世代別意識調査発表!何が違う?どう埋める?医師の世代間ギャップ

医療制度や教育制度の変化、病院体制や患者構造の変化、医療ITの進展などにより、医療分野でも一般社会と同様、意識や考え方において「世代間ギャップ」が起きやすい。世代間ギャップでコミュニケーションに支障をきたせば、仕事の効率化からは遠ざかりストレスも溜まる。そこで医師に、世代間にどのようなギャップがあるか、それをどう乗り越えているのかを調査した。ギャップを埋めるヒントを探りたい。

  • 世代別・意識実態

社会変化や医療研修制度の違いなどによって
医師像やキャリア形成に世代間ギャップ

医療情報の充実など
環境の変化も世代差の要因

まずは「医師像」と「キャリア」に対する意識についてみていきたい。

世間では医師は聖職とされることも多いが、医師の多くはそう思っていない(Q1-1)。特に25歳〜34歳の若手医師に「いいえ」が多い。

50歳以上のベテラン医師では最も多い約23%が「聖職だと思う」と回答。また約85%は「高い使命感を要する職業」(Q1-2)と答えており、使命感を持ち続けた経験から聖職という自負を得たようにも伺える。

「医師は生涯職か」(Q1-4)では、35歳〜49歳の中堅医師で最も「はい」が多く、若手では約23%が「いいえ」と答えている。若手医師では近年、医師免許を取得した人が別の仕事に就く例もあるほか、年数が短く職業意識が定まっていない可能性もある。対して中堅医師では経験を積んだことで生涯職と定めた感がある。ベテラン医師は「どちらともいえない」との回答も多く、60代の医師などが仕事を続けるか、リタイアするかを検討しているとも推測される。

求人も多い中堅医師は「キャリアの自由度」を最も実感(Q1-5)。

キャリア形成(Q2)には社会の変化や医師研修制度の変遷(下図)が影響していると思われる。

転職経験者は中堅医師以上で増加(Q3)。若手医師も転職によるキャリア形成や現状改善に意欲的だ。

キャリア形成で重視するもの(Q4)では、若手医師は「収入・待遇・ワークライフバランス」、中堅医師では「専門性追求・将来性」、ベテラン医師では「勤務環境、安定性」と、世代の差が如実に表れた。

資料● 医師研修制度の変遷
医師年齢 開始年 制度 概要
75歳 1968年 臨床研修制度の開始 医師免許取得後に2年以上の臨床研修(努力規定)
63歳 1980年 ローテート方式導入 内科系、外科系、救急診療部門のうち2つ以上の診療科を研修する
58歳 1985年 総合診療方式導入 内科系、外科系、小児科、救急診療部門を研修する
39歳 2004年 新医師臨床研修制度の開始 医師免許取得後2年以上の臨床研修の必修化。スーパーローテート方式導入。アルバイト禁止。
※医師年齢は、制度開始時25歳だった人の2018年現在の年齢を示す

医師像

Q1-1 「医師は聖職だ」と思う
Q1-2 「医師は高い使命感を要する職業だ」と思う
Q1-3 「医師は社会的地位の高い職業だ」と思う
Q1-4 「医師は生涯職だ」と思う
Q1-5 「医師はキャリア自由度の高い職業だ」と思う
Q1-6 「医師は労働者だ」と思う
医師像についてのフリーコメント
医師が偉いと勘違いする医師がいる(30代前半・男性)滅私奉公のような精神論はやめ、専門職労働者として扱われるべき(30代前半・男性)「医師は聖職」という年配医師の講義があったが、実際は「医療専門職=労働者」(40代前半・男性)医師に同じ毎日はなく、医師は一生勉強、一生技術の向上、一生世の為を思って毎日を過ごすべき(40代後半・男性)医師は専門職で、聖職ではない。労働者であるから労働条件は守られるべき(50代前半・男性)医師とは自己研鑽が社会貢献に繋がっていく聖職(50代前半・男性)自己研鑽が常に必要な職業(50代後半・男性)医療福祉は聖域と思うが、医師は聖職ではない。プライドはあるが、社会的な地位が高いとはいえない(60代前半・男性)

