収入、スキル、働き方・・・ キャリアの悩みにプロがアドバイス こんなときどうする?医師の転職・誌上相談

求めるものは「やりがい」か「報酬」か、それとも「公私ともに充実した毎日」なのか。待遇・働き方・退局・転科・キャリア設計など、現状に迷いが生じたり、何らかの決断を迫られたりしたとき、何を考え、どう動いて次なるキャリアにつなげたら良いのだろうか。医師の転職を支援するキャリアアドバイザー(以下CA)に寄せられた相談実例から、失敗しない、納得のいく転職を叶えるために留意すべきポイントを探る。

動機は妥当か、目的はぶれていないかを自問し、
流行りや感情に流されずに、キャリアを俯瞰する

変えたいものは何か――
それは転職で叶うのか?

経験者が転職の動機に挙げるのは「待遇改善」「退局」「家庭の事情」「人間関係」などさまざま(グラフ参照)だが、目的はおおむね「ワークライフバランス」「報酬アップ」「やりたいことの実現」の3つに分かれる。CAによると、「生活の質をあげたい」「もっと家族との時間を持ちたい」などペースダウンを望む人は性別や年代を問わず多いが、漠然とした不満は転職が解決策とはならない場合もある。“本当の悩みや希望とは何なのか”、行動を起こす前に熟慮することが重要となる。また、いつの時代にも「人間関係の悩み」は上位に挙がるが、「科によって関わり度合いも違い、異動の可能性もあるので、 まずは“どこに行っても相性の悪い人は一人や二人はいるもの”くらいの気持ちで臨んでみては」(CA)とアドバイスする。

長い目でキャリアを捉えて
専門性と柔軟な姿勢で臨む

一方、CAが“気になる動向”と口を揃えるのが「若手医師の転職希望の増加」だ。医師の活躍の場や働き方が多様化していることや、若手ほど診療報酬改定や国の動きに敏感で、早くからキャリアと収入のバランスを探る傾向にあることなどがその背景として考えられるが、最近では専門医などの資格を取る前に医局を離れたり、初期研修を終えた段階で独自の道を歩み始める人も少なくないのだという。

CAも「専門医などの資格は転職する際にも有利にはたらくので、まずは少し頑張って専門医を取得してから次のキャリアを考えてみては」と助言するが、同時に「資格は経験と診療技術を裏付ける一つのめやすであり、患者さんやご家族の安心にもつながるのだということを心得て欲しい」 というベテラン医師らの声も伝えるようにしているという。

また、転職におけるミスマッチの多くは、医師は自身の専門領域だけに関わることを希望し、採用側は主治医として専門領域を超えて合併症等にも広く対応して欲しいと願うという、認識のズレに起因する。

「専門科目を活かしつつ、施設側が求めることにも柔軟に応じる姿勢が示せれば、転職の選択肢は大きく広がります」(CA)。

とかく隣の芝生は青く見えるもの。「まず、本当に“いま”なのか、転職で自分の希望は叶うのか、周囲を見渡してじっくり考えてみることが大切」(CA)だ。

それではいくつかの事例から、スムーズに転職を果たすコツを探ってみよう。

転職動機は?(複数回答)
出典:「医師の転職に関する意識調査」(2018年3月・本誌調査・有効回答数377人)
  • CASE1 収入&スキル

病院から法人経営のクリニック院長への転身で
QOLと報酬を確保し、地域医療貢献の夢も実現

A氏の相談内容

40代前半・男性 / 一般病院・小児科 / 年収1700万円

急性期病院の小児科部長として週5日勤務、週に3度は夜間の呼び出しを受ける生活で心身共に限界を感じ始めている。年収を維持しながら、通勤に負担のない場所でオンコールの少ない勤務に変えることで、子育てにも関わりたい。また、漠然とではあるが開業希望もあり、小児科医としての地域貢献にも強い関心がある。

活躍の場を変えて、
キャリアと意欲を“燃え尽き”から救う

A氏は600床規模の急性期病院の小児科の部長職として、常勤医4名体制で診療にあたっていた。このうち夜間のオンコールに対応できるのがA氏を含む2名のみで、週1回の当直に加え、週の半分は夜間の呼び出しに応じざるを得ない状況が常態化していた。オンコールに応じた分の手当は別支給とはいえ、家でも気持ちの休まることのない生活に家族はA氏の“バーンアウト”を心配し、A氏自身も“さすがに働き過ぎなのでは”と危機感を抱くようになり、相談に至った。

