2019年新春特別企画 医師のキャリア形成にどう影響するか?新時代に向かう医療界展望

医療界を取り巻く環境は激動している。
超高齢・人口減少社会を前提に、医療体制はまさに変革のただ中だ。
そこに身をおく医師の働き方は着実に改革が行われていくと予想され、AIやICTなど医療テクノロジーによる変革も既に大きな波になりつつある。
全方位的にパラダイムシフトが行われている医療界の、今後の変革の方向性は?また将来にも求められ続ける医療機関とは?
医師もこれからの変革の方向性をしっかり捉え、自らの仕事や今後のキャリア設計にどう影響するか、見極めたいところだ。

  • これからの地域医療体制

体制は人口構成や医療ニーズの地域差を理解し構築。
医師には〝総合診療医的なセンス〟が求められる

一般財団法人
医療経済研究・社会保険福祉協会
医療経済研究機構
所長
西村周三
1969年京都大学経済学部卒業。88年「医療の経済分析」で同大学経済学博士号取得。同大学助教授、教授、副学長を経て定年退職、同大学大学院名誉教授。10年から14年にわたり国立社会保障・人口問題研究所所長、15年から現職。専門は、社会保障論および医療経済学で、日本医療経済学会の初代会長を務めた。主な著書に『行動健康経済学』(共著、09年、日本評論社)、『地域包括ケアシステム』(監修、13年、慶應義塾大学出版会)など。

西村周三氏 写真

生活のなかで医療を具現化していくことが重要

超高齢社会の日本では2025年以降に75歳以上人口が急増し、2035年には80歳以上人口も大幅に増える(図表1)。図表2にあるように、生涯未婚率も上昇し続けており、2035年には男性の約3割、女性の約2割に達する。家族の支援が乏しい高齢者が増えることから、社会的支援システムはいっそう必要となるだろう。相対的に急性期医療のニーズは減少し、回復期や慢性期医療のニーズが増加する。これらを踏まえ、国は住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体となった地域包括ケアシステムの構築を図っている。

ではいま、地域や医療機関に求められることとは? 医療経済研究機構所長の西村周三氏はこう話す。

「人口の年齢構成や医療ニーズの変化は地域差が大きい。実態を十分に踏まえたうえで地域包括ケアシステムを構築することが必要でしょう」

西村氏によると、地方都市ではすでに後期高齢者が増加しており、今後しばらくはほぼ横ばい。過疎地域では早くも人口減少に突入しつつある。大都市の後期高齢者増はこれからだが、東京23区内は急性期の医師が余剰になってきているという。

「医療機関には、いわゆる2025年問題や、人口減少が深刻化する2040年問題といった全国単位の話題にとらわれず、各地域の状況を冷静に見極めた判断が求められます」

こうした変革のただ中で、医師にはどんな心構えが求められるのか。

「医師個人においても、やはり“地域を知ること”が重要です。地域理解なくして、本当に必要な医療は見えてこないからです。また、高齢者は複数の慢性疾患を抱え、フレイル状態になることが多い(図表4)。今後は、開業医として地域医療の最前線に立つ医師も、病院勤務医として専門的な医療を担う医師も、“総合診療医的な発想”を持つことが非常に重要になるでしょう」

多くの高齢者は、慢性疾患を抱えながら地域で暮らし続けていく。地域包括ケア推進のスローガンとして“医療モデルから生活モデルへ”と言われるが、あらゆる医師がその真意を理解しておく必要がある。

「医療と生活を切り離して考えるのではなく、あくまで生活のなかで医療を具現化することが大事です。退院した患者が地域でどう暮らし、どう療養するのかといった生活背景を踏まえた医療が必然になります」

昨今は、入院前~入院中~退院後の生活の切れ目をなくす入退院支援が重要視されている。今はおもに看護師が担っているが、医師が介入するメリットもある。

「ある医療機関では、飲酒や喫煙など入院前の生活習慣を看護師が細かく情報収集しています。ここに医師も関わることで、患者の生活背景の理解が深まるのではと思います」

予防にも注力し、医師は
地域全体の健康を担う存在に

また、今後、医師にいっそう必要となる能力として、西村氏は“コミュニケーション能力”を挙げる。

「慢性疾患は完治するものではありませんが、今も『病院に行けば治る』『先生にお任せ』という患者は少なくありません。そこを理解してもらうには、相当なコミュニケーション能力が必要です。また、地域包括ケアのなかでは、医師と患者・家族だけでなく、看護師やリハビリスタッフ、介護職員なども含めて方針決定をします。多職種協働をスムーズに進めるには、十分なコミュニケーションと信頼関係構築が必須です」

