10年後どうする?医師に将来の希望を大調査! そのために今やるべきことは?年代別に考える「医師のキャリア」

医師は生涯現役で活躍できる職業であり、働く場には事欠かない。そのため、キャリアについて考える機会は少ないが、自身の将来像を描き、着実にキャリアを重ねたい。そこで、医師が10年後、どのようなキャリアを築きたいと考えているのか、アンケート調査を実施。その結果を紹介するとともに、キャリア形成のためにしておきたいこと、心がけたいことを年代別に解説する。

  • 全体解説

臨床か、研究か、開業、起業か。
キャリアの方向性を考え、道を選び取る

理想の将来像に近づくには
環境変化への対応も重要

本誌では医師にキャリアプランについてのアンケートを実施、231人から回答を得た。医師にキャリア形成は必要か、という問いに対して「はい」と回答した医師は約88%。多くの医師がキャリア形成の必要性を感じていることがわかった。

とはいえ、日々忙しく、研究やスキルアップに時間を費やすことも多いため、医師がキャリア形成について落ち着いて考えたり、自身のキャリアを俯瞰して見たりするのは容易ではない。

また医師は社会から求められる存在であり、日々研鑽を積んでいれば活躍の場は多くある。そうした状況から、一般の職種に比べて戦略的にキャリアを考える必要に迫られてはいない、という側面もある。

では、キャリアについてどのような意識をもてばよいのだろうか。
本誌編集長の島岡玲子氏は語る。

「日々の研究、診療、手術などに取り組むことでスキルアップが実現でき、それが次のキャリアに繋がっていく、というのは医師の特徴です。一方で、医師を取り巻く環境をみてみると、急性期病院が減って在宅医療のニーズが増える、総合診療医が求められるなど、従来から大きく変化し続けています。今後、どのような医師が求められるか、という視点をもつことが、医師のキャリアをより輝かせることになると考えられますし、今後は環境変化に対応する重要性が増すと思われます」

医師のキャリアは概ね、大学のなかで専門領域のスペシャリストとして生きる道、または経験を積んだ後、地域のなかで臨床医として貢献する、よりジェネラルな道に大別される。前者の場合は、研究を極める、専門性を高める、高い役職を目指すといった方向のほか、ビジネス分野など臨床外に進む医師もいる。後者の場合、多くはいずれかの施設の勤務医となり、一部は開業の道へと進む。

リクルートメディカルキャリア・シニアプロデューサーの江幡俊行氏は、「特に地域で活躍する医師の場合は、自身の強みを1つもっておく。そこに、今なら高齢者医療など、時代のニーズに沿った分野のスキルを加えて、キャリアの幅を広げておくことが、将来のキャリア選択に有益だと思います」と話す。

医師の考え方も多様化しており、最近はキャリアアップよりワークライフバランスを重視する医師も多い。

「自身が望む生き方をするため、また満足度を高めるためにも、キャリア形成について戦略的に考える意味は大きいと思います」(江幡氏)。

では、医師自身は10年後のキャリアをどう考えているのか、またそのために今何をすべきか。年齢別にみていきたい。

アンケート概要
◆調査方法:リクルートドクターズキャリ会員登録者へのインターネット調査
◆調査時期:2018年1月
◆有効回答数:231人
◆男女比:男性84.0%、女性16.0%
10年後
30代後半
  • 20代後半

ひたむきに働き、医師としての基礎を築く時期。
内から出てくる想いに耳を傾ける

キャリア形成に積極志向。
スキルアップの必要を自覚

20代後半のアンケート結果を分析したところ、10年後、今の働き方を維持またはペースアップさせ、収入、スキル、役職を上げることを希望する傾向が見受けられる。長期のキャリアプランも考えており、医師以外の仕事にも挑戦していきたい、という声もあった。

医局に籍をおいて大学病院や関連病院で後期研修を行う以外に、医局には属さず、一般病院などで学ぶという医師も増えており、さらに最近では、医療関連の事業に関心を向け、周辺分野での起業に興味を持つ20代も少なくない。

キャリア上のポイント

まずは基礎を学び経験を積む。
20代での転職は避ける

20代は医師として独り立ちできるよう、基礎を身につける重要な時期。存分に知識を吸収し、経験を積んでいくという姿勢が求められる。

江幡氏は、「まずは大学病院など、専門医取得体制が整っているところで徹底的に基礎を学び、圧倒的な量の経験を積むことが重要です。この年代は医師としての基盤をつくることがもっとも大事であり、それがないと次のキャリアに繋がりません。何はともあれ、がむしゃらに仕事をして、基礎スキルを身につけることが重要です」と話す。