キャリア

Q2 医局について、ご自身のキャリア上あてはまるものは?
Q3 転職についてのお考えは?
Q4 キャリア形成で重視するものは?(複数回答)
25歳〜34歳 35歳〜49歳 50歳以上 全体
収入 88.6% 82.1% 76.6% 80.4%
待遇(役職など) 71.4% 50.9% 44.2% 50.0%
専門性追求・スキルアップ 45.7% 50.3% 42.2% 46.4%
勤務環境 68.6% 72.8% 77.3% 74.3%
ワークライフバランス 82.9% 72.8% 66.9% 71.3%
安定性 37.1% 43.9% 46.1% 44.2%
将来性 34.3% 37.0% 25.3% 31.8%
その他 5.7% 4.0% 3.2% 3.9%
あてはまるものはない 2.9% 0.6% 0.6% 0.8%
※色部分=3世代のなかで最高値の世代

働く意識には意外な結果も?
互いの本音を知っておきたい

働き方についても世代間ギャップがある。

働き方のスタンス(Q5)で「診療や患者さんを優先したい」と答えた割合は若手医師約17%、中堅医師約24%、ベテラン医師約31%と、ベテラン医師ほど多い。一方、ワークライフバランス重視は若手医師に多く、約69%を占める。とはいえ、中堅医師、ベテラン医師でも60%前後と大差はない。「若手は自分の生活を大切にすることにためらいがなく、見習いたい」(50代前半・男性)といった声も。程度の差はあれ、ワークライフバランス重視の姿勢が大勢になっている様子が伺える。

ストレスを感じること(Q6)では各世代ならではの結果がみてとれる。若手医師では過重勤務、プライベートの時間のなさなどが筆頭。対して中堅医師では「専門以外も診なければならない」「研究・自己研鑽の時間が取れない」といった、働き盛りならではのストレス、また一般社会でも中堅世代に頻出する「人間関係がうまくいかない」嘆きもある。

そしてベテラン医師では「組織・チーム運営に関することが負担」が多く、現場以外の仕事にも責任が生じることが負担になっているようだ。

このように、自分とは別の世代が立場や環境変化によってストレスを抱えていることを知ることは相互理解のヒントになるかも知れない。

やりがい(Q7)では、「患者を助けている実感」「社会の役に立っている実感」との回答はベテラン医師に多く、「高い報酬」と答えたのは若手医師に多い。世代間ギャップともいえるが、実は共通点も多い。若手医師、中堅医師、ベテラン医師とも、上位3位は「患者さんを助けている」「社会の役に立っている」「患者さんからの感謝」と共通しているのだ。

また若手医師には「専門性を追求している実感」、「難易度の高い仕事をやり遂げている実感」「日々の成長実感」との回答も多い。もし中堅医師やベテラン医師がそれらを意外に感じるとしたら、世代間で多少のすれ違いがあるとも考えられる。

