転職した医師の声と専門家アドバイスから探る「満足する転職」を叶える方法

医師は人材ニーズが高いため、転職すること自体はそう難しくない。しかしすべての医師が転職によって高い満足度を得ているとは限らない。「満足する転職」のためには、何に留意し、どんなことを検討し、どう活動するのがいいか。満足度を左右する重要なポイントはどこなのか。転職経験者を対象に行ったアンケート調査で寄せられた満足度についての声や、キャリアアドバイザーが見てきた事例から、ポイントを探る。

(株)リクルートメディカルキャリア 地域医療推進室 マネジャー
江田憲一
施設側・ドクター側両方の支援経験あり。求人動向、採用動向などマーケット情報に通じる。

江田憲一氏 写真

(株)リクルートメディカルキャリア キャリアアドバイザー
加納佳幸
東海関西を中心に全国マーケットで活躍。経験に裏打ちされた論理的かつ親身なあっせんに定評。

加納佳幸氏 写真

【アンケート調査概要】
「医師の転職に関するアンケート」/リクルートドクターズキャリア会員登録者へのWEB調査・2019年6月実施・有効回答数91人

全体実態&最新傾向

「転職結果に満足」と言えない医師が約3割。
中長期を見据え、80点の転職をめざすのが得策

入職前の予想とのギャップや
予想外の問題が不満足に繋がる

弊誌では転職経験がある医師にアンケート調査を行った。

転職回数は3回が最も多く、約45%、2回も約25%と、複数回、転職している医師は多かった(Q1)。年代別では30代半ば以降が78%を占め、とくに40代が多い(Q2)。

動機は「労働条件・環境のため」「収入を上げる(維持する)ため」「スキルアップのため」「体力的につらいため」などの順となっており、ほかに人事や経営方針、診療体制など、現職への不満が動機になっている様子も見て取れる(Q3)。

満足度については、「ほぼ満足している」が約48%、「満足している」が約22%にのぼるが、約30%の医師は満足と答えていない(Q4)。

データは掲載していないが、満足していない理由としては、「入職前に予想していたこととギャップがあった」「予想していない問題があった」「希望が十分にかなわなかった」という回答が多かった。

どうすれば満足度の高い転職ができるのか。そのポイントをおさえる前に、どのような医師が求められているか、傾向を知っておきたい。

リクルートメディカルキャリアの江田憲一氏は、「最も求人が多いのは専門医を取得して経験も積んだ40代の医師ですが、当直をいとわない医師、郊外や地方で勤務できる医師などは30代前半や50代後半の医師でも歓迎されます」と話す。

また最近の傾向として、「代替わりや事業承継など“世代交代”が1つのキーワード。理事長や院長が70代から40代に代替わりしたのに伴い、従来より若手の医師が求められる、等のケースがあります」と言う。

また同社キャリアアドバイザーの加納佳幸氏は、「総合診療医のようなスキルを持つ医師が求められる傾向が強まっています」と話す。

報酬、QOLなど「4象限」で
整理して予想外を防ぐ手も

このような傾向も踏まえ、両氏が提案するのが、「中長期のキャリアプランを考えたうえで転職を考える」という視点である。

例えばできる限り長く働きたいといった場合、「専門領域以外にも幅広く対応することを意識すると、将来の選択肢が広がります。ある程度、専門性を追求した医師なら、次は経験が広がるような転職を検討するのもいいでしょう。目先の収入、働きやすさだけでなく、自身の求める将来像から逆算して、転職で叶えるべき要素を見極めるのが、真の満足度に繋がりそうです」(加納氏)

さらに加納氏は、①報酬、②QOL、③ロケーション、④症例という「4象限」で大枠を整理し、見落としや予想外を防ぐのも一手だという。たとえば①報酬や④症例重視で、そこばかりに集中して施設を選んだ結果、入所後に②QOLや③ロケーションで予想外の不満足感が出てくるといったことが起こりやすい。最初から4象限で確認することで、最低限、見落としを防げるという。

一方で、①〜④まですべて高得点、という施設も見つかりにくい。

「自身が重視するポイントを明確にすること、また100点ではなく、80点をめざすことで、本当に重要な条件を叶えやすくなり、結果的に満足度の高い転職に繋がります。転職の間隔が短すぎると将来に影響しますので、少なくとも3年〜5年は勤務することを想定し、満足度が高い転職をめざしてください」(江田氏)

