動き出した「地域医療 連携推進法人」

わが国の医療・福祉提供体制は、少子高齢化の進展と多死社会に向け、待ったなしの改革が迫られている。地域医療構想が実行段階に入った平成29年4月、医療・社会福祉法人、開業医など複数の非営利法人・個人が参画する『地域医療連携推進法人』制度が施行された。この新たな制度は地域医療や地域包括ケア、そして医師の働き方にどのような影響を及ぼすのか。制度概要を確認するとともに、先行事例や予定事例から、本制度の活用方法や期待される効果、課題を探る。

  • 全体解説

独立性を保ちつつ、M&Aの利点のみを享受
地域医療構想の実現を推進する手段の一つに

多摩大学 医療・介護ソリューション研究所所長
多摩大学大学院教授
真野俊樹
1987年名古屋大学医学部卒。総合内科専門医、MBA。臨床医、コーネル大学医学部研究員、製薬企業マネジメント、大和総研主任研究員等を経て、2005年6月多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授に就任し、その後現職に。東京都病院経営評価委員、厚生労働省独立行政法人評価有識者委員等を歴任。著書に「日本の医療、くらべてみたら10勝5敗3分けで世界一」(講談社+α新書)、「医療危機―高齢社会とイノベーション」(中公新書)など。

真野俊樹 写真

非営利を旨とし、
法人ごとに1票の議決権

「病院の数が多く、規模が小さい」特徴を持つわが国の医療提供体制は、利便性は高いが、経営効率において負の要素が大きい。平成25年8月、社会保障制度改革国民会議が地域医療ビジョンの策定と速やかな実行、医療法人・社会福祉法人制度見直しの必要性などを盛り込んだ医療・介護分野改革の方向性を示したのも、医療・福祉提供体制の変革が火急の課題だったからに他ならない。ただし、新制度創設の動きが一気に加速したのは、平成26年1月の世界経済フォーラム年次会議(ダボス会議)で安倍首相が「日本にも米国のメイヨークリニックのようなホールディングカンパニー型の大規模医療法人ができてしかるべき」と発言したことによるといわれる。その後、各種検討委員会が議論を重ね、平成27年9月に公布、29年4月2日に施行されたのが『地域医療連携推進法人』制度だ。

本法人に参加できるのは非営利を旨とする、病院や診療所、介護老人保健施設などを開設する法人、医療者養成機関、地方独立行政法人や自治体などであり、参加法人はもれなく社員となる。法人以外の個人開業医なども社員として参画できる。原則として社員1名につき1票の議決権が与えられ、連携法人に関する事項の決議は社員総会で行われる。また、法人内には業務を執行する理事会ならびに理事会や社員総会で意見を述べることのできる評議会を設ける必要がある(図表1)

「当初想定されたものと構造は同じですが、メイヨークリニックのような巨大な持ち株会社を作るという話ではなく、あくまで地域医療を守るための制度といえます」と多摩大学 医療・介護ソリューション研究所所長の真野俊樹氏は説明する。実際、連携区域は原則二次医療圏を想定していること、何らかの形で地元医師会が関与することが望ましいとしていることからも、地域医療構想を強く意識した制度設計といえる。

新法人設立の手順は、まず、モデル定款を参考に定款を策定し、一般社団法人の登記をする。次いで、『医療連携推進方針』を添えて都道府県知事に申請するが、これには連携推進区域、参加施設間の機能分担や業務連携の概要、その目標などを明記する必要がある。その後、都道府県医療審議会での意見聴取を経て認定の可否がくだるが、地元医師会の代表が委員に名を連ねる審議会は、最後の関門と目される。

地域医療構想の実現には多少なりとも痛みが伴う。自施設や地域医療の存続に危惧を抱く法人・個人が自発的に参加し、前向きな議論を重ねて策を講じる連携推進法人という枠組みは、地域医療・地域包括ケアの構築を円滑に進めるツールの一つとして期待される(図表2)