A氏は専業主婦の妻と子どもの3人家族。当人の希望は、①子どもが小さいので年収を維持したい、②通勤に体力的な負担がかからない、③オンコールが少ないことの3点で、条件が満たされれば病院でもクリニックでも構わないというものだった。しかしCAは、「A氏は責任感が強くやさしい性格で、無理をしてでも“自分が頑張ります”というタイプ。オンコールが少ない条件で入職したとしても、数年後には今と同じ状況に陥ることが十分に予測できるので、オンコールが多少なりともある病院勤務は避けた方が無難」と判断した。また、開業についてA氏は「小児科クリニックの院長として、学校や保育園、生活の場にもっとも近い場所で、子どもたちの健康と成長を継続的に見守ることで、地域に貢献したい」との思いは抱いていたが、「現時点では具体案も借金を背負う心づもりもない」とのことだったので、小児科クリニックでの勤務を中心に検討を進めた。

その頃、本部とその周辺地域において10か所以上のクリニックを運営する医療法人が、前任者が病気のために退職した小児科クリニックの院長職を担える人材を探していた。A氏の住まいからそのクリニックまでは、通勤ラッシュのない下り方面の電車で乗り換えなしで行ける。外来のみの無床の診療所なので夜間の呼び出しもなく、ほぼ時間通りに終われることや子どもが多い地域で安定した集患が見込めることなど、A氏の希望する条件にもぴったりマッチした。

結果

「命を救う」から
「地域の子どもの生活と健康を守る」へ

週5日勤務、オンコールなしの外来診療のみで、初年度の年収は1700万円をキープ。勤務時間は9時から途中2時間の休憩を挟んで19時まで。2年目以降は実績給に変わるが、前任者の年俸を考慮すれば2000万円を超える見込み。A氏は「小児科医として地域貢献をしたい」との思いも、「夜、子どもに勉強を教えたい」という希望も叶えた。

CAからのポイント解説

やりがいと待遇を両立させる
クリニック院長職という選択

通常、勤務が楽になった分収入も下がるが、「子どもの総合医」である小児科医にとって、急性期から地域医療への移行はスキル面でのハードルが低く、収入も維持もしくはアップが期待できる。タイミングにもよるが「雇われ院長」なら、借金を負うリスクもなく、努力次第で開業医と遜色ない報酬を手にできる。

  • CASE2 退局

呼吸器外科の臨床を続けるためにエリア替えをし
大学と遜色のない手術レベルを保てる施設へ移る

B氏の相談内容

30代前半・男性 / 大学病院・呼吸器外科 / 年収1000万円(外勤込)

大学院で研究をしながら、呼吸器の専門医として数多くの手術を手掛ける多忙な毎日を送ってきたが、来年の教授選の結果がほぼ確定し、このまま大学に残っても研究を続けることも、思うような症例を経験することもできなくなる可能性が高いため、このタイミングでの退局を決意。呼吸器外科医として臨床を続ける道を探りたい。

入職前の手術トライアルで
不安や疑問を払拭

B氏の所属する医局は広範な地域で大きな影響力を持っていたため、“呼吸器外科を続ける以上は転居は避けられない”ことはB氏自身も覚悟していた。“研究”にはとくに未練はないが、“呼吸器外科としてきちんと手術ができるところ”が第一条件に挙がった。ただし、呼吸器外科は“ついでに乳腺もやって欲しい”といわれることが多いが、「乳腺に関わるつもりはない」との意思表示だけは明確になされた。

そこでまず、「どの地域までなら行けそうか」を話し合うことから始めたのだが、そもそも呼吸器外科に特化した求人は滅多に出回ることがない。ほどなくCAは当初の想定よりエリアを少し広げる提案をすることになる。そして、現在地から新幹線で2時間以内で行くことのできる地域をめやすに、沿線にある急性期病院を片っ端から当たって、「呼吸器外科の若手医師」の受け入れを検討している2施設を探し出した。

