現場の医師が感じる・考える 医師の仕事、キャリア、将来像

感染症の世界的な拡大により、社会全体が医療に大きな関心を寄せるなかで、医師自身もそのあり方について考える機会も増えたのではないだろうか。
そこで7月号と8月号では、現場の医師を対象に弊誌が毎号実施しているアンケートをもとに、それぞれの仕事やキャリア、将来像に対する感じ方・考え方をまとめた。

学生時代に思い描いていた
「医師像」と「現在の自分」を比べ、
ギャップを感じることはありますか?

ギャップがあると回答した医師のうち、多かった意見は、目指していた診療科や職場・所属と、現在の職務内容とに差があるとの意見。次に診療以外の業務をはじめとした予想以上の忙しさ、患者に寄り添う診療の難しさなど、自身の成長不足を省みる声が続く。また、現場に出ないと分からないことばかりで、ギャップがあって当然という意見も見られた。

しかし、ギャップがある人のうち、「予想より今の方が良い」と評価する回答と、ギャップがないという回答の合計は全体の40%以上あり、現状を肯定的に捉えている医師も多いことが分かる。

ギャップがある
  • 「バリバリにオペをしている姿を想像していたが、いまはまったく違うことをしている」(40代・男性/在宅・訪問診療)
  • 「JICAや国境なき医師団が夢だったが、育児があると結局国内にいてしまう。ギャップはあるが、臨床に入ったのは希望通り」(40代・女性/一般内科)
  • 「経験年数が増えるとともに専門分野に集中した医療をするかと思っていたが、ますます雑務が増えた」(40代・男性/整形外科)
  • 「臨床をもっと集中的にやっていることを想像していたが、比較的研究に割く時間も多い」(40代・男性/一般内科)
  • 「臨床と研究をバリバリやって医学進歩に貢献しようと考えていたが、現実は研究費獲得のための夢のない研究をさせられることが多く、現実に幻滅した」(50代・男性/消化器内科)
  • 「学生時代は勤務医と開業医しかなく忙しく働いているイメージを持っていたが、実際には働き方は三者三様で、比較的自分の思い通りの勤務体系を選べるところ」(20代・女性/産婦人科)
  • 「患者さんの気持ちをできるだけ理解できる(寄り添える)医師になろうと思っていたが、実際に医師になってみると、必要なのはそれだけではなく、臨床医としての手技・フットワークなども大切であることがわかった」(40代・男性/消化器外科)
  • 「予想以上に高齢化が加速、老人医療化している」(40代・男性/内分泌内科)
  • 「受診者の方から『感謝される』像しか思い描いていなかった自分の若さ、青さ、を苦々しく思うが、悪いことを思い描いていたらこの職業は選ばなかったと思うので、後悔はない」(40代・女性/産婦人科)
ギャップはない
  • 「特にギャップを感じることはない。確かに受け持つ仕事や患者量が増えるにつれて多忙になり、一人ひとりにかけられる時間が減ってしまったり、効率主義にややなってしまった感はあるが、昔から変わらず、患者さんの立場に立って一緒にやっていくスタンス」(30代・女性/一般内科)
  • 「ない。患者さんに貢献することに生きがいを感じている。誰にでも平等に接することを貫いた自分に感謝している」(60代・男性/循環器内科)

「医師を辞めたい」と思ったことはありますか?
思ったことがある場合は、その原因・理由を教えてください。

半数以上が辞めたいと思ったことはないと回答し、その理由として「仕事が楽しい」という以外に、「現状に不満があれば職場を変える」と、スキルや経験を生かした転職も視野に入れている。

辞めたいと思った理由は、忙しさや人間関係の悩みといった、職場の状況や勤務条件に関わることが約半数。患者とその家族との関係構築の不安を挙げたのは約20%で、治療がうまくいかなかったときなどの意見は18%ほどにとどまる。辞めたいと思う理由は、診療そのものより働く場所や人間関係の影響が強いことがうかがえる。

思ったことがある
  • 「患者が亡くなったとき」(40代・男性/麻酔科)
  • 「無力さを痛感したとき」(50代・男性/精神科)
  • 「患者の苦悩と向き合い続けないといけない」(50代・男性/呼吸器内科)
  • 「自分の実力が足りないと感じたとき」(50代・男性/消化器内科)
  • 「研究に対する燃え尽き症候群は常にあり、そういう意味で医師を辞めたいと思うことはある」(30代・男性/精神科)
  • 「コミュニケーションがとれていると思っていた患者からのクレームがあったとき」(40代・女性/呼吸器内科)
  • 「臨床診療はトラブルの元と感じるような事例は多く、引退したいと感じることはときどきある」(40代・男性/麻酔科)
  • 「モチベーションが保てないとき」(50代・男性/その他)
  • 「雑用が増えたとき」(20代・男性/精神科)
  • 「職場の人間関係、救急患者の対応が多くストレスも多い」(50代・男性/一般内科)
  • 「呼び出しが続き、身体的にきつかったとき」(20代・女性/整形外科)
  • 「夜中に起こされて、翌日も仕事。当直をやめたいという思いが常にわき、疲れ果てると医師を辞めてもいいかな、となる」(40代・男性/精神科)
  • 「いつまでも同じような仕事が続くから」(40代・男性/産業医)
  • 「医師同士の関係が良くない病院に勤務していたとき。辞めたくなる原因は人だろうと思う」(60代・男性/心療内科)
思ったことはない
  • 「医師自体を辞めたいと思ったことはない。もしも今の科や病院での働き方が嫌になったら、転科するなどいろいろな働き方が選べるので」(30代・女性/一般内科)
  • 「医師を天職と思い、とても楽しいので、辞めようと思ったことはまったくない」(50代・男性/整形外科)
  • 「病院を変わりたいと思ったことはあるが、やめたいと思ったことはない」(60代・男性/一般外科)