さらに、今後の地域医療においては「予防」も重要なポイントとなる。

「一部の先進地域では、重度化予防として、慢性疾患を持つ高齢者のリハビリに医師が主体的に関わり、住民の要介護度を低下させています」

高齢者を対象とした予防だけではない。図表3で「支える人たち」(現役世代)と「支えられる人たち」(高齢者)の関係を示したが、65歳以上を高齢者と定義したままでは、困難が明らかである。高齢者の定義を70歳や75歳に引き上げる必要性が学会等から示されているが、その前提として、現役世代の健康寿命を延ばすことが不可欠だ。

「若年層が自分の健康に関心を持つよう働きかけ、地域全体の健康を向上させることも、医師の大きな役割になるでしょう。欧米の研究では、若いうちから疾病予防の意識を持って食生活や運動に気を使うことで将来の健康に決定的な差が付く、という報告が多数なされています」

これからの地域医療で求められる幅広い資質を、今後、医師はどのように身につけていくべきだろうか。

「日本の医学生の多くは、医学部に入る段階では総合診療医になることをイメージしています。ぜひその後もその思いを見失わず、能動的に総合診療を学んでほしい。また、新専門医制度には総合診療医が設置されましたが、医学会全体で総合診療医を評価する機運を高める必要があるでしょう。イギリスの家庭医制度がそうであったように、より多くの医師が、総合診療医を目指すようになることを期待しています」

図表1● 年齢別人口推移 2015-2035
(単位 1,000人)
出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成29年度推計)(2017年4月)に基づき西村氏が作図
図表2● 生涯未婚率の推移(将来推計含む)
(注)生涯未婚率とは、50歳時点で1度も結婚をしたことのない人の割合。2010年までは「人口統計資料集」(2015年版)、2015年以降は「日本の世帯数の将来推計」より、45〜49歳の未婚率と50〜54歳の未婚率の平均。
出典:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(2015年版)、「日本の世帯数の将来推計」(全国推計2013年1月推計)
図表3● 「支える人たち」と「支えられる人たち」の推移
若年者(支える人たち)、高齢者(支えられる人たち)の定義を変えることによって「支える」・「支えられる」の関係はどう変わるか?
若年者がx人で高齢者y人を支える 20-64歳が65歳以上を支えるとすれば(y/x) 20-69歳が70歳以上を支えるとすれば(y/x) 20-74歳が75歳以上を支えるとすれば(y/x)
2015 2.1 3.4 5.4
2020 1.9 2.7 4.6
2025 1.8 2.5 3.7
2030 1.7 2.4 3.4
2035 1.6 2.3 3.3
2040 1.4 2.1 3.2
2045 1.3 1.9 3.0
2050 1.3 1.8 2.6
2055 1.3 1.7 2.4
2060 1.3 1.7 2.3
2065 1.2 1.7 2.4
出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年度推計)(2017年4月)に基づき、年金シニアプラン総合研究機構 福山圭一氏が計算したものを同氏の許可を得て、一部改変の上、作成
図表4● フレイルの概念
出典:社会保障審議会介護保険部会(平成28年5月25日)提出資料より
  • 医師の働き方改革推進

「地域医療の継続性」と「医師の健康への配慮」。
その両立と柔軟なルールが真の働き方改革になる

公益社団法人 日本医師会
副会長
今村 聡
厚生労働省『医師の働き方改革に関する検討会』メンバー。1977年秋田大学卒業。三井記念病院、神奈川県立こども医療センター、浜松医科大学を経て、91年に今村医院開業。97年板橋区医師会理事就任から副会長、東京都医師会理事、日本医師会常任理事、2012年より現職。日本医師会では副会長および女性医師支援センター長を務める。

今村 聡氏 写真

医療現場の現状を踏まえ
働き方改革への意見書を提出

2017年夏から厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)で議論されてきた医師の働き方改革。19年3月末までに結論が示されることになっている。

日本医師会ではこれとは別に「医師の働き方検討会議」を設置し、検討会に対し、「医師の働き方改革に関する意見書」を提出した。同会議は病院団体代表者や若手医師など、厚労省検討会構成員8名を含む14名で構成されている。検討会メンバーでもあり、同検討会議にも参加する日本医師会の今村聡氏はこう話す。

