介護医療院の創設で業界はどう変わる?

超高齢社会や多死社会における医療・介護ニーズに応えようと、平成30年4月から新たに「介護医療院」が創設された。医療+介護+生活支援+住まいの機能を併せ持つこれまでにないモデルの登場によって、医療・介護業界の地図はどう塗り替わるのか?
そこで求められる医師の役割とは? 療養病床の見直しの過程で導き出された「介護医療院」という新たな枠組みを通して、慢性期医療や地域包括ケアシステムのあり方を考える。

  • 業界変革の方向

医療+介護+生活支援+住まいの機能を併せ持つ
介護医療院の登場で地域の医療・介護の一体化が進む

一般社団法人
日本慢性期医療協会
会長
武久洋三
1966年岐阜県立医科大学卒、71年徳島大学大学院医学研究科修了。同大医学部第3内科を経て、84年に博愛記念病院を開設。93年医療法人平成博愛会理事長、96年社会福祉法人平成記念会理事長就任。多くの病院経営の立て直し依頼に応じるとともに、厚生労働省や経済産業省の審議会等の委員も務める。現在、平成医療福祉グループの代表として、病院、介護老人保健施設・介護療養型医療施設、介護老人福祉施設、ケアハウス等の経営にあたる。2008年より現職。

武久洋三氏 写真

社会・疾病構造の変化を映し
「療養型病床」は新たな段階へ

わが国の高齢者人口は2042年頃にピークを迎えるが、そこに向け年間死亡者数は現在より30万人程度増える見込みだ※1。労働人口の減少、高齢化率の上昇、家族介護力の低下といった変化を背景に、医療・介護は変わらざるを得ない状況に追い込まれている。このとき新たな選択肢となるのが「介護医療院」だ。

長期入院の増加に対応するために誕生した「療養型病床群」は平成12年の介護保険法の施行ならびに翌年の医療法改正を受けて、「介護療養病床」と「医療療養病床」に分かれた。ところが、その後に行なわれた実態調査で両者の入院患者の背景に差がみられなかったことから、23年度末での介護療養病床の廃止が決定。しかし、廃止・転換は思うように進まず、期限が一旦29年度末に延長されたが、その後の実態調査を受けて招集された「療養病床の在り方等に関する」検討会や特別部会での議論を経て、新施設類型の創設に至った。

図表1は医療・介護のサービス提供体制の全体像だが、この10年で介護療養は6・3万床減、医療療養は1・8万床増が報告されている(図表2)。日本慢性期医療協会会長の武久洋三氏は、「平成12年の介護保険導入以降、介護老人福祉施設(特養)やサービス付き高齢者向け住宅など居住系の施設が増えはじめ、ここ10年の爆発的な伸びにより、都心の小規模な病院が閉鎖に追い込まれている」と状況を説明する。

※1 厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」

加算や特例措置を設けて
早期かつ円滑な移行を促進

転換がうまくいかなかった背景には、日常的な医学管理が必要な重介護者や看取り・終末期医療を必要とする人の受け皿不足がある。そこで介護療養病床が担ってきた役割に「生活施設」機能を付加し、地域の実情に合わせた形で慢性期医療・介護の需要に応えようと考え出されたのが「介護医療院」だ。当面の間、移行のおもな対象は介護療養病床の約5・9万床と医療療養病床(25対1)の約7・2万床(図表3)。

介護医療院と医療療養病床20対1との違いは「おもに必要とするサービス」が医療寄りなのか介護寄りなのかにある(図表4)。要介護高齢者の長期療養・生活施設である「医療機能を内包した施設系サービス」には介護医療院Ⅰと介護医療院Ⅱがあるが、いずれも介護保険法に基づく設置であると同時に医療法上の医療提供施設である。どちらも面積は老健施設相当の8平米以上で、おもな利用者を「重篤な身体疾患を有する者」とするⅠでは人員配置などの基準を介護療養病床相当とし、Ⅰと比べて容態が安定した利用者が想定されるⅡでは、基準を老健相当以上としている(図表5)。また、これらとは別に居住スペースと医療機関の併設「医療外付け型」があり、「比較的容態が安定した者」をおもな利用者とし、居住部分は特定施設入居者生活介護相当、広さも個室で13平米以上と有料老人ホーム並みだ(図表6)。