将来、医師を目指そうと思っている人にアドバイスするとしたら?

  • 「医学部に入ってから、医師になってからも大変なことはたくさんありますが、やりがいもあると思います」(20代・男性/老人内科)
  • 「やればやるほど結果が出ることがあり、多岐にわたり人間的にも成長できる職種だと思います」(40代・女性/一般内科)
  • 「多職種に関わるので、特に知識とコミュニケーション能力は大切です」(40代・女性/一般内科)
  • 「体の一部を診るこれまでの消化器科などという形ではなく、体全体を診てその中の消化器担当や他科の医師への指示出しができる医師を目指してほしい。体は一つですから」(50代・男性/一般内科)
  • 「科目は慎重に。AI技術の進歩でニーズの減る科もでてくる」(40代・男性/一般内科)
  • 「患者さんと真摯に向き合う覚悟ができる方に医師を志してほしい(軽い気持ちではやめてほしい)」(40代・男性/消化器外科)
  • 「高い志を持って職務に努めてほしいですが、自身の生活も大切にする環境作りも必要かと思います」(50代・男性/泌尿器科)
  • 「実際に働いてみなければその病院や科が向いているか、何が面白いかはわからないので、あまり迷わずに縁のあるところに行くので良いと思います」(30代・男性/総合診療科)

患者や医療従事者に対して、
コミュニケーションで
気をつけていることはありますか?

多くの医師が気をつけていることがあると回答し、その大半は、礼儀をわきまえて丁寧な対応を心がける、医師の立場を強調せず相手との信頼関係の醸成に努める、緊張させないなどで、これは知らないうちに威圧的にならないよう戒める気持ちの表れだろう。

患者の無茶な要望に感情が高ぶったときは、いったん間を置き、気持ちを落ち着かせて対応するなど、工夫している医師もいる。

また、あると答えた医師のうち、分かりやすい説明や相手に合わせた対応を心がけるとの回答も20%以上あり、丁寧なコミュニケーションを重視する医師も多いようだ。

そして感情的にならず、訴訟にならないよう行動するなどリスク回避も重要と考えられている。

気をつけていることがある
  • 「その患者さんの特質に合わせた会話を心掛けている」(50代・男性/整形外科)
  • 「納得してもらえるように、理解しやすい簡単な言葉を用いて説明する」(50代・男性/一般内科)
  • 「がんの告知にはとても気を使う。小出しに3回にわけて告知する」(40代・男性/消化器内科)
  • 「プライベートな事情に配慮する」(50代・男性/呼吸器内科)
  • 「相手の言葉で話してもらう」(60代・女性/一般内科)
  • 「信頼関係の形成」(20代・男性/皮膚科)
  • 「曖昧なことを言わない」(40代・男性/一般内科)
  • 「身だしなみ。患者さんに必要以上に丁寧な敬語や態度はとらず、あくまでも対等な感じをだす」(40代・男性/神経内科)
  • 「礼儀をしっかりと尽くすように、でもよそよそしくならないように、言葉遣いや態度に常に気を付けています」(30代・女性/一般内科)
  • 「相手の言葉をいきなり否定しない(否定して声を荒げられた経験が自分にも、身近にもあるので)」(50代・男性/消化器内科)
  • 「失礼のないようにはしたいが、日々反省するばかり」(40代・女性/産婦人科)
  • 「怒らない。怒りそうなときは、間を取るようにしている」(50代・男性/その他外科系科目)
  • 「誰に対しても悪口は言わない」(40代・男性/精神科)
  • 「自分のメンタルの状態をぶつけない」(50代・女性/内分泌内科)
  • 「訴訟などのトラブルに巻き込まれないように気をつけている」(40代・男性/消化器外科)
気をつけていることはない
  • 「一般社会と同様に、一般常識の範囲で対応しているだけです」(30代・男性/循環器内科)
  • 「特になし。ありのままが一番」(30代・男性/一般内科)

医療の地域格差についてどう思いますか?