さらにベテラン医師では「共に仕事をする人からの感謝」を挙げる人も多い。このような本音を知ることもギャップを埋める緩衝材になる。

働き方

Q5 働き方のスタンスで近いものは?
Q6 働き方で特にストレスを感じることは?(複数回答)
25歳〜34歳 35歳〜49歳 50歳以上 全体
過重勤務で心身に負担 48.6% 46.2% 35.7% 42.0%
(当直時も含め)専門以外も診なければならないのが負担 28.6% 33.5% 31.8% 32.3%
研究・自己研鑽の時間が取れない 5.7% 19.7% 15.6% 16.6%
プライベートの時間が取れない 60.0% 40.5% 35.7% 40.3%
柔軟な働き方が認められない 45.7% 34.1% 24.0% 30.9%
組織・チーム運営に関することが負担 25.7% 28.3% 30.5% 29.0%
人間関係がうまくいかない 20.0% 22.5% 18.2% 20.4%
その他 8.6% 6.4% 5.8% 6.4%
特にストレスを感じることはない 8.6% 6.9% 9.7% 8.3%
※色部分=3世代のなかで最高値の世代
キャリアや働き方で悩みや解決したいことは?
医局に恩を返したいが、医局の方向性が自分の生き方と違いすぎて辞めたい(30代前半・男性)権限に比べて責任が重すぎ、臨床や教育、ましてや研究の時間が十分に取れない(30代後半・男性)さまざまな治療法や治療指針なども含めて相談にのってくれる指導者が欲しい(30代後半・女性)専門性を生かすより、病院の利益を優先させる立場で働いている気がする(40代後半・男性)医療のIT化や働き方改革に積極的な職場で働きたい(50代前半・女性)昔の考え方が通用せず、複数の医師の要望を調整するのに苦労(50代後半・男性)
Q7 医師の仕事でやりがいを感じる部分は?(複数回答)
25歳〜34歳 35歳〜49歳 50歳以上 全体
患者さんを助けている実感 51.4% 58.4% 65.6% 60.8%
社会の役に立っている実感 57.1% 53.2% 59.1% 56.1%
難易度の高い仕事をやり遂げている実感 28.6% 28.9% 26.0% 27.6%
専門性を追求している実感 45.7% 45.1% 37.0% 41.7%
日々の成長実感 22.9% 20.2% 16.2% 18.8%
患者さんからの感謝 51.4% 51.4% 61.0% 55.5%
共に仕事をする人からの感謝 20.0% 20.2% 25.3% 22.4%
高い報酬 48.6% 34.1% 26.0% 32.0%
その他 2.9% 1.2% 1.3% 1.4%
特にやりがいを感じない 5.7% 2.3% 3.2% 3.0%
※色部分=3世代のなかで最高値の世代
やりがいについてのフリーコメント
やりがいはあるが、労働負荷と収入が見合っているかが全て(30代前半・女性)やりがいという言葉は過重労働に気づかせない悪い意味での魔法の言葉(30代前半・男性)裁量権が広いし、働き方の選択の自由がある(30代後半・男性)命を救っているという実感(40代前半・男性)たくさんの人の生き方に影響を与えうること(40代前半・女性)仕事の成果が見えやすく、プロ意識を持って仕事ができる(50代前半・女性)研究の実績や後進の育成にもやりがいを感じる(50代前半・男性)本当の意味での人助けは難しいが、それに向けて探求・鍛錬していくことができる(50代前半・男性)
  • 世代間ギャップ

意識や行動が異なる背景を理解することが
世代間ギャップを埋める第一歩

ほかの世代を理解し
努力、歩み寄る医師も

「医師同士で世代間ギャップを感じたことはない」と答えたのは全体の約14%にすぎず、全体の約85%、特に若手医師では約94%が世代間ギャップを感じている(Q8)。

「QOL重視の医者が増えてきた。しかしそれは良い事。ゆとり世代を感じさせる研修医もいるが、それは時代のせいと思うしかない」(40代前半・男性)など、ギャップを受け入れようとする声もある。また「部下たちは我々にギャップを感じていると思うので、可能な範囲で配慮している」(60代前半・男性)といったベテラン医師もいる。

若手医師の中には「一緒に飲みに行って考えを聞く」(20代後半・男性)という声も。

「臨床研修医制度経験医師との意識の差」(40代前半・男性)「育ってきた環境、学ぶ環境が違うので、ギャップは仕方ない」(30代後半・女性)など、研修制度の違いによるギャップを実感している医師は少なくない。意識や行動が異なる背景を理解することが、ギャップを埋める第一歩といえそうである。

