外科医のキャリアチェンジを考える

外科医のキャリアはライフステージに左右され、いかに秀でた腕の持ち主であってもいずれメスを置くときが来る。ならば、退局や転職、転科の好機とは? 開業以外のセカンドキャリアの選択肢とは? やりがいや適性、待遇や将来性は? 医師の転職を支援するキャリアアドバイザーの経験談や医師のアンケート調査などをもとに、キャリアに対する外科医の意識と実態、キャリアチェンジの留意点、ならびに体験事例を紹介する。

  • キャリア選択と実態

外科医のセカンドキャリアの
「志向別」選択肢を知ることで
後悔のない転職・転科につなげる

外科にこだわるか、新たな道に踏み出すか――を決断する

開腹手術から鏡視下手術へ、さらに医療用ロボットの導入など医療技術の進歩により、外科医の寿命は確実に伸びてきている。また、一部の専門病院を除けば、外科医ががんの診断から手術、薬物治療、緩和ケアや看取りまですべてを担うことは珍しくはなく、シフトチェンジをすることがないまま定年を迎えることもある。しかしその一方で、「体力やスキルに限界を感じた」「意欲や気力が低下した」「将来に不安をおぼえる」などの理由で、退局を決意したり、手術件数を減らして内科診療の割合を増やしたり、施設や環境を変えて新たな領域に挑戦する人も少なからずいる。次なるキャリアに踏み出すとき、より豊かで納得のいくセカンド、サードキャリアを手にするには、ライフステージの転換期で折に触れ、自身の長期的なキャリアを描き直してみること、現状に甘んじることなく、さまざまな経験を自身のスキルに変え、診療の幅を豊かにする努力を怠らないことが求められる。

選択A 外科にこだわる
外科医として、とことん専門性を追求するか、ペースダウンするか

外科医を志したからには「一人でも多くの患者を救いたい」「限界までメスを握り続けたい」というのが本音だろう。もしも、「症例が回ってこない」「新たな手技が学べない」「年収が低い」などの不満があるならば、医局や施設を移るなどして自身の環境を変える必要がある。ただし、この選択には専門とする領域や年齢に制約があるので注意が必要だ。またいずれ、第三のキャリアを考えるべきときが来ることも頭に置いておきたい。

1. 外科医としてフル稼働

専門領域にこだわるなら
40代前半までに行動に移す

整形外科や消化器外科、一般外科の求人は50歳代前半まであるが、退局を考えるなら遅くとも40代半ばまでには決断したい。他施設との差別化をはかるために、民間病院では「特化した領域や術式」を設けていることが多く、「やりたいこと」「学びたいこと」がある若手医師にとっては魅力の一つ。また、チーム体制が重要な外科は年次を気にする傾向が強く、入職先の人員の年齢構成も考慮すべき要素だ。求人票で「50歳代可」とする医療機関でも、医長や部長が40代となれば互いにやりにくい。また、自身が手掛ける術式にスタッフや機材が対応できるかもチェックしたい。一般には医局からの転身で年収400〜500万円程度のアップが期待できる。ただし、脳外科や心臓外科は「医局人事がすべて」の地域・施設が多く、公募は期待できない。若手でかつ首都圏であれば別の医局に入り直すこともできるが、地方では大学を超える症例を積める病院はほぼないので、転居が困難で専門領域にこだわるなら、「医局に残る」ことが最善策であることも少なくない。

2. 外科+αで幅を広げる

外科医としての歩みを緩めて
次なるキャリアの中継点にも

40代後半にもなると、外科医としてはややペースを落として働きたいと考える人が少なからず出てくる。こうした志向は大半の民間病院のニーズに合致するので、求人年齢も30〜50代と幅広く、選択肢はぐっと広がる。具体的には、専門領域の症例がくれば手術対応し、それ以外は内科的対応や病棟管理、後輩指導に充てるというもの。「専門医維持のため最低限の症例があれば良い」とする医師のニーズとマッチするだけでなく、「いずれ一般内科に完全にシフトしたい」「将来的には訪問診療がやりたい」人の中継キャリアにもなる。また、執刀は一切せず指導に徹し、「外科部長」のポストのまま後輩指導と内科的治療に従事することで、若手医師を集めている事例もある。ただし、民間病院の初診外来では、適切な診療科への振り分けが要求されるので、専門領域に偏りがある場合にはトレーニングが必要だ。年収は医局からの転身でおよそ300〜400万円アップ、民間からの転身では現状維持か100〜200万円程度のアップが期待できる。