  • 「どの国でも問題になっている事項で、何か良い対策があるなら知りたい」(40代・女性/産婦人科)
  • 「地方の医師会の医師が高齢化して、亡くなる方も多いので、厳しい現実が喫緊の課題である」(50代・男性/麻酔科)
  • 「地方の大学の地元に残る人を入学させるべき」(20代・男性/呼吸器内科)
  • 「人口に合わせて、少ない地域は加算をつけたらいいと思う」(30代・女性/小児科)
  • 「仕方ない。地域によって変えるしかない」(40代・男性/精神科)
  • 「都心と僻地で同じ水準を求めるのは理にかなわない」(30代・男性/一般内科)
  • 「医療レベルに地域格差があるのは問題だが、医療内容に関しては地域性が大きく反映するので地域で特色があっても良い。高齢者医療は特にそうだと思う」(60代・男性/老人内科)
  • 「地方にも病院運営に自治体が関与しており、おおむね問題はないと思う」(40代・女性/一般内科)
  • 「医師含め医療職も生活環境等を選ぶ権利もあるため、医療において地域格差が生じるのは必然であると考える。僻地には僻地たる理由があるはずであって、その原因等を解決することなく国の意向で一方的に医療職だけを僻地に強制配置するなどは疑問に思う」(40代・男性/泌尿器科)

医師になって良かったと思うのは、
どのようなタイミングですか?

患者が無事に回復したり、患者やその家族から感謝されたりしたときなどの回答が多く、これに専門医取得などの成果が得られた、災害医療や地域支援のように社会に貢献できたときなどを加えると、60%近くが専門性を発揮して患者や社会に対して成果を出せたとき、努力して成長できたときに良かったと感じると答えている。

医師や研修医になったとき、あるいは毎日感じていると回答した約14%を加えると、多くの医師は良さを日々実感しているようだ。

一方で、収入や安定性、社会的地位、自分の裁量で働ける点など、医師を取り巻く環境や働き方に良さを感じる層も一定数いる。

  • 「患者さんに感謝されるときです」(30代・女性/一般内科)
  • 「患者および家族から感謝された時。但し年々減少しているのも感じています」(40代・男性/循環器内科)
  • 「患者や家族からお礼を言われたとき」(40代・男性/小児科)
  • 「苦労した患者が元気になって退院したとき」(60代・男性/一般内科)
  • 「患者さんの生命が助かったり、ADLが保たれたとき」(30代・男性/循環器内科)
  • 「人を助けたと思えたとき」(50代・男性/耳鼻咽喉科)
  • 「仕事がなくなることはなく、自分の意思で選択できる」(50代・男性/整形外科)
  • 「景気にあまり左右されないこと」(40代・男性/呼吸器外科)
  • 「給与水準と、それが維持されているところ」(50代・男性/精神科)
  • 「第一線の研究・診療ができた、5〜10年目の充実したころ」(50代・男性/その他外科系科目)
  • 「海外の医療現場で活動したとき」(30代・男性/麻酔科)
  • 「自分や家族の体調不良時に慌てることなく適切な対応ができる」(40代・女性/消化器内科)
  • 「人の役に立ったと実感できた時。震災支援の時や地方の診療支援の時に思いました」(50代・男性/精神科)
  • 「自分の裁量で決められる」(40代・男性/一般内科)
  • 「子どもの教育に自由が利く」(30代・男性/耳鼻咽喉科)
  • 「社会的信頼があると思うことが多いとき」(40代・女性/一般内科)
  • 「医師になったとき」(50代・男性/腎臓内科)
  • 「研修医になれたときでした」(60代・男性/一般内科)
  • 「毎日そう感じています。やりがいのある仕事で収入も安定しているし、自分に合っていると思うので」(30代・女性/一般内科)
  • 「現在。もしくは死ぬ時」(50代・男性/一般内科)
  • 「まだ分からない」(20代・男性/一般内科)
  • 「特にはありません」(30代・男性/消化器外科)

キャリア形成のベースとなる
将来像を検討する参考に

今回の特集では、医師になる前に抱いていたイメージと現在とのギャップのように、「その人が理想としてきた医師像」も読み取れる回答や、医師になって良かったと思うタイミング、辞めたいと思ったことがあるかどうか、医師を目指そうと思っている人へのアドバイスなど、「各人が感じる医師のやりがいや誇り」もうかがえる回答を中心に紹介した。

概観すると、ギャップを感じたときは「専門性や所属が違う」が、良かったと感じる回答は「専門性を発揮できたとき」が多く、専門職としての誇りとこだわりが感じられる。一方、辞めたい理由は人間関係や働き方への悩み・不満が上位。職場選びの大切さが浮き彫りになった。

掲載した100近くのコメントは、アンケートに寄せられた回答のごく一部だが、さまざまな年代や分野の医師が、コメントからどのような思いを抱きながらキャリアを形成してきたかを知ることができるだろう。

次号で特集する医師のキャリア設計や役職への興味に関連したアンケートへの回答も含め、今後のキャリアを考える参考にしてほしい。