地域医療の衰退を防ぐのか
医療介護連携を強化するのか

初回の認定を受けた地域医療連携推進法人は全国で4つ(図表3)。「本制度の活用方法には主に2つの流れがある」と真野氏はいう。1つは、地域医療の衰退や共倒れを防ぐために、競争でなく協調を選ぶことで地域の医療・福祉提供体制を保持していこうというもの。もう1つは、高度急性期病院を中心に、それを支える医療・福祉施設が同一法人としてがっちり連携を組もうというものだ。

本制度の最大のメリットは、合併や買収ではなく、参加法人が各々独立性を保ちながら、医薬品の共同購入や参加法人間の病床融通、人的交流、医療従事者の共同研修などグループ化の利点のみを享受できる点だ。また、連携推進法人は参加法人に資金を貸し付けたり、医療機関などの開設もできる。真野氏は「経営効率や医療の質の向上が期待できるだけでなく、参加法人の経営の透明性も担保される」と本制度を評価する。

デメリットもある。連携推進法人のトップには複数の組織をまとめあげるリーダーシップが求められるが、裏を返せば、リーダー次第で方向性が大きく変わる可能性があり、求心力や実行力に欠ければ、法人そのものが有名無実化する恐れもある。

「同種の施設が多い大都市では広がりにくい。また紹介ルートが確定しすぎると、地域によっては加入しない選択肢が選べない可能性があることも、弱点といえます」(真野氏)

制度が普及すれば、医局とは異なる人事体系が生まれ、医師の働き方にも少なからず影響する。

「現状でも、勤務・開業に関らずフリーランスや独立独歩は成立しづらくなりつつありますが、新制度が広まれば今まで以上に、地域や組織とのつながりを意識し、地域医療やチームの一員として自身のあり方を捉えていく必要があります」(真野氏)

図表1● 地域医療連携推進法人の概要
出典:「全国厚生労働関係部局長会議資料」(厚生分科会)平成29年1月19日・医政局
図表2● 地域医療連携推進法人の連携イメージ
出典:「医療法の一部を改正する法律について」(平成27年改正)(地域医療連携推進法人制度の創設・医療法人制度の見直し)厚生労働省医政局医療経営支援課
図表3● 現在認定の地域医療連携推進法人一覧(平成29年4月2日認定)
法人名 地域 特徴
尾三会 愛知県 大学附属病院と地域医療機関の連携
藤田保健衛生大学病院をはじめ26施設が参加。
はりま姫路総合医療
センター整備推進機構
兵庫県 統合再編成を目指した病院間の連携
兵庫県立姫路循環器病センターと製鉄記念広畑病院が参加。
備北メディカルネットワーク 広島県 地域完結型医療の実現を目指す連携
三次市立三次中央病院、三次地区医療センター(三次地区医師会)、庄原市立西城市民病院が参加。
アンマ 鹿児島県 地域の診療所の連携
医療法人馨和会、宇検村、瀬戸内町が参加。
厚生労働省・各県資料等を参照し作成
  • 認定法人事例

20を超える参加施設と7医療圏にまたがる
大規模連携を『都市型モデル』の模範に

地域医療連携推進法人 尾三会

地域医療連携推進法人 尾三会 理事
学校法人 藤田学園 理事
藤田保健衛生大学病院 病院長
湯澤由紀夫
1981年名古屋大学医学部卒。名古屋第一赤十字病院内科、米国ニューヨーク州立大学バッファロー校・病理学教室留学、名古屋大学大学院病態内科学講座腎臓内科学准教授などを経て、2010年4月、藤田保健衛生大学医学部腎内科学教授に着任、同年5月より藤田保健衛生大学病院副院長を兼務。14年より現職。日本内科学会(認定医)、日本透析医学会(評議員、専門医、指導医)、日本腎臓学会(評議員、認定専門医、指導医)など。

湯澤由紀夫 写真

既存のネットワークを基盤に
エリアを絞り込んで再編成

初回に認定された4法人の中で、群を抜いて規模が大きいのが尾張・三河地区にまたがる連携法人『尾三会』だ。当初22の法人・個人が集まりスタートしたが、平成29年9月現在、既に26施設を数えている(図表1)。このうち、急性期病院は藤田保健衛生大学病院(1435床)と南生協病院(313床)のみで、ほかには回復期、慢性期、ケアミックスの個人病院や介護施設、個人開設の診療所などが名を連ねる。

