杏林大学医学部付属病院 整形外科 教授に聞く 教育方針と未来

高度医療と地域医療が両立する
“良い臨床医”を目指せる環境

杏林大学医学部付属病院整形外科は、専門領域ごとの7チーム編成で、高度医療と地域医療、さらに教育や研究を担っています。後期研修では、大学病院での丁寧な直接指導に定評があり、“臨床力”の高い医師を育成する環境が整っています。

外傷から
専門領域まで幅広く
プロフェッショナリズムを磨く

杏林大学医学部付属病院
整形外科 教授
市村 正一 先生
1980年
慶應義塾大学医学部卒業
1982年
慶應義塾大学医学部整形外科助手
1994年
米国ワシントン大学へ留学(シニアフェロー)
1997年
慶應義塾大学医学部整形外科医長
1998年
防衛医科大学校整形外科講師
2003年
杏林大学医学部整形外科助教授
2009年
杏林大学医学部臨床教授
2011年
杏林大学医学部教授

整形外科領域の魅力、やりがいはどのようなところにありますか?

整形外科は、初診で主訴を聴取し、検査をして診断、治療、フォローアップまで、自己完結ができます。それは外科のなかでも他にない特徴で、一番の魅力だと感じています。医師としてのマネジメント能力も求められますし、患者さんも多い診療科で、非常にやりがいがあると思います。

私が医師になった当時は、医療機関に整形外科の専門医がまだまだ少なく、骨折は“ほねつぎ”や“接骨院”で治す人が多かった時代でした。しかし、そのために骨が変形治癒してしまうなど、適切な治療が受けられなかった患者さんも少なくありませんでした。整形外科医がきちんと骨折を診察・治療しなければならないと感じましたし、医療としてはまだまだ遅れている領域だったことも整形外科を選択した大きな理由でした。

一方で整形外科領域は、治療の評価がすぐに出る厳しい一面があります。例えば、治療がうまくいかなければ、関節がうまく動かなかったり、手術をしても脊椎の痛みがとれなかったり、かえって手術前よりも悪化したりすることもありえます。がん治療であれば、その評価は5年生存率でみることがありますが、脊椎や関節の手術では、手術直後に、しかもX線やMRIによる画像検査で明確に評価されるので、非常にシビアだといえます。

それでも、自分で診断、検査、手術からアフターフォローまでのマネジメントを行い、その結果、痛みが強く歩けなかった患者さんが術後に痛みから解放されて歩けるようになったり、動かなかった手が術直後から動かせるようになったりと、患者さんにもその効果を実感してもらいやすいのも整形外科の特徴です。患者さんからも非常に感謝されますし、やりがいのある分野だと感じています。

杏林大学医学部付属病院の整形外科の特徴を教えてください

整形外科は専門領域が幅広いのが特徴で、当科では、脊椎が2チーム、腫瘍、膝関節、肩関節、股関節、外傷が各1チームの全7チームにわかれています。

少人数の教室なので、私もすべての医局員に目が行き届きます。それぞれの得手不得手をふまえて、一人ひとりと密にかかわっています。医局員と十分なコミュニケーションをはかることで、適材適所で医局員に活躍してもらいたいと思っています。関連病院に医局員を派遣した場合でも、医局員自身だけでなく、関連病院の医長とも年に何度か面談するなど、きめ細かくサポートしています。

また整形外科では、医局を離れて開業する医師も少なくありませんが、同門会を通じて相互扶助による良好な関係を築いています。
例えば病気などを理由に診療の継続が難しくなった場合には、教室から医師を派遣しています。反対に、同門の医師には医局を離れても若い医局員の育成に協力していただいています。

後期研修の特徴を教えてください

一番の特徴は、大学で2年間直接指導が受けられるという点だと思います。シニアレジデントが多い医局では、大学での研修期間が短くなることもあります。しかし当科は、小さい教室ながらも腫瘍から脊椎、関節など、整形外科領域を網羅しており、直接指導を受けることができます。トレーニングを積む環境としては、非常に恵まれているのではないでしょうか。

また、教育・指導においては、杏林大学医学部の理念でもある「良き医師の育成」を大切にしています。臨床を大事に、「臨床現場で患者さんの役に立てる医師、信頼される医師を育てる」のが教育方針です。医師を志す人の多くは臨床医になります。だからこそ、臨床に強い医師を育てることが重要だと考えています。

臨床に強い整形外科医になるためには、外傷や骨折をきちんと診られる、治療ができることが重要です。特に救急で外傷をみられること、そのうえでさらに細分化された専門分野で力を発揮できるように、後期研修を通じて力をつけてもらいたいと思います。
本院は救急車の受け入れ件数が大学病院としては国内トップで、外傷の症例は豊富です。また、大学病院として高度専門医療を提供するとともに、地域医療を実践する病院でもある、その両面を持ち合わせているのは他にない特徴ではないでしょうか。

関連病院での研修でも高い評価をいただいています。それは、どこに行っても、そこで必要とされることに一生懸命取り組むこと、診療に心血を注ぐことができる医師であることが重要だと指導しているからではないでしょうか。

