地域医療現場の最前線をレポート オンライン診療の現状とこれから

18年3月の『オンライン診療の適切な実施に関する指針』策定に続き、診療報酬改定で『オンライン診療料』等が新設され、推進の動きが本格化している。オンライン診療の普及は医療にいかなる変化をもたらすのか。情報通信技術の進歩と医療との親和性とは――。小児医療過疎地で、都市型診療所で、オンライン診療の先駆者としてそのあり方を模索するお二人に、オンライン診療の現状と課題、今後の展望について聞いた。

オンライン診療の普及で、かかりつけ医機能が
強化され、臨床のあり方が大きく変わる

医療法人社団外房こどもクリニック
院長
黒木 春郎
1984年千葉大学医学部卒。同大医学部付属病院小児科医局に所属し、関連病院での勤務を経て、98年より千葉大学医学研究院小児病態学教官を務める。2002年医療法人永津会齋藤病院小児科勤務を経て、05年6月外房こどもクリニックを開業。09年4月の医療法人社団嗣業の会の設立にともない、理事長に就任。日本小児科学会専門医・指導医。千葉大学医学部臨床教授、日本外来小児科学会理事、日本オンライン診療研究会会長等も務める。

黒木 春郎氏 写真

オンライン診療が医療の可能性を広げ、
地域医療を変える

大学病院で勤務している頃からプライマリケアに関心のあった黒木春郎氏。卒後18年目に大学の教官の職を辞して地域医療に身を投じると、3年後の05年には「プライマリケアの現場から情報発信する」という志を掲げて、千葉県南東部の田園都市『いすみ市』に小児科の外来診療所を開設した。しかし、そこは小児科専門医が常駐する施設まで50キロ近くも離れた“小児科過疎地”。15年8月に事実上、オンライン診療が解禁されると、いち早く導入へと動いた。

「通院の負担軽減という目的だけでなく、この新たな診療スタイルが地域医療に変革をもたらし、診療の概念そのものを変える可能性があると感じたからです」(黒木氏)

オンライン診療は
入院・外来・在宅とならぶ新たな概念

“問診と視診で診察が可能”で“医師―患者間の信頼関係が構築され、ビデオチャットでの意思疎通が十分可能”であることが黒木氏の考えるオンライン診療の適応だ。診療報酬新設前から手掛けており、喘息やアレルギー性鼻炎(舌下免役療法)、神経発達症、重度心身障害の患者が多いが、その数は月に十〜二十数人程度と全体の1%弱にとどまる。

使用するのはオンライン診療アプリCLINICS。原則として平日と土曜の15〜16時の完全予約制で、その間、医師の一人がオンライン、もう一人が一般診療を担当。患者は予約時間の5分前に、インターネット環境のある自宅等でパソコンやスマホ、タブレットを前に準備する。「画面に患児と保護者の両方が映るようにしてもらう点が小児科の特徴の一つ」(黒木氏)だ。医師は診察室のパソコンでシステムを立ち上げてカルテ情報を開き、モニターを通じて患者や保護者と向き合う(図表1)。

「あとは対面診療と何ら変わりはありません」(黒木氏)

導入当初は対面診療にこだわる人も多かったというが、全介助が必要な重度心身障害など、通院に困難をともなうケースはもちろん、通院が不定期で救急外来受診を繰り返す喘息患者に導入することでアドヒアランスの向上に結びつけている。また、神経発達症(発達障害)の患者にオンラインを併用したところ、診察室とは違った伸び伸びした様子を垣間見ることができ、「在宅医療にも似た貴重な情報が得られたことは新たな発見だった」(黒木氏)という。

対面の“五感を使った診療”に比べて情報量の少なさを懸念する声もあるが、得られる情報の質の違いは個別医療の実現につながるだけでなく、医師も患者も互いに限られた時間内で簡潔に伝える努力をするため、対面よりも密度の濃い診療も可能だと黒木氏は実感している。

「オンライン診療は入院・外来・在宅につぐ4つ目の診療概念と捉えています。大事なことは、目の前の患者さんにどの診療形態が適切であるかを医師自身が判断し、決定することです」(黒木氏)

疾患制限を撤廃し、実践から
“あるべき方向”を導き出す

18年4月の診療報酬改定で、基本診療料に当たる“オンライン診療料”と特掲診療料に該当する“オンライン医学管理料”が新設された。しかし同時期に黒木氏が立ち上げた『日本オンライン診療研究会』の調査では、診療報酬の算定要件が厳し過ぎて(図表2)、6割以上がこれらを算定せずに行なっている実態が明らかに。これでは自費診療ばかりを助長し、オンライン診療を間違った方向へと誘導する恐れがある。

「少なくともオンライン診療料については疾患制限を撤廃すべきです。なぜなら現場の実践の積み重ねがあって初めて、制度の理念が熟成するからです」(黒木氏)