尾三会の特徴は何といっても大学病院が含まれる点だ。尾三会の理事で藤田保健衛生大学病院病院長の湯澤由紀夫氏は、同院が築いてきた3つのバックグラウンドが法人設立の基盤になっていると説明する。

1つ目は訪問看護師が中心となって進める地域包括ケアネットワークだ。同大学には医学部とは別に医療科学部があり、看護師や薬剤師が学部内に設置した訪問看護ステーションを足掛かりに、訪問看護のネットワークを構築。リハビリや訪問診療を担う地域の開業医、介護士らと緊密な協力関係を結んできた実績がある。一方、大学病院も開業医から要請を受け、夜間の緊急対応に当たるなど、かかりつけ医の負担を軽減することで良好な関係を保ってきた。

2つ目は、大学近くのUR豊明団地での取り組みだ。ここの日本人高齢者の独居率はすでに2025年のピーク時予測に達しているといわれる。そこで、大学はURや自治体と提携を結んで団地のワンフロアを若者向けに改修。そこに入居する医療科学部の学生が、高齢社会の実態に触れ、地域の行事に参加しながら、すぐれた医療人に育っていくことを地域で応援する試みだ。団地内に開設した『ふじたまちかど保健室』では医療相談などの活動も展開しており、地域医療の良いモデルとして全国的にも高い評価を得ている。

そして3つ目が、大学病院を中心に愛知県全域(岐阜県や三重県の一部を含む)に広がる病診連携ネットワークとそれをベースにした医療安全のネットワークだ。藤田保健衛生大学病院がここ10年で培った医療安全の知識、経験、ノウハウを連携施設にも提供するもので、『藤田あんしんネットワーク』として会員に向け、医療安全の教育、医療事故への対応、院内感染対策、弁護士への相談などの支援を行っている。

ただし、こうした既存のつながりをそのまま連携区域に当てはめたわけではない。同院のある二次医療圏は、人口47万人が暮らす長細いエリアの上端と下端に大学病院が位置するややいびつな構造をしている。そこで敢えて二次医療圏に固執することなく、「患者さんの利便性や動線を第一に考えてエリアを絞り込んでいった結果、7医療圏にまたがる連携区域が浮かび上がった」(湯澤氏)という。実際、同院と太いパイプでつながる名古屋市内の分院も、地域が連続していないため除外している。

高度急性期から在宅までを
切れ目なく追える密な連携

湯澤氏は、「高度急性期病院から回復期の病医院、慢性期の病院、在宅までの患者さんの流れを、この地区に特化した形で構築することが法人設立の第一義」と語る。同院は、診療の大きな柱に「がん治療」を掲げ、大学病院に希少な緩和ケア病棟を備えるが、その運用に関しては、常時、在宅の状況まで把握できる関係が地域との間に築かれている。

「それを一般的な疾患にまで広げ、在宅までシームレスに追うことのできる仲間ができたということです」(湯澤氏)

一方、「目にみえるメリット」として、医療・介護従事者等の相互派遣、勉強会や研修業務の共同実施、医薬品の共同購入等による、人材供給の安定化や医療・介護の均質化、経営の効率化などを挙げる(図表2)

大学や附属病院で実施している勉強会やセミナー等を参加法人の医療・介護従事者向けに開放し、今後は必要に応じて尾三会としての勉強会、研修も検討するなど、地域全体の医療・福祉の質の向上に寄与すべく積極的な取り組みを始めている。薬剤の共同購入は、現在9施設が希望しており、大学病院が扱っている薬剤リストの中から一括交渉を希望する品目を選択すると、藤田がスケールメリットを生かして代理交渉を行うしくみだ(図表3)。「医療事故調査等に関する業務の連携」については『藤田あんしんネットワーク』をさらに発展させ、地域全体の医療安全の強化を目指す(図表4)

本来の目的を遂行するために
経営の独立性・公平性を保証

尾三会の定款には「経営統合」「出資や資金貸与」について盛り込まず、経営内容について立ち入らないこととしている。

「資金も病床数も桁外れに大きい大学病院がグループ内にあるため、合併の選択肢を残すと、本来の目的に沿った話し合いができない場面が出てくるかもしれません。そのため、モデル定款で認められているそれらの事項を一切捨てることにしたのです」(湯澤氏)

