429人の働く実態&意識 働き方改革 医師のホンネ

厚生労働省では医師の労働時間短縮や負担軽減など、適正な働き方を目指すための議論を進めている。では最前線で働く医師たちは現在の勤務環境や働き方についてどう感じているのだろうか。本誌では働き方についてのアンケートを敢行。労働時間や当直の回数といった現状や、負担が重いと感じていることなど、現役の医師429名のホンネに迫った。さらに働き改革の議論に参加している若手医師にも話を聞いた。

  • 勤務実態のホンネ

診療以外の業務に負担を感じる医師が多い。
「働き方が過重」と答えた医師は約6割。

勤務時間や休日は適正以下
体制に不安を感じる医師も

働く環境や意識について緊急アンケートを行い、429人の医師から回答を得た。回答者属性をみると、年齢は各年代分散しており、勤務先は大学病院と救急指定病院で半数強、勤務形態は常勤のみが4割、常勤+非常勤が半数弱となっている。

まずは勤務実態について見ていきたい。主たる勤務先の1日当たりの労働時間(Q1)については、もっとも多い回答が8時間。しかし9時間、10時間以上が半数近くを占める。医師自身が適正だと思う時間の平均は約8時間であり、それを上回る医師が少なくないことがわかる。

当直回数(Q2)、オンコールの回数(Q3)も適正と思う回数を大きく上回っている。

週の休日日数(Q4)は、適正だと思うのが平均2日なのに対し、1日との回答が34%。週に1日も休みがない時がある、ない時が多いとの回答も約19%、というのが実態だ。

睡眠時間(Q5)も、適正と思う7時間を確保できているのは32%弱。約27%は5時間以下で、慢性的な睡眠不足の医師も多いと推察される。

では実際に医師たちが「キツイ」「辛い」と感じるのはどんなことか。

Q6を見ると、「休日が取れない」「当直明けに十分休めない」「睡眠時間が十分に取れない」など、休みについて辛さを感じる医師が多いことがわかる。業務量の多さ、幅広さ、事務作業の多さも辛さの原因になっており、自己研鑽の時間が取れないという、医師特有の悩みも伺える。

環境・体制・制度面(Q7)では、「交代人員がいない」「フォロー体制がない」など、体制にゆとりがないことに不安を感じている医師が多い。「業務に見合う給与でない」「経営方針がよくない」なども数値が高い。

業務の中で負担が大きいと感じるもの(Q8)では、「当直・オンコール」に続き、事務作業や会議など、診療以外の業務を挙げた医師が多い。

Q9では、現在の働き方が「過重ではない」が約40%を占める一方で「過重で心身への影響が心配」が約22%、「過重で心身への影響が既に出ている」が約12%と、看過できない結果となっている。

