北海道大学病院 脳神経外科 診療講師/医局長に聞く 教育方針と未来

患者一人ひとりに真摯に向き合う高度医療のスペシャリストを育成

北海道大学病院脳神経外科は、脳神経分野の国内トップレベルの診療、手術実績、基礎研究で高い評価を受けています。50年以上の長い歴史のなかで受け継がれた「チーフレジデント制度」の教育・研修システムの特徴を中心に、長内俊也診療講師に伺いました。

屋根瓦式の
チーフレジデント制度による
きめ細やかな教育・研修

北海道大学病院
脳神経外科 診療講師/医局長
長内 俊也 先生
2002年
旭川医科大学医学部卒業
2002年
北海道大学脳神経外科
2009ー2011年
手稲渓仁会病院脳神経外科
2013ー2014年
クリーブランドクリニック留学
2015年
北海道大学脳神経外科助教
2017年
北海道大学脳神経外科診療講師

北海道大学病院脳神経外科の特色を教えてください

北海道大学病院の脳神経外科は、脳血管障害班、脳腫瘍班、脊髄・機能外科班という3本柱で診療を行っています。脳血管障害班は、脳梗塞や脳出血などの脳卒中が中心ですが、脳卒中は地域の二次救急病院で対応するケースが多く、当教室の医師が出向いて診療にあたることもあります。また、もやもや病の症例数は国内有数で、当教室が中心となり、もやもや病の全国規模の患者登録システムの構築、疫学的データの収集なども行っており、臨床だけでなく、基礎研究の分野でも国内外にその成果を発信し続けています。

脳血管障害班のなかでも血管内治療の分野は技術の進歩が肌で感じられる領域です。私は血管内治療を専門にして約10年が経ちましたが、そのわずか10年の間にも医療器具、医療機器が大きく進化しており、より治療がしやすくなっていると実感しています。開頭手術は医師の技術によるところが8割程度だとすると、血管内治療は医師の技術と、医療器具や医療機器の技術が半々といったところでしょうか。だからこそ医療器具の進歩が治療に大きく影響しますし、たとえば現状、国内で使える医療器具では治療ができないものも、将来的に容易に治療できるようになる可能性があります。新しい技術が次々導入されるのもこの分野の魅力のひとつだと思います。

脳腫瘍班は連携施設・関連施設をはじめ、地域の医療機関から紹介される患者さんに対し、がん化学療法や外科手術、陽子線も含めた放射線治療を組み合わせた集学的治療を提供しています。研究においては脳動脈瘤生成に関する研究に力を入れています。

脊髄・機能外科の分野は、国内では整形外科の印象が強いと思いますが、米国のneurosurgeryは、脳・脊髄などの中枢神経系を扱うのが一般的です。北海道大学病院では伝統的に脊髄損傷や脊髄動静脈奇形、脊髄空洞症などの診断・治療に力を入れており、全国的にも著名な医師を多数輩出しています。

臨床・教育・指導の方針について教えてください

特に脳神経外科の疾患は、命にかかわる、あるいは後遺症が残ることもあります。外科医は“技術屋”の側面があり、血管のモデルを使ったトレーニングなどによる自己研鑽は欠かせないものといえるでしょう。また、患者さんや家族へのインフォームド・コンセントをきちんと行ったうえで、最終的に治療を選択していただくことが大切です。研修医にもその場に参加してもらい、ひとりの医師として患者さんに向き合えるように成長してもらえたらと考えています。

すでに標準的な治療が確立された疾患については上級医からの指導を愚直に繰り返すことで習得できますが、大学病院ではこれまでに経験がない稀な疾患に遭遇することもあります。文献や医学書を調べたり、知り合いの医師に意見を求めたりしながら、経験したことがない疾患に対してもきちんと対応していくことの大切さを学んでほしいと考えています。

研究においては、脳血管障害班はもやもや病や再生医療、脳腫瘍班はグリオーマ、脊髄・機能外科班は脊髄損傷など、各班がテーマを持ち、幅広い分野で取り組んでいます。大学だからこそ研究に取り組める環境もありますし、大学院への進学も勧めています。

研究の特徴としては、より臨床、実践に活かせるテーマへの取り組みがあげられます。臨床に携わっていると、現状の医療では治療することが困難な疾患に遭遇することがあり、それに対して歯がゆさを感じることも少なくありません。だからこそ治療法がない、あるいは有効な治療法がない疾患に対していかに臨床に応用できるような発見ができるか、治療法の開発につなげられるかが大きなポイントだと考えています。