「過重労働、医師の地域偏在、診療科の偏在など、医療現場にはさまざまな問題、課題があります。働き方改革では、医療現場が抱える問題に一気に取り組むことになっており、中間報告でも多くの項目が挙がりましたが、いずれも問題が大きい。地域や病院によって事情が異なるなど問題は複雑であり、検討会が3月に結論を出すのは容易ではないと思われます。そこで現状を知る医療界が自ら論点を整理し、検討会が議論するうえでの叩き台として意見書をまとめることにしました」

意見書では、「地域医療の継続性」と「医師の健康への配慮」を両立させること、さらに「両者のバランスが取れているか常に振り返る」ことの重要性が強調されている(図表1)。

「医師会では、以前から医師の心身の健康確保の重要性を訴えており、それは医療事故の防止や患者の利益に直結します。医師の健康を保持しながら必要な医療を提供する。そのバランスをどう取るかが、働き方改革の大きな課題です」。

産業医の視点から見ても、今村氏は「医師の健康管理は十分とは言えない」と指摘する。労働基準監督署から、時間外労働の問題以外に、定期健診の不徹底や事後指導がないことなどが指摘される例も多いという。

「患者からの感謝や医師としての充足感から精神的には充実していても、体には負担が生じている場合がある。それをチェックできる体制、医師の健康を守る仕組みを病院内に持つことは最低限必要なことです。難しい場合は各県に順次設置されている医療勤務環境改善支援センターの支援を受けることも考えてほしい」

労働時間の規制だけでなく
自己研鑽への配慮も重要

過剰労働は是正されるべきだが、どの程度が適切かは医師によっても、キャリアによっても異なる。労働者として労働時間を規制すべきという医師もいれば、医師は特別な仕事であり、研究やスキルアップの経験を積みたいという医師もいる。

また労働時間を規制するだけでなく、自己研鑽の時間をどう位置づけるか、という医師特有の難しさもある。発表を伴う学会参加や論文作成など、労働と自己研鑽の二面性がある活動については労働時間として算定すべきか否か、そういった基準を明確化しなければ、労働時間の規制も曖昧になる恐れがある(図表2)。

スキルを維持、発展させる意味でも、研鑽と医師の健康とを両立させる具体的な方策を考える必要がある。

「一律に規制するのではなく、一定のルールを設けたうえで、多様な働き方が認められることが望ましい。かといって、健康が害され安全に支障をきたすのは論外ですから、第三者機関がチェックする体制を整備する、といったことも求められます」

このほか意見書では、院外オンコール待機の在り方、研修医等の在り方、女性医師支援などの検討項目を挙げている(図表3)。

医療を受ける側の理解も必要だ。

「厚労省で『上手な医療のかかり方を広めるための懇談会』が設置され、18年10月から議論が始まっています。国はもちろん、自治体、企業、医療者にも、意識改革を求めるような取り組みをする必要がある。すぐに効果が出るものではありませんが、一歩を踏み出すことが重要です」

もう一点、忘れてはならないのは、常に振り返る、ということである。

「タスクシェアやタスクシフトが注目されていますが、AIによる画像診断などのイノベーションは、それ以上に医療現場を大きく変える可能性がある。人口減少、医療制度改革などによっても、医師の負担も医師に求められるものも変化します。したがって、ルールが状況に即しているかは常に確認する必要があります」

健康管理や役割の見直しなど
医師も病院も改革への取組を

医師自身が心がけることを聞いた。

「研究や論文の作成など、自己研鑽の時間は減らすことなく、その他の仕事を効率化するなど、前向きな見直しをしたい。働き方改革は仕事を見直すチャンスでもあり、“忙しくて手が付けられない〟ではなく、何を見直すべきかを皆で考えることが重要です。医療勤務環境改善支援センターに相談する道もあります」

医師の健康については、すぐにでも取り組めることがある。

日本医師会では平成20年から勤務医の健康支援に関する検討委員会の活動をしており、「勤務医の労務管理に関する分析・改善ツール」も作成(図表4)。労働時間の適正把握や労働時間・休憩・休日の取り扱いなど、病院の状況が具体的にチェックできるようになっている。

「理想的なゴールがあったとしても、一朝一夕にはたどり着けない。ステップを踏んでゴールをめざすのが現実的です。病院や医師、国民の意識改革を図りながら、医師の健康と地域医療の継続性が担保される柔軟性のあるルールと体制を築く。かつ、環境変化に応じて常に柔軟に見直していくことが重要です」