Q1 主たる勤務先の1日あたりの労働時間(日直の場合)
適正だと思う時間平均 7.9時間/日
Q2 月の当直回数は?
適正だと思う回数平均(全体)1.9回/月
適正だと思う回数平均(当直がある者のみ)2.5回/月
Q3 月のオンコール回数は?
適正だと思う回数平均(全体)2.3回/月
適正だと思う回数平均(オンコールがある者のみ)3.4回/月
Q4 週の休日日数は?
適正だと思う日数平均2.0日/週
Q5 平日の平均睡眠時間は?
適正だと思う時間平均7.0時間/日
Q6 【業務・働き方】において、現在「キツイ」「辛い」と感じることを全てお選びください。(複数回答)
Q7 【環境・体制・制度】において、「キツイ」「辛い」と感じることを全てお選びください。(複数回答)
フリーコメント
  • ●専門性の高い分野は替えが利かず、自分がやるしかない。相談もできない(50代前半・男性)
  • ●内科の中でもマイナーな科目で一人医長のため、時間の自由がない(50代前半・男性)
  • ●当直明けは12時で帰れることになっているが、実際は病棟管理上、帰ることができない。その分の残業代は出ない(30代前半・男性)
  • ●医療事務がおらず、診断書やレセプト記載に時間がかかる(40代前半・男性)
  • ●大学病院勤務医は薄給なため、非常勤にて生活費を賄うことになるが、病院業務を残された時間で行うことになりハード。有給も、上司も取らないため取れない(30代後半・女性)
  • ●院長のパワハラがひどい。内部告発もあるが対処されず(50代後半・男性)
Q8 業務の中で負担が大きいと感じるものを全てお選びください。(複数回答)
フリーコメント
  • ●医療秘書がいても詳細な病状記載の必要があり、時間がとられる(50代前半・男性)
  • ●会議が多く、診療・教育の時間を確保すると研究に時間が割けない(40代後半・男性)
  • ●クレーマーが多い(60代前半・男性)
  • ●教育に対する評価が低い(40代前半・男性)
  • ●患者に接する時間よりも事務・管理業務が多い。自己研鑽できない。評価されず、フォローもない(50代前半・男性)
  • ●事実上365日24時間拘束される(50代前半・男性)
  • ●1人当りの入院受持患者数が不均等。多くの患者の受け持ちを強いられるうえに外科系患者の術前対診や術後の合併症の対応まで依頼される事が多い。事務的作業の依頼も多く、多忙(40代後半・男性)
  • ●臨床以外の書類作成・会議などが増えている(50代前半・男性)
  • ●入院、外来の患者数の多さに加えて健診や初診患者対応も多い。診察中の事務や病棟看護師から電話がくるなど、労働環境が整備されていない(40代前半・男性)
Q9 今の働き方は過重だと思いますか?
フリーコメント
  • ●当直業務が負担。当直前後で休む時間がない。拘束時間も長い(40代前半・男性)
  • ●24時間365日対応を1人でまっとうし、ほぼ完全にフル拘束(50代前半・男性)
  • ●睡眠負債が積み重なり、疲労も解消されない悪循環(40代前半・男性)
  • ●寝られずに働くことも多く、医療事故を懸念(50代前半・男性)
  • ●休憩時間がない。チーム制でないため代打がいない(30代後半・女性)
  • ●休日に趣味やスポーツに取り組む体力が残らない(50代前半・女性)
  • ●心因性の体調不良に罹患。辞職を決めたら回復(40代前半・女性)
  • ●当直回数を減らすか、医師間で平等にして欲しい(40代前半・男性)
  • ●赤字病院のため、売り上げ増加を日常的に指示される(50代前半・男性)
  • 改革のホンネ

休日確保など、負担の軽減を望む医師が大半。
自身ができる範囲で改革を進めている医師も

施設、国民、医師自身
三位一体の改革が望まれる

働き方改革について、医師はどう思っているのだろうか。

特に改革が必要だと思う項目(Q10)は、「休日の確保」「負担の少ない当直・オンコール体制」「時間外勤務への正当な手当支給」など、医師たちが負担に感じていることの改善が上位を占めた。タスクシェア、タスクシフト、ICT活用などによる負担軽減を求める声が多いことも特筆すべき点といえる。「育児・介護支援」、「柔軟な勤務制度」など、働き続けられる環境を求める声も多い。「患者対応体制」「医療安全体制」も多くの医師が挙げており、安心して働ける体制の整備が望まれている。

では実際、現場では働き方改革は進んでいるのだろうか。

医師の評価はQ11のとおりで、「進んでいる」との回答は約17%。「現在は進んでいないが、今後進むと思う」が約25%あるものの、今後についても期待できないという医師が約58%と大半を占めている。

Q12で改革が進むために必要なものを問うたところ、もっとも多かったのは「国民の理解・意識改革」。医療水準に対する要求が高くなっているほか、医師の不在に不満を抱く患者に対する医師の苦悩を感じさせるコメントも多い。

働き方改革が進まない理由について(Q13)は、医師やコメディカルスタッフを増やすにも予算がないなど、財政面を指摘する声、施設の本気度を問う声が少なくない。

環境が変わらなければ自身で働き方を変えるという道もある。そこで自身に働き方を変える必要が生じたことがあるか聞いたところ(Q14)、「ある」が約70%を占めた。理由(Q15)は、「体力的な辛さ」「精神的な辛さ」が、「家族の事情」や「ワークライフバランスのため」を上回っており、改革が急務であると考えられる。