後期研修の特徴やその狙いについて教えてください

当院の後期研修プログラムの大きな特徴は、開講以来変わらず、チーフレジデント制を採用している点で、屋根瓦方式でより近い学年の上級医が指導にあたるのがポイントです。ベテラン上級医ならではの指導方法もあると思いますが、経験が浅いうちにしか問題にならないようなことも含めて、年次の近い上級医の方が、自分たちがトレーニングをしてきたことの記憶が鮮明なうちに指導ができますし、より的確な指導ができると考えています。

この研修の利点は、指導する上級医にもあります。受け身だけの勉学よりも人に教えることで教える側もより深く理解ができるようになります。この研修プログラムは、上級医にとってもトレーニングになると考えています。

実際の後期研修プログラムは、最初の半年間、北海道大学病院で基礎的知識や診療技術をトレーニングした後、1年間連携施設で指導医のもと、本格的な手術の執刀などの実践的実地診療にあたります。北海道大学病院で2回目となる半年間の研修では、連携施設での研修で身につけた手術や臨床でのスキルをさらに伸ばすために、北海道中から集まる高難易度症例も経験します。この時期には脳神経外科に入局した3年目の医師の指導にも携わります。2回目の連携施設での研修では、本格的な手術トレーニングに入ります。連携施設の状況や研修医の数、希望によって期間が変わるなど、多少の個人差はありますが、これが基本となります。6年目の後半半年間は、チーフレジデントとして病棟管理や手術の立ち会いなどを行います。

研修医が後期研修先を選択するうえで関心が高いのは、専門医資格取得に必要な症例数が確保できるかどうかではないでしょうか。脳神経外科専門医の資格は、専門研修プログラムのもと、通算4年以上の研修が必要で、多岐にわたる脳神経外科領域の疾患の症例、手術経験を必要とします。大学病院で幅広い領域のトレーニングをすべてカバーすることは難しいですが、連携施設での研修を含めると受験に必要な症例は網羅できます。幅広い領域を学ぶことができる研修体制が整っていることもあり、脳神経外科専門医試験の合格率は過去10年以上100%となっています。

当教室では、週1回の総回診で患者さんの情報を共有しており、研修医も担当する患者さんの疾患や治療方針に至った経緯などをプレゼンテーションします。専門医試験は筆記試験のほかに口頭試問があり、その場で疾患の画像所見を読み、治療方針を理路整然と説明しなければなりません。事前の準備も含めて総回診でのプレゼンテーションで経験を積むことが結果的に口頭試問のトレーニングにもなっており、スキルが向上することで、自信を持って試験に臨むことができるのだと思います。

多くの後期研修医は、チーフレジデント修了のタイミングで脳血管障害班、脳腫瘍班、脊髄・機能外科班のうち、どのサブスペシャリティーを選択するかを決めます。また、専門医資格の受験と前後して大学院に進学する人がほとんどです。

研修医を受け入れるうえで心がけていることを教えてください

私は北海道出身ですが、出身大学は旭川医科大学です。当教室の第3代教授だった岩崎喜信先生のご子息と同級生だったことが縁で北海道大学病院脳神経外科に入局したのですが、今も北海道出身で他大学を卒業した人や、出身地も大学も道外という医局員が多く所属しています。それは、北海道がもともと本州からの開拓民によって発展してきた歴史があることも影響しているのかもしれません。学閥もなく、トレーニングの機会も平等です。しかし外科医である以上、実力主義の側面も当然あります。技術が高い人のほうが手術に入るチャンスは多いといえるでしょう。

北海道大学病院脳神経外科はこれまでに手術で高い実績を持つ医師を多数輩出しており、それも研修先を決めるひとつの理由になっているのかもしれません。ただ、それも与えられる機会だけでなく、いかに自己研鑽を積んで技術を高めていくかが重要だと思います。

私自身が心がけているのは、医局のなかで聞き役に徹することです。研修医によってもいろいろな考え方があり、たとえば「いい病院」と一言で言っても、症例を数多く経験したい、症例数は限られていても一例一例じっくり取り組めるなど、「いい病院」の基準は千差万別です。研修医一人ひとりが何を目標にしているのか、どんな医師像を目指しているのかなどを見極めていくことが私の役割だと考えています。皆が「いい病院」と思っていて、よかれと思って研修先に選んだにもかかわらず、実際に研修医が思う「いい病院」とはかけ離れていたという、コミュニケーション不足からくるミスマッチは避けたいと思っています。そのためにも定期的な面談を通じて、研修医一人ひとりの思い、考えを聞くことを大切にしています。