なお、早期かつ円滑な転換を促すために、大規模改修まで床面積等の施設基準を緩和する特例措置や介護報酬を25単位上乗せするなどの奨励策を設けている。創設後3年の期間限定で、転換日より1年間に限り算定される1日93単位の「移行定着支援加算」も大きい。武久氏は介護療養の約4・5万床、医療療養25対1の5万床近くが介護医療院への移行を選択するとみており、9月頃から本格的な移行が始まって、多くの施設が支援加算の付く2年以内の移行を目指すものと予測している。

介護医療院の転換には課題も残る。介護療養病床は名前が変わっても財源や基準はそのままだが、医療療養病床からの転換は財源が変わる分、簡単ではない。介護保険の保険者である市町村の負担は自治体規模が小さいほど深刻で、すでに転換申請に待ったをかける市町村も現れているという。武久氏は「国保同様、介護保険も運営主体を市区町村から都道府県に移すなど、何らかの手を講じる必要がある」と対策を促す。

地域の多様性に応えるには
介護医療院を含む多機能病院

国は特養を終の棲家と位置づけ、加算をつけて看取り機能の強化をはかる。しかし、「看取りの場が不足するというのは誤った考え」と武久氏は異を唱える。「現在の平均在院日数30日を3分の2に短縮するだけで、新たに増える後期高齢者の4・2%※2にあたる20万人は楽に収容できる」という。また、病床利用率※3から推計される空き病床は30万に及ぶ。「介護医療院は、限られた医療資源を最大限に生かせて、医師や看護師が常駐しているという他の介護保険施設にはない安心感が得られ、利用者の利便性も高い。看取りの場としても機能し、医療・介護地図を大きく塗り替える」と武久氏は確信する。

ただし、利用者のニーズにあった施設がすべて揃った地域はそう多くない。「そうした地域では、地域包括ケア、医療療養、回復期リハ、介護医療院など複数の機能を併せ持つ多機能病院が必要」と武久氏。それでこそ高齢者の急変を含む慢性期の医療をおおむねカバーできるし、利用者も状況にあった病床を選択できる。

「高齢者だから何もしない」のではなく、治療も看取りも前向きな姿勢が必要と武久氏は考える。諸条件が複雑に絡みあった病態を解きほぐして改善に導く―慢性期医療の守備範囲は今後もさらに広がりそうだ。

