【寄稿】医療人事 第一回 新型コロナウイルス感染拡大による働き方の変化と医師の働き方改革

医療従事者の方々には、今回の新型コロナウイルス感染者への治療および対応につき、チーム一丸となって、ご尽力いただいていることに心から感謝申し上げる。時間を顧みない働き方を余儀無くされている今こそ、「働き方改革」を考えたい。

多摩大学医療・介護ソリューション研究所
副所長・シニアフェロー
公益財団法人日本生産性本部認定
経営コンサルタント
幸田 千栄子
輸送用機器メーカーにて人事・人事企画・採用・教育・女性活躍推進・秘書などに従事。2000年公益財団法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了し、公益財団法人日本生産性本部経営コンサルタントとして、各種事業体の診断指導、人材育成の任にあたる。2009年5月から1年間、サービス産業生産性協議会スタッフとしてコンサルタントと平行して任にあたり、サービス産業の生産性向上PJに参画すると同時に顧客満足度・従業員満足度調査開発・設計を行う。

幸田 千栄子氏 写真

働き方改革と緊急事態宣言で
ブレイクスルーしたこと

2019年にスタートした働き方改革は、生産性向上と就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作るという課題を解決するために、働く人の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てる様にすることを目指している。

2018年の日本の就業者一人当たり労働生産性は世界の中で21位(労働生産性の国際比較2019:公益財団法人日本生産性本部)である。もっと上位ではと思われる方もいらっしゃるかもしれないが、ここ50年で一番よかった順位が1990年の14位である。別途製造業だけを見ると1995年・2000年は1位であるが、2017年には14位である。この順位を見れば生産性向上を課題としてあげることは納得できる。

働き方改革の具体的な内容の1つ、2019年4月1日に時間外労働時間の上限が原則1ヶ月45時間、1年360時間と設定された。

今回の新型コロナウイルス感染拡大に対応して日本の職場環境でブレイクスルーしたものが2点あると考える。

(1)リモートワーク。在宅勤務やオンライン会議の普及である。在宅勤務は社員の業務状況が見えにくいと言った理由で、働き方改革の中では導入をためらわれた施策である。それが、今回の自粛で在宅勤務をせざるを得ない状態となった結果、一気に進んだ。楽天インサイト「在宅勤務に関する調査」によると、勤務先で在宅勤務の制度は34・3%導入されている。東京都52・2%、神奈川県50・6%、千葉県46・5%である。在宅勤務を始めた・頻度が増えた人は23・1%であり、始めた時期は「緊急事態宣言後」(2020年4月7日以降)が44・7%で一番多い。このことは、在宅勤務可能な職種の方々は誰もが経験し、在宅勤務やオンライン会議でも仕事が進められることがわかったことが大きく、生産性向上と、子育て世代が働き続けられる、介護しながら働き続けられる、障害のある方が自宅で仕事ができるなどの社会の実現に向けた大きな一歩である。

(2)部門別など状況に合わせた個別対応。
例えば、会社の中でリモートワークができる部署はリモートワークを推進し、できない部署は交代勤務で3密を少なくする工夫をするなど、部門別に最適な方法を検討して実施しているのである。「在宅勤務に関する調査」によれば、在宅勤務実施が多い職種は企画・マーケティング系、ITエンジニア、営業系である。医療系専門職と福祉・介護専門職は在宅勤務が少ない職種である。しかし、組織で在宅勤務制度を導入し、事務スタッフなどは、交代で在宅勤務を実施している医療法人・社会福祉法人もあり、それぞれの部門の特徴を生かして工夫している。実施してしまえば当たり前と思われるかもしれないが、以前は公平性や前例がないということから、なかなか部門別に働き方を変えるのは難しかったのである。

医師・医療組織の
働き方改革と診療報酬

次に、医師・医療組織の働き方改革はどのようになっているのか、今年度の診療報酬改定において働き方改革を推進するために、診療報酬がプラス改定されている点をいくつか取り上げた。