大学でトレーニングを受けている研修医には目が届きますし、何かあればすぐに声をかけて話を聞くこともできますが、連携施設の研修医とはコミュニケーションの機会が少ないのも事実です。幸い脳血管内治療の診療支援で研修先に出向くことがありますので、その機会を利用して研修医と面談し、どんな研修を受けているのか、困っていることはないかなど、話を聞くようにしています。

医局の今後の課題について教えてください

当教室に限りませんが、今対策が求められているのは医師の「働き方改革」ではないでしょうか。従来は医師の献身的な姿勢が医療体制を支えていたところがありますが、時代が変わり、この先50年この状況を続けていくことは不可能だといえるでしょう。世の中の変化に対応していくためにも医師一人ひとりの負担を軽減することが不可欠で、当教室でも土日のうち最低1日は終日休みを確保し、半年に1回1週間の長期休暇が取得できるように勤務環境の改善に取り組みました。

「働き方改革」と「医療体制の維持」を両立させる最も効率的かつ確実な対策が人員の増加です。脳神経外科医の仕事は“キツい”というイメージが強いためか、内科に比べると医局員が少ないのが現状です。だからこそ当院の研修プログラムで、一人前の脳神経外科医を育てていくことが大切で、それが将来的には連携施設の脳神経外科の活性化につながると思いますし、地域医療に還元できると考えています。

人員を増やすためには女性医師が活躍できる環境作りも欠かせません。現在は連携施設で研修中ですが、昨年も1人女性医師が入局しています。そのほかにも連携施設に勤務する女性医師が数名いますが、男性医師ばかりの医局では改革を進めるにも観点がずれてしまう可能性があります。女性医師とも密にコミュニケーションをはかりながらサポート体制を構築していきたいと思っています。

最後にメッセージをお願いします

物事にのめり込みたい人には、脳神経外科は非常に興味深い領域だと思います。ただし、楽なことばかりではないのも事実です。周囲の影響ではなく、自分自身で脳神経外科医になりたいという選択をした人であればがんばれると思いますし、十分トレーニングを積むことができる環境は提供できます。

脳神経外科は手術時間が長く体力的にもつらいイメージが強いかもしれませんが、それがすべてではありません。手術時間が短い領域もありますし、勤務時間短縮に向けた取り組みにも力を入れていますので、ぜひ脳神経外科に関心がある人に来ていただきたいと思います。

北海道大学病院 脳神経外科

卒業大学構成比
北海道大学50.0%、他大学50.0%
男女構成比
男性100.0%、女性00.0%
活動中の主な学会
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本脳卒中の外科学会、日本脳神経血管内治療学会、日本脳循環代謝学会、日本心血管脳卒中学会、日本脳腫瘍学会、日本脳腫瘍の外科学会、日本脳腫瘍病理学会、日本頭蓋底外科学会、日本脊髄外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本脊髄障害医学会 他

開講50年以上の歴史があり、脳、脊髄、末梢神経というすべての神経系疾患を対象に高水準の医療を提供。チーフレジデント制度による研修システムは開講以来の伝統で、国内でもトップクラスの脳神経外科医を多数輩出している。

研修プログラムの詳細は公式ウェブサイトをご覧ください。 北海道大学病院 脳神経外科

北海道大学病院脳神経外科スタッフ紹介(2019年5月現在)

名誉教授
宝金 清博先生
診療准教授
中山 若樹先生
講師
数又 研先生
山口 秀先生(病棟医長)
診療講師
関 俊隆先生
長内 俊也先生(医局長)
特任助教
茂木 洋晃先生
助教
杉山 拓先生(外来医長)
濱内 祝嗣先生
医員
伊師 雪友先生
東海林 菊太郎先生
伊藤 康裕先生
山崎 和義先生
出向(函館中央病院)
今井 哲秋先生
神経細胞治療部門
特任准教授
川堀 真人先生
チーフレジデント
澤谷 亮佑先生
サブチーフ
舘澤 諒大先生
脳神経外科専攻医
進藤 崇史先生
大木 聡悟先生
本多 泰士先生

2019年6月掲載

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