医者なら知っておきたい英語表現 Medical English 特別講座「患者対応に活かせる英語表現」

医療現場では、身体診察、服薬指導、病歴聴取といった患者との基本的応答や、時に癌告知のような難しいコミュニケーションが必要な場面があります。
今号では、それぞれの場面で必要な英語表現をご紹介します。

監修 押味貴之
国際医療福祉大学 医学教育統括センター准教授
医師/日本医学英語教育学会理事

1.触診と打診に関する英語表現

英語圏では身体診察 physical examinationの際に「これからどのようなことを行うか」を具体的に説明することが一般的です。説明がそれほど複雑ではない「視診」inspectionや「聴診」 auscultation とは異なり、「触診」palpation や「打診」 percussion での説明に使う英語表現には注意が必要です。
そこで今回はこの触診と打診での説明に関する英語表現をご紹介します。

英語圏ではその種類に関わらず、身体診察 physical examination は1) 視診 inspection 2) 触診 palpation 3) 打診 percussion 4) 聴診 auscultation の順番で行われます。このうち inspection では to look at という動詞が、そして auscultation では to listen to という動詞が最も使われます。では palpation と percussion ではどのような動詞が使われるのでしょうか ? 以下の説明表現の英訳を通して考えてみましょう。

1.「背中を触りますね。」
2.「首のリンパ節を触りますね。」
3.「胸に手を当てますね。」
4.「お腹のここを触りますね。完全に息を吐き出して、それから大きく息を吸ってください。」
5.「押してから離しますので、どちらが痛いか教えてください。」
6.「指先をつまみますね。」
7.「この打腱器で膝を叩きますね。」

いかがでしたか?意外と戸惑う表現もあったのではないでしょうか?
では一つずつ見ていきましょう。

① I'm going to press your back.

「触る」と聞くとすぐに to touch という動詞が思いつくと思いますが、この動詞は physical examination ではあまりお勧めしません。使い方によっては問題ないのですが、一つ間違えると「いやらしい」印象を与えかねない表現なので、to pressという動詞を使う方が無難です。また「背中」は英語で back となります。よく backside を「背中」という意味で使う方がいらっしゃいますが、これは英語では「お尻」という意味を持ちます。したがって「背中を触りますね。」と言うつもりで “I’m going to touch your backside.” と表現したら、大変なことになってしまいますのでご注意を。

② I’m going to examine the glands in your neck.

「触る」は先ほど述べたように to press という動詞で表現できますが、リンパ節の触診のように「じっくりと触る」という場合にはこの to examine の方がよいでしょう。またリンパ節も lymph nodes という医学的な表現ではなく、glands という一般的な表現の方が自然になります。

③ I’m going to place my hand on your chest.

これは胸部の「振戦」thrillsや「胸壁拍動」heaves を触知する際の説明表現です。この場合には「触る」というイメージよりも「手を置く」to place my handというイメージの表現が適切でしょう。また「胸部」は英語では chest となります。「胸骨」は医学英語では sternum となり、一般英語では breastbone となりますが、この breast は単独では「乳房」という意味になります。したがって「胸部」を意図する際には breast という表現を使わないように注意してくださいね。

④ I’m going to press here in the abdomen. Please breathe out completely, and then breathe in deeply.

これは「胆嚢炎」 cholecystitis で陽性となる Murphy’s sign の有無を調べる際の説明表現です。このような腹部の palpation の際では特に to press という動詞が使えます。

⑤ I’m going to press in and let go. Please let me know which one hurts more.

これも同じく腹部の palpation での説明表現で、「反跳痛」 rebound tenderness の有無を調べる際に使います。この rebound tenderness は「腹膜炎」 peritonitis の際に陽性となりますが、そこで同じく陽性となる「筋性防御」の英訳には少し注意が必要です。よく日本のカルテで defense という英語を見ますが、これは誤りで、正しくは guarding となります。間違いやすいので気をつけてくださいね。

⑥ I’m going to squeeze your finger gently.

