勤務医のためのDPC講座

DPCは診療報酬の計算や病院経営に役立つだけでなく、今いる病院や転職先と考えている病院の特色まで把握できる貴重なデータ。さらにどんな医師にとっても「専門性をどう伸ばしたいか」「今後どのような働き方をしたいか」など、将来を考える参考にもなると、話を聞いた2人の大学教授は口を揃える。今後も対象病院の拡大は続き、より重視度が増すDPC。勤務医が役立てるための基礎知識から応用までわかりやすく紹介する。

  • 基本解説

国が目指す医療の姿を示すDPC制度。
医療の透明化、標準化が進み、医師の評価にも影響

中央大学大学院
戦略経営研究科
教授
真野俊樹
1987年名古屋大学医学部卒業。医師、医学博士、経済学博士、総合内科専門医、MBA。臨床医、製薬企業のマネジメント、大和総研主任研究員などを経て現職。多摩大学特任教授、東京都病院経営評価委員、厚生労働省独立行政法人評価有識者委員などを兼務。『入門 医療政策』『医療危機−高齢社会とイノベーション』(いずれも中央公論新社)、『治療格差社会 ドラッカーに学ぶ、後悔しない患者学』(講談社+α新書)など著書多数。

真野俊樹氏 写真

急性期医療を行う病院の
80%以上がDPC制度を導入

日本における「診断群分類にもとづく1日当たり定額報酬算定」はDPC/PDPSと表記され(ここではDPC制度とも呼ぶ)、一部の病院での試行期間を経て、2003(平成15)年度に82の特定機能病院に導入されたのが始まりだ。

その後、対象は段階的に拡大され(図表1)、2018年度は1730病院・約49万床が導入の見込み。これは急性期一般入院基本料等に該当する病床の約83%に当たるという(厚生労働省「平成30年度診療報酬改定の概要 DPC/PDPS」(平成30年3月5日版)より)。

「今や病院の急性期医療ではDPC制度導入が当たり前に。だからこそ、導入の目的が医療の質の向上と標準化、それに見合った診療報酬の提供にあることを、勤務医も再認識したいところです。国が目指す医療の姿を示すのがDPC制度であり、それは医師一人ひとりの働き方をも大きく左右するからです」

日米の医療政策に詳しい真野俊樹氏はこう話す。現在のDPC制度は、アメリカのDRG/PPSを参考にしながらも、独自にDPC(診断群分類)を作成し手術は出来高払いとして残すなど、日本の医療現場と調整を図ったものだと評価する。

同制度を含む現行の診療報酬制度体系のイメージが図表2。周知のとおり、包括払いは慢性期の入院医療と外来医療の一部でも導入され、診療報酬は広い分野で出来高払いと包括払いの混合となっている。

DPC制度の包括払いでも
病院により差がつく理由

DPCという言葉自体は、ある患者に対し最も医療資源を投入した「傷病名=診断(Diagnosis)」と、提供した「診療行為(Procedure)」の組み合わせ(Combination)であり、診断群分類を意味している。

「そうしたDPCごとに入院基本料や検査などは包括払いで1日当たりの点数が設定され、これに出来高払いの部分を加えて診療報酬が決まります。しかし包括払いの部分でも、診療内容や病院機能によって差がつく仕組みになっています」

この要因となるのが在院日数と医療機関別係数(図表3、4、5)。在院日数はDPCに応じて3段階の設定があり、入院期間ⅡはDPCごとの全国平均在院日数を基準としている。それより早く入院期間Ⅰで退院すれば点数が加算され、全国平均より長引けば(Ⅲ)減算される。

「これらの入院期間や診療報酬の点数はガイドラインに沿った治療を行う前提で決められることが多く、DPC制度の拡大は標準治療のさらなる普及を促すと考えられます」

DPC制度が一般化したとき
医師に必要とされる力とは?