※2 平成26年患者調査により算出された後期高齢者の入院受療率

※3 平成27年医療施設(動態)調査・病院報告の概況

図表1 医療・介護サービス提供における全体像(イメージ)
*1 施設基準届出(平成26年7月1日) *2 病院報告(平成27年8月分概数) *3 医療施設動態調査(平成27年10月末概数) *4 介護サービス施設・事業所調査(平成26年10月1日) *5 介護保険総合データベース集計情報より老人保健課推計(平成25年6月分) *6 老健局高齢者支援課調べ(平成26年7月1日) *7 平成26年社会福祉施設等調査(平成26年10月1日) *8 サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム(平成27年12月)
出典:厚生労働省『第7回社会保障審議会療養病床の在り方等に関する特別部会 参考資料2「療養病床に関する基礎資料」』(平成28年12月7日)
図表2 療養病床数の推移
H18(2006).3月 H24(2011).3月 <参考>H28(2016).3月
介護療養病床数 12.2万床 7.8万床(△4.4万床) 5.9万床(△6.3万床)
医療療養病床数 26.2万床 26.7万床(+0.5万床) 28.0万床(+1.8万床)
合計 38.4万床 34.5万床 33.9万床
※1括弧内は平成18年(2006)との比較 ※2病床数については、病院報告から作成
出典:厚生労働省『第55回社会保障審議会医療部会 資料5「療養病床の現状と課題」』(平成29年11月10日)より抜粋
図表3 療養病床の概要
※1施設基準届出(平成27年7月1日) ※2病院報告(平成28年3月分概数) ※3介護サービス施設・事業所調査(平成27年10月1日) ※4医療療養病床にあっては、看護補助者。 ※5介護療養型は、大規模改修まで6.4㎡以上で可。
出典:厚生労働省『第55回社会保障審議会医療部会 資料5「療養病床の現状と課題」』(平成29年11月10日)より抜粋
図表4 慢性期の医療・介護ニーズへ対応するためのサービスモデル
現行の医療療養病床(20:1) 案1 医療内包型 案2 医療外付け型 現行の特定施設入居者生活介護
案1-1 案1-2 案2
サービスの特徴 長期療養を目的としたサービス(特に、「医療」の必要性が高い者を念頭) 長期療養を目的としたサービス(特に、「介護」の必要性が高い者を念頭) 長期療養を目的としたサービス 居住スペースに病院・診療所が併設した場で提供されるサービス 特定施設入居者
生活介護
病院・療養所 長期療養に対応した施設(医療提供施設) 病院・診療所と居住スペース 有料老人ホーム
軽費老人ホーム
養護老人ホーム
利用者像 医療区分ⅡⅢを中心。 ・医療区分Ⅰを中心。・長期の医療・介護が必要。
特に医療の必要性が高い者。 医療の必要性が高く、容体が急変するリスクがある者。 医療の必要性は多様だが、容体は比較的安定した者。
医療機能 ・人工呼吸器や中心静脈栄養などの医療 ・喀痰吸引や経管栄養を中心とした日常的・継続的な医学管理 多様なニーズに対応する日常的な医学管理 医療は外部の病院・診療所から提供
・24時間の看取り・ターミナルケア
・当直体制(夜間・休日の対応)
・24時間の看取り・ターミナルケア
・当直体制(夜間・休日の対応)又はオンコール体制
オンコール体制による看取り・ターミナルケア 併設する病院・診療所からのオンコール体制による看取り・ターミナルケア
介護機能 介護ニーズは問わない 高い介護ニーズに対応 多様な介護ニーズに対応
※医療療養病床(20対1)と、特定施設入居者生活介護については、現行制度であり、「新たな類型」の機能がわかりやすいよう併記している。
出典:平成27年度「療養病床・慢性期医療の在り方の検討に向けて~サービスを提供する施設の新たな選択肢について~」より抜粋
図表5 医療機能を内包した施設系サービス
出典:厚生労働省『「第5回療養病床の在り方等に関する特別部会 」資料(一部改変)』より抜粋
図表6 医療を外から提供する居住スペースと医療機関の併設
出典:厚生労働省『「第5回療養病床の在り方等に関する特別部会 」資料(一部改変)』より抜粋
日本介護医療院協会 設立記念シンポジウム

療養病床をめぐる議論は「強制転換」策から
時代を映し、未来につなぐ「新モデル」の提案へ

医療・介護・住まいを併せた
新たな枠組みに高まる期待

冒頭、会長に就任した江澤和彦氏が挨拶に立ち、介護医療院は「住まいと生活を医療が下支えするニューモデル」であり、転換ではなく参入という表現がふさわしいとの考えを示したうえで、協会として「研修会の企画・開催や好事例を世の中に示していくことによって、介護医療院のあるべき姿を模索し、より良い方向へと導きたい」と決意を述べた。

厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏は、人口動態や世帯構成の変化に対応するためには「家庭内の介護力に依存せず、社会全体で支えるしくみが必要」と述べ、「自宅療養の実現を阻む『家族の負担』や『急変時の対応』への不安が払拭されれば、できる限り自宅で過ごし、必要に応じて施設に入り、また自宅に戻るような暮らし方が可能になるのではないか」と課題を明示。そして、「医療機能の集約化を進める一方で、新たな選択肢を設けることによって、慢性期の医療・介護ニーズに対応する『地域医療と住まいの新モデル』の提供につなげたい」と介護医療院の目指すべき方向性を示した。

続いて、厚労省や社会保障審議会委員として「療養病床の在り方」ならびに「介護医療院の施設基準や報酬」の論議に加わった日本医師会常任理事の鈴木邦彦氏が、介護医療院と「地域包括ケアのまちづくり」をテーマに講演。機能転換を強制した平成18年の介護療養病床廃止政策を「北風路線」と振り返り、「医療・介護が地域の実情に応じた多様なニーズに応えるためには、医療・介護事業者にとって魅力ある選択肢を用意し、どの機能を選んでも経営が成り立つようにすべき」として、介護医療院の創設を「太陽路線」と歓迎の意を表した。

日本慢性期医療協会会長の武久洋三氏も、「病院の空き病床を医療・福祉の複合施設に転用すれば、特養の新設がある程度抑えられる。医療機器も人材も揃っているので、看取りの場としても適している」と述べ、兵庫県淡路島の現状を例に、介護医療院は老老介護、移動の不便さ、在宅医の高齢化などの課題を解決し、慢性的な人材不足の解消にも役立つと、その可能性に期待を寄せた。