後期研修途中に転職を希望する医師もいる。相応の理由があれば転職先を見つけられなくもないが、前述のような理由から、人間関係や環境が合わないなどの理由で安易に転職するのは避けたい。

「この時期は、キャリアプランを考えるというより、研究を極めるか、臨床に進むか、どのような医師を目指すかなど、将来の希望をみつけ固めていくことが大切だと思います。内から出てくる自身の想いを確認してください」(江幡氏)。

起業を視野に入れるとしても、医師としての知見や経験を深めていけば、それが強みになるはずである。まずは全力で仕事に取り組みたい。

10年後
40〜48歳
  • 30〜38歳

専門医を取得して症例を積み、自身の価値を高める時期。
スキルの幅を広げることも視野に入れる

アンケート結果

収入、スキル、役職など
高みをめざす意欲が旺盛

10年後は、「仕事内容が変わっている」と考える医師が約56%。「転職している」も約35%と、全年代で最も多い。「臨床外へ転身している」も約16%にのぼる(Q1)。収入、スキル、役職アップへの意欲も旺盛で(Q2)、10年後の働き方について「今よりペースアップしたい」という医師も多い(Q3)。長期や数年先のキャリアを考えている医師は合計で約70%(Q4)。最新情報の把握やスキルの習得、専門医等の資格取得などに努めている(Q5)。

キャリア上のポイント

方向性を決め、必要な要件を
修得するもっとも大事な時期

専門医を取得して経験を積んでいく年代で、サブスぺを含めて専門性を突き詰めつつ、教育やマネジメントなども経験し始め、自身の価値を高める時期といえる。

専門医取得後、数年経験を積んだ30代後半は転職に有利で、ターニングポイントともいえる。将来を見据え、医局を出て環境を変えるか、働き方を変えるかなどを、熟考したい。

スキルを広げる選択肢もある。「今後は従来以上に、自身の専門外にも対応できる総合診療医のような幅広い診療能力が求められるであろうことを鑑み、よりゼネラルな方向に広げるのが有効だと思います」(島岡氏)。

開業を考える医師も多くなる。コミュニケーション能力が重視される訪問診療や小児科など、分野によっては専門医の資格がなくても成功は可能だが、基本的には資格を取得しておきたい。また非常勤でクリニックの仕事を体験してみるなど、経営について学ぶことも必須だ。

育児との両立を考える医師は、「時短でも、非常勤でもいいので仕事を続ける。現場を長く離れないことが重要なポイントです」(江幡氏)。

Q1. 10年後の仕事はどう変わっていると思うか?(複数回答)
Q2. 10年後の収入、スキル、役職の希望は?
Q3. 10年後の働き方の希望は?
Q4. 今後の仕事・キャリアのためにキャリアプランを考えているか?
Q5. 今後の仕事・キャリアのために心がけていること、準備していることは?(複数回答)
フリーコメント
  • ワークライフバランスを充実させたい。世界を視野に入れて働きたい(一般病院・男性)
  • 医師になったことではなく、医師として何をするかが重要。専門医などのキャリアに目が向きがちだが、内的なキャリアを磨きたい。研究のための研究にならないように意識している(大学病院・男性)
  • 成長するのをやめたら医師ではない(大学病院・男性)
  • キャリア形成を具体的に考えて進む医師もいるし、医師であればスキルを磨いてその時々に自分の役割を果たすという道もある。技術、スキルを広げておくことが重要で、医学に限らず視野を広く持つことが大事(医院勤務・女性)
  • 仕事が1つというのでは脆い。人口変動への対応や、AI、ロボットの実用化などを踏まえて、人間らしい働き方ができるように準備する(一般病院・男性)
  • 地域のニーズに沿って介護領域その他との連携を考えていきたい(教育機関研究職・男性)
10年後
49〜54歳
  • 39〜44歳

多忙な年代で、期待に応えれば評価が高まる。
転職に有利な時期、主体的にキャリアを考える

アンケート結果

垣間見える充実感。
多忙で考える機会が少ない

10年後は「仕事内容が変わっている」「転職している」が多いが、一方で「変わっていることはない」も約27%(Q1)。自身の分野や領域が築かれ、充実している証ともとれる。