社員の投票権は、財力で差別はできないが、病床や職員数などの施設規模に応じた票数の調整は可能だ。しかし、これについても1施設1票ずつとし、公平性を重んじている。

目下の課題は、事務局機能を独立させて、院外に置くこと。現在のような兼任や手弁当の体制では、組織が大きくなればなるほど、管理・運営が難しくなるからだ。

***

地域医療の崩壊に対する危機感が薄い都市部においても、遅かれ早かれ少子高齢化の影響が表面化する。

「いざ、そうした状況が訪れたとき、人々が住み慣れた地域で切れ目なく、適切な医療・介護を受けながら生活が続けられるしくみ作りを目指す『尾三会』の取り組みは、全国的にみても先駆的なモデルになるのではないかと考えています」(湯澤氏)

図表1● 現在の尾三会への参加施設(2017年9月現在)
総合病院 南生協病院 名古屋市緑区
相生山病院 名古屋市緑区
第一なるみ病院 名古屋市緑区
ジャパン藤脳クリニック 名古屋市緑区
みどり訪問クリニック 名古屋市緑区
並木病院 名古屋市天白区
善常会リハビリテーション病院 名古屋市南区
北斗病院 岡崎市
宇野病院 岡崎市
三嶋内科病院 岡崎市
葵セントラル病院 岡崎市
冨田病院 岡崎市
高須病院 西尾市
総合青山病院 豊川市
辻村外科病院 刈谷市
一里山・今井病院 刈谷市
豊田地域医療センター 豊田市
小嶋病院 東海市
前原整形外科リハビリテーションクリニック 大府市
秋田病院 知立市
藤田保健衛生大学病院 豊明市
特別養護老人ホーム豊明苑 豊明市
特別養護老人ホーム寿老苑 日進市
たきざわ胃腸科外科 みよし市
老人保健施設 和合の里 愛知郡東郷町
特別養護老人ホームイースト・ヴィレッジ 愛知郡東郷町
図表2● 連携法人内の連携推進業務
① 地域包括ケアモデルの展開
② 医療・介護従事者向け勉強会や研修業務の連携
③ 医薬品・診療材料等の共同交渉
④ 医療事故調査等に関する業務の連携
⑤ 医療機器の共同交渉
⑥ 病院給食、介護・福祉給食サービスの共同化
⑦ 電子カルテ等、システムの共同利用
⑧ 医療・介護スタッフの派遣に関する連携
⑨ 職員等の相互派遣
図表3● 医薬品共同購入のしくみ
  • ・参加は9施設(藤田保健衛生大学病院は除く)
  • ・現在の取引先を優先することも可能
  • ・品目数は絞らない
  • ・後発品は取引先を絞り交渉する
図表4● 医療事故調査等に関する業務連携も検討
  • 予定法人事例

医療・福祉分野の地域連結決算と再分配が
資本・資産・人材の流出と地方衰退を防ぐ

地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院ほか

地方独立行政法人
山形県・酒田市病院機構
日本海総合病院 理事長
栗谷義樹
1972年東北大学医学部卒。東北大学医学部第二外科助手、仙台市立病院外科、JA秋田厚生連由利組合総合病院外科科長、市立酒田病院診療部長兼外科科長などを経て、98年に同院病院長に着任。赤字続きの同院を3年間で黒字に転換させるなど、病院経営の健全化に手腕を発揮する。2008年、地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構初代理事長に就任して日本海総合病院長ならびに酒田医療センター病院長を兼務。その後、現在に至る。

栗谷義樹 写真

病院再編統合の経験を生かし
地域全体の医療・福祉を守る

予定法人のなかでもっとも実現可能性が高く、国の思い描く「地域医療連携推進法人のあるべき姿」に近いと期待されるのが、山形県・庄内地域で進められている事例だ。その牽引役を担っているのが、地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院理事長の栗谷義樹氏。赤字続きの公立病院をわずか3年で黒字に転換し、その後、2つの公立病院の再編統合を融和的に成功に導いた実績あるリーダーだ。