Q8 医師同士で世代間ギャップを感じるのはどんなとき? (複数回答)
25歳〜34歳 35歳〜49歳 50歳以上 全体
医師としての職業観・価値観 22.9% 15.0% 18.2% 17.1%
仕事に関する意識・行動 17.1% 17.9% 22.7% 19.9%
働き方に関する意識・行動 31.4% 31.8% 17.5% 25.7%
組織やチームに対する意識・行動 8.6% 5.2% 7.1% 6.4%
人間関係に対する意識・行動 11.4% 6.4% 10.4% 8.6%
患者に対する意識・行動 0.0% 7.5% 1.9% 4.4%
その他 2.9% 4.6% 3.2% 3.9%
ギャップを感じたことはない 5.7% 11.6% 18.8% 14.1%
※色部分=3世代のなかで最高値の世代
上司・先輩医師に感じる世代間ギャップ
研修医制度前と後でギャップがあるように思う(20代後半・男性)この仕事を単なる職業以上のものと考えている(30代前半・男性)一生勤務医という以外の選択肢はないようにみえる(30代前半・男性)当直明けの勤務緩和や時間外労働の賃金請求に否定的(30代後半・男性)自らキャリア形成する文化がないケースが多い(30代後半・男性)出世に対する考え方(30代後半・男性)50代以上:絶対的な上下関係。40代:体育会系のにおいは残るが無理強いはしてこない。30代(自分たち)意外と体育会系の意識が残る(30代後半・男性)専門特化したキャリアの場合ローテート研修者との経験値が異なる(40代前半・男性)患者さん優先の考え方(40代後半・男性)
部下・後輩医師に感じる世代間ギャップ
患者さんへの思い入れの深さの違い(30代後半・女性)若いころは早く一人前になるために病棟に張り付いて、常に色々なことを吸収しようとする姿勢を求めてしまう(40代前半・男性)結婚、出産年齢も早く、仕事について割り切っている(40代前半・女性)勉強不足と感じることもあるが、世代間ギャップゆえそう感じるだけで、実際にはちゃんと勉強しているのだと思う(40代後半・男性)ギャップはあまり感じないし、後輩であっても尊敬できる人間はいる(50代前半・男性)40代前半の世代に、リーダーになるべき立場であることを認識している人が少ない(50代前半・男性)感受性が強すぎて自滅・不安定になる人も多い気がする(50代後半・男性)

「世代間ギャップ」私はこう考える

30代前半 ・ 男性 ・ 一般病院 ・ 一般内科

ギャップを埋めるには勤務の中で
自然に培われた尊敬が重要

私は臨床研修制度開始数年後に医師免許を取得し、医局には属さずに自身で医師としてのキャリアを築いてきました。臨床研修制度開始前は大学卒業後にほとんどの医師が医局に所属していたため、教育環境や医局の体制などが上司・先輩の意識、行動、価値観に大きく影響し、それが我々世代とのギャップを生む要因になっていると思うことが多々ありました。

また現在はインターネットで様々な情報が簡単に手に入り、それによって価値観が多様化したり、キャリアの方向性を見つけることがあったりします。自身の目指す方向に向かって努力していると、同様の考えや価値観を持つ、医師以外も含めた人脈が広がります。インターネットの普及で、それがより容易になったと思います。

自身でキャリアを形成してきた後輩の中には、非常にクレバーで、キャリア形成の目的が明確な人が多く、そんな後輩から影響を受けることも多々あります。

ギャップを埋めるには他者への尊敬が最も重要であり、上司・部下への尊敬は、一緒に勤務していく中で自然に培われたものであるべきと思います。

50代前半 ・ 男性 ・ 精神科病院 ・ 精神科

若手のドライさに疑問も抱くが
年長者の理解も必要

時代が違えば価値観も違いますから、世代間ギャップが必ずしも医師特有のものとは思いませんが、医師における世代間ギャップには、医学部の難化や、インターネットなどで医療や医師の情報が一般にも身近になったことなどによる医学界での権威の崩壊なども影響していると考えます。

後輩を見ていると、損得勘定がみえて、患者さんや社会のことを考えているのだろうか、と疑問に思うことがあります。改善が必要だと思うのは、「医学的な正しさを主張することに一生懸命で、患者さんやご家族の気持ちへの思いやりなど、情けに欠けてみえる」という点です。日々、人格の陶冶が必要だと思いますし、職場で接する職員や患者さんたちから社会を学び、仕事以外の経験をもっと大切にして欲しいとも思います。

以前なら若手に任せていた仕事を、今ではベテランもしますし、指導まで増えて疲弊することも。また若手の側の「指導があって当然」という姿勢にストレスを感じることもあります。しかし、ギャップを埋めるには、我々のような年長者が、若手の置かれた状況を良くも悪くも理解する必要があると思います。