これは「毛細血管再充満時間」capillary refill time (CRT) を調べる際の説明表現です。「指先を軽くつまむ」わけですから、例文のように gently という表現も付け加えるとよいでしょう。

⑦ I’m going to tap your knees with this device.

最後に percussion での説明表現です。「叩く」という動詞には to hit ではなく、to tap という動詞を使いましょう。前者は「殴る」というイメージの動詞ですので、percussion に限らず、どんな医療行為にも適さない表現です。また「打腱器」は英語で reflex hammer か、単純に hammer となりますが、説明の際には単純に this device のように表現する方がよいでしょう。

2.服薬に関する英語表現

普段意識しないで行なっている患者さんへの「服薬指導」ですが、これを英語で行うとなると、「院外処方」や「頓服」といった単語表現でつまずく方が多いのではないでしょうか?
そこで今回は「服薬」に関して、日本の医療者には意外と知られていない英語表現をご紹介します。

では下記の日本語の英訳を考えてみてください。

1.院内処方と院外処方、どちらがいいですか?
2.こちらが今回のお薬で、この紙にお薬の効果、用法、用量と注意事項が記載されています。
3.症状がなくなっても、必ず飲みきってください。
4.患部に軟膏を塗ってください。
5.点眼剤 / 点耳薬 / 点鼻薬
6.トローチ
7.血液をサラサラにする薬
8.利尿剤
9.食前/食後/食間
10.頓服

① Where do you want to get your prescription filled? In-house pharmacy or a pharmacy out of this hospital?

この場合の「院内」と「院外」は「処方」ではなく、「薬局」を形容する表現ですので、英語にする際には「院内の薬局」「院外の薬局」という表現にする必要があります。また「処方箋の薬を受け取る」という意味の to get one’s prescription filled という表現も色々な場面で使えるので是非覚えておいてください。

② These are your medications, and this document shows their effects, administration, dosage, and precautions.

薬の「効果」や「注意事項」は通常一つではないので、effectsや precautions のように複数形にする必要があります。

③ Please finish the whole prescription even after the symptoms disappear.

抗生物質 antibiotics などの処方でよく使われる表現ですね。「薬を飲みきる」は「処方箋に書かれた薬を最後まで使い切る」というイメージで to finish the whole prescription のように表現します。

④ Please apply the ointment to the affected area.

「軟膏」の ointment はよく知られていますが、「塗り薬」を意味する topical medication という表現はあまり知られていないようです。これは直訳すれば「局所的な薬」となりますが、日本語の「塗り薬」に当たります。そしてこういった「軟膏」や「塗り薬」を「塗る」という動詞は to apply になります。「患部」を意味する affected area と一緒に覚えておきましょう。

⑤ eye drops/ear drops/nasal spray

「点眼薬」や「点耳薬」はそれぞれ eye drops や ear drops のように複数形になることにご注意を。また「点鼻薬」は形状が変わるので nasal spray のような表現となります。

⑥ (throat) lozenge

「トローチ」の英訳として troche と覚えていらっしゃる方も多いようですが、この表現はまず通じません。英語圏では throat lozenge もしくは単に lozenge という表現が一般的です。この lozenge は元々「菱形」を意味する表現なのですが、今ではトローチの形状に関わらず使われています。

⑦ blood thinner

抗凝固剤の anticoagulant は、一般の方には「血を薄める薬」というイメージで blood thinner と呼ばれています。日本語の「シンナー(薄め液)」と同じ語源ですね。

⑧ water pill

利尿剤は医学英語では diuretics ですが、一般の方には「お小水を出す薬」というイメージで water pillと呼ばれています。尿 urine が日本語で「お小水」と表現されるように、英語でも water と呼ばれるのです。面白いですね。

⑨ before meals/after meals/between meals

「食間」は between meals の他にも、より具体的な 2 hours after meals のように表現されることもあります。

⑩ as needed

「症状が出たら飲む」という意味の「頓服」は、「必要に応じて」を表す as needed という表現になります。これも意外と知られていないので、これを機会に是非覚えておきましょう。