医療機関別係数は病院ごとの役割や機能で決まるほか、機能評価係数Ⅱなど医師やスタッフの取り組み次第で評価が変化するものも多い。

「ご存じのようにDPC関連のデータは公開され、各病院や診療がDPC別に比較可能です。このことは『A病院は標準治療で入院も短いが、B病院は……』といった情報共有、医療の透明化・標準化を進め、日本の医療の底上げや診療報酬の最適化につながるでしょう」

医師の診療内容もデータ公開されるわけだが、「DPC制度の意図を理解して標準治療に努めれば、多くの病院で通用する力が磨ける、とポジティブに捉えたい」と真野氏。

「ただ、そうなると高度急性期で手術に携わるような医師以外、技術力では差が出にくくなります。今後はDPC制度が求める標準治療の遂行力に加え、患者やスタッフとのコミュニケーション力など、ソフトスキルがますます重視されると思います」

図表1 DPC対象病院・病床数の変遷
注:平成15年度~22年度は7月時点、23年度~29年度は4月時点のデータ
出典:厚生労働省 診療報酬調査専門組織 D-1 参考1(平成29年5月24日)
図表2 現行の診療報酬制度体系のイメージ
出典:「第1回社会保障審議会 後期高齢者 医療の在り方に関する特別部会」資料(平成18年10月5日 )
図表3 DPC/PDPSにおける診療報酬の算定方法(概要)
図表4 1日当たり点数の設定方法(標準的なパターンの例)
図表5 医療機関別係数の概要
基礎係数 医療機関群ごとに設定する包括点数に対する出来高実績点数相当の係数 ●3つの医療機関群を設定
・大学病院本院群(Ⅰ群)
・DPC特定病院群(Ⅱ群)
・DPC標準病院群(Ⅲ群)
機能評価
係数Ⅰ
入院基本料の差額や入院基本料等加算相当の係数 ●5分野での評価
「病院の体制の評価」「看護配置の評価」「地域特性の評価」「特殊病室の評価」「療養環境の評価」
機能評価
係数Ⅱ
医療機関が担う役割や機能等を評価する係数 保険診療係数 適切なDPCデータの作成、病院情報を公表する取組み、保険診療の質的改善に向けた取組み(検討中)を評価
効率性係数 各医療機関における在院日数短縮の努力を評価
複雑性係数 各医療機関における患者構成の差を1入院あたり点数で評価
カバー率係数 様々な疾患に対応できる総合的な体制について評価
救急医療系数 救急医療の対象となる患者治療に要する資源投入量の乖離を評価
地域医療系数 地域医療への貢献を評価
激変緩和係数 診療報酬改定時の激変を緩和するための係数(該当医療機関のみ設定)
厚生労働省「平成30年度診療報酬改定の概要 DPC/PDPS」(平成30年3月5日版)より抜粋し作成

図表出典:図表に特に記載のないものは全て、厚生労働省「平成30年度診療報酬改定の概要 DPC/PDPS」(平成30年3月5日版)より抜粋

  • 最新情報と活用

医療機関別係数はじめDPCデータの分析で
各病院の診療方針や診療の特色が明確にわかる

東京医科歯科大学大学院
医療政策情報学分野
教授
伏見清秀
1985年東京医科歯科大学医学部卒業。医学博士。同大学院医歯学総合研究科准教授、同医学部附属病院医療情報部准教授などを経て現職。同大学医学部附属病院クオリティ・マネジメント・センター長、DPCマネジメント研究会理事、内閣府専門委員。専門は医療サービス研究、医療経済学、医療政策学など。『DPCデータ活用ブック』『民間病院DPC導入事例集』『院内ビッグデータ分析による病院機能高度化』(いずれもじほう)

伏見清秀氏 写真

DPCデータの提出が
多くの病院に広がる動きも

2018年度の診療報酬改定でDPC制度に関連した変更は、図表6、7のとおり。 継続性、連続性のため大幅な変更は行われないが、より精査され、今後の国の方針を反映したものとなっている。

まずは基礎係数の名称が、従来のⅠ、Ⅱ、Ⅲ群から病院の機能や役割を反映したものに変更された。また“どういった医療を行うか”という、医療のソフト面を評価する機能評価係数Ⅱは、評価方法などを細かく調整。なかでも地域医療係数は5疾病5事業等の急性期入院医療を評価するなど、医療計画の見直しに沿った形で調整が行われている。

内閣府専門委員も務める伏見清秀氏は、こう語る。

「DPC制度はすでに、急性期の入院医療の診療報酬を決める仕組みとして定着しています。今後もDPC制度の対象となる病院は増え、それ以上に、厚生労働省がDPC関連のデータ提出を求める病院は拡大すると考えられます」

国はDPCデータを、医療に関する重要な情報インフラと捉えている。そのため今後は、対象が一般病棟入院基本料7対1から10対1へと広がり、場合によっては地域包括ケア病床、慢性期の病床なども含まれるだろう、と伏見氏はいう。

「現在対象でなくても、いずれは多くの病院で病名の付け方やカルテの書き方などの形式を、DPC用に整えることになるでしょう。医師は、一時的に事務手続きに負担に感じるかもしれませんが、それによって診療内容が全国レベルで比較され、結果的には自分や病院が適切に評価されることになる、と考えてください」

DPCデータから病院ごとの
特色を読み取るポイントは?