選択B 他領域で活躍する
メスを置いて新たな領域に挑戦
外科医時代の経験を活かしつつ気持ちを切り替え、学ぶ姿勢で

メスを置く決断をするなら選択肢はさらに広がる。なかでも内科系は求人も多く、年齢的な縛りがゆるい。また、内科的治療の経験のある外科医にとって、緩和ケアや訪問診療はあまり違和感なく向かえるキャリアといえる。条件は厳しい場合も多いが、ほかに産業医や社医、老健の施設長という道もある。

3. 外科と同領域の内科へ

専門領域の内科に固執せずに
守備範囲に広がりを持たせる

そもそも外科医の仕事は「切った、貼った」だけではないので、心臓外科が循環器内科、脳外科が神経内科、消化器外科が消化器内科など、外科と同領域の内科診療へ移行することは、容易なキャリアチェンジと捉えることもできる。

ただし、民間で臓器別・領域別外来を設ける施設は多くはなく、「元外科医」の求人として現実的ではない。専門外来もよほど際立った特徴がない限り集患が望めないが、仮に、週1コマ専門外来を設けたとしても、残りの時間は「広く」「浅く」内科全般を診て欲しいというのが施設側の本音だ。この条件なら求人数も増えて年収もあがり、民間病院の外科からの転職でも100〜200万円アップは堅い。

一方、整形外科や脳神経外科は、回復期リハ病棟のリハ医も選択肢の一つといえる。ただし、包括医療の対象である回復期では急性期と同等の収入が期待できないことも多く、勤務が楽になった分をアルバイトに充てることも検討したい。

4. 一般内科へ

需要が高く、求人も豊富だが
診療スキルを高める努力を

「医師のアンケート調査」でも、外科医の転向後の診療科目の断トツ一位が「一般内科」だ。求人も豊富で、ほかの選択肢に比べ年齢制限もゆるめだ。ただし、無理のないキャリアチェンジをと考えるなら、③のキャリアを経て一般内科へ徐々に移行するのが現実的といえる。たとえ内科診療の経験がなくても、本人が「できる」といえば採用には至るが、入職後に自身も周囲も苦労しないよう、入職までの間、あるいは入職後しばらくの間は、相応の努力が求められる。年収は現状維持か多少のアップが期待できる。

5. 緩和ケア領域へ

苦痛緩和の重要性への理解は
技術に勝るアドバンテージ

がん診療に長く携わっていると、一定の割合で緩和ケア医への転向を志向する人が出てくる。とりわけ「早めのキャリアチェンジを」と考える40歳代前後の女性に多い。

ただし、緩和ケア病棟や専門外来のある施設はごく一部で、緩和ケア医の募集はそう多くはない。しかも、薬物療法に長けた内科医や神経ブロックという得意技を持つ麻酔科医の間でも緩和ケア医の求人は人気という状況もある。

外科医のアドバンテージは「緩和ケアの必要性を肌身で感じてきた」こと。実際、病棟を回る緩和ケアチームの中心的存在だった人も少なくないはずだ。初めての経験なら、多職種と横並びの協働体制を築くこと、苦痛への寄り添い方や疼痛コントロールの手法など学ぶべきことは多い。また、緩和ケアの専門医取得には基本領域の専門医が必要なので、働き方にも工夫が必要だ。年収は1200〜1300万円程度だが、緩和ケア科の病態変化はある程度予測がつくため、夜間等の呼び出しは意外に少ない。

6. 老人保健施設などへ

意識の切り替えが必要だが
「生涯現役」のおもな選択肢

「ゆったり勤務」と考えるとき、介護老人保健施設の施設長を候補として思い浮かべる人は少なくないが、「医師としての一生を全うする場」として最終選択肢の一つと考えたい。 おすすめは、①〜⑤のいずれかのステップを踏んだうえでの転職だ。求人も常時潤沢にあるわけではなく、入職もタイミングや縁に依るところが大きい。また、仕事の内容にギャップを感じても克服する覚悟も必要だ。求職時に専門は問われないが、入居者の健康管理・健康指導を行なう内科的な診療スキルが必要で、しかも、薬の処方の仕方も病院でのセオリーは通用しない。急性期でのやり方をそのまま持ち込めば、経営もスタッフの評価も厳しいものになり、早晩行き詰まりを感じるという話はよく聞かれる。業務の中心である書類仕事や実働部隊である介護職やリハビリスタッフの先導役・管理役に馴染めるかがカギ。年収は1100〜1200万円程度だが、当直も夜間の呼び出しもなく、精神的にも体力的にもゆったりとした勤務が保証される。