想定する連携推進区域は、酒田市を含む2市3町で構成される庄内二次医療圏。約27万7千の人々が暮らす。ただし、「まずは結びつきの強い二次医療圏の北側から、病院機構がリードする形で進めていきたい」(栗谷氏)としている。

現在参加を表明しているのは、日本海総合病院と酒田医療センターを運営する山形県・酒田市病院機構、訪問看護ステーションを運営する地区医師会、一般病院や介護施設を運営する医療法人、民間介護施設を運営する医療法人や社会福祉法人、歯科医師会、薬剤師会など9法人にのぼる(図表1)

本制度に参加法人として医師会が名を連ねるのはめずらしい。

「地区医師会は先の病院再編の際も深く関わりを持ちましたし、当院内にある市営の夜間診療所を医師会が輪番制で担当するなど、地区医師会とは切っても切れない関係にあります」と語る栗谷氏。自身も現在、酒田地区医師会の会長職にある。

「ここにきて少子・高齢化、過疎化が急激に進行している」というのが栗谷氏の実感だ。同機構が運営する施設の患者数は増加傾向にあるが、地域全体をみると平成23年ごろから減少傾向にあるという。

「過疎化や診療・介護報酬の改定により各施設の経営が苦しくなり、歯が抜けるようにパタパタとつぶれはじめると、ある日を境に突然、地域医療が機能停止に陥る恐れがあります。都市部では需要が急に減ることはありませんが、我々のところでは一刻も早く対応を始めないと間に合いません」(栗谷氏)

「対応」が必要なのは医療提供体制だけではない。医療・介護・予防・住まい・生活支援という地域包括ケアの5つの要素を「少子高齢化仕様」として地域にどう整えていくか――ということだと栗谷氏は説明する。

実はこの地域では、平成20年4月、競合する2つの急性期病院が統合再編によって機能分化されたことで、国が進める地域医療構想は完了している。これから栗谷氏らが取り組もうとしているのは、地域の存続を賭けた地域完結型包括ケアシステムの確立だ。連携推進法人に地域の医療・介護資源が結集し、統一された事業計画に沿って動いていけば、ある程度のことは実現可能と栗谷氏はみる。ただし、「万が一、社会保障財政が破綻したときのために、可能な限り健全な医療・介護のセーフティーネットを地域に残したい。連携推進法人でできることは、抜本的な策が講じられるまでの時間稼ぎに過ぎない」と栗谷氏は法人設立の意義と自身の役割を捉える。

医療・介護の『地域連結決算』で
資本・資産・人材の流出を阻止

「新法人制度の活用で実現したいのは、医療・介護に関して『地域連結決算』をするということ。そして『皆が生き残っていけるように』診療報酬と介護報酬を再配分することです」(栗谷氏)

個々の利益に囚われず、地域全体の収支に着目して、共倒れを防ぎ、皆が存続していける方策を探ろうというものだ。お金の分配はできないが、事業調整で各施設に入る報酬を配分することは可能と栗谷氏はいう。実際、診療報酬の年間支払額の6割強を同機構が占めているため、再配分機能を持つことは十分可能とみる。

事業調整の前提に機能分化がある。高齢化が進むと、慢性疾患を抱えた患者が増える。在宅療養中の急性増悪をすべて急性期病院で受けていたら経営は成り立たない。いかにして高度急性期から慢性期や医療療養病床、地域包括ケア病床へとスムーズに移行できるかがカギだ。病院機構と健友会・本間病院とは現在パスの共有や共通メニューの作成、急性期リハの引き受けなどの協力関係にあり、こうした機能分担により日本海総合病院は急性期に特化した診療が可能になり、平均在院日数も10~11日台に短縮できているという。

『地域連結決算』は、地域から資産や資本が逃げないようにする手段でもある。

「高額医療検査機器の重複投資の中止、稼働率の悪い検査機器の集約化などが可能となれば、地域からそのための整備更新費用流出が避けられる、各医療機関、介護施設の運営継続性は医療人材の雇用につながり、その人件費も地域で還流されることになる、医療機関の効率的集約化も経費管理には極めて有効な方法、『地域連結決算』はそれを計画的に管理するためのものです」(栗谷氏)