図表1● 「地域医療の継続性」と「医師の健康への配慮」の両立
図表2● 医師の労働と自己研鑽
図表3● 意見書内「医師の働き方改革・今後に向けた具体的検討項目」
具体的に検討すべき項目には以下のものがある。
(1)医師の健康確保策の在り方(包括的管理、宿日直の健康管理、在院時間管理等)
(2)自己研鑽の在り方
(3)宿日直の在り方
(4)院外オンコール待機の在り方
(5)休日、勤務間インターバル、連続勤務時間の在り方
(6)「医師の特別条項」と「医師の特別条項の『特例』」の在り方
(7)医師の専門業務型裁量労働制の在り方
(8)研修医等の在り方
(9)第三者機関の在り方
(10)女性医師支援
(11)地域住民における医療への理解
(12)労働関連法令の幅広い見直し・医事法制との整合性確保
図表1・2・3出典:「医師の働き方改革に関する意見書」医師の働き方検討会議(平成30年7月)
図表4● 働き方改革に活用できる「勤務医の労務管理に関する分析・改善ツール」
出典:日本医師会・勤務医の健康支援に関する検討委員会
  • ヘルステック(医療×IT)の未来

新たな医療サービス開拓にテクノロジーを用いる。
必要性がヘルステック進展の原動力

メドピア株式会社
代表取締役社長CEO
石見 陽
1999年信州大学卒業。東京女子医科大学病院循環器内科学に入局。研究テーマは血管再生医学。医師として勤務する傍ら、2004年12月に株式会社メディカル・オブリージュ(現メドピア株式会社)を設立し、代表取締役社長に就任。07年8月に医師専用コミュニティサイト「Next Doctors(現MedPeer)」を開設し、現在10万人以上の医師が参加する医師集合知プラットフォームへと成長させる。現在も医療現場に立っている。

石見 陽氏 写真

医療とテクノロジーの
融合が図られる

「ヘルステック」(医療×テクノロジー)の未来について、医師であり、メドピア代表取締役社長CEOの石見陽氏に話を聞いた。同社は医師の臨床、キャリアの支援ほか、最新のヘルステックや先進事例を紹介するグローバル・カンファレンスである「Health2・0」の日本開催を主催するなど、この分野の最前線に通じている。

石見氏は「ヘルステックがどう進展するかは、医療体制や医師の役割の変化が影響する」と話す(図表1)。

「これまで医師が関わってきたのは軽症期、急性期、慢性期、終末期ですが、今後はこの内容が変化していくでしょう。終末期医療は地域へ移行し、予防医療の領域も今後は重点テーマの一つになっていくと考えられます。医療が病院に閉じている状態から開放されていくなかで、医師の役割も変わっていく。従来の専門医だけでなく、在宅医やセルフケア領域の医師など、医師の役割は多様化し、役割分担が進むと思います」

そのなかでヘルステックがどう進むのか。石見氏は「フュージョン(融合)」というキーワードを挙げる。

「私は都内のクリニックで外来診療、別のクリニックで在宅医療に携わっていますが、在宅医療とオンライン診療は融合が図られると考えられます。現状、オンライン診療では保険点数が下がりますが、多大な時間を要する患者宅への移動が不要になる分、診療件数を増やすことができ、その方が合理的とも考えられます」

厚生労働省では「データヘルス改革推進本部」を設置し、ICTを活用した次世代型の保健医療システムの実現に向け、検討を行っている(図表2)。2020年度に向けて、保険医療記録共有、データヘルス分析、AIなど8つの分野でのサービス提供を目指しているという。2020年は診療報酬改定の年でもあり、石見氏は「オンライン診療などについて診療報酬が引き上げられることも考えられ、そこからが本番とも目される」と話す。

石見氏自身が担当する内科の外来診療においても、ITリテラシーを考慮すると、患者のうち10%程度、症状だけなら半数近くがオンライン診療の併用が可能と考えられるという。寝たきりの患者に限らず、オンライン診療は患者の利便性にも繋がり、「テクノロジーを取り入れることにより、医師は多様なサービスを提供できることになります」