Q1 転職経験がある人の転職回数
Q2 直近の転職年齢
Q3 直近の転職の転職動機(複数回答)
Q4 転職結果に満足ですか?
満足転職のためにもっとも大事なこと
  • 自身に勝負できるもの、スキルや経験があること(一般企業心療内科・40代後半・男性)
  • 要求を正確にエージェントに伝えること(一般病院検診センター・30代前半・女性)
  • 職場環境、先輩医師や上司に尊敬できる方がいること(精神病院精神科・40代後半・女性)
  • 転職前の勤務先施設をいかに円満に退職できるか(一般病院循環器内科・50代後半・男性)
  • 数年後の状況や環境まで鑑み、自分の条件を的確に示すこと(一般病院皮膚科・40代前半・女性)
  • 収入より治療方針に賛同できるかが大事(医院腎臓内科・40代前半・女性)
  • 求めることを明確にして、それが充足される環境を選ぶ(医院神経内科・50代後半・男性)
  • 人間関係、収入の安定性、経営状態(一般病院一般外科・50代後半・男性)

項目別実態&アドバイスの実態

  • 条件整理

労働条件や報酬は相場を考慮して現実的な希望を設定。
譲れないものを挙げれば不満足要素を回避しやすい

マストとベターに分けて
条件を整理する

満足度を高めるには、転職先に求める条件を整理しておくことが重要。実際に、「転職動機や目的を明確にした」という医師は多い(Q5)。また、こうすればよかった思う点でも「条件を具体的に設定しておけばよかった」という回答が多く、条件整理の重要性を裏付けている(Q6)。

江田氏は、「絶対に譲れないマストの条件と、できれば叶えたいベターの条件を整理しておくといいでしょう。条件が整理されていないと、適した施設を見逃し機会喪失にもなりかねません」と話す。

加納氏も、「①年収、②QOL、③ロケーション、④症例という4象限(前述)については、優先すべき項目の点数の高さだけではなく、総合的な点数で判断することも大切です。1つの項目が満点でも、ほかが0点では、こんなはずではなかった、と後悔に繋がりがちです」と話す。

さらに、「症例は積めるが年収が足りないなど不足する点については、非常勤勤務で補うという考え方もあります。常勤先、非常勤先合わせて希望を叶えるようにすれば、高い満足度を得やすくなります」(加納氏)

また絶対にやりたくないことをピックアップし、不満に繋がる原因を避ける、というのも効果的である。

「転職では望むものを手に入れることばかり考えがちですが、嫌なことを排除する、というアプローチも満足度を高める秘訣です」(加納氏)。

報酬については、自身の希望だけでなく、勤務内容などからみた相場や、自身がどれだけ貢献できるかを考慮することが重要となる。

「希望する勤務内容の相場より高い年収を望んだ結果、周囲との関係で居心地が悪くなったり、逆に医局からの転職などで、年収への期待値が低すぎて相場より低い年収で入職し、あとで不満を感じてしまったりする、といった例も見受けられます。相場については、人材紹介会社を利用するなどしてきちんと把握しておくことが、満足度を高めるためのポイントとなります」(江田氏)

加納氏は、「子どもが私立医学部に進学したなど、報酬を上げたい理由が明確、かつ強い場合は、勤務場所や勤務日数などの条件を柔軟にすることで実現するケースもあります。希望と妥協点を整理して、実現性を探ることが大切です」と話す。

Q5 転職条件を整理する際にしたこと(複数回答)
Q6 条件整理で「もっとこうすればよかった」と思う点(複数回答)
条件整理で重要だと思うこと
  • 条件は優先順位を付けて検討する。ある程度の妥協も必要(医院消化器内科・50代後半・男性)
  • 収入・キャリアなど中〜長期的視点での優先順位をつけること(一般病院泌尿器科・40代前半・男性)
  • 何のために転職するのかを考えて条件を整理(循環器内科・30代後半・男性)
  • 数年後、10数年後に何をしているかを考えておくべきだった(教育機関小児科・40代前半・男性)
  • 学会出張などを契約に盛り込んでもらう(一般企業一般内科・40代後半・男性)
  • 転職先の経営状態や将来性について確認することが重要(一般病院脳神経外科・50代後半・男性)
  • まずは自分の働き方を明確にする。必要な条件はきちんと伝える(一般病院一般外科・50代後半・男性)
  • 活動方法

しがらみや遠慮が不要な方法を選ぶのが満足度に繋がる。
退局、退職申し出も考え、4月入職希望なら今すぐ活動開始

知人からの紹介は
しがらみや不明瞭さに注意

転職の活動方法には、医局からの紹介や、施設に直接応募するといった方法があるが、アンケートでは、同僚・知人からの紹介と、人材紹介会社への依頼が各37・4%で最も多い。医局からの紹介で入職に至った医師は約20%、医師が直接、施設に応募して入職したケースは約18%となっている(Q7)。

