順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺科 教授に聞く 教育方針と未来
互いに高め合う仲間たちとともに学び
一人ではなし得ない大きな力が発揮できる医局へ
順天堂大学医学部附属病院乳腺科は、齊藤光江教授の着任時に、大学病院では初となる乳腺センターを開設。臨床・教育・研究の3つの柱で乳腺疾患のスペシャリスト養成に力を入れています。多くの課題を抱える乳がん患者さんを多職種で診る、“Patient first”の理念について伺いました。
アットホームな雰囲気で
産休や育児期間の働き方にも考慮
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順天堂大学医学部附属順天堂医院
乳腺科 教授
- 1984年
- 千葉大学医学部卒業
- 1984-1995年
- 東京大学医学部附属病院分院外科
- 1990-1992年
- テキサス大学医学部附属MDアンダーソン癌センター細胞生物学(ポスドク)、その後医学博士の学位取得
- 1995-2002年
- 癌研究会附属病院乳腺外科(医員)
- 2002-2006年
- 東京大学大学院医学系研究科臓器病態外科学代謝栄養内分泌外科(講師)
- 2006年
- 順天堂大学医学部乳腺・内分泌科助教授
- 2012年
- 同大学教授就任(現在に至る)
- 2011-2013年
- 中央大学社会人大学院経営戦略科(MBA取得)
貴院では、大学病院初の乳腺センターを開設していますが、その経緯を教えてください
私は本学に着任する前、東京大学医学部附属病院や癌研究会附属病院(当時大塚に、今は有明)で乳腺診療に携わってきました。
なかでも乳がんは、社会で多くの役割を持つ若い世代の罹患率が高く、女性としてのライフイベントを控えているが故の不安を抱えている人が少なくないという特徴があります。単一臓器の単一疾患ではありますが、多方面から医療者が関わる必要があります。多職種によって個々の患者を多面的にみられるセンター設立が必要だと強く感じていました。しかし当時の癌研究会附属病院においては、乳腺診療だけがセンター化を実現することは叶いませんでした。
その後、東京大学医学部附属病院本院に異動したのですが、外来化学療法室が開設されたり、妊娠期乳がんの症例に対して病理や小児科、産婦人科との協働が実現したりと、大学の中でも「診療科の障壁を取り払わなければならない」という思いが自身の中で高まっていくのを感じました。
そんななか、乳腺診療のセンター化という私の長年の夢に関心を示していただいたのが順天堂大学でした。「面白い試み」だと、大学からは後押ししていただいたことで、「やりたいことができる環境で診療に従事できる幸運を与えられた」と感じました。
本学に着任した後、大学病院としては初となる乳腺センターを開設し、乳腺・一般外科から乳腺科へと名称も変更していただきました。
乳腺診療のセンター化はどのように進められたのでしょうか?
何よりも重要なのは、「箱」をつくることではなく、「多様な課題を抱え、様々な関わりを必要とする患者さんを多職種で診る」という、乳腺診療の柱となる考え方を理解した人たちが集まることだと思いました。ですから、人材も必ずしも常勤者でなくてもよく、定期的に必要なスタッフが集まり、ディスカッションができる場所さえあればよいという考えのもと、センターが立ち上がりました。
まずは、限られた人材で診療実績を上げ、組織に理解していただき、徐々に形を整えていくということしかできませんでしたが、それが現在の乳腺センターでの多職種チームによる診療の実現につながったと思います。
医局の特徴と、求める人物像について教えてください
私たちには、患者さんががんを患ったこと以外は満足できる医療を提供するというVISIONがあります。そのVISIONをシェアでき、“Patient first”の理念に賛同できる人を歓迎します。
私たちのチームをバスに例えたとき、同じ目的地に向かう人である必要があります。世の中は様々な考えを持った人々によって動いていますので、多様性は大歓迎ですが、進む方向だけは一致していないと、バスは発車できません。VISIONを共有でき、同じ理念に賛同できることが大切だと思っています。
また、学ぶうえで重要なのは“素直である”ということではないでしょうか。自分を高めて進む意欲があり、いろいろな人から学びたいと心から思っている人であってほしいと思っています。
もちろん、学ぶのは医局のスタッフからだけではありません。私は医師が最も学びを得られるのは患者さんだと思っています。すべての教科書に書かれていること、そして臨床試験から得られる結果も、すべて患者さんの身体が教えてくれたことです。患者さんから学ぶ姿勢を持ち続けることが大切ではないでしょうか。
それから、同じ目的地に向かうバスの中で何より大切なのは、相互理解できる大らかさだということも申し添えておきます。