具体的な行動として(Q16)「勤務先を変えた」医師も多いが、「自分でできる範囲で」「周りに協力を仰ぎ」「上長に相談して」など、改善に動いた医師も多かった。

Q10 「働き方改革」で、特に改革が必要だと思う項目を全てお選びください。(複数回答)
Q11 現在の勤務先で「働き方改革」は進んでいますか?
フリーコメント
  • ≪改革進んでいる、今後進みそう≫
  • ●有給休暇を積極的に取得するよう促されるなど改革が進んでいる(50代前半・男性)
  • ●他職種からだが残業削減され、医師側にも自然と時間内に仕事を終える習慣ができやすいと感じる(30代後半・男性)
  • ●時間外勤務の管理をこれまでの月単位から週単位にかえるなど、実態を把握する動きが出ており、改革が進みそう(30代後半・男性)
  • ≪今後も改革されない≫
  • ●人件費を抑え営業収益を確保する経営最重視のため(50代後半・男性)
  • ●時間外労働の把握すらできていないのに働き方改革どころの話ではない(50代前半・男性)
  • ●経営陣が実質を理解していない(50代前半・男性)
  • ●歴史があって前例のないことには動けない。リーダーシップを取って責任のある決断をする人がおらず、現状維持になる(30代前半・男性)
  • ●進めようと考えているが、現場と上層部の考えが乖離しており、施行不能 (40代前半・男性)
  • ●医師を使い捨てと考えている病院なので(40代前半・男性)
Q12 「働き方改革」が適正に進むのに必要だと思うものを全てお選びください。(複数回答)
フリーコメント
  • ●国民の理解が必要。赤ひげ先生を理想医師とする国民性、国民皆保険制度に対する国民の甘さが邪魔をしている。政治家も同様に考えている例が多い(40代後半・男性)
  • ●病院・施設などの運営陣の本気さ。彼らにとって臨床医は駒に過ぎない(30代後半・男性)
  • ●国の働き方改革。医師は高級取りだからどこまでも働くべきだと政府が考えている(40代後半・女性)
  • ●国の医療制度改革が必要。取り組みが生ぬるい(50代前半・男性)
  • ●医師自身の意識改革や努力が必要。しかし休みを取ったり、施設に異論を唱えると,研修機会や仕事(業績・発表・貴重な症例経験)を得られなくなったり、出世コースから外されたり、希望の地域で働けなくなることもある(40代前半・女性)
  • ●医師は自己犠牲すべきと自他ともに思っているが、医師自身の改革推進のための活動も必要(30代後半・男性)
Q13 医療界の働き方改革がなかなか進まないのは何故だと思いますか?
フリーコメント
  • ●世代間の認識の違い。特に若い頃に頑張っていて今はそれほど過重労働になっていない幹部医師からの理解が得られない(40代後半・男性)
  • ●保健医療により医療費が定額化されており、収入を増やすには長時間勤務や夜間・休日返上の勤務が必要(50代後半・男性)
  • ●応召義務や宣伝の禁止など、公共性が要求されすぎ、市場原理が働かない(30代前半・男性)
  • ●高齢化が進む中、医療費削減ありきは間違い。自由診療も認めて医療を成長産業と認識し、自由競争できる体制支援をすべき(50代後半・男性)
  • ●医師の偏在や診療科の偏在が影響している(30代後半・男性)
  • ●求められる医療水準と社会保障費にギャップがありすぎる(40代前半・男性)
  • ●診療報酬制度や業務量が減らないままに時間制限だけ作れば患者診療に影響が出てしまう(40代前半・男性)
  • ●応召義務がある限り改革できない(50代後半・男性)
  • ●今までの慣例や習慣、例えば当直明けには休みはなく、そのまま通常勤務することが当たり前であるという考え方が横行している。昔の考え方をがらっと変える必要がある(50代前半・男性)
Q14 今までご自身に「働き方を変える必要」が生じたことがありますか?
Q15 働き方を変えた方、理由を全てお選びください。(複数回答)(n=297)
Q16 働き方を変えた方、その時にとられた「行動」を全てお選びください。(複数回答)(n=297)
アンケート概要
◆調査方法:リクルートドクターズキャリア会員登録者へのインターネット調査
◆調査期間:2018年4月16日〜4月26日
◆有効回答数:429人(掲載グラフ中、注釈のない場合はn=429)
◆男女比:男性 81.8% 女性 18.2%