7. 産業医・社医へ

求人は少なく、人気の激戦区
未経験者ならば40代前半まで

定時勤務でカレンダーどおりに休め、オンコールもなく、ワークライフバランスの取れる産業医は不動の人気。それまでの激務の反動もあり、外科医がメスを置くタイミングでこの道を志向するのも無理はない。しかしながら1千人規模の企業にしか専属産業医の選任義務はなく、求人は一部の都市に限られる。しかも、企業側は経験者を欲しがるため、未経験者にはハードルが高く、IT系などオフィスワーク中心の企業はメンタル疾患が多いので、内科医が圧倒的に有利だ。60歳が定年なので、未経験でも受け入れ可能な30歳代から遅くても40歳代前半で、早めにメスを置いて転向する人限定のキャリアといえる。一方、生命保険会社などで診査や査定を行なう社医は、外科医のがん診療や脳疾患の診療経験がプラスになる。ただし、入社にあたっては上司の年齢が無視できず、未経験であれば40歳半ばがギリギリの線とする企業が多い。

8. 訪問診療へ

コミュニケーション能力と
内科対応力が問われる在宅医

昨今、在宅・訪問診療の求人は増加傾向にあり、基本的に「検討不可」の診療科がなく、受け入れ年齢の間口も広い。内科やがん診療の経験のない整形外科医にはややハードルが高いともいわれるが、各診療科の医師を集めて手広く展開するクリニックも増えているため、リハビリや運動器疾患への対応を武器に活躍する道も模索したい。なお、在宅医への転身者で意外と多いのが心臓血管外科医だ。全身管理を得意とし、夜間の呼び出しも嫌がらないフットワークの軽さが重宝される所以でもある。ほかには褥瘡や胃瘻のトラブルへの対応力が役立つことも。内科経験のない外科出身の医師でも、2週間から1か月間程度、熟練の在宅医について実地訓練を積むことで十分対応できるようになるという。

訪問診療では患者本人に加え家族との関係構築が必須で、訪問看護や介護などとの連携・協働におけるコミュニケーション力も問われる。週5日勤務で年収1800〜1900万円で、週1回程度のオンコール対応が一般的だが、最近はなしのところも増えている。

外科医のキャリアに関する意識&実態調査

需要の多い内科や訪問診療などへの
転身により、収入・待遇改善を実現

現役&元外科医にキャリアについて調査した結果、特に興味深かったのは外科医の時と転向後の待遇や勤務実態の変化だ(Q2・5)。勤務や当直の日数は減少し、年収平均額は314.4万円の増。両者の有効回答数には大きな開きがあり、「条件の悪い転職はしない」という背景が予測されるが、同時に「勤務が楽で収入アップ」の転職が十分可能だということでもある。転向後の診療科目は、「一般内科」「消化器内科」「リハビリ科」「麻酔科」「在宅・訪問診療」の順に多い(Q4)。もっとも大きな転機は「40〜44歳」「35〜39歳」「45〜49歳」の順に多く(Q6)、それぞれ「開業・退局の決断期」「専門医取得後の売り手期」「セカンドキャリア検討期」といえそうだ。