10年後の働き方については「現状維持」(約39%)と「ペースダウンしたい」(約36%)がせめぎ合っている(Q3)。長期のキャリアプランより、数年先や次を考えている医師の方が多い(Q4)。今後のために最新情報の把握やスキルの習得、専門医等の資格取得などの準備をする医師も少なくないが、「特に何もしていない」も約16%にのぼる。

キャリア上のポイント

転職に有利な時期
生涯の選択をしっかり

「経験も豊富でスキルも洗練され、医師として一番脂がのっている時期。市場価値が高く、転職にもっとも有利な年代です」(江幡氏)。

今後のキャリアを意識して、この時期に検討したいポイントは大きく3つある。指導的立場になるか現役を続けるのか。医局を出るか残るか。医局を出る場合の方向性はゼネラルか専門性追求か、である。

医局を出て民間病院に入職すれば収入がアップする可能性が高いが、経営的な視点や、施設の方針を柔軟に受け入れる姿勢が求められる。

「自身が得る報酬と自身ができる貢献とのバランスを意識する医師は施設からも評価されます」(島岡氏)。

医局に残る場合には、講師や准教授を目指す、指導医としての立場を確立してマネジメントに進むという道があるが、ポストの有無など望む方向に進めるかどうかも見極めたい。

いずれにせよ、自身の市場価値を知って戦略的に動けるよう、医療ニーズの変化といった情報をキャッチしておくことが重要だ。

Q1. 10年後の仕事はどう変わっていると思うか?(複数回答)
Q2. 10年後の収入、スキル、キャリアの希望は?
Q3. 10年後の働き方の希望は?
Q4. 今後の仕事・キャリアのためにキャリアプランを考えているか?
Q5. 今後の仕事・キャリアのために心がけていること、準備していることは?(複数回答)
フリーコメント
  • ヘルステックの進歩で、保険診療において予想以上の技術革新や診療報酬制度の激変が避けられない。スキルアップが必要(一般病院・男性)
  • 今のようなペースで今後も働き続けるのは体力的に難しい。自身の強みやセールスポイントを作り、既存の考えに縛られず、新しいことにもチャレンジしていくことでキャリアを形成したい(療養病院・男性)
  • 長く働けることを重視して、精神科に転科した。できれば早めに将来について考えておいた方がいいと思う(療養病院・男性)
  • 循環器内科医として大学病院に勤務しているが、臨床医というより指導医の役割が大きくなっている。臨床に力を入れるために、開業を含め、キャリアチェンジを考えている(大学病院・男性)
  • 子どもが高校生になるまでは育児を優先させたいが、いずれは仕事に力を入れたい。それまでは非常勤で働き、キャリアを継続させる(一般病院・女性)
10年後
55〜64歳
  • 45〜54歳

医師としてもっともクオリティ高く仕事できる年代。
マネジメントの役割も。一方で領域内転向も始まる

アンケート結果

半数がスキルアップをめざし
キャリアへの意欲が高い

この年代でも10年後の仕事内容が「変わっている」「転職している」と考える医師が多いが、「変わっていない」も約28%にのぼる(Q1)。

スキルアップを望む医師も46%を超えている(Q2)。10年後の働き方は、「現状維持」が約46%、「ペースアップしたい」が約20%(Q3)。今後のためにスキルの習得に努めている医師が約51%、専門医等の資格取得に努めている医師が約31%など、キャリア形成への意欲は高い(Q5)。

キャリア上のポイント

医師としての理想像を追求
後進の育成も求められる

経験、実力ともに充実し、一般的に医師としてもっともクオリティが高い年代であり、役職に就くなど、責任の重い状況でもある。今後、医師の使命をどう果たすか、どう貢献するかなど、自身の想いを追求する時期でもあるといえる。

「転職も可能ですが、この年代の医師に求められるのは、6〜7人程度の組織をまとめるマネジメント力、または高い専門性を活かした診療に加え、優秀な後進を育成することです。いずれにしてもプレーイングマネージャーとしての活躍が期待されます」(江幡氏)

外科医は従来、50代に入ると体力や視力の変化で手術が難しくなるケースも見受けられたが、現在は術式の進展によって、50代でも執刀可能な環境になったため、キャリア形成も変化してきている。

「今後は転向に向けて学ぶというより、外科医を続けるために新しい技術を習得するなど、学ぶ方向が変わってくるでしょう。とはいえ、生涯現役を目指す医師においては、60代以降の働き方を考え、関連する領域へ軸足を移すことも意識しておきたいところです」(江幡氏)。