一方、衆議院議員の安藤高夫氏は、介護医療院における検討課題として、医療と介護の質、地域ニーズとのマッチング、継続可能な制度設計と運用、人員と財源の確保などを挙げた。

最後に江澤氏が、介護医療院をイメージしやすいよう、「利用者の尊厳の保障」を理念に掲げて自身が山口県宇部市や岡山県倉敷市で展開する施設の医療・看護・介護サービスや地域貢献の様子を紹介。全体を通じ介護医療院の展望が幅広く語られた。

左から厚生労働省・医務技監/鈴木康裕氏、日本医師会・常任理事/鈴木邦彦氏、日本慢性期医療協会・会長/武久洋三氏、衆議院議員/安藤高夫氏。座長は日本介護医療院協会・会長/江澤和彦氏
  • 介護医療院のこれから

『住まいと生活を医療が下支えする新モデル』―
その未来をつくるのはチャレンジ精神と柔軟な姿勢

日本介護医療院協会
会長
江澤和彦
1988年日本医科大学卒。岡山大医学部付属病院、倉敷広済病院等にて救急医療や関節リウマチの専門治療に取り組む。96年倉敷広済病院院長、医療法人和香会(岡山県倉敷市)/医療法人博愛会(山口県宇部市)理事長就任、97年岡山大学大学院医学研究科修了。倉敷スイートタウンや宇部記念病院など、複数の医療・介護施設、事業所を開設・運営、設計・建築、内外装、補助具開発を自ら手掛ける。2002年社会福祉法人優和会理事長就任、18年4月より現職。

江澤和彦氏 写真

介護医療院が目指すべきは
個人の尊重と尊厳の保障

施設基準や報酬などの枠組みが示されスタートを切った「介護医療院」。実際の中身はどのようなものなのか。

日本介護医療院協会の初代会長に就任した江澤和彦氏は、「介護医療院は単なる既存病床の転換の受け皿ではなく、『住まいと生活を医療が下支えする新モデル』」として敢えて「参入」という表現を用いている。介護医療院は介護保険上の介護保険施設であり、医療法上の医療提供施設である。つまり、介護療養病床や医療療養病床が担ってきた役割に新たに生活機能を付加することで初めて介護医療院が成立するのだ。

重度の要介護者の受け皿となる介護医療院にとって「看取り」は重要な役割の一つ。新モデル創設に向けた議論のなかで、「理念」が話されることはなかったというが、江澤氏は自身が信条に掲げる『尊厳の保障』を「協会としても介護医療院の目指すところとしたい」と語る。すなわち、「利用者の尊厳を最期まで保障する」という明確な意思でケアにあたり、一人ひとりの状況に応じた自立支援を念頭に置いて長期療養・生活を支え、補完し合う関係にある在宅療養を支援できる器を持ち、住民の健康や地域づくりにつながる活動を通して地域に貢献し、地域住民に開かれた施設として地域交流の活性化をはかることで、地域包括ケアシステムを深化・推進する役割を担う(図表7)。

医療現場の常識に囚われず
あきらめずに挑戦し続ける

介護医療院で提供されるサービスは図表8のとおり。なかでも「利用者の意思、趣向、習慣の尊重」といった個別ケアを実践するには、管理・指導が中心の「病院の常識」から頭を切り替える必要がありそうだ。

参考として江澤氏は自法人が運営するユニット型老健を例にあげる。ここでは、平成16年の開所時から「起床時間も食事の時間も個人の自由。通常のケアプラン以外に、長年の生活習慣を守り趣味趣向を大切にするケアを提供している」という。「人生の最終段階における医療介護(アドバンス・ケア・プランニング)」も大事な仕事の一つ。介入は早すぎては失敗するし、遅くても役に立たない。「本人の意思を最大限に尊重するために医療・ケアチームが繰り返し話をしていきますが、死が近づくにつれて気持ちの揺れ幅が大きくなるため、頻回に話し合いを持つようになります」(江澤氏)

ほかにも、生活期リハや自立支援介護、在宅療養支援の三本柱である通所リハ、訪問リハ、短期入所(ショートステイ)を提供する。

江澤氏のスタンスは、「あきらめたら利用者の可能性はゼロになる」「普通でないことを当たり前とせず、挑戦し続ける」ことだ。経営者になってほどなくして取り組んだことがある。機械浴の撤廃とヒノキ浴槽での個浴の実現だ。「適度なサイズの浴槽に介護職の技術がうまくマッチすれば、要介護5の方にも安心して肩までお湯に浸かってもらえる」との思いを確信に変えた。いまや大規模施設であってもすべて個浴を実現しており、入浴ケア「週2回以上」の施設運営基準に甘んじることなく、平均3・8回の実績を維持している。