調査概要】リクルートドクターズキャリア会員登録者へのインターネット調査/2018年2月実施/有効回答数184人(男性:女性=8.7:1.3)
Q1 外科医として専門とされている(されていた)診療科目 (n=184)
Q2 外科医として常勤勤務時の平均年収・勤務日数・当直回数
項目 平均値 有効回答数
年収 1369.8万円 162
勤務日数/週 5.2日 177
当直日数/月 2.8日 183
Q3 現在もQ1と同じ診療科目で、外科医として勤務をされていますか? (n=184)
Q4 外科医から転向後の診療科目 (n=61)
Q5 外科医から転向後の診療科目で、常勤勤務時の平均年収・勤務日数・当直回数
項目 平均値 有効回答数
年収 1684.2万円 50
勤務日数/週 4.8日 55
当直日数/月 0.9日 59
Q6 外科医として「一番大きなキャリアチェンジのタイミング」は何歳頃ですか。ご自身のご経験、またはお考えを教えてください。 (n=184)
Q7 執刀医を完全に退くタイミング(メスを置くタイミング)はいつだとお考えですか?(複数回答) (n=184)
Q8 外科医から転向後の希望の働き方は?
働き方
「当直、オンコールなし」「週4日勤務」「家族との時間を大切にしたい」「仕事のオン・オフがはっきりつけられる」「スポットのみで各地を渡り歩く」「開業して地域医療に貢献」「育児参加できる」「体力的・心理的ゆとりが持てる」「医局の意向に左右されない」「定時出勤、定時帰宅が可能」
報酬
「年収は現状維持か増額」「年俸制でなく歩合制で」
環境
「自分のスキルが活かせる」「やり甲斐や興味を持てる」「勉強やスキルアップができる」「ストレスが少ない」「医療訴訟のリスクがない診療科」「自宅に近い」「人間関係が良好」など。
  • キャリアチェンジ事例

「これだけは譲れない」を軸に
売り時と活かし方を見極めて
納得のキャリアチェンジを実現

体験談

1.外科医としてフル稼働

心身の「健全さと豊かさ」を求めて
消化器外科医として次なる道を選択

転身時 40代前半・男性
勤務先 診療科目 年収
大学病院・がん専門病院 消化器外科 1000万円
民間病院 消化器外科 1600万円

<経緯>以前は、大学病院やがん専門病院で消化器外科医として専門性を追求し、先端医療を提供する傍ら、多くの学会に所属して発表や論文作成にも力を注ぐ毎日でした。医師としてのやりがいはありましたが、無理に無理を重ね、心身ともに疲弊していました。そんな働き方がすでに限界を超えていたこと、業務に見合う収入ではなく、満足いく貯蓄ができない生活に不安を感じたことが、転職を考えたおもな理由です。それまで仕事一筋で家庭を顧みることがなかったので、新たな勤務先を探すにあたっては家族の意向を第一に考え、「慣れ親しんだ故郷で以前のような生活環境を取り戻すこと」を条件にしました。

<変化>消化器外科医として民間の急性期病院に転職。常勤・週5日勤務は変わらずですが、当直は月8回前後から4回に減り、1000万円前後の年収が1600万円にアップしました。がん診療に携わる頻度は減りましたが、代わりに急性虫垂炎や鼠径ヘルニア、胆石症など良性疾患の手術が増えました。また、大規模病院と違って、他の診療科や病棟のスタッフ、事務などさまざまな職種との関わり合いが増え、病院全体で仕事をしていくためのコミュニケーションのあり方を学べています。以前は、平日は子どもと顔を合わせることも叶いませんでしたが、いまは家族と夕食を共にできるようになりましたし、アルバイトの必要がなくなり、土日も家族との時間が持てるようになりました。仕事とプライベートのオン・オフがきっちりつけられるようになり、趣味のテニスも再開。勤務時間がほぼ一定なので、睡眠が十分とれるようになり、健康面でのメリットの大きさも実感しています。

<満足度>医師としては「患者さん第一」「仕事第一」主義であるべきだと思いますし、学会や論文執筆などの活動に使命感やプライドをかけていた頃を思えば、少なからず喪失感はあります。しかしながら、医師である前に一人の人間であり、一家庭人です。自分の家族を笑顔にできないのに患者さんを笑顔にすることはできないし、自身の心や身体が健全でなければ誰かを救うことなどできません。そうした意味では今の生活を手にできて本当によかったですし、もう当時のような「仕事に忙殺される日々」に戻ることはできません。