さらに石見氏が指摘するのが、個々のクリニックの融合、連携だ。ひとつのクリニックが24時間365日対応するのは難しく、地域のクリニックが連携せざるを得ない。

「そのためには、クラウドベースの電子カルテによる患者情報の共有は必須となっていくでしょう」

自身のキャリア、臨床に
テクノロジーを融合させる

「ダ・ヴィンチなど、テクノロジーが医療を進化させているのは確かですが、テクノロジーのイノベーションだけが医療を進化させるのではない。重要なのは、サービスモデルのイノベーションです」と石見氏。

多くの医師にとってヘルステックを自分事として捉える機会は少ないかもしれない。しかし最近は、30代くらいでテクノロジーの活用を含めて主体的にキャリアを考える医師、起業する医師も少なくないという。

「医療界では、業際的領域に活躍のチャンスがある。たとえば高齢者増で最近よく話題に上るようになったフレイルや、心理学、栄養学の領域など。整形外科医であれば、フレイルの領域でテクノロジーを使って何ができるかなど、自身のキャリアや臨床経験に立脚し、どんなテクノロジーを融合させられるかを考えるといい。PHRやEHR、AI、ICTなどをいかに融合させるか。テクノロジーありきではなく、医療の方向性、自身のキャリアプランに応じてテクノロジーを取り入れる、というアプローチが重要です」

テクノロジーの知識は
医師に必須の資質になる

今後、どのような速度でヘルステックが進展するのか。

「遠隔医療だともっとも早いのは画像診断で、数年先にくる未来だと思います。それでも最終的に診断し、責任を担い、患者に伝えるのが医師であることは変わらない。テクノロジーによって自動化される部分が増えれば、医師の役割はソフト部分が中心となり、コミュニケーション能力がより問われることになります」

またテクノロジーが用いられる原動力は、「必要に迫られること」。在宅医療のニーズが高まることでオンライン診療が導入される、普及が加速化する、という構図だ。

「テクノロジーはあくまでツールであり、サービスモデルをイノベーションするうえでテクノロジーを融合させる、という位置づけです。遅くとも今の30代の人たちが社会の中心軸にくる20年後、早ければ10年後にはブレークスルーが起きることも考えられる。テクノロジーのリテラシーが医師に必要な資質になることは間違いないでしょう」

図表1● 日本の医療体制の大きな変化の方向性
出典:メドピア株式会社提供
図表2● 国の「健康寿命延伸に向けたデータヘルス改革」
厚生労働省「第4回データヘルス改革推進本部」資料(平成30年7月30日)
メドピア開催「Health 2.0 ASIA - JAPAN」
毎年開催されている「Health 2.0 Asia – Japan」。全国から医師や産官学、各業界のキーパーソンが参加している。写真は2017年実施のもの。
写真提供:メドピア株式会社
ヘルステックのスタートアップ企業など、日本、世界のヘルステックが集結。「最先端のテクノロジーから医療が変わることもある」と石見氏。医師も最先端が何かを知っておきたい。
  • 新時代に求められる医療機関

国が示す〝あるべき像〟に合致し、〝地域最適〟を最優先に
体制を整備。連携に努める医療機関が、求められ続ける

株式会社日本経営
専務取締役
銀屋 創
同社で医療機関の税務会計、財務コンサルタントとしてキャリアを積んだ後、病院経営コンサルティング分野の中心メンバーとして活躍。2006年に九州大学医学系学府医療経営管理学修士を修了。現在も病院の問題解決に直接携わるかたわら、150病院以上のコンサルティング実績に基づき、講演も多数行っている。

銀屋 創氏 写真

株式会社日本経営
NKアカデミー事業部
統括マネージャー
濱中洋平
急性期病院の経営改善を中心に、経営戦略策定、病院建替コンサルティング、経済産業省研究プロジェクト等に従事し、医療機関の経営コンサルティング業務を中心に多くの支援実績を有している。コンサルティング以外にも、講演や一般企業の研修等、幅広く活動を行っている。

銀屋 創氏 写真

医療機能と患者像の実態が
求められる役割と合っているか

「これからは、オールジャパンでは難しい。都道府県の単位で医療機関の再編が行われ、2030年くらいまでに、地域ごとの事情に合わせた体制が整理されるでしょう」と医業経営コンサルティングファームの株式会社日本経営の専務取締役である銀屋創氏は語る。

「ポイントは“地域最適”です。その地域になくてはならない役割を担い、“この地域は私たちが診ます”という覚悟を持った医療機関だけが存続していくように思います」(銀屋氏)。