日本オンライン診療研究会では、シンポジウムや勉強会などを通じて現状を把握し、医師同士の情報交換を通して「真の適応とは何か」を探求し、実践者の意見を行政に反映させるべく活動している(写真)。

「オンライン診療の普及によって通院困難感が解消し、治療継続率があがれば、かかりつけ医機能の強化につながります。また、物理的な距離にとらわれない診療を可能にすることで医療資源の偏在をある程度解消し、働き方改革につなげることが可能です。さらにAIやIoTなどと組み合わせることでコミュニケーションの構造を変え、臨床のあり方そのものを大きく変える可能性を秘めています」(黒木氏)

図表1● スマートフォンによる実際のオンライン診察の様子 (オンライン診療アプリ「CLINICS」使用)
カメラと情報、画面が同方向にあるため、視線を外さずに診療できる
※診療日の前日までにオンラインで要予約
出典:外房こどもクリニックHPより
図表2● オンライン診療にかかる現行の診療報酬の整理
オンライン診療料 オンライン医学管理料
点数 70点 100点
回数制限 月1回
3ヶ月に1回は対面診療を行う
月1回
3ヶ月に1回は対面診療を行う
対象疾患の制限 以下の管理料等を算定している患者
  • 特定疾患療養管理料
  • 小児科療養指導料
  • てんかん指導料
  • 難病外来指導管理料
  • 糖尿病透析予防指導管理料
  • 地域包括診療料
  • 認知症地域包括診療料
  • 生活習慣病管理料
  • 在宅時医学総合管理料
  • 精神科在宅患者支援管理料
以下の管理料等を算定している患者
  • 特定疾患療養管理料
  • 小児科療養指導料
  • てんかん指導料
  • 難病外来指導管理料
  • 糖尿病透析予防指導管理料
  • 地域包括診療料
  • 認知症地域包括診療料
  • 生活習慣病管理料
患者の通院状況による制限 上記管理料を初めて算定してから、6ヶ月連続(または直近12ヶ月で6回以上)の同一医師による対面診療 上記管理料を初めて算定してから、6ヶ月連続(または直近12ヶ月で6回以上)の同一医師による対面診療
施設要件
  • オンライン診療指針に沿っている
  • 緊急時に概ね30分以内に夜間、休日問わず対面診療が可能(てんかん、難病、小児科療養指導料除く)
  • 再診のなかで1割以下
  • オンライン診療料に準ずる
出典:日本オンライン診療研究会資料(2019年7月28日)より
400坪の敷地に建つ平屋の診療所は明るく、やさしい色調の内装が印象的。病児保育室も備える
オンライン診療のあるべき姿を探る『日本オンライン診療研究会』
  • 国の動向

ガイドラインの策定と診療報酬の新設により
オンライン診療を推進する動きが本格化

事例の集積が制度をめぐる
課題の解決へとつながる

情報通信機器を用いた診療(いわゆる“遠隔診療”)については、97年12月の健康政策局長通知において対象が例示されたことで、離島やへき地等での限定的な実施が想定されてきた。しかし、15年8月の事務連絡で“それらは例示に過ぎない”ことが明確にされたことで、事実上、オンライン診療が解禁された。さらに18年3月には『オンライン診療の適切な実施に関する指針』(以下GL)が策定され、“遠隔診療”から“オンライン診療”に呼称を統一、医師―患者間で行なわれる遠隔医療が3つに分類されて、オンライン診療において“最低限遵守する事項”や“推奨される事項”が明文化された(図表3)。

ところがGL策定後に“不適切事例”が複数報告されたため、19年1月に検討会を設置。“質の向上、アクセシビリティの確保、治療効果の最大化”を基本方針としてGL内容の見直しが行なわれ、同年7月に一部改訂された。検討会では引き続き安全性・有効性に関するデータや事例の収集を進めるとともに、オンライン診療の充実を目的として、定期的な改訂を予定している。

図表3● オンライン診療の適切な実施に関する指針の概要
出典:厚生労働省『「オンライン診療の適切な実施に関する指針」見直しの背景と検討会の方向性』(オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会第1回 資料1)(平成30年6月15日)

規制緩和と技術革新が専門性の高い
都市型診療所におけるオンライン診療の未来を拓く

みやざきRCクリニック
院長
宮崎 雅樹
2006年群馬大学医学部医学科卒。済生会宇都宮病院での初期研修を経て、08年慶應義塾大学病院内科学教室に入局。埼玉社会保険病院(現:埼玉メディカルセンター)出向ののち、10年慶應義塾大学病院呼吸器内科助教を務める。その後、足利赤十字病院、東京都済生会中央病院内科医員を経て、16年にみやざきRCクリニックを開院し、院長に就任。日本呼吸器学会呼吸器内科専門医、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医等。