生活施設(住まい)ならではの役割や留意点もある(図表9、写真)。プライバシーの尊重には、間仕切りなどのハード面だけでなく、プライバシーのある空間の確保など、ソフト面での配慮も求められる。また、愛着のあるもの、好きな音楽に囲まれた「居場所づくり」も安心な暮らしの大切な要素となる。

江澤氏が徹底してこだわっているのが「生活環境」の整備だ。建物の設計や内外装を手掛けるほか、椅子やテーブル、トイレの手すりや補助具、浴槽の深さや大きさまでも自身で設計する。「要介護の方や小柄な方でもできる限り暮らしやすく、車椅子の人でもある程度訓練すれば一人で動けるような空間を目指した」(江澤氏)結果、車椅子は移動の時だけとなり、わずか1か月の間に3名の廃用性嚥下障害が改善し、長期間の胃瘻が抜けたのだという。

時代が求めるのは、地域包括
ケアシステムを支える医療人

「相手のつらさや哀しみをいかに共有できるか」が江澤氏の原点であり、現場のスタッフにも「その人を知ること、思いをもって接すること」を求める。また、これからはすべての医者が地域包括ケア医にならなければいけないという。先の同時改定で、退院支援加算が「入退院支援加算」に改められたのも、地域で何が求められているかを物語る。

「治療を終えた後、その人がどんな生活をし、どういう環境に置かれるのかを考えることなく、医療は提供できない。勤務医も病院の外に出て行って、在宅医療を経験したり、地域の介護・看護職などとの交流を深めることで、地域を知る努力をして欲しい」と江澤氏は感じている。

図表7 介護医療院とは
  • ●住まいと生活を医療が支える新たなモデルとして創設
  • ●介護保険上の介護保険施設(生活機能)+医療法上の医療提供施設(長期療養)
  • ●Ⅰ型:介護療養病床(療養機能強化型)相当と
    Ⅱ型:老人保健施設相当(療養型)のサービス提供

『尊厳を保障する介護医療院』

利用者の尊厳を最期まで保障し、状態に応じた自立支援を常に念頭に置いた長期療養・生活施設であり、さらに、施設を補完する在宅療養を支援し、地域に貢献し地域に開かれた交流施設として、地域包括ケアシステムの深化・推進に資する社会資源である。

図表8 介護医療院の提供サービス
  • ●利用者の意思・趣向・習慣の尊重(個別ケア)
  • ●人生の最終段階における医療介護(ACP)
  • ●生活期リハビリテーション(心身機能・活動・参加)
  • ●廃用性症候群の脱却(過剰介護廃止)
  • ●自立支援介護(食事・入浴・排泄)
  • ●摂食嚥下・栄養・口腔機能・口腔ケア・褥瘡防止
  • ●通所リハ・訪問リハ・短期入所
  • ●地域貢献(介護者教室・出前講座・カフェ・ボランティア・地域づくり)
図表9 介護医療院における生活施設の役割
  • ●プライバシーの尊重(ハード+ソフト)
  • ●居場所づくり(愛着ある物の持ち込み・音楽)
  • ●生活環境(トイレ・浴槽・ベッド高・椅子テーブルサイズ・手すり位置・補助具)
  • ●年中行事・レクリエーション開催
  • ●地域交流(住民交流イベント・カフェ・社会資源利用)
図表7~9:江澤氏提供資料
宇部記念病院は平成15年の大改修で畳敷きにして家庭的な雰囲気に。閉めれば個室、開ければ大部屋の自由度の高い造り。
適度なサイズの浴槽と高い技術と熱意を持った介護職が揃えば、特殊入浴の対象者でも個浴を可能にする。
2cm刻みの高さの椅子もトイレの補助具も本人が動きやすく、職員が介助しやすいよう計算されている。
(左)平成17年に刻み食を撤廃しソフト食に。飲み込みやすく「おいしそう」で「おいしい」嚥下食を提供 (右)誕生日食は好きなものを無料で提供。一番人気は岡山のばら寿司。
鏡台、人形、家族写真など、好きなものに囲まれた「居場所」を。