した医師のキャリアにも影響を与えそう」(40代・男性/循環器内科)

本人の意志と能力次第で
医師は何歳でも働ける

今回の特集は、自身のキャリアを見直し、次のステップに向かう参考になるよう、シニア期(60歳以降)の仕事・職場、医師の定年、キャリアが決まる時期などのテーマに対し、さまざまな年代、立場の医師から寄せられた回答を見てきた。

シニア期の働き方については具体的にイメージできず、不安や迷いを感じる回答者が多かったようだ。

一方で、定年が必要かどうかについては賛否両論だったが、非常に多くの医師から診療に必要な能力の有無を重視する声が聞かれ、「医師のキャリアはその能力が支えている」という共通認識が明確になった。

定年が不要な理由で最も多いのはは「生涯現役・年齢に応じた働き方ができる」であり、医師のキャリアが決まる年代を聞いた質問では「何歳でも」が、他の年代よりも多かった。多くの医師が、自分の意志と能力次第で、今後も長く自分のペースで働けると考えているようだ。

自分の新たな将来像を探し、その道で活躍する時間はまだまだ残っている。次のステップに向けて、多様な可能性を追求してほしい。