それは具体的にはどんな施設か?同社NKアカデミー事業部統括マネージャーの濱中洋平氏は、「数次の診療報酬改定を経て、急性期、回復期、慢性期の“あるべき像”(役割)が明確化されました。これがまさに、国が示す『求められる医療施設』の条件だと思います」と語る。

濱中氏によると、“あるべき像”は、医療機能(人員体制等や設備)と患者像(医療必要度、平均在院日数等)の設定によってコントロールされている(図表1)。“あるべき像”に近い病院ほど地域に求められ、診療報酬も見込めて、明るい将来が展望できる(図表2)。逆に、“あるべき像”とギャップが大きい病院は、実態に即した対応を迫られる。それは主に、自院の医療機能に妥当な患者を集めるか、患者像に合わせて自院の医療機能を転換するか、ということだ(図表3)。

「各地の地域医療構想調整会議では、病床機能報告制度のデータを元に病床を適正化しようとしています。地域の医療体制の現状と将来の姿が数字で見えますから、ギャップのある病院は、医療機能の転換も含めた対応が迫られるでしょう」(濱中氏)

さらに、2019年10月の消費増税も控えている。14年の増税時は、医療機関の仕入れにかかる消費税が診療報酬で補填された。しかし、特に急性期病院では、十分な補填がなされていなかったとの報告が出ており、今回の増税による影響も医療機能の転換に繋がるかもしれない。

では、求められる医療機関であるためにはどう進むべきか。

銀屋氏は「急性期病院は基本的には減少しますが、個別には再編統合が望ましい。地域で質の高い医療提供の役割を果たすためには、医師や職員が十分に集まることも重要です。病院数が減っても規模が拡大すれば、診療面のみならず、働く環境も整いやすいでしょう」と語る。

転換などについてはどうか。濱中氏は、「急性期病院が地域包括ケア病棟を導入してケアミックス化すると、短期的にはよいかもしれませんが、従来そこを担っていた中小病院と役割が重複する可能性があります」と語る。日本の病院の約7割は中小病院(図表4)だが、18年の診療報酬改定では200床未満の中小病院に限り、サブアキュート(在宅や介護施設などの居宅施設からの受け入れ)に重きを置いた地域包括ケア病棟が評価された。今後はここに注力するケースが増え、急性増悪の入院患者は中小病院に集まり、急性期病院の受け入れは減少する可能性があるという。

「急性期病院は、直接サブアキュートが担えるように、介護施設や在宅医との連携を強める、もしくは、中小病院から重症患者を紹介されるような関係構築を図る、ことなどが地域で求められるでしょう」(濱中氏)。

医療機関も医師も今後は
「人が集まる実力」がカギに

慢性期病院に関しては、医療必要度の高い患者を集め続けられるかどうかがポイントとなる。

「看護師などの人事交流を含めた急性期病院との連携がカギになると思います。急性期病院としても、患者の転院先が安定することで“あるべき像”に即した医療を提供できるようになります」と濱中氏(図表5)。

いずれにしても、求められ続ける病院であるには、他と“連携”できるかどうかが大きなポイントといえる。

最後に、このような状況変化のなか、“求められる医師”であるには何が必要か。銀屋氏はこう語る。

「医療機能が明確化されていくなかで、医師にはゲートキーパー的な役割が今まで以上に要求されると思います。一方、仕事内容は、本当に医師でなければならない業務に収斂されていくはずです。病院では、医師事務作業補助者の業務拡大やITの普及が進むでしょう。また、2025年以降には医師不足が解消し、余剰になる見通しです。将来的に活躍できるのは、“人が集まる”医師。スキルや人間性が高く、『あの先生に診てもらいたい』『一緒に働きたい』と思われる医師が要望されるでしょう」

図表1● 医療機関の“あるべき像”の考え方
図表2● 病期ごとの“あるべき姿”と自院の実態が合っているか
図表3● 診療報酬を踏まえたギャップの捉え方
図表4● 病床数別の医療機関数
・日本の病院の約70%は、200床未満の中小病院
出典:中央社会保険医療協議会 総会(第344回)資料より
図表5● 求められる病院であり続けるためには連携が不可欠
・これからは、患者を中心とした時代への対応として、地域における⼈材の統合の考え方も重要となってくる。
・急性期病院は連携先病院への⼈材育成支援や人材供給が求められ、後方病院は急性期病院等からの戦略的な⼈材受け入れや組織統合が求められる。
図表1・2・3・5出典:株式会社日本経営・濱中氏提供