では医師自身が、現在勤めている病院、あるいは転職検討先など他病院について、DPCデータから評価や特色を読み取るには、どのようなポイントに着目すべきだろうか。

「まず医療機関別係数から病院の機能や特性を確認するといいでしょう」と伏見氏。基礎係数は基本的な診療機能で、大学病院本院群(旧 Ⅰ群)、一定以上の医師研修の実施や診療密度を有する医療機関群がDPC特定病院群(旧 Ⅱ群)、それ以外がDPC標準病院群(旧 Ⅲ群)となる。

加えて機能評価係数Ⅰ、機能評価係数Ⅱがあり、前者は看護配置、地域特性などおもに病院の体制に関わる評価。後者がDPCへの取り組みや在院日数の短縮など、おもに病院ごとの診療の特性を示す評価となっている(図表5も参照)。

「機能評価係数Ⅱのうち、効率性係数が全国平均より高い病院は、在院日数の短縮に努めるなど急性期医療に力を入れており、低ければ慢性期の患者が多いことが考えられます。複雑性係数が高い病院は難易度の高い治療が多いことを示し、大学病院や地域の中核病院などに多いケースです。一方で地域係数や救急係数などは、周囲に同様の診療を行う病院があるかどうかでも大きく変わるため、そうした情報も加味して判断する必要があります」

質向上、効率化、標準化追求は
病院の体制変更にも繋がる

さらに病院を特色づけるのが在院日数。以前なら急性期は入院期間Ⅱまでの退院が目安だったが、現在、高度急性期病院の場合は、入院期間Ⅰまでの退院が必須になりつつある。

「在院日数は医療・看護必要度への影響も大きく、入院期間Ⅰを過ぎると、この指標が下がり始めます。これまでDPC対象の病院は急性期医療で一括りでしたが、今後は入院期間Ⅰまで在院日数が短縮できた高度急性期中心の病院と、そうでない病院に二分化すると思います」

在院日数を短縮するには治療精査だけでなく、回復期の医療機関や、在宅医療、介護施設などとの連携強化も必要で、場合によっては、院内に回復期リハ病棟を持つなど、体制の変更も視野に入れることになる。

「加えて、クオリティインディケーターとの関係を分析すると、ガイドラインどおりに抗生剤を使った病院は在院日数も短いなど、一定の相関関係がみられます。これにより、質の向上と効率化は医療の両輪のようなもので矛盾しないこと、ガイドラインに基づく標準治療はどちらにも貢献すること、がいえると思います」

診療科ごとに在院日数などのDPCデータを全国比較すれば、その病院が全国でどの程度強みを持てるのかもわかってくる。

「DPCの見方が浸透することで、急性期病院の在り方も精査され、今後は、急性期を維持するなら標準化、効率化を追求し、徹底した退院調整や地域連携も行う。でなければケアミックス病院へ変更する、など選択を迫られることにもなると思います」

自分に合ったキャリア選択に
役立つツールとして活用を

このように、DPC制度は今後の診療の方向性や病院経営などに深く関与してくる。たとえば勤務先の病院が特定病院群になるか標準病院群になるかによって病院の方向性は変わる可能性があり、ドクターにとっては今後も自分の専門性を生かせるかどうか、勤務先や診療科を見直す必要があるかどうかの分かれ道になる可能性もある。だからこそDPCについて今のうちに理解を深め、病院のある自治体の地域医療構想で急性期病院がどう扱われるのかを知り、自らの将来について判断する知識を身につけてほしいと伏見氏はいう。

「現在の病院情報の公表項目は図表8のとおりですが、今後はガイドラインの順守状況、標準治療の適用状況の追加も検討されています。実現すれば、病院の得意分野や診療内容、ガイドラインに沿った治療をどの程度行っているかまで、DPCデータで明らかになります。それらを自分に合ったキャリアパスの実現に役立てられるよう、情報を読み解き活用する力を磨いておくとよいでしょう」