「医局や友人・知人からの紹介では、条件面など詳細を確認しにくい、あいまいなまま入職に至ってしまったなどで、不満足な転職に繋がってしまうケースも見受けられます。また不満があっても入職を断りにくかったり、満足度が低くても紹介者の手前、退職しにくかったりする例もあります。それを念頭においたうえで、慎重に活動したり、判断したりしたいものです」(加納氏)

情報収集においては、紙媒体やWEB媒体を利用した医師も少なくない(Q8)。各種媒体は忙しい合間に手軽に利用できるという利点がある。

対して人材紹介会社では報酬の相場についての情報があったり、地域の医療機関の状況など横断的な情報が集約されているといったメリットも期待できる。

「症例や設備などの定量的な情報はWEBなどで確認し、施設の内情、どんな特性の人が働いているかなど、病院のタイムリーな情報、定性的な情報の提供を人材紹介会社に求めるというのも、効率的でいいかも知れません」(加納氏)

人材紹介会社やアドバイザーを上手に活用するポイントは何か。

「キャリアプランが具体的に描けない、優先順位が付けにくい、といった医師は少なくありませんが、漠然としたイメージであっても、アドバイザーと話すうちに希望がまとまったり、具体化したりしてきます。まずは気軽に相談してみる、というスタンスで人材紹介会社を利用されるのが、満足度の高い転職への近道になると思います」(加納氏)

退局、退職の意思と
ルールを把握しておく

スケジューリングも重要である。

江田氏は、「医局人事の場合、年末年始に決まり、4月に転籍となるのが一般的です。その場合は、年内には転職の意思を告げて、混乱が起きないようにしておきたいところです。9月には情報収集などの活動をはじめ、11月に転職先を決め、教授に告げる、というのがベストなスケジュールの目安です」と話す。医局によってルールが異なるので、退局した先輩医師に助言を受けるなど、しっかり準備したい。

注意したいのが、現職への退職の申し出である。

内定を得たものの、勤めている施設から強く引き留められて転職を断念する医師も少なくないという。せっかくの転職活動が無駄になれば、満足度以前の問題となる。退職の意思を自身に問うとともに、いつまでに退職を申し出る必要があるか、雇用契約書を確認しておきたい。

Q7 入職に至った手段(複数回答)
Q8 情報収集の方法(複数回答)
活動方法で重要だと思うこと
  • 職場の内情,今後の展望などを収集すべきだった(教育機関小児科・40代前半・男性)
  • 人の話を鵜呑みにしない(大学病院一般内科・40代前半・男性)
  • その施設にかかわったことがある人に直接話を聞くこと(医院一般内科・60代前半・男性)
  • 悪い情報も極力収集するよう、努力する(医院消化器内科・50代後半・男性)
  • 直接情報収集する手段があればそれに越した事はないが、身近になければ、人材紹介会社を利用するのも良い。ほかの案件などは専門職でないとなかなか分かりづらい(一般病院泌尿器科・40代前半・男性)
  • 人材紹介会社のほうが交渉が楽(医院一般内科・50代後半・男性)
  • WEB情報だけでなく直接、施設の話を聞く(一般病院放射線科・40代前半・男性)

項目別実態&アドバイスの実態

  • 施設選択

施設の特徴と方向性をしっかり見極め、
キャリアプランが実現する施設を選ぶ

職場の雰囲気、経営方針や
労働条件などを細かくみる

医師たちが転職先施設の見極めで重視した情報は、報酬や労働条件・待遇、診療体制が多い(Q9)。

報酬については手当などを含めた詳細、労働条件では自身はオンコールなしでも同僚はどうかなど、実際に気持ちよく働けるかも確認したい。

キャリアアドバイザーが重要点として挙げるのは、診療体制や職場の雰囲気、経営方針などで、アンケートでももっと情報収集すればよかった点の上位に挙げられている(Q10)。

「その施設が医療圏の中でどんな役割を担っているかが重要で、重いオペの症例を積みたいなら3次救急病院、軽いオペの症例を多く積みたいなら地域病院など、希望に応じて的確に施設を選びたい」と、江田氏。

加納氏も、「施設の機能集約、分化が進んでいます。スキルが発揮できない、こんなはずでは…という失敗を避けるには、施設が今後どのような方向に進むのかを見極めて選択することも大切です」と話す。

具体的な診療においても、「高度急性期病院で循環器内科、消化器内科など専門的な診療を担当していた医師が、中堅病院の一般内科に入職した場合、自分がイメージしていたよりスムーズに診療できない、といったストレスを訴えるケースは少なくありません。今までと役割分担などが大きく異なるケースはあるので、医局を出る場合や初めての転職ではとくに、注意が必要です」(加納氏)