Q1. 10年後の仕事はどう変わっていると思うか?(複数回答)
Q2. 10年後の収入、スキル、キャリアの希望は?
Q3. 10年後の働き方の希望は?
Q4. 今後の仕事・キャリアのためにキャリアプランを考えているか?
Q5. 今後の仕事・キャリアのために心がけていること、準備していることは?(複数回答)
フリーコメント
  • 細くていいから、長く働くのが目標(医院勤務・女性)
  • 年齢的にキャリアの終盤になるので、自身の市場価値と、産業医や開業を含めて今後の可能性として考えられる分野を見極めたい。つねに向上心をもっていたいし、地域や市場のニーズに対応できるキャリア形成をしたい(大学病院・男性)
  • 手術をずっと続けることはできないので、体力・気力の衰えに応じて仕事の内容を変えていきたい。自分の状態や医療環境に応じて仕事内容をトランスフォームしていく姿勢が重要(開業医・男性)
  • 現状に満足せず、さらにスキルアップして仕事の幅を広げたい(一般病院・男性)
  • 大学で役職に就いていたり、開業して基盤を固めていたりする元同僚などをみていると、非常勤を掛け持ちしている自身のキャリアを悔いることもある。とはいえ、患者さんに誠実に向き合うことで地域医療に尽力したい(医院勤務・男性)
10年後
65歳〜
  • 55歳〜

キャリアの集大成。どこでいつまで働くかを考え、
転職、転向の必要性を見極めて50代のうちに行動

アンケート結果

約80%が10年先も現役。
数年先のキャリアに関心

10年後となる65歳以降について「引退している」と答えた医師は約22%にとどまり、現役を続ける意向が強い(Q1)。収入やスキルについては「現状維持」や「こだわらない」が多いが、収入アップやスキルアップを望む医師も2割前後にのぼる(Q2)。働き方は「ペースダウンしていたい」が約40%(Q3)。キャリアプランについては、長期より「数年先」、「次のキャリア」への関心が高いのも、この年代の特徴(Q4)。

キャリア上のポイント

50代のうちにプランを考え
早めに行動する

50代後半は、医師としてのキャリアについて最終的に決断する時期といえる。どこで、どのように、何歳まで働くかを考え、それを実現させるために転職や領域内外での転向の必要性を見極めたい。

勤務医の場合、60代半ばまでは、現在勤務している病院でキャリアを継続させることもできる。

例えば消化器科では手術中心から内科的治療中心の診療にシフトする、高齢者の病棟を担うなど、施設内でゆるやかにシフトチェンジするケースも多い。整形外科医や脳外科医では、リハビリ医などへのマイナーチェンジも現実的な選択肢だ。

「それまでのキャリアを活かせるようなキャリアチェンジであれば、力が発揮しやすく、施設や患者さんからの評価も得やすいため、理想的です」(島岡氏)。

転職については60代に入るとハードルが高くなるので、50代のうちに実現させ、60代以降はそこでキャリアを総括するのが堅実な道と思われる。65歳以上で転職を考える場合には、老健などもおもな選択肢になる。転職支援会社に希望を伝えておくなど、早めに行動したい。

Q1. 10年後の仕事はどう変わっていると思うか?(複数回答)
Q2. 10年後の収入、スキル、キャリアの希望は?
Q3. 10年後の働き方の希望は?
Q4. 今後の仕事・キャリアのためにキャリアプランを考えているか?
Q5. 今後の仕事・キャリアのために心がけていること、準備していることは?(複数回答)
フリーコメント
  • 体力の限界を感じる。今後は家族との時間を大切にしながら働きたいが、つねに進化は必要(医院勤務・男性)
  • 医師の資格を生涯、活かしたい。産業医や精神保健指定医の資格取得を勧める(医院勤務・男性)
  • 手術からの引退を考えはじめており、急性期病院にいなくてもよいかと思っている(一般病院・男性)
  • 仕事の量は減っている。収入アップは望まず、外国人にも対応できるようになるなど、楽しく、遣り甲斐を感じられる働き方をしたい。(一般病院・女性)
  • 臨床能力は普通だが、IT系に詳しいので、それを活かせる仕事をしたい。医療のなかでも向き、不向きはあるもので、自身は初期診療で専門医に繋ぐ役割を果たしたい(開業医・男性)
  • 勤務医から開業し、閉院して2年。現在は67歳で週3日程度、検診医をしている。年齢を重ねたらゆったり働けるが、若いうちは技術、知識を高めることが重要(検診医・男性)