そのうちの一つ、400床規模の急性期病院の最終面接では、B氏が手術の助手に入るトライアルを実施。B氏の技術が極めて高かったことから、施設側からも「ぜひ来て欲しい」と熱心な働きかけがあり、B氏自身もスタッフのスキルや手術室の環境・設備を自分の目で確かめることで、安心して入職を決めることができたという。この病院ではそれまで常勤2名(50代と40代)体制で呼吸器の手術を行なってきたが、症例数の増加に対応すべく、新たにB氏(30代)の採用に至ったわけだが、年齢構成の点でも理想的な体制が構築されたといえる。

また、転居をともなう転職を成功させるには家族の同意が必要不可欠となる。CAは家族も一緒に現地を訪れて、病院や周辺の生活環境を見て回ることを勧め、最終面接日には住まいの候補もいくつか案内した。このプロセスを踏むことで、夫婦とも街の規模や生活環境が2人の出身地の状況と似通っていて安心感が持てたこと、妻も、現在育休中とはいえ医療従事者であり、夫の仕事に理解があったことなどが幸いして、話はとんとん拍子に進んだ。

結果

臨床レベルを保てる施設で
余暇と報酬アップを獲得

B氏に対する病院側の評価は極めて高く、卒後10年目までは病院の規定に則り年収は1400万円(週5日勤務、当直は月3〜4回)にとどまるが、年限を超えた時点での昇給が約束された。

B氏は、「今は働く年代だと思うので、週に何日か家に帰れて、子どもの顔が見られるのであれば十分」との考えで、転職に際してワークライフバランスは重視していなかった。「呼吸器外科の手術をするということは、忙しい病院に勤務することとイコール」との覚悟があったからだが、医局時代、空き時間は研究室にこもって仕事し、大学病院での仕事に加えて月6回の当直外勤と外来の非常勤勤務をこなし、“家には寝に帰るだけの生活”を続けていた毎日から一転、期せずして休日をしっかり確保できる働き方を手に入れたことになる。やりがいの面でも、「民間の病院でこのようなレベルの手術ができるのであれば、大学病院から移っても何ら違和感がない。医局を出る決断をして本当に良かった」と満足度の高いものとなった。

CAからのポイント解説

退局の明確な理由を準備し、
エリアを替えてスキルを守る

退局の場合、科によっては思い切ったエリア替えで選択肢はぐんと広がる。また、退局理由も重要で「きついので辞めたい」程度では医局から代替案を出されて結局辞められないことに。退局した先輩の話を参考にしたり、家族の体調を理由にするなど、大義名分を準備しておくことがスムーズな退局につながる。

  • CASE3 退局

円満退局のため、1年待って転職。
一人医長の経験・スキルを買われ、
大病院で耳鼻科の立ち上げに尽力

C氏の相談内容

30代後半・男性 / 大学病院・耳鼻咽喉科 / 年収1100万円

医局の関連病院で年収1500万円(外科当直が月4回)で勤務しているが、来年度、やや遠方の病院への異動が打診されており、年収も1100万円に下がるという。少人数の医局で一人常勤のできる医局員がほかにいないため、「是非に」と懇願されているが、まもなく2人目の子が生まれるので、退局を考えている。

穏便な退局に努め、
開業に役立つ経験の積める病院へ

相談を受けてCAが候補施設の絞り込みを始めた段階で、C氏が退局の話を教授にしてしまい猛烈な引き留めに合う。将来的には地元での開業希望のあるC氏は、ひとまず教授の顔を立て、「一年間異動先に勤務するので、その間に後任を探して欲しい」と妥協案を提示。転職活動を一旦中止して、異動後の4月からその一年後に向け活動を再開した。妻も医師で早期の復職を考えていたことから、保育園の送迎などを分担する必要があると考え、立地優先で検討を進めた。C氏は一人医長の経験が豊富だったため、それまで耳鼻科の常勤医が不在だった急性期病院から「耳鼻科の立ち上げを任せたい」との申し入れがあった。C氏も診療の終わる時間が遅いクリニックより病院の方が家庭との両立が図り易いと判断。“開業後に役立つ外来が豊富に経験できて、手術もできる”という希望にも合致していたため、転職を決めた。