3.患者背景を聞き出す英語表現

病歴聴取の際、主訴について尋ねた後につい「その症状はいつからですか?」「どの程度の症状ですか?」のように現病歴を尋ねてしまいがちですが、まずは患者さん自身がその主訴についてどう考えているかを尋ねることが大切です。
そこで今回は主訴をきっかけに患者さんの背景を詳しく聞き出すための英語表現をご紹介します。

英語圏の医学部では、主訴 Chief Complaint を尋ねた後には下記の ICE という語呂を使った質問をすることを勧めています。

Ideas
(患者さんが主訴についてどう考えているか)
Concerns
(患者さんが主訴についてどのような心配事を持っているか)
Expectations
(患者さんが医師や病院にどのようなことを期待しているか)

では上記の内容を具体的にどのような表現で尋ねていけば良いのでしょうか? 下記に代表的な質問表現をご紹介しましょう。

① Ideas

“Do you have any ideas about it yourself?”
これは「ご自身ではその主訴をどのようにお考えですか?」という意味の表現です。ただこれは「それがわからないから病院に来ているんだよ!」という反感を買ってしまう可能性もある表現ですので、この質問の前には “Could you tell me more about the symptom?” 「その症状について詳しくお話しして頂けませんか?」などと尋ねて、患者さんの話をある程度聞いた後でタイミングを見計らって尋ねるようにしましょう。

② Concerns

“Is there anything particular that you are concerned about?”
これは「何か特に気になっていることはございませんか? 」という意味の表現で、場合によって患者さんは仕事や家庭生活への影響などを話すこともあります。また女性の患者さんに妊娠の可能性を尋ねる「前フリ」としてこの質問を使うのも個人的にお勧めします。

③ Expectations

“What are your expectations about this visit today?”
これは「この診察で特に何かご希望されることはありますか? 」という表現です。患者さんによっては「CTの検査をして欲しい」「抗生物質を出して欲しい」といった具体的な要望を持って受診される方もいらっしゃいます。もちろんそれらに応える義務があるわけではないのですが、そういった期待を知っておくことで、後の診療がスムーズにいくこととなるでしょう。
実際の会話ではこれら ICE の質問を患者さんの返答に合わせて聞いていきます。これら全てを尋ねる必要はありませんし、途中で話題を変えても構いません。できるだけ自然な会話になるように「流れ」を考えてこれらの質問表現を使ってみてください。

また ICE の他にも DNA と呼ばれる下記の質問表現も便利です。

Day
(主訴が日中の仕事や生活にどのような影響を与えているのか)
Night
(主訴が睡眠にどのような影響を与えているのか)
Activities
(主訴が日常生活動作にどのような影響を与えているのか)

これらは全て “How does it affect your...?” という表現を使って尋ねることが可能です。

Day
“How does it affect your day?”
Night
“How does it affect your night?”
Activities
“How does it affect your activities of daily living?”

この DNA の質問をすることで、患者さんは主訴がもたらす影響をより具体的に表現してくれます。その際には仕事や家庭環境といった話題になることが多いので、タイミングを見計らって “What do you do for living?” 「お仕事は何をされているのですか?」 “How are things at home?” 「ご家庭の様子はどんな感じですか?」のような社会歴に関する質問を適宜行うと良いでしょう。

このように主訴を尋ねた後には、すぐに現病歴 History of Present Illness を尋ねるのではなく、ICE や DNA の質問をして、患者さんの背景を探る質問をしてみることで、より充実した病歴聴取が可能になります。是非皆さんもこの ICE と DNA の表現を練習して使いこなせるようになってください。

4.悪い知らせを伝える際の英語表現

長期間に亘って日本に滞在する外国人患者さんが増加する中、癌の告知のような難しいコミュニケーションを英語で行う場面も増えています。そこで今回は「悪い知らせを伝える」breaking bad news の際によく使われる “SPIKES” という6つのステップと、そこで用いられる英語表現をご紹介します。