本科は他大学出身、女性医師が多いと伺いました
外科には毎年入局希望者がいますが、そのうち本学からの乳腺科希望者は数年に1人というのが現状で、私を含めて、ほとんどが外部出身者です。ですから確かに内部からの入局者は相対的に少ないといえます。
しかし、裏を返せば、出身を問わず学べる環境にあるといえます。そういう認識が広まっていることが、更に外部からの入局者が多くなっていっている理由のひとつではないかと思います。
女性医師が多いのは、患者さんのほとんどが女性だという診療科独自の特性が影響していると思います。また、私自身はすでに子育てを終えていますが、子育てをしながら仕事が続けられる環境整備に努力していることが伝わっているのであれば嬉しいですね。
今振り返ると、医師になりたてのころは、自身が「人とはどういうものか」がわかっていませんでした。年齢を重ね、経験を重ねるうちに、人は何をすべきなのか、子どもとは何か、親とは何なのか、社会で人は何をしているのかがわかってきたように思います。治療の過程において、「乳がん」という疾患だけでなく、多くの女性の一生を見させていただきました。それは医師として、人として、とても大きな学びであったと感じています。
しかし、1人の患者さんの最初から最後まで責任を持って関わり続けられる医師ばかりではなくなっているのも現実です。以前であれば、24時間体制で受け持ち患者を診られない外科医はドロップアウトするしかなかったかもしれません。
多忙な時代になったことで、効率的に診療をしたい医師、自分が関わるポイントを決めて力を発揮したいと考えている医師が増えています。ですから、多くの医療者が関わることで、その患者さんの「診療や治療の一部」を、「責任を持って担う」という選択肢があってもよいのではないかと考えています。
特に多くの女性医師は、「仕事」だけでなく、「家庭との両立」という課題があります。乳腺診療に携わりたいと思っていても、すべてを担わなければならない責任の重さから、最初に外科修練を求められている乳腺の診療は、敬遠されるかもしれません。もちろん、すべてを担いたいという医師にとっては、それが叶う環境がありますが、一部の治療に対して責任を全うしたいと考えている医師にも、気後れすることなく飛び込んできてほしいと思っています。多様な選択肢のなかから、それぞれが責任を果たすことでパーツが組み合う組織であればよいのではないでしょうか。
研修医の指導にあたって心がけていることは何でしょうか?
私は、全体を見渡してどの医師がどこで活躍すべきかを見極めるコンダクターの役割を担っていると思っています。オーケストラや合唱でいえば、皆が同じ旋律を弾くのではなく、高音を担当する人、低音のパートを受け持つ人、様々な楽器があり、それぞれに演奏者がいてこそ、美しい旋律を奏でることができる。コンダクターは、全体としてどういう音を奏でるのか、そのためにはこの人にはどのパートを担ってもらうのがベストなのかを決めていく立場にあります。一人ひとりの能力を活かすにはどうすればよいのか、その見極めをするのが私の役割だと考えています。
どのパートを担うのかは、それぞれの奏者や楽器の特性や、能力を考慮します。その判断は必ずしも自分で自然にわかるものではありません。しかるべきタイミングで1対1の面談を行いながら導いていくことが必要だと思っています。そして対話を繰り返しながら、チーム全体で“Patient first”の診療、研究、教育を追求していきたいと考えています。
順天堂大学医学部附属病院乳腺科の今後の展望、どのような医師を求めているかを教えてください
日々研鑽し、診療や研究、教育にあたっている人たちがたくさん集まっていたとしても、一人ひとりができることには限界があります。人が集まることによっていろいろな視点が入り、あるいは互いに補完し合うことで、より大きな広がりが出てくるものだと思っています。
私がこれから実現していきたいのは、一人ひとり努力し続けるスタッフが互いに意思疎通をはかっていくなかで、個々の能力のみならず全体が有機的に絡み合い、一人では絶対になし得ないような大きな力が発揮できる組織づくりです。
それは診療だけでなく、教育にも研究にもいえることで、他部署、研究所、行政、企業などと築く信頼関係、また、全く異なる業界とのコラボレーションもアカデミアでは挑戦していくべきだと思っています。今まで気づかなかった化学反応が起こるかもしれませんので、あらゆる可能性、広がりを積極的に楽しめる組織へと成長させていきたいと思っています。そういった、広い視野を共有して、新しいつながりや発想も大切に考えている仲間を求めたいと思っています。
最後にメッセージをお願いします
本学は都心にあり、学ぶうえでは地理的にも非常に恵まれていると思います。また、よい学びのためにはよき仲間が必要で、優れたところに人が集まるべきだと考えています。本学にはその環境があります。