患者さんが病院を選ぶとき、必ずしも医師個人への信頼をもとにしているとは限りません。大学病院では“大学”という看板があり、地域の病院ではそれまで築き上げてきた評判によって患者さんが病院を選んでいます。そのなかで私は、自分の実力で患者さんに信頼され、患者さんを呼べる医師になってほしいと考えています。そのためには、「この患者さんに関しては自分が一番知っている」といえるくらい、一例一例、目の前の症例に全力投球をしていくこと、その積み重ねではないでしょうか。

また、日々の臨床を大切に、自分の専門性を高めていくことで、「この疾患に関してはこの地域で一番知っている」といえるくらいになってほしいと思います。その地域が全国にまで広がるのが理想ですが、何よりも大切なのは、そういう志を常に持ち続けることだと思います。

今後取り組んでいきたいことについて教えてください

大学の使命は、「臨床」「教育」「研究」の3つの柱です。「臨床」や研修医の「教育」においては十分な環境が整っていると思いますが、基礎研究においてはまだ不十分であると感じています。

若い医師たちが臨床の合間に基礎研究に取り組んでいますが、残念ながら大学院への進学人数が少ないのが現状です。それは環境の問題が大きく、これから取り組むべき課題のひとつと考えています。基礎研究は、やはり若いうちでなければ集中的に取り組むことが難しいですし、それによって得られるサイエンスの考え方、手法を習得することで、普段の臨床につなげていくことが大事だと思っています。

これは医学部の学生にも私が言うことですが、医学は勉強すればするほど奥が深く、面白くなります。自分のやりたい基礎研究のテーマを探し、それを私たちがサポートしていきたいと思っていますし、後期研修のなかで、自分の興味ある分野を見つけてほしいです。リサーチマインドを失わず、一例一例の臨床を経験していくなかでより多くの知識や考え方が身につくのではないでしょうか。

現在大学の人員は限られていますが、もう少し他大学出身者も加わり、人的な余裕が出てくれば、より専門性の高いものが追究できるようになると思っています。

また、医師の働きやすさにおいても大きな変革期にあります。「働き方改革」への取り組みが進むなか、病院全体として限られた時間を有効に使って教育を進めていくことが求められています。また、当院だけの問題ではありませんが、患者さんに不利益が生じないよう、医師の長時間労働の問題に対しても改革を進めていかなければなりません。そのためにはより病院の機能分化と病診連携を強化し、地域全体で取り組んでいく必要があります。

最後にメッセージをお願いします

私たちの教育の基本は変わらず、「良き医師を目指す」ということです。「臨床で患者さんに信頼される整形外科医、専門医になりたい」という人、とくに「外傷に関してはあらゆるものをマスターしたうえで、専門領域でも活躍できる医師になりたい」という人にはぜひ当科に入局してもらいたいと思っています。

杏林大学医学部の出身者も多いですが、他大学からの入局希望者も積極的に受け入れています。医局員同士のつながりが強いので、いわゆる一匹狼のような医師は少ないです。しかし、私はいろいろな特徴がある人が入局し、自分の特色を持った人がいることは、組織が活性化していく大きな要素になると思っています。異なるキャラクターを持った人たちの集まりになって、さらに発展していくことを期待しています。

杏林大学は都心へのアクセスもよく、緑も多いので、生活をするには非常に恵まれた環境にあります。また、OBである同門会でも出身大学問わず、フレンドリーに接してくれますし、非常に面倒見がいい医局だと思います。杏林大学出身者はもちろん、他大学出身者でも、整形外科医として多くの学びが得られると思います。

杏林大学医学部付属病院 整形外科

卒業大学構成比
杏林大学約70%、他大学約30%
男女構成比
男性約90%、女性約10%
活動中の主な学会
日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本骨代謝学会、日本癌学会、日本癌治療学会、日本股関節学会、日本小児整形外科学会、日本人工関節学会、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会、日本骨粗鬆症学会 他

杏林大学医学部付属病院は、東京都多摩地区唯一の医学部付属病院本院で、整形外科では外傷、骨折からあらゆる運動器の疾患に対応し、高度かつ専門的な医療を提供。医学部の理念でもある「良き医師の育成」を基本方針に、新専門医制度に対応した研修プログラムを実施しています。

研修プログラムの詳細は公式ウェブサイトをご覧ください。 杏林大学医学部付属病院 整形外科

杏林大学医学部付属病院整形外科スタッフ紹介(2018年3月現在)

教授
市村正一先生
准教授
森井健司先生
講師
小寺正純先生
非常勤講師
佐々木茂先生
丸野秀人先生
助教
長谷川雅一先生
高橋雅人先生
佐野秀仁先生
大畑徹也先生
佐藤行紀先生
井上功三朗先生
坂倉健吾先生
田島崇先生(任期)
稲田成作先生(任期)
佐藤俊輔先生(任期)
片山和洋先生(任期)
医員
小西一斉先生
相原大和先生
安部一平先生
新井謙太郎先生
西野雅人先生
渡邊隼人先生
レジデント
阿部幹先生
関口健史先生
羽二生静先生
藤井亜美先生
渡邉知宏先生

2018年3月掲載

先頭へ戻る