英語で「悪い知らせを伝える」は to break bad news と表現します。英語圏で広く使われている “SPIKES” という6つのステップは日本の医療現場でも普及が進んでいますが、ここではそれぞれのステップで使われる英語表現をご紹介します。

① Setting up the interview:
情報提供をするための環境を整備する

“Would you prefer to have a family member or friend here?”
最初に行うのが情報提供のための環境整備です。ここでは環境面で患者のプライバシーを確保することに加え、例文の表現を使って患者が家族や友人などの同席を望むかどうかを確認しましょう。

② assessing the patient’s Perception:
患者がどう認識しているかを把握する

“What have you been told about all this so far?”
次に患者がどのように自分の病状を認識しているかを把握します。例文のように「これまでにどのように説明されていますか?」と尋ねてもいいですし、 “Could you tell me what’s happened so far?” のように「これまでの経過をご自身でお話しして頂けますか?」と言ってもいいでしょう。また病状について患者自身がどのように認識しているかを尋ねる際には下記の “ICE” という質問が有効です。
Ideas: Do you have any ideas about it?
Concerns: Is there anything particular you are concerned about?
Expectations: What are your expectations about this visit today?
この他にも英語圏では teach back という「医師が説明した内容を患者自身の言葉で説明してもらう」という技法もあります。その場合には “I want to make sure we have the same understanding about your condition. Could you tell me what tests we have done in your own words?” のように「病状について同じ認識であることを確認するために、これまでどんな検査を受けてこられたか、ご自身の言葉で説明していただけますか?」という表現を使いましょう。

③ obtaining the patient’s Invitation:
患者が何をどこまで知りたいか把握する

“We have your test results today. Would you like me to explain them to you now?”
次に患者がどの程度の情報を知りたがっているかを確認します。例文のように「検査結果が出ていますが、今から説明してもよろしいでしょうか?」と尋ねてから、患者の反応を見ます。場合によっては “Would you like me to give you details of what is going on, or would you prefer that I just tell you about treatments I am proposing?” や “How much information would you like me to give you about your diagnosis and treatment?” のように尋ねて、患者が何をどの程度まで知りたいのかを確認するようにしましょう。

④ giving information and Knowledge to the patient:
十分な情報と知識を提供する

“Unfortunately, I’ve got some bad news to tell you, Mr. Smith. The results were not as we hoped.”
次に悪い知らせを具体的に伝えます。ここでは例文のように “Unfortunately”「残念ながら」という表現で切り出すといいでしょう。また “Mr. Smith”のように患者の名前を呼びかけることも重要です。具体的に診断名を告げる際には、例文の後に十分に「間」を取ってから “Mr. Smith, I’m so sorry to have to tell you that you have lung cancer.” といった表現を使いましょう。

⑤ addressing the patient’s Emotions with Empathic responses:
患者の感情に共感を持って対応する

“I understand that this is not what you wanted to hear, Mr. Smith.”
深刻な告知を受けた患者に対して、その感情に共感を示す表現はいくつかありますが、例文の他にも “This must be very upsetting/distressing.” のような表現もレパートリーに加えておきましょう。よく共感を示そうとして “That’s too bad.” という表現を使う方がいらっしゃいますが、これは「あっ、そう」のようなニュアンスとして解釈されることもある表現ですので、臨床の場面では使わないようにしてください。

⑥ Strategy & Summary:
具体的な対応策を提示して話をまとめる

“If you want, I can introduce you to our support group here at the hospital. We have an excellent team that can help you.”
最後に具体的な対応策を提示します。多職種連携サポート multidisciplinary support が当然となっている現在、医師以外の職種によるサポートを提示することも医師にとっては重要な役割です。そんな場合でも “If you need any help, please let me know. I am here to assist you.” と言って、医師自身のサポートを提示することを忘れずに。