事例・「自分で働き方改革」

転職40代前半・男性・一般病院・救急・総合診療科

医師の負担を少しでも減らすため
一番の原因である当直体制の見直しを提案

医師の疲弊の一番の原因は当直業務です。医師が集まる病院にするために、当直体制の見直しを何度も幹部に訴えかけました。当直翌日の午後は休める体制、患者数の多い準夜帯だけでも当直医が休める体制、2人当直制(内科系+外科系)から1人当直制へ、などを提案。結果、週1日だけ、準夜帯を午後出勤の救急医がカバー、21時以降は1人当直制、という体制となり、当直の負担は減らすことができました。全ての平日に適応したかったのですが、残念ながらそこまでは実現できませんでした。その他も勤務環境の改善のために幹部にいろいろと訴えましたが、聞き入れられないことも多く、私自身はワークライフバランスのとれた勤務環境を実現できる病院に異動する決断に至りました。

転職40代前半・男性・一般病院勤務・麻酔科

転職で家族との時間が増え、余裕ができ
医師としてのスキルアップも感じる

38歳の頃、数カ月後に初めての子どもが産まれるという時期に、ある病院から誘われたのをきっかけに転職を考え始めました。その病院とはご縁がありませんでしたが、自身の働き方を考え直す大きな転機になりました。それまで平日の労働時間は平均12時間、当直が週に1回、土日祝日の当日直が月に2〜3回。当直の翌日も平日は通常通りの激務でした。その後の転職で、現在は基本的に17時には業務終了。1時間程度の超過が週に1回程度、2時間以上は月に1回程度で、土日祝日は休み、宿直・オンコールともになしです。給与も増えました。家族と過ごす時間が増えたのが何よりです。より患者一人ひとりに向き合えるようになり、医者としての腕は上がっているように感じます。

転職30代前半・女性・一般病院勤務・産婦人科

夫に育休を取ってもらうなど
周囲の協力で、働く環境を改善設計

出身大学で研修後、医局に入ったので、そのまま医局人事に従い仕事をしていく、というビジョンしかありませんでした。しかし結婚・出産を経て、働き方を抜本的に見直しました。幸い夫の職場は男性でも長期の育児休業取得が可能なため、2人目の子どもが生まれるときに長期育児休暇を取得してもらい、その間に夫の実家に近い場所へ転居。医局を辞めて近くの総合病院へ転職しました。上司には当初から子育てを疎かにしたくない気持ちを伝え、体調不良や行事のときには休みをもらえる環境で働かせていただいています。その分、家族にサポートしてもらって可能な範囲で当直、待機を請け負っています。働き方をアレンジしながら、産婦人科医を長く続けていくことが目標です。

  • Special Interview

医師の労働環境について求められるのは
質の高い医療を提供するための働き方改革

医師の働き方改革について医師たちの本音を聞いてきた。ここでは厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」に、大学病院の医師という立場で参加する猪俣武範医師に、医師個人としての意見をお話し頂いた。あるべき改革とは、また医師の役割とは何か。

「医師の働き方改革に関する検討会」構成員
順天堂大学
医学部眼科学教室
猪俣武範
2006年順天堂大学医学部医学科卒業、2008年東京大学医学部附属病院臨床研修修了、2012年順天堂大学大学院医学博士課程眼科学にて博士号取得。2012年から米国ハーバード大学眼科へ3年間留学し、米国ボストン大学経営学部でMBA取得。医師と患者、病院と医師、病院と製薬会社などをつなぐネットワークの能力と、医師の仕事にもマネジメントが重要と考える。「日本の医療サービスは最高水準。これをキープし、さらに向上させたい」

猪俣武範 写真

診療、教育、研究など
医師の特性に応じて規制

「医師の働き方改革に関する検討会」で、現役の医師として構成員を務める猪俣武範医師。図表1のような論点が挙がっており、猪俣医師自身は医師の働き方改革を「質の高い医療、質の高い職場環境の確保を目指すための改革」と位置付けている。