<アドバイス>自戒を込めて、「キャリアチェンジに関しては、日頃から年齢と照らし合わせて長期的な計画を練るべき」だと感じています。

3.外科と同領域の内科へ

「定期非常勤×内視鏡技術」により
やりがい+安定雇用+高待遇を確保

転身時 50代前半・男性
勤務先 診療科目 年収
民間病院 一般外科 2200万円
民間病院 内視鏡+内科 2600万円

<経緯>救急疾患を緊急手術により生存へと引っ張り戻す仕事人――外科医になろうと心に決めた小学生の頃からその医師像は揺らぐことなく、卒後は救急医学講座に入局。野戦病院さながらの環境下で貪欲かつ寝る間も惜しんであらゆる手術に立ち会い、技術を学びました。「外科=内科+手術+α」という上司の教えに従い、総合診療レベルの内科対応や内視鏡、麻酔科、泌尿器科、婦人科、脳外科、心臓外科など臓器・領域の壁なく対処できるように。5年目に「手技を深める」ためにジッツの幅広い大学の外科医局へと転身。以降16年間、各地で内視鏡の技術を高め、他外科へ弟子入りし、休暇をとっては大腸内視鏡の第一人者に指導を受ける生活を送りました。40代前半、子どもの就学・就職、気候や交通の利便性を考え、退局して関東へ。いくつかの施設で外科部長や主任医長として大手術を手掛ける傍ら、他の常勤医がバイトで不在の間もただ一人、「外科医である限り、24時間365日任務から逃れられない」と、過酷な勤務を自らに課してきました。しかし、交通外傷が減り、自ら考える理想の外科医像とはかけ離れた日常に意欲を失いかけた頃、内視鏡スポットの依頼が舞い込みました。そこで「ほとんど苦しくない」と患者さんにも医療者にも感謝され、初めて自身の内視鏡の腕と自らの価値に気づいたのです。

<変化>暫く「常勤週4日+非常勤で年収2200万円」の生活を続け、内視鏡で生計を立てる目処がついた頃、複数の医療機関に曜日ごとに勤務する「定期非常勤」へと完全移行。現在、週5日の定期非常勤で内視鏡検査や内視鏡手術(皮膚切開を伴わない)、消化器・一般内科外来を行なう一方、月2回のスポットでは新幹線や高速を使って遠方に出かけることもあり、趣味と実益を兼ねた気分転換にもなっています。

<満足度>年収は2600万円強で、サービス残業も時間外の呼び出しや当直もなく、交通費も完全支給です。予定より10年程早い転向となりましたが、想像以上に雇用は安定しており、体調も良くなり非常に満足しています。

<アドバイス>一般的な医師の収入により算定される国民健康保険税は一定の上限額があり、年収の割には有利。生涯現役の医師にとって厚生年金の恩恵は期待薄なので、福利厚生面で特別不利ではないと考えます。ただし、非常勤雇用で不利益を被らないよう、有給や超勤手当など労働法や税制等に理解を深めておくことが肝要です。

事例

1.外科医としてフル稼働

施設が欲しがる資格を武器に
役職と収入、手応えを得る

転身時 40代前半・男性
勤務先 診療科目 年収
大学病院 消化器外科 1300万円
国公立病院 消化器外科 1700万円+α

医局派遣で急性期病院で勤める間に、外科専門医と消化器病専門医、腹腔鏡技術認定医を取得。収入面や医局内でのポジションなど将来への不安もあって、「外科医として成熟期といわれる年齢のうちに」と退局を決意しました。当初、近隣勤務を希望したものの条件に合う施設がみつからず、子どもが就学前で転居も可能な状況だったので、妻の賛同を得て、近所に有名な大学の附属校のある、少し遠方の国公立病院に転職しました。外科部長は50代で、内視鏡手術を数多く手掛けていましたが、施設側は有資格者が欲しいとのことで「腹腔鏡センター長」の役職を用意してくれました。年収も1300万円から1700万円+当直手当にアップ。当直回数は月5回から2回に減り、体力的に楽になっただけでなく、家族と過ごす時間が増えて、非常に満足しています。

3.外科と同領域の内科へ

手術に固執せず、脳外科医の
スキルを活かす道を選択

転身時 50代半ば・男性
勤務先 診療科目 年収
民間病院 脳神経外科 1800万円
民間病院 回復期リハ+ 外来 1800万円

医局派遣先の病院にそのまま入職し、脳神経外科専門医として働いてきたので、転職後も手術を続けたかったのですが、50代で脳外科医の募集はめったにないことがわかり、回復期リハを選択肢に加えました。すると「病棟を立ち上げるので役職付きで来て欲しい」との施設があり、自宅に近くて長く働けそうだったので転身を決意しました。回復期リハ病棟専従ではなく、脳外外来や健診(脳ドック)、脳梗塞の患者さんの血栓溶解療法(t-PA治療)なども行ない、脳外科医のスキルが十分活かせています。週5.45日から4.5日の勤務に減りましたが、前職では当直免除で年収1800万円強だったので、月1〜2回日直を引き受けることで収入を維持しています。決断が幾分遅かったようにも思いますが、手術にこだわり過ぎなかったことが納得のいく転職につながったと感じています。