結果

〝できること〟をアピールし
より良い待遇を手にする

周辺に耳鼻科のクリニックが少なく集患が見込めたこと、C氏が手術やめまいのコンサル、嚥下の機能評価などさまざまなことに対応できたことが高評価につながり、当直なしの実質週4・5日勤務で1500万円と規定超えの額が提示された。

CAからのポイント解説

転居不可、開業希望ありなら
“波風立てぬ退局”が賢明

「将来、同エリアで開業したい」「転居不可」等の事情がある場合はとくに慎重かつ順序立てて転職活動を進め、穏便な退局に努めたい。耳鼻科や眼科は一人常勤体制のとれる「診療能力と覚悟」の有無が成功を決める。より良い条件を求めるなら、「できること」を積極的にアピールし、自身の市場価値を高める努力を。

  • CASE4 スキル

再び術者として第一線に立ちたい――
子育てを卒業し、学べる環境でキャリアの再構成に挑む

D氏の相談内容

50代前半・女性 / クリニック・眼科 / 年収1200万円

かつては眼科の専門医として手術も手掛けていたが、出産を機にクリニックに移り、一般眼科外来中心の勤務にシフト。今春、これまで女手一つで育ててきた息子が大学に入り家を出たので、もう一度手術が学べる環境に身を置くことで、再び術者として戦力になれるようがんばりたい。

“学びたいこと”と“需要”の合致が、
年齢のハンデを克服

D氏の希望は「指導体制がしっかりしていて、ある程度仕事を任せてくれるところ」で、報酬は二の次、転居も厭わなかった。そこでCAが、眼科専門医の認定施設を中心に当たったところ、年齢に難色を示す施設が多いなか、眼科のセンター化を予定している病院から好感触が得られた。常勤医を現在の5〜6名から10名程度にまで増やし、高齢化で増加する白内障や緑内障の手術ニーズに応える計画だという。D氏は、入職以来十数年間に渡って待遇据え置きに甘んじていたほど押しの弱い性格。慎重を期して、転職希望時期の10か月前から動き始め、半年前に退職を申し出たが、結局、強い引き留めに合い、退職直前まで揉めることに。転職先の病院には面接と手術見学の二度足を運んで外堀を固めつつ、根気よく院長の説得を続けて無事退職に至った。

結果

向学心を武器にして、
スキルアップと待遇改善を果たす

当直なしの週5日勤務で、年収は卒年規定に基づき1500万円とアップ。新幹線で一駅40分の場所への転居をともなったが、勤務時間もクリニックのときに比べて短かくなり、業務も外来と手術を担当。当初は手術助手として学びながら、徐々に独り立ちを目指すという満足のいく転職が果たせた。

CAからのポイント解説

条件の見直しと学ぶ姿勢が
学び直しや転科を成功に導く

50代での「学び直し」や「転科」は容易いとは言い難いが、転居や収入ダウンなど何かしらの妥協点を見いだせれば可能性は残る。ただし、外科系のブランクは5年くらいまでで、それ以上になると俄然厳しくなる。いずれの場合も「本人に学ぶ姿勢があるか」「新たな分野で応用の利く経験やスキルがあるか」が成否を分ける。

  • CASE5 転科

泌尿器科領域のサポートを約束することで、
開業に役立つ内科のスキルを習得する機会を得る

E氏の相談内容

40代前半・男性 / 一般病院・泌尿器科 / 年収1700万円

400床規模の総合病院で泌尿器科の部長として勤務しているが、時期は未定ながら、近い将来、自宅近くでの開業を希望している。泌尿器科単科では外来数が見込めないので、集患の望める内科を学びながら仕事のできる環境、できれば開業後も病診連携の関係性が保てる病院に転職をしたい。

“期間限定”という負の要素を
謙虚さと柔軟な姿勢で補う

開業に役立つ内科外来を多く経験できる施設を中心に探していったが、こうしたケースに対する病院の反応は「教えを乞う姿勢があるか」「どのくらいの期間勤められるか」の二点。その点、E氏は「極めて謙虚で、面接の場での辛口な質問にも誠実かつ誠意をもって熱意を伝えることのできる人物」(CA)だった。E氏が“1〜2年内の退職はない”と明言したこと、同様の経緯で開業した前例があったこと、泌尿器科の欠員補充が必要だったことなどから、実家周辺の地域に10か所ほど関連の診療所を持つ病院が関心を示した。病院はE氏に、内科外来の研修を主軸として、病診連携で送る患者の様子を知るための病棟業務、そして泌尿器科のサポートを求め、E氏もこの条件に応じた。