「医師も一人の人間であり、労働法の例外ではありません。しかし医師には診療のほかに、研究、学会活動、自己研鑽、教育などの時間も必要であり、一般的な職業と同様に単純に労働時間を規制したのでは、質の維持・向上にも影響が及びかねません。『質の高い医療を提供するための働き方改革』であるべきで、特例的な扱いが設けられるべきと考えます」(猪俣氏)。

また「医師の仕事は、診療や手術を通じて後輩医師を育てる、診療が研究の一環になるなど、モザイク状に絡み合っています。当直勤務を日中の勤務時間と等しく扱うか、オンコールの待機時間も仕事をしている時間とするかなど、定義が明確でない部分もあります。労働時間を規制するのであれば基準を明確化するといったことも必要になるでしょう」

医師の負担軽減、質向上には
業務の効率化が欠かせない

さらに、医師にもワークライフバランスが不可欠であり、過度な負担があってはならない。そこで必須となるのが診療をはじめとする業務の効率化だ。「効率化により医師にしかできない仕事に費やす時間、患者と向き合う時間をいかに増やすかがポイントです。検討会が今年2月に発表した、医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組(案)(図表2)、でもタスク・シフティングの推進を挙げています」と猪俣氏。

たとえば図表2の④で示されているような業務を看護師など他職種に移管することで、医師の仕事の効率化を進めることができる。

猪俣氏は、AI(人工知能)、ICT(情報通信技術)、IoT(モノのインターネット)などの活用によってオペレーションを効率化させることも、推進課題だと話す。「夜中の見守りや、遠隔診療などでは、ロボティクスの技術も応用できるでしょう」

さらに「たとえば米食品医薬品局(FDA)では、糖尿病網膜症を検出するAIを用いたデバイスを承認し、将来的に眼科の専門医でなくても糖尿病網膜症の診察が可能となります。日本においても、AIの予備診断に医師の診療を組み合わせるハイブリッド化などで、効率化、高度化が可能だと思います」と語る。

猪俣氏自身も、ドライアイ予防や回復をめざすアプリを開発・実用化したほか、花粉症アプリケーションを開発して保険診療から自己管理へシフトさせる取り組みを行っている。自己管理で悪化を防ぎ、来院が減れば効率化、医療費削減にも繋がる。

「患者の利点であるフリーアクセスを保持する、医師の負担を減らしながら質を向上させる、適切な待遇を整備する。それらをともに実現するには効率化が不可欠。一方、効率化のためには人材の育成やシステムの構築などに一定の導入コストがかかるほか、待遇を改善するにも予算が必要です。医療費には限りがあるので、必要性の低い受診が減るように取り組む、主治医制からチーム制への移行に理解を得るなど、患者さんの意識改革を促すことも重要です」

効率化や待遇改善の予算をどう生み出すか、患者の理解をどう促すか。

「そこには医師自身の経営センスやマネジメント能力も問われるでしょう。診療をするだけではない。今後、医師には、そうした視点や意識が、ますます必要になると思います」

「自身が変わる」
「周りを変えていく」が第一歩

検討会の議論も進み、医師の働き方改革は具体的に動き出そうとしている。医師によってはタスクシェアリングなどに抵抗もあるようだが、「効率化により自己研鑽が図れる、という図式を明確に認識すれば見方が違ってくるのではないでしょうか」

猪俣氏自身は、10年単位でビジョンを設定し、そこから逆算して取り組むべき課題を見出しているという。多忙な中で課題に取り組むため、「自分にしかできないことを厳選し、やらなくてもよいことは省く」ことを心掛けているという。

「結果を出せば周囲の評価も変わります。ビジョンをしっかりと持つことで、気持ちがブレないようにしています」。氏の「会得したことを現場にフィードバックする」「自分の時間の1%は世の中や他者のために使う」といったスタンスも、周囲の理解を得る秘訣だろう。

「まずは自分から変わる、自分の周りから変えていく、というスタンスが大きな改革に繋がると思います」

図表1 医師の働き方改革に関する検討会における主な論点案
(第2回検討会における議論を踏まえた更新版)