4.一般内科へ

専門領域以外の多様な経験が
セカンドキャリアを切り開く

転身時 50代後半・男性
勤務先 診療科目 年収
大学病院 呼吸器外科 1500〜1600万円
ケアミックス病院 一般内科 2000万円

呼吸器外科医として第一線で肺がんの手術をしていたのですが、「定年前に転職した方が長く勤められる」との助言を受け、退局してケアミックスの施設に入職しました。当初は、気胸などの手術をしながら徐々に内科的な診療にシフトするつもりでしたが、安全に手術のできる環境が整っていなかったため、転職後、手術はしていません。肺がん治療が専門だったので、入職に際しては一般内科を学び直す必要がありましたが、中心静脈栄養や挿管の経験があったこと、なかでも人工呼吸器が扱える点を高く評価してもらいました。前職で部長だったこともあり、副院長として迎え入れてもらい、非常勤込みで1500〜1600万円だった年収も2000万円にアップしました。手術へのこだわりが強すぎなかったこと、医局派遣先でさまざまな経験をしたことが今に活きています。

5.緩和ケア領域へ

ライフステージを考慮して
長く続けられる緩和ケアに

転身時 30代後半・女性
勤務先 診療科目 年収
大学病院 乳腺外科 1300〜1400万円
民間病院 緩和ケア 1300〜1400万円

医局の派遣先でおもに乳がんの手術をしていましたが、日々、緩和ケアの重要性を痛感していたことと、男性と比べて体力低下が早いため長く続けられる仕事として、緩和ケアへの転身を希望しました。外科専門医は取得済みでしたが、一生の仕事にするなら資格があった方が良いと考え、「緩和ケアの専門医が取れること」を求職の条件とし、緩和ケア科のある民間の総合病院に転職しました。週5日の勤務のうち3.5日は緩和ケア科で、あとは手術のサポートに入っています。年収は1300〜1400万円と現状維持でしたが、緩和ケアの患者さんはある程度、病状の変化が予測できるので、急な呼び出しは格段に減りました。女性の働き方はライフステージの影響を強く受けるので、なるべく早い段階で、将来を見据えたキャリアプランを描いておく必要があると考えています。

7.産業医・社医へ

視力低下で臨床が継続できず
書類作成中心の社医に転身

転身時 30代前半・男性
勤務先 診療科目 年収
大学病院 消化器外科 1000万円
保険会社 社医 1000〜1100万円

消化器外科の医局に所属していましたが、網膜剥離で片方の視力が0.01以下となり、臨床を続けることが難しくなり、キャリアチェンジを余儀なくされました。当初、産業医の資格取得を考えたのですが、産業医には健診が付きもので、読影業務をこなすのは難しいということがわかり、仕事の多くが書類作成である社医に応募しました。外科医の経験が「入院期間」の査定に役立つこと、企業側が若手医師を求めていたこと、糖尿病のように今後悪化するタイプの疾患ではなかったことなどがプラスにはたらき、採用に至りました。年収は1000〜1100万円と決して高額とはいえませんが、福利厚生もしっかりしており、定年退職も延長で65歳、その後も嘱託契約により70歳まで働けることも魅力の一つでした。結婚はこれからですが、病気があっても家族を養えるだけの収入が確保でき、良い選択でした。

8.訪問診療へ

メスを置き、開業を視野に
訪問診療の世界に飛び込む

転身時 40代後半・男性
勤務先 診療科目 年収
大学病院 心臓血管外科 1800万円
民間クリニック 訪問診療 2000万円

教授選の結果、医局を離れることになり、転職先を探すことに。「心臓外科は医局が強い領域で求人そのものがない」と言われてもあきらめられず、暫くの間、手術のできる施設の募集を待ち続けました。しかし転居や単身赴任を家族に反対されたため、ようやくメスを置く決心をし、開業を視野に入れ、在宅クリニックと訪看を運営する医療法人に入職しました。フットワークの軽さ、ICUや高血圧、廃用症候群の診療経験が買われたものの、がん診療の経験がなかったので、暫くは内科医について学びました。外科と心外の専門医は更新できないものと覚悟していましたが、外科専門医だけでも維持できるようにと、搬送先の病院で小手術や挿管などをやらせてもらっています。現在は、新規クリニックの院長を任され、年収は心臓外科の頃から200万円アップの2000万円強と、納得のいく結果が得られています。