図表6 平成30年度診療報酬改定におけるDPC/PDPSの見直し

調整係数の廃止(置き換え完了)に対応した医療機関別係数の整備

平成24年度改定から実施した調整係数置き換えを完了し、今後の安定した制度運用を確保する観点から医療機関別係数の再整理を行う。

  • 1.基礎係数(医療機関群):現行の3つの医療機関群の設定方法と、4つの評価基準(DPC特定病院群)を継続
    ※医療機関群の名称は、「DPC標準病院群」(現行のⅢ群)、「大学病院本院群」(現行のⅠ群)、「DPC特定病院群」(現行のⅡ群)に見直す
  • 2.機能評価係数ⅠⅡ:従前の評価手法を継続
  • 3.機能評価係数Ⅱ:後発医薬品係数、重症度係数を整理・廃止するとともに、基本的評価軸を6係数(保険診療係数、地域医療係数、効率性係数、複雑性係数、カバー率係数、救急医療係数)とし、係数の評価手法について所要の見直しを実施
  • 4.激変緩和係数:調整係数の廃止と診療報酬改定に伴う激変緩和に対応した、激変緩和係数を設定(改定年度のみ)

算定ルールの見直し

  • 1.DPC病院で短期滞在手術等基本料に該当する患者の報酬算定についてDPC/PDPS・点数設定方式Dにより算定
  • 2.一連の入院として取り扱う再入院の傷病名を整理(前入院の傷病名・合併症と再入院病名との関係についての見直し)

その他(通常の報酬改定での対応)

直近の診療実績データ等を用いた診断群分類点数表の見直し等、通常の報酬改定での所要の対応を実施

図表7 平成30年度診療報酬改定における機能評価係数Ⅱの見直しポイントまとめ
総論 ・導入時より評価されている6つの係数(保険診療、効率性、カバー、複雑性、救急医療、地域医療)については、基本的評価軸として位置付ける。
・追加された2つの係数(後発医薬品(※)、重症度)については廃止する。
※ 後発医薬品係数は、後発医薬品使用体制加算を機能評価係数Ⅰにおいて評価する。
・項目間で評価の重みをつけることは、多様な医療機関が含まれるDPC標準病院群だけでなく、大学病院本院群、DPC特定病院群においても行わない。また、重みづけを行わない代替手法として、効率性係数、複雑性係数、後発医薬品係数について行ってきた、係数間での分散を均等とする処理については廃止する。
保険診療係数 • 適切なDPCデータ作成のための評価の基準値を見直す。
• 病院情報を公表する取組みについては評価を継続する。
• Ⅰ群とⅡ群の医療機関の体制への評価を行っていたが、医療機関別係数全体の再整理を踏まえ、評価を整理する。
効率性係数
複雑性係数
現行の評価手法を維持する。
カバー率係数 ・これまでDPC標準病院群において指数値が低い医療機関に一定の係数値の設定(底上げ)対応を行ってきたが、廃止する。
・その他の係数の上限下限値の設定は現行の評価手法を維持する。
救急医療係数 救急医療係数については、点数表の評価体系も踏まえ、救急医療管理加算2に該当する患者については指数値を1/2とする。
地域医療係数 • 各領域の整合性の観点から、領域ごとに複数ある項目(がん、脳卒中、災害)は1項目に整理する。
• 指数値の上限値はDPC標準病院群は6点、大学病院本院群・DPC特定病院群は8点とする。
• 医療計画の見直しの方向性に沿って、各領域で診療実績に応じた評価となるよう見直す。
厚生労働省「平成30年度診療報酬改定の概要 DPC/PDPS」(平成30年3月5日版)より抜粋し作成
図表8 病院情報の公表
  • ・平成29年度より以下の項目について自院のホームページ上でデータの集計値を公表した場合に加算している。
  • ・平成29年度の機能評価計数Ⅱの評価時点では、1664病院中1629病院が公表を行っている。

【集計項目】

  • 1)年齢階級別退院患者数
  • 2)診断群分類別患者数等(診療科別患者数上位3位まで)
  • 3)初発の5大癌のUICC病期分類別ならびに再発患者数
  • 4)成人市中肺炎の重症度別患者数等
  • 5)脳梗塞のICD10別患者数等
  • 6)診療科別主要手術別患者数等(診療科別患者数上位3位まで)
  • 7)その他(DIC、敗血症、その他の真菌症および手術・術後の合併症の発生率)
出典:厚生労働省 診療報酬調査専門組織 D-2 参考(平成29年7月19日)