結果

学びながら報酬も確保し、
開業に向けて一歩前進する

外科と泌尿器科の専門医を持つE氏。前職の年収は1700万円(当直週1回)だったが、自身は“勉強期間と割り切って”年収は1000〜1200万円を切らなければよいというスタンスだった。結果、年収は当直週1回込みで1500万円、前職との差額分は優先的に当直に入ることで解消をはかることに。「看護師の妻と二人での開業」という夢に向かって一歩踏み出した。

CAからのポイント解説

転科では医師の立場や
環境の変化に順応する能力も必要

ある程度経験を積んだ人の転科は年齢的なリミットもあるが、 何より“学びたいという意欲と姿勢”が重要。また、受け入れ側もメリットが感じられるよう、先方の条件もある程度のむ必要がある。外科系から内科系への転身は、他職種との関係性やリーダーシップの取り方がこれまでと違うということを認識する必要がある。

  • CASE6 転科

予防や早期介入の重要性を痛感した脳外科医の経験を、
産業医という新たなフィールドに活かす

F氏の相談内容

40代後半・男性 / 一般病院・脳神経外科 / 年収1400万円

脳神経外科で長年“一番の若手”として手術の数をこなし、かつ雑務や土日の病棟当番も率先して担ってきた。このほど一名の退職が決まり、さらなる激務が予想されるため、最後のキャリアチェンジの機会と捉え、産業医の資格を生かす道はあるか、ほかにどのような選択肢があるのかを知りたい。

その企業において、
“自分に何ができるか”をアピール

F氏は専業主婦の妻と子どもの4人家族。希望は「収入はしばらく維持したいが、脳神経外科や手術にはこだわらない」というもの。F氏は脳外を経験するなかで、予防や早期介入の必要性を痛感したことで、産業医資格を取得。この仕事への関心が高かったため、候補を産業医一本に絞り込んだ。

ただ、産業医は人気が高い一方、求人が少なく、未経験となるとさらに採用には困難をともなう。F氏が書類選考を通過した2社のうちの1社は、産業医が常時30名ほどいて、“40代後半・未経験”がそれほどネガティブ要素にならず、教育体制も整う大企業。そこに照準を合わせて徹底して面接対策を行ない、産業医活動に対するF氏の思いや志望動機だけでなく、企業研究に基づき“自分がどう貢献できるか”をアピールすることに注力して面接に臨み、みごと内定を勝ち取った。

結果

報酬減を外勤で補い、
平穏でメリハリのある働き方を入手

週4日勤務の嘱託社員(1年更新)で1200万円強。前職との差額は、週1日のリハビリ外来の外勤で補う。「学ぶことは多々あるが、移ってよかった」とF氏も“オン・オフのメリハリのついた、安心して長く続けられる”仕事を得て満足している。

CAからのポイント解説

時期も重要な産業医への道。
嘱託で経験を積む方法も

産業医の求人は首都圏に集中しており、未経験者の受け入れは基本的には40代まで。ただし、「求められる年齢や経験」はその時々の企業の年齢構成にも依るので、タイミング勝負の部分もある。すでに転職期日が決まっているなら、健診医をしながら嘱託産業医として経験を積んで、正規の産業医を目指す方法もある。

  • CASE7 働き方

子育てという一過性の課題に縛られずに、
長期的な視点でキャリアアップが見込める転職を実現

G氏の相談内容

50代前半・女性 / 一般病院・小児科 / 年収1400万円

シングルマザーで二人の子の面倒をみるため、周産期から小児の診療体制が整う病院で、当直免除、朝だけフレックスを認めてもらい、その代わり、病院の近くに住み、両親の手を借りながらオンコールや残業をすべて引き受けている。両親も高齢で、子どもの就学後は環境が変えられなくなるので、このタイミングで次なるキャリアに踏み出したい。