宮崎 雅樹氏 写真

需要開拓や受療機会の創出も
オンライン診療の大事な役割

みやざきRCクリニックは京急新馬場駅にほど近い、品川宿の面影が残る商店街の中ほどにある。8割が院長の宮崎雅樹氏が専門とする呼吸器疾患の患者で、平均年齢は40前後。呼吸器内科医は絶対数が少なく、インターネットで検索して来院する人も多い。近隣住民は3分の1程度で、京急沿線の在住・在勤者が仕事終わりに立ち寄ったり、大田区や港区、川崎や横浜からも訪れる。

オンライン診療システムは、競合の多い地域で他院との差別化を図る目的もあって、16年10月の開院とほぼ同時に導入。MICINのオンライン診療サービス“curon”を採用している。実際に運用を始めたのは半年以上経ってからだが、「当初は呼吸器疾患の患者さんに導入を試みたが、あまりうまくいかなかった」(宮崎氏)という。“緊急時30分以内の対応”や“半年以上の通院歴”の要件を満たす患者が少ないことや、「呼吸器疾患は安定していても聴診が極めて重要で、画像検査や肺機能検査を要することも少なくない」(宮崎氏)ことなどがその背景にある。また、「喘息は症状が落ち着くと通院しなくなるケースが多いことも、うまくいかない理由の一つ」(宮崎氏)だ。

そのため現在、同院のオンライン診療の柱となるのが、かつて禁煙外来を立ち上げた経験をもとに取り組みはじめた“オンラインによるニコチン依存症の治療”だ。

「オンライン診療の制約が厳しくなるなかで、保険者が実施する禁煙外来(自由診療)については初回からオンライン診療が認められるなど、緩和傾向にあります」(宮崎氏)

自費診療となるため、健康保険組合を通じて希望者を募り、費用の大部分を組合が負担する形だが、「健康経営の推進を背景に、企業健保を中心に関心が高まっている」(宮崎氏)という。当初は昼休みの時間帯に枠を設けたが、多忙で出られない人が多かったため、現在は、原則として外来終了後の19〜19時半に予約枠を設けている。「治療の継続率は100%、禁煙成功率も9割を超えている」(宮崎氏)と成績も良好だ。

「こうした方々に“日中の対面診療”の選択肢しかなかったら、治療の機会が得られなかったと思います」(宮崎氏)

需要の開拓や受療機会の創出においても、オンライン診療が果たす役割は大きい。

宮崎氏は「将来的には喘息やCOPDなどの一般的な呼吸器疾患にもオンライン診療を広げたい」というが、普及には「規制緩和だけでなく、医師・患者双方にとって手間のかからないシステムの開発が不可欠」だと感じている。

「睡眠時無呼吸症候群で導入されている遠隔モニタリングシステムとどう組み合わせるかは喫緊の課題ですが、近い将来、院内と同等の検査が在宅で行なえたり、呼吸状態などを経時的にモニタリングできるデバイスが開発されれば、オンライン診療にもさらなる可能性が開けてきそうです」(宮崎氏)

都市部の医療資源の活用で
地域医療をサポートする

「オンライン診療は本来、医療にアクセスにしくい地域の人々を救うために始まったもの。そのニーズは依然として大きく、きちんと光を当てるべき課題です」(宮崎氏)

高齢化率の高い地域でオンライン診療を普及させるには、規制撤廃に加え、さらなる工夫が必要だ。

「一つは、ご自身だけではIT機器を十分に操作することが難しい高齢患者等を支援する体制の構築です。 またこれも一つのアイディアとしてですが、医師が不足している地域にお住まいで病状が安定している患者の診療を都市部の医師がオンラインで行い、地元の主治医と情報共有していくことで医療過疎地域での医師の負担を軽減できないか、 とも考えております。もちろん緊急時などには地元の医療機関と緊密に連携して対応を行なうことになりますが、そのような形での連携も視野に入れるべきではないでしょうか」(宮崎氏)

医療過疎地の医師の負担が減らせれば、必要な人に集中して医療資源を配分できる。子育てや介護など勤務に制約がある人材の活用は働き方改革にもつながる。さらに宮崎氏は、医療機関以外の場所を中継点として活用したり、介護職などがサポートに入る形でのオンライン診療の可能性についても構想を膨らませる。

「オンライン診療は今すぐ大きな利益を生み出すものではありませんが、将来性があることは間違いありません。まずは多くの先生方にオンライン診療に触れてもらい、利点や問題点を実感していただきたいと思います。現場の声こそがオンライン診療を良い方向へと動かす原動力だと信じています」(宮崎氏)

図表1● オンライン診療の流れ (オンライン診療アプリ「curon」使用)
出典:株式会社MICIN提供資料
待合室はカフェのような雰囲気で、女性患者が多いのもうなずける