(1)医師等の長時間労働などの厳しい勤務環境を改善する取り組み。

医師の時間外労働規制は、原則は1ヶ月45時間、1年間360時間で他職種と変わりはない。例外としては、一般は年720時間・複数月平均80時間・月100時間未満であるが、医師は段階を追って進める。2024年4月から3分類し管理する。A:診療従事勤務医に2024年度以降適用される水準は年960時間/月100時間・例外あり・いずれも休日労働含む。B:地域医療確保暫定特例水準(医療機関を特定)は、年1,900〜2,000時間/月100時間・例外あり・いずれも休日労働含む。C:一定の期間集中的に技能向上のための診療を必要とする医師向けの特別水準。2035年度末は、暫定特例水準を解消して、AとCに集約する予定だ。

制度として決められているのは、まずは残業の上限時間。次に連続28時間勤務した場合は9時間のインターバルを取らなければならないことと代償休暇のセットである。インターバル制度と代償休暇は、Aの対象医療従事者には努力義務であり、B・Cの対象医療機関は義務である。

労働時間を少なくするために、要件等が緩和され、具体的に示している内容は例えば以下のようなことである。
①医師等の従事者の常勤配置及び専従要件に関する要件の緩和。具体的には常勤換算の見直し、医師の配置、看護師の配置、専従要件についての緩和。
②医療従事者の勤務環境改善の取組みの推進であり、具体的には、負担の軽減及び処遇の改善に関する計画の見直しと、他職種からなる役割分担推進のための委員会等に管理者が年1回以上出席すれば良いことなど。

(2)タスク・シェアリング/タスク・シフティングのためのチーム医療等の推進。

医師・看護師などに限られていた仕事を、補助者や一定の研修を修了した人に、シェア・シフトする。
①医療事務作業補助者の配置に係る評価のプラス改定。
②看護補助者の配置に係る評価のプラス改定。
③麻酔を担当する医師の一部行為を、適切な研修を終了した看護師が実施できるように見直されるなど。

(3)業務の効率化に資するICTの利活用の推進。

①業務の効率化・合理化を促進する。会議及び記録、事務の効率化・合理化である。具体的には、安全管理の責任者会議について、ICTを活用する方法でも可能とすることや、また、在宅療養指導料等について医師が他の職種への指示内容を診療記録に記載することを、算定に当たっての留意事項として求めないことなど。
②情報通信機器を用いたカンファレンスや共同指導について活用しやすいものになるように実施要件を見直す。原則対面であったものが、必要な場合はICTを活用しても良いことなど。

コロナ感染拡大前から、働き方改革のために、移動時間と会議時間を短くすることに集中して取り組みをしている企業がある。今後会議は、病院内にいても自席からオンラインで出席する。休憩を含めて5分もあれば次の会議に出席できる。事前に資料を配布し目を通して参加するのは当たり前となる。資料はなるべく少ない方が相手に伝わることも改めて気づいた。さらに言えば、事前に目を通した時点で会議の内容に特に意見のない人は事前に「意見がない」と伝えるだけで参加しなくても良いのかもしれない。

オンライン診療も導入され、人を診る医療業務の中でも、オンラインでできることは今後ますます進むであろう。

資料1● 就業者一人当たり労働生産性 上位10カ国変遷
出典:公益財団法人日本生産性本部
資料2● 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により在宅勤務をしているか(職種別)
(n=9,628:パート・アルバイト、自由業・フリーランスを除く有職者)単一選択 単位:%
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、在宅勤務を始めた
以前から在宅勤務はしていたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で頻度が増えた
以前から在宅勤務をしており、新型コロナウイルス感染症拡大後も頻度に変化はない
在宅勤務はしていない/したことがない
勤務先に在宅勤務制度なし
わからない
※3%未満のグラフスコアは非表示(%)
※「新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、在宅勤務を始めた」+「新型コロナウイルス感染症拡大の影響で頻度が増えた」計で降順ソート
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