専門医の更新ができないなど、症例が落とし穴になる例もある。症例が積める施設かどうかはしっかり確認したい。資格取得を希望する場合は認定施設や教育施設を選択する。

育児、介護を理由に転職を考える医師も多いが、その場合は、育児介護支援情報もチェックを。

「保育園・介護施設を運営している施設はソフト面でも育児や介護に理解がある場合が多く、働きやすさに繋がります」(江田氏)

風土や職場の雰囲気も転職の満足度に影響しやすい。

「沿革を確認し、ワンマン経営でないか、方針は合うか、評価制度が機能しているか、また学閥の存在で仕事がしにくいといった状況がないかも確認できると安心です」(加納氏)

Q9 転職先施設見極めのために収集した情報(複数回答)
Q10 転職先施設見極めのために「もっと情報収集すればよかった」と思う点 (複数回答)
施設見極めで重要だと思うこと
  • 自身の力だけでは見切れないので、他者の知恵や情報が必要です(医院精神科・40代後半・男性)
  • スタッフなどの質、協調性、人間関係も知ったうえで選択したい(医院その他内科・50代後半・男性)
  • 自らの仕事における価値観と、転職先「全体」の価値観との相違の大きさを把握したうえで検討する(大学病院一般内科・40代前半・男性)
  • 職場の雰囲気。診療体制はしっかり確認しておく(医院一般内科・60代前半・男性)
  • 些細なこともエージェントを通じてきちんと確認してもらったほうがよい(一般病院放射線科・40代前半・男性)
  • 可能なら退職した職員など、関係する人から情報収集したうえで見極める(医院消化器内科・50代後半・男性)
  • 見学・面接

施設見学でスタッフの資質や施設の雰囲気を感じ取る。
自身の想いと求められるものにギャップがないかを確認

上司や同僚、事務方との
相性も見極める

施設を絞り込んだら、面接だけでなく、施設の見学も行いたい。

外来ブース、病棟、手術室、当直室、医局など、入職後、自身に関係する部分について、「自身の働き方、診療をイメージして見学するのがポイント」(江田氏)だ。アンケートでも、病棟や医局ほか、保育所などの福利厚生施設を含め、施設や設備をもっとチェックすればよかったという医師は多い(Q11)。

手術の機材など、使い慣れたものか、そうでないかなどを確認しておけば、入職後の不満を避けやすい。

上司や同僚、コメディカルの人柄など、人間関係も満足度を左右する重要な要素である。事情が許せば、見学の際などに積極的に話したい。

また、施設見学の際には、「整理整頓されているか、清潔に保たれているか、挨拶があるかなどで、働いている人の資質を感じることもできます」と、加納氏。「評判がよくない施設は、よくない臭いがするなど、衛生管理に問題がある場合も多い」と指摘する。

さらに江田氏が、満足度を高める意外な要素として挙げるのが、事務方の職員との相性である。

「相性がよければ、困っていることを相談しやすい、人間関係を円滑にしてくれるなど、余計なストレスを抱えずに済みます。施設の案内を受ける際、積極的にコミュニケーションをとって相性を探ってください」と助言する。

面接については、「勤務体系や報酬など、条件面などはあらかじめ人材紹介会社などに確認してもらい、面接の席では不明瞭な点の確認と、診療方針や今後の方向性などを聞くのが望ましいといえます。たとえば今後は急性期からケアミックスへ移行する予定など、大きな方向性についてはしっかり聞いておく必要があります」(江田氏)

コミュニケーション力や経営感覚が重視される傾向が強まっており、自身がどう貢献できるかや協働への考え方について話すというのも、評価を引き出すポイントになる。また施設から、大事にしていること、自分に求めることを聞き出せれば、自らがめざす医師像とのギャップがないかも確認でき、こんなはずでは…といった後悔を防ぎやすい。

満足度の高い転職をめざそう。

Q11 施設見学で「もっとチェックすればよかった」と思う点 (複数回答)
Q12 面接の準備及び当日で「もっとこうすればよかった」と思う点 (複数回答)
見学・面接で重要だと思うこと
  • 面接の際、自分自身が背伸びをしないこと(一般企業心療内科・40代後半・男性)
  • 院長との相性は重要なので、面接の際に慎重に見極める(一般病院一般内科・40代後半・女性)
  • 自分のやりたいことが、そこでできるか。施設見学や面接を通じて、ハードウェア環境とマンパワー的な環境を共に考慮することが大切(一般病院麻酔科・50代前半・男性)
  • 直属の部下となる人をよく見る(一般病院一般内科・30代後半・男性)
  • 自身の熱意を伝えることが必要(一般病院放射線科・40代前半・男性)
  • 聞きたいことを遠慮なく率直に聞く(一般病院循環器内科・50代後半・男性)
  • 聞きたいこと、見ておきたいものをリストアップすべきだった(教育機関小児科・40代前半・男性)