一方で私は、本学だけが繁栄することを望んでいるわけではありません。ここで学んだ医師がもっと地域に、あるいは世界に出ていくのが望ましいと思っています。本学でよい仲間たちとよい学びを得て、指導力を蓄え、ゆくゆくは自分が活躍できる場をみつけてほしい。それは母校でも良いですし、自分が育った地域でも、気に入ったところでも、あるいは別の学びが得られるところでもよいのです。
本学は優秀な医師を取り込むということではなく、優秀な仲間とともに“育つ”場であり、ここで学んだ医師がそれぞれの場所で自分の生きがいと生きる場所を見つけてくれることを願っています。
一人ひとりができることには限界があっても、その思いを共有した仲間たちが全国、あるいは世界で活躍することで、大きなチームができれば、もっと“できること”が増え、可能性が広がると期待しています。
順天堂大学医学部附属病院乳腺科
- 卒業大学構成比
- 順天堂大学21.4%、他大学78.6%
- 男女構成比
- 男性32.1%、女性67.9%
- 活動中の主な学会
- 日本外科学会、日本乳癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本癌学会、日本がんサポーティブケア学会、日本乳房オンコプラスティックケア学会,日本外科系連合学会、日本臨床外科学会、MASCC(国際がんサポーティブケア学会)、ASCO(米国臨床腫瘍学会) 他
乳腺科を中心に、放射線科や病理、整形外科、看護部、薬剤部など、他部署、他職種と連携し、チーム医療を推進する乳腺センターを開設。大学病院として、最新の乳腺診療、専門医取得、コミュニケーションやリーダーシップ、EBMの追究など、臨床、教育、研究の3本柱をバランスよく学ぶことができる。
研修プログラムの詳細は公式ウェブサイトをご覧ください。 順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺科
順天堂大学医学部附属病院乳腺科スタッフ紹介
- 教授
- 齊藤光江先生
- 先任准教授
- 飯島耕太郎先生
- 准教授
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中井克也先生
堀本義哉先生(病理部兼任)
清水秀穂先生(病棟医長)
- 助教
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三浦佳代先生(腫瘍内科医)
森昌子先生
魚森俊喬先生(医局長)
猪狩史江先生
- 助手
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村上郁先生(外来医長)
佐々木律子先生
岩間敬子先生
- 医員
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仙波遼子先生
石塚由美子先生
- 大学院生
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岡崎みさと先生
松澤円佳先生
- 非常勤
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徳田恵美先生
織畑剛太郎先生
今井延年先生
崔 賢美先生
- 特任教授
- 入村達郎先生
- 客員教授
- 霞富士雄先生
- 客員准教授
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高橋俊二先生
新井正美先生
2018年3月掲載
研修医のための大学医局紹介一覧
大学医局でのキャリアについて、それぞれの特色を教授・医局長・先輩医師に伺いました。
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- 岐阜大学医学部附属病院 整形外科
- 教授/秋山 治彦 先生
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- 杏林大学医学部付属病院 整形外科
- 教授/市村 正一 先生
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- 埼玉医科大学国際医療センター 脳神経外科(脳血管内治療科)
- 教授/神山 信也 先生
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- 順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺科
- 教授/齊藤 光江 先生
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- 藤田保健衛生大学病院 総合消化器外科
- 教授/宇山 一朗 先生
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- 北海道大学病院 脳神経外科
- 診療講師/医局長/長内 俊也 先生