長期的視点でキャリアを捉え
“やりがい”もステップアップ

当初、自宅や実家のある路線沿線を当たったが、働き方や収入面で条件を満たす案件はあっても、G氏の希望である“妊婦健診から産婦人科と協働体制のある施設”は見つからず。G氏は子どもの夕飯を作りに帰り、すぐに病院に戻る生活が苦にならないほど仕事への意欲が高い。CAは「一過性の子育てや親の介護ではなく、自身のキャリアを優先して考えてみては」と提案し、エリアを大幅に拡大。勤務条件はもちろん、教育や子育て、病院、治安など周辺の住環境も合わせて検討を進めると、すでにNICUの開設準備が整い、専門性の高い医師が見つかればすぐにでも稼働できる状態にある施設が最有力候補に挙がった。G氏も「子育ての段階に合わせて徐々にキャリアアップできる」こと、子育て支援体制が整っていて「周りに負い目を感じずに気持ちよく働ける」と転居をともなう転職を決断した。

結果

子育て支援策も整い、
働き方・待遇・意欲のすべてが充足

NICUの経験があり、外傷センターや救急外来にも対応可能な点が高く評価され、週4日勤務、当直やオンコールなしで、年収1500万円が提示された。また、G氏のリーダーシップやコミュニケーション力には、産婦人科との協働を促進する役割が大いに期待されている。

CAからのポイント解説

状況の変化や家計の収支にも
目を向けて、居住地域を選ぶ

子育てや介護など目の前の“課題”を解決することだけに意識が向きがちだが、状況は必ず変化するので、自身の人生やキャリアを二の次にするような転職は避けたい。また、ひとり親家庭や子育て支援策は自治体ごとに大きく異なるため、とくに転居をともなう場合、行政サービスなど、支出という視点での比較も重要。

  • CASE8 キャリア設計

キャリア形成の通過点と捉え
地域を限らず〝学べる環境〟を優先
集患増が期待されて報酬もアップ

H氏の相談内容

40代前半・男性 / 一般病院・脳神経外科 / 年収1800万円

300床規模の二次救急病院の副センター長として、これまで一般的な脳外科の手術を手掛けてきたが、40代に入ってから専門性を高めるために“脊椎”を学びたいと思うように。妻の実家のある地域に戻るタイミングで、脊椎の手術を教えてくれる施設に移り、キャリアアップをはかりたい。

指導医との相性を見極め、
“脊椎を学びたい”を叶える

子どもも小さく、“あと25年は第一線で頑張らなければ”というH氏にとって、キャリア設計は最重要課題。脊椎といえば整形外科を連想するが、整外と脳外では術式も所属学会も異なり、脳外で脊椎を強みとする病院は極めて少ない。エリアを広げて探すとようやく「一般の脳外症例も診てもらえるのであれば、空き時間に脊椎の症例を集めて教える」という施設が浮上した。これまで常勤10人体制で働いてきたH氏。2人体制では相性が重要になるため、CAは“選考”の形をとらずに学会後の会食の場で2人を引き合わせた。H氏はシャイな性格だが誠実で、指導医にあたる人物は話し上手で、面倒見が良く、すぐさま二人は意気投合。その後、H氏は家族旅行を兼ねて施設を訪れ、周辺環境も見て回り、最終的には元看護師の妻と指導医の後押しにより転職に至った。

結果

希少な専門性に対する評価は高く、
次のステップに繋がる

近隣にはほかに脊椎の手術のできる施設がなく、2人体制が確立すれば今後も医療圏内での集患増が見込めるため、病院側もH氏の入職を歓迎した。年収は週4・5日勤務、当直なしで2000万円を確保。H氏は念願の“脊椎手術”を学ぶ環境を獲得し、脳外科医としてさらなるキャリアアップを実現した。

CAからのポイント解説

医療圏内で集患が見込めれば
学べる施設は自ずと見つかる

“やりたいこと”が決まっていれば、エリアを限定せずに、“医療圏でどの程度集患が望めるか”という観点で探すのも一案。ニーズがあれば教えてくれる人も現れるし、病院側も受け入れるメリットを感じる。回り道のように見えても、一定期間じっくり学ぶことで、次は経験者としてベストな転職が叶う可能性が高まる。