現在、実施・検討中の業務は図表3の通り。法人化によって、少なくとも、経費管理、スタッフ確保に大きな効果を生むという。ただし、民間の参加医療法人は出資や債務保証が可能だが、独立行政法人や社会福祉法人は現行法の縛りがありいずれもできないことを、本制度の弱点として栗谷氏は挙げる。

急性期医療は機能も経営も集約化しなければ成立しえない状況にある。このことは、専門医制度や医師のキャリアパスにも深く関わってくると栗谷氏は指摘する。連携推進法人には、急性期基幹病院で専門医が取得できる教育制度の導入や地域医療を担う人材の需給を束ねるハブ機能が求められる。

そして、医師に求められることは――。「経済状態を含めた患者さんの暮らしのありようを、自分の目で見て感じてほしい。それが地域で医療を行うということではないでしょうか」(栗谷氏)

なお、新法人の設立は来年度末を予定している。

図表1● 地域医療連携推進法人参加予定の施設一覧

医療連携推進法人勉強会参加法人概要 H28/9

病床数等 診療科 職員数 備考
1 地独法 日本海総合病院 計 646 27診療科 計 942 救命救急センター
PET-CT・ヘリポート・LDR
同 酒田医療センター 療養 35
回復79
内科、リハ科 計 107 回復期リハ
デイケア
2 医療法人 健友会 一般80
地域包括ケア24
療養 50
老健施設 100
内科、外科、整形外科、泌尿器科 計 428 介護老健
訪問介護ステーション
地域包括支援センター
有料老人ホーム
3 医療法人 宏友会 診療所 6
老健施設 100
外科、胃腸科、肛門科等 計 160 介護老健
在宅介護支援センター
地域包括支援センター
訪問看護ステーション
4 社会福祉法人 光風会 老健施設 100 計 320 介護老健
地域包括支援センター
特別養護老人ホーム
5 一般社団法人 酒田地区医師会 会員数 203 計 16 訪問看護ステーション
スワン
*他、薬剤師会(149名)、
歯科医師会(72名)、
1社会福祉法人、1特定医療法人がオブザーバー参加
1,170床 総計1,973
図表2● 設立の考え方
図表3● 法人設立に向けて実施・検討中の事項

業務別WG項目(実施・検討中)

項目 検討中の業務内容、課題等
人事交流/出向体制の整備/職員の共同研修
  • 本間HPへの医師(日当直医)の出向増【H29.4~実施】
  • 訪問看護ステーションへの看護師の出向開始【H29.8~実施予定】
  • 不足する職種の相互補完、人材育成の相互出向【H30.4~実施予定】
  • 出向の形態、給与等の調整及び協定等の検討
  • 休日・夜間診療等の応援体制の整備
  • 定年を迎える医師の就労機会の確保
  • 職員研修の共同実施
維持透析機能の重点、集約化
  • 日本海HPの慢性維持透析患者を本間HPへ【H29.6~実施】
  • 患者増に対応する①職員の出向計画の立案②施設・機器整備計画の立案
  • 送迎バス運行に向けた運用方法の検討・協議【H29.3~実施】
検査機能の重点、集約化
  • 経費の削減を図るため日本海総合病院に検査部門をセンター
  • 部門システムの連携等を含む運用方法の検討【H29.3~実施済】
電子カルテ等の共有
  • 電子カルテの共有化に向けた検討・協議【H29.3~実施】
  • 患者IDの共通化、会計システムとの連動などの諸課題のクリア
  • 他、各施設の部門システムとの連動(検査、透析機能の集約化、他)
  • 空床情報の共有化(退院調整、支援等でも活用)
地域包括ケアシステムの構築
  • 当地区における地域包括ケアのあり方の検討・協議【H29.7~実施】
  • キーワード:「介護事業連携・機能分担」、「退院支援、退院調整ルール作成」、「要介護者の急変時の対応」、「地域連携クリティカルパスの充実」、「訪問看護ステーションの統合」
ICT等による広報活動/ロゴマークの作成
  • 共通ロゴマーク作成・表示【H29.4~実施】
  • ホームページの開設、定期機関紙の発行

※掲載図表はすべて栗谷義樹氏提供