1 医師の勤務実態の正確な把握と労働時間の捉え方

  • ●医師の勤務実態の精緻な把握
  • ●労働時間への該当性
  • ●宿直業務の扱い
  • ●自己研鑽(論文執筆や学会発表等)や研究活動の扱い

2 勤務環境改善策

  • (1)診療業務の効率化等
  • ●タスクシフティング(業務の移管)、タスクシェアリング(業務の共同化)の推進
  • ●AIやICT、IoTを活用した効率化
  • ●その他の勤務環境改善策(仕事と家庭の両立支援策等)の検討
  • (2)確保・推進策
  • ●医療機関の経営管理(労働時間管理等)の在り方 、意識改革
  • ●勤務環境改善支援センターの機能強化、地域医療支援センター等との有機的連携
  • ●女性医師の活躍支援
  • ●その他勤務環境改善のための財政面を含む支援の在り方

3 関連して整理が必要な事項

  • ●時代やテクノロジーの変化を踏まえた、医師の応召義務の在り方
  • ●病院の機能(特に都市部を含む救急や産科)、医師の偏在、へき地医療等、適切な地域医療提供体制の確保との関係
  • ●医師の労働時間の適正化、医療の利用の仕方に関する国民の理解

4 時間外労働規制等の在り方

  • ●時間外労働規制の上限の在り方
  • ●医療の質や安全性を確保する観点からの勤務の在り方
  • ●適切な健康確保措置(休息・健康診断等)の在り方
出典:厚生労働省「第3回 医師の働き方改革に関する検討会 参考資料1」
(2017年10月23日)
図表2 医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組(案)

1 医師の労働時間管理の適正化に向けた取組

  • 医師の在院時間について、客観的な把握を行う。ICカード、 タイムカード等が導入されていない場合でも、出退勤時間の記録を上司が確認する等、在院時間を的確に把握する。

2 36協定等の自己点検

  • 36協定の定めなく、また、36協定に定める時間数を超えて時間外労働をさせていないかを確認する。また、医師を含む自機関の医療従事者とともに、 36協定で定める時間外労働時間数について自己点検を行い、業務の必要性を踏まえ、長時間労働とならないよう、必要に応じて見直しを行う。

3 既存の産業保健の仕組みの活用

  • 労働安全衛生法に定める衛生委員会や産業医等、既存の産業保健の仕組みが設置されていても十分に活用されていない実態を踏まえ、活用を図ることとし、 長時間勤務となっている医師、診療科等ごとに対応方策について個別に議論する。

4 タスク・シフティング(業務の移管)の推進

  • 各医療機関においては、医師の業務負担軽減のため、他職種へのタスク・シフティング(業務の移管)を推進する。
  • 〇初療時の予診
  • 〇検査手順の説明や入院の説明
  • 〇薬の説明や服薬の指導
  • 〇静脈採血
  • 〇静脈注射
  • 〇静脈ラインの確保
  • 〇尿道カテーテルの留置(患者の性別を問わない)
  • 〇診断書等の代行入力
  • 〇患者の移動
  • 等については、平成19年通知(※)等の趣旨を踏まえ、医療安全に留意しつつ、 原則医師以外の職種により分担して実施することで、医師の負担を軽減する。

5 女性医師等に対する支援

  • 医師が出産・育児、介護等のライフイベントで臨床に従事することやキャリア形成の継続性が阻害されないよう、各医療機関において、短時間勤務等多様で柔軟な働き方を推進するなどきめ細やかな対策を進める。

6 医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組

  • 各医療機関の置かれた状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組として、
  • 〇勤務時間外に緊急でない患者の病状説明等の対応を行わないこと
  • 〇当直明けの勤務負担の緩和(連続勤務時間数を考慮した退勤時刻の設定)
  • 〇勤務間インターバルや完全休日の設定
  • 〇複数主治医制の導入
  • など各医療機関・診療科の特性を踏まえた取組を積極的に検討し、導入するよう努める。

(※)「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」
(平成19年12月28日医政発第1228001 号厚生労働省医政局長通知)

出典:厚生労働省「第7回 医師の働き方に関する検討会 資料2